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ついでにこっちも覘いてみよう

 さて、お次はどうするかだ。このまま直ぐに研究所の方に戻って果報は寝て待てをしていても構わないのだが。


「ここで教会の方も確認をしておこうか。両方見ておいても損は無いだろ。」


 俺は大通りで肉の串焼きを出している出店の主人に教会までの道を尋ね、串肉を一本購入して齧りながら歩いて向かう。

 そうして暫く歩いて行けばこれまた立派な建物が見えて来た。どうにもそこが教会らしい。


「無駄に広い土地だな。しかも何だろうか?周囲のどの建物よりも高い。神様のおわす所であるから、って事かね?」


 馬鹿と煙は高い所が好き、などといった言葉を思い出す。そんな思考のままに俺は門の側に居たどうやら門番らしき者にこう尋ねた。


「御免ください。見学をしても宜しいですか?」


 教会の土地は広く、門から建物までが相当遠い。コレはこの都市で何か起きたら避難所としての役割があるからだと思いたい。

 大量の怪我人や病人を待機させるための敷地としてこれだけの土地を確保しているのだと。

 金儲けが上手く行っていてここの教会の最高責任者が見栄で広い土地を購入した、とかじゃ無いと信じたい。


 門はいつでも開いているようで、どうにもその敷地内へとお祈りでもしに来たのか、まばらにこの都市の住人だろう人々が歩いている。


「初めての方ですか?どうぞご自由にお入りください。治療目的ならば正面左の扉に、祈りを捧げに来たのなら正面右へとお入りください。アナタに神の御加護が有らん事を。それにしても珍しい服を着ているのですね?この都市に勤めて長いですが、その様な衣服を着ている方は見た事がありません。あ、これは失礼しました。」


 どうやらこの門番は教会関係者であるようだった。その着ている制服は白が基調であり、その見た目からはそぐわないゴツいハンドアックスがその手の中にある。男性のどうにも神官?に見えるのだが、俺にはそこら辺の詳細は分からない

 しかしその吐き出される言葉には何ら嫌味な響きはせず、寧ろしっかりとした信仰心を持ち合わせている様に感じた。しかもちゃんと最後に謝罪を言葉にしている。

 この門番の言葉に俺は「有難うございます」と答えて敷地内へと入る。


(どうやら今の人は悪事に関係しては居ないみたいだな。まあ只の勘だけど。さて、治療の方から行くか?もしくはお祈りの方に行って見るか?)


 俺に信心は無い。ましてやこの世界で信仰されている神などの知識は全く持ってない。

 この際だからそう言った部分の御勉強としてここで説法の一つでも受けてみるか?などと下らない事を考える。

 そもそもここに来た目的はギルドと繋がっている者の確認だ。どれくらいの数の者が係わっているのかとか、或いは、一番上の責任者だけがやらかしをしているのか。

 もしくは中間管理職が上司の目をごまかして裏で上手い具合に事を転がしてきていたのかどうなのか?


 とは言え、別にまだ焦る事も無い。今すぐに確認しなくちゃいけない事でも無い。

 どうせならミッツと一緒に訪れた方が色々と説明をしてくれそうなので、もう一度ここに訪れてもいいだろう。


 こうして俺は右へと向かう。まあどちらにしろ後で左の方にも寄るつもりだが。先ずは神様とやらの姿かたちでも模った象でもあればソレを拝もうと思ったのだ。

 そしてその教会の内部へと入ってみれば、あら凄い。正面には宗教画だろう。もの凄く巨大で荘厳な空気を醸し出している絵画が飾られていた。

 どうやらコレがこの教会の目玉と言った所なんだろう。入ってすぐに一番奥のその絵画が目に入るのだから。


「どうにもこれは・・・世界創造の場面か?神様が人を生み出している場面も横にあるな。」


 どうやら連作?と言ったモノらしい。どうやら文字の読めない人にも分かりやすいようにするための「仕掛け」である様だ。この様な代物は良くある物なのは知っているのでそこまでの驚きは俺には無い。


「さて、どうやら正面の絵の中の神様へと跪いて祈るのがここのやり方って事なのね。」


 その神様とやらは「光の玉」として描かれている。どうやらそう言ったモノであるらしい。俺にはこの世界の神様の描かれ方に何ら文句は無い。しかし少々つまらないといった感想くらいは持った。


 ここで俺は魔力ソナーを展開し広げる。もう見る物は見た。後は人物を探すのである。

 観光気分で教会内をこうして見たが、別段意表を突かれるようなモノは無かった。俺が以前TVの番組で見た様な海外の荘厳な教会紹介VTRらと別段代り映えが無かったのだ。

 芸術性が俺の中に皆無だからなのか、どうなのか?ありきたりな内装としか思えずに直ぐに飽きてしまった。

 治療の方の様子見は後々でまた別の時にでもすればいいだろう。


(神様には失礼だったかもしれないけどな。人なんて所詮は興味が失せたらそんなものだ。おっと?こいつがここの教会の責任者かな?)


 俺は人が列をなして廊下を歩いているのを魔力ソナーで察知した。その先頭を歩く者がどうにもここの「一番上」とやらで合っているのだろう。

 直ぐに俺は姿を消す。幸いにも祈りの真っ最中な信者たちには気付かれていない。そのまま光学迷彩で周囲に溶け込んだ俺はその列をなして歩く者たちの居る方へと繋がる通路へと向かう。


 そこで目にしたその人物に俺は辟易した。着ている服がキンキラキンの金糸銀糸がふんだんに使用されていて反射する光が目に痛い。つけている装飾品も品が無く、ゴテゴテと数を多く身に着けた、いかにも「趣味の悪い成金」のイメージぴったりの男を見たからだ。


(ギルティ・・・と言うか、それだけの数の貴金属を身につけているとか、重くない?それにしたって贅沢をしてるのかね?その出っ張った腹を何とかしないと病気でポックリとイキそうだぞ?)


 醜い豚が宝石や黄金を全身に身に纏い歩いている。顔の肉、皮膚もたるんでいて歳もそれなりだろう。

 美味しい食事、美味い酒を幾らでも摂取してきたんだろうと思わしきその体型は不摂生を極めていた。肝臓なんて脂肪が幾らでも付いていそうだ。

 しかしそんな醜い姿の自らの周囲に居させるのは美男美女で、それらの従僕が恐らくこの半分腐っている様な豚の御世話をしているのだろう。


(余りにも汚らしい外観、だけじゃなくてその中身もそれに見合ってるってか。駄目だ。ミッツには報告できないぞコレ・・・)


 こんな事をミッツの耳にでも入れてしまえばきっと即座にすっ飛んで行ってこの男をぶちのめすだろう。おそらくはその時には一撃で命は無いと思う。ミッツは既に魔力で身体強化を行った状態でなら、そんじょそこらの男なら簡単に捻り殺す事が可能だからだ。

 ここの教会の一番上なのだから司教と言ったらいいだろうか。そんな立場の人物をミッツがいきなりカチコミで問答無用でぶっ殺すなんて大問題だ。


(エライ物を見てしまった・・・しかしどうするか?コレはまだ偏見だったり決めつけだけど、完全にクロだろ)


 もしかしてギルドとは本当は「裏」取引など無く、只々金の亡者なだけで教会の正当な儲けだけでこうして立場を利用して豪勢な生活を送っている可能性もある。

 しかしだ、それにしてはこの様な姿にはどう頑張ってもならないと思えた。少なからず他の部分でお金に関する悪事を働いて荒稼ぎをしてるとしか思えない。

 どうにしろ、コレは内部から完全に腐っているんだろう。こうも一番上が派手にやらかしているのに誰もコレを正そうとしている気配が無いのだから。

 恐らくは上層部は完全に腐敗、末端はマトモと言って良いんだろう。権力の無い末端信者が上に逆らう力を持たない、持てない事で余計に腐って行く事を止められない。


(自浄作用が無いんだなぁ。この豚司教の様子を見るに・・・もう十年以上はこの体制が継続しているな。哀れなもんだ)


 俺はもうこれ以上ここに居たいと思えなくなったので直ぐにその場を離れた。そして教会の外に出ると気分を変えるつもりで歩いて研究所へと戻る事にした。

 その後はギルド長の言動を皆に説明した。コレに全員が納得をする。


「まあ、小者だな。」

「ちっちゃいわね。」

「度胸の欠片も無さそうだ。」

「話一つ聞けない程に心胆の小さい方なんですね。」


 皆が口にする評価は全部がほぼ同じ内容だ。それだけここの冒険者ギルド長は小さい器であるにもかかわらずその椅子に座れている。長年コツコツと実績を重ねて地道にキャリアを積んできたんだろう。

 そうで無ければ狡い立ち回りでもして周囲のライバルを蹴落としてきたのではないだろうか?そうなると、そう言った面では優秀と言っても良いくらいだが。


「顔を見せちゃったけど、別に良いよな?それで別段何か問題とか起こされるとかは無いよな?あれほどに真っ先に俺を捕まえようと声を張って助けを呼ぶなんて思っても見なかったからさー。話し合いをこれっぽっちもする気が無いとか?あれじゃどうしようも無かったんだが?」


 俺はちょっとゲンナリしつつ言い訳をする。カジウルに言われた通りに力づくで一方的にギルド長を確認して去れば良かった。姿を見せたりしないで。


「だから言っただろ?エンドウならそこら辺の事をすっとばせるんだからよ。何でそんな力を持っておきながらそんなクソみたいな事をしようとするかね?」


 カジウルから言われたこの言葉がちょっと胸に刺さる。しかしどうしても俺は自身の持つ魔力が過剰に過ぎると感じている。

 無いよりかはあった方が良い。けれども、十全にソレを俺が扱えない程の量を抱えているとなれば、こうした場面では流されるままに魔法で解決!みたいな事にはしたくは無いとも考えてしまう。

 今更な事ではあるが、そう言った事をふと思ってしまうのだ。そうなるとモヤモヤした気分にさせられてしまう。

 突発的に思い切った行動をする時にはこの様な事は何ら感じもしないくせに、とも同時に思うのだが。


「もういいじゃない過ぎた事は。明日か明後日には攻略しに行った冒険者が帰って来るんでしょ予想だと。その時に全部物事が動くのならそれまでのんびりとしていましょ。」


 マーミがそう言って俺に気分を変えろと言ってくる。俺もいつまでも嫌な気分のままで居るのはまっぴらなのでコレに乗っかった。


「それじゃあその時までは全部問題は忘れてのんびりするか。動き回り過ぎたな少し。」


 こうしてこの日のその後はそれぞれが思い思いに過ごした。

 そして翌日にソレは起こった。この研究所の周辺に不審人物がウロウロしている事が俺の広げていた魔力ソナーに引っ掛かったのだ。

 ソレは早朝からであった。なので朝早めに起きて皆を起こして朝食を摂りながらの緊急会議をする。


「と言う訳で、説明の通り、今もあっちの屋根から不審者が俺たちの動向を探っているみたいだ。」


 俺は静かにそう言って食堂の窓の一つに指先を向ける。


「どうやら出番か?・・・いや、エンドウが全部やればよくね?」


「カジウル、あんた怠け癖が付き始めてるでしょ。エンドウに何でも頼めば即座に解決とか思って無いでしょうね?」


「事実だな。エンドウは俺たちには考えつかない様な事をやってのける。俺たちでは手間のかかる方法しか取れない時でもこいつに掛かるとそんな面倒をすっとばしちまうからな。」


 カジウルは俺がやれば手っ取り早いと。そしてマーミはそんなカジウルに釘を刺す。しかしラディはカジウルを擁護する発言をして来た。


「問題はその不審者の目的ですね。監視なのか、或いは襲撃を計画した下見であるのか。もしくは別の何かを探りに来ただけなのか。」


 ミッツは話を前へと進める。しかしカジウルがここでまたしても俺へと一言。


「それらも含めてとっ捕まえて尋問して吐かせればいいじゃねーか。エンドウが。」


「・・・カジウル、ちょっと機嫌が悪い?しかも俺にソレをぶつけて来てるな?」


 俺はどうにも朝っぱらから顰め面しているカジウルへとそう指摘する。


「だってよ?昨日はまだまだ時間があるって事で夜遅くまで飲んでたんだぞ?ソレをこんな朝っぱらから起こされて機嫌が悪くならない奴がいるかよ?少し頭痛もある。こんな時に俺たちへとつまらねえものを差し向けた奴が憎たらしいったらねえぜ。」


「じゃあソレをぶつけてくれば?まさか動きたくないとか言わないでしょうね?」


 マーミが冷たい視線をカジウルに送る。そして追加で「太るわよ?」と突き放した。

 コレがどうにもカジウルにクリティカルヒットしたらしい。もの凄く分かりやすく表情に出ている。「ドキッ!?」と言うのはこの様になるんだなと非常に解りやすい顔をした。


「ぐっ・・・分かったぜ。俺が行って来てとっちめてやる!・・・クソぅ・・・何でマーミは俺の腹が少したるんできた事を知っているんだ・・・」


 とっちめてやる、と気合を込めた後のカジウルの言葉は非常に小声で、この場の俺以外の皆には聞こえていない。

 ちなみに、師匠とワークマン、それとドラゴンは起こしていない。昨夜は論文の方の最終確認やら修正などをしていたからだ。

 ドラゴンは人形態を取るようになって「便利」だと感じたようで、アレコレソレと言った感じで様々な事に挑戦していたりする。

 ドラゴンの姿のままでは都合が悪かった動きが、人の形態を取った事で細やかな事が可能となった。手先が異様にドラゴンは器用で、昨日などは何故かワークマンの質問に応えつつ編み物などしていた。嬉しそうに。


 昨日は昨日で俺はワークマンの論文の進み具合を見るのと同時にドラゴンの事を観察していたのだ。

 人形態になった事でドラゴンが余計な問題を起こしたりしないかどうかを魔力ソナーで見張っていた。

 俺が見張っていた事はドラゴンは分かっていたらしく、別段コレと言って大事になりそうな事はせずにいた。

 静かなモノではあったのだが、忙しなくあれもこれもと楽しんでいたのだ。お茶を入れるのも、皿洗いをするのも、部屋の掃除もし始めるなど。どうしてそうなる?と問いただしたくなる様な事をたくさんしていた。

 余りにも動き過ぎる物だから師匠が落ち着かないと言い始めた。そして何処からか持ってきた毛糸と編み棒を差し出すと何故かソレで師匠がドラゴンに編み物を教え始めたのだ。

 編み棒を器用に動かしてマフラーを作り始めたドラゴンに俺は呆れて何も言えなかった位である。ポカンとしてしまった思わず。ドラゴンが編み物するなんて、である。


 そんな昨日の事を思い出していたら食事を終えたカジウルが早速この研究所周辺をウロチョロしている不審者を取り押さえるために出て行った。

 で、素早く取り押さえてそのまま縛り上げて俺たちの下へと引きずってくる。


「手応えのねぇ相手だったぜ。素人では無いみたいだがな。専門業だとしても、ちょっと動きが遅すぎねえか?」


「カジウル、アンタね、自分の今の強さをもうちょっと分かりなさいよ。以前と比べてどれだけ自分が化物に近付いたか、イマイチ把握できていないわね?」


 カジウルがどうにも腹ごなしにもならないと言っているのをマーミがきつく叱っている。


「今の俺たちはまだまだ強くなっている途中だ。マーミ、お前もひっそりと訓練を続けているのは知ってるぞ?もう少し言い方を抑えてやれよ。カジウルも自在に魔力を操れるように特訓してはいるようだが、やればやる程強さが上がって行く物だから人相手にどれだけの力を出せば良いのか、抑え方がまだ把握できてないんだよ。」


 ラディがそう言ってカジウルの擁護に回る。コレにカジウルは「何でその事知ってんだよ・・・」と顰め面になる。どうやら秘密にしておきたかったらしい。


「で、この方は私たちの監視役だったのでしょうか?」


 ミッツは話が前に進まないと言った感じで捕まっている者に問いかけた。

 しかしだんまりだ。それはそうだろう。プロだと言ったのだカジウルが。ならば依頼主をそう簡単に喋ったりはしないはず。その依頼内容だって簡単には吐かないはずだ。


「まあ、良いんじゃないか?そこら辺はどうでも。とは言え、昨日の今日だしな。ギルド長あたりが放った者だって事はかなりの確率で合ってるんじゃない?」


 俺のカマかけにも黙っている。どうやら余計な口は開かないでおけばバレないと考えているようだ。

 でもこの時には既に俺は魔力をこの者の脳内にまで浸透させていた。以前にもやった脳内劇場である。

 この不審者が思い浮かべた場面を俺は既に魔力を通して読み取っている。そしてその内容は。


「あー、やっぱりだ。どうやらギルド長だよやっぱり。それにしても良く俺の事を見つけたもんだな。とは言え、まあ、目立つか。」


 俺は昨日教会の門番に言われた言葉を思い出す。珍しい服を着ている、そう言う事である。


「それ、着替える気は無いの?それこそその上からマントを羽織るだけでも違うでしょ?」


「あー、そうだね。だが断る。いや、コートは欲しいかな?トレンチコート。」


 俺はマーミから受ける指摘を跳ねのける。しかしマントでは無くカッコいいデザインのトレンチコートがその代わりに脳内に浮かんだ。

 この様な呑気なやり取りに不審者の男は眉根を顰める。余りにも緊張感が俺たちに感じられないからだろう。

 冒険者ギルドと言う大きな組織に睨まれた、その事実があるのにもかかわらずにのうのうと気楽にこの様に会話を続けている俺たちに異常性でも感じたのかもしれない。

 情報を吐き出してもいないのにまるで事実を掴んだ確信の下に喋る俺たちへと段々と恐怖を感じ始めたようだ。


「私をどうするつもりだ?」


 たった一言、それだけを問う男。しかしこの返事に俺は普通に返す。


「え?もう良いよ帰っても。あ、解放して無かったな。コレで良いだろ?じゃ、お疲れさん。」


 俺の対応に困惑している。非常に困惑している。あっさりとし過ぎている解放に思考が追い付いてこないようだ。


「ああ、無駄に殺すとか、痛めつけるとかは無しだよ。でも、次に見つけた時には容赦はしないと思ってくれ。行って良いよ。」


 俺が追加で口にしたこの言葉でようやく男は動き出す。そして直ぐに遠くへ逃げて行った。


「脅しが過ぎるぞエンドウ。とはいえ、朝っぱらから気分の悪くなる様な事をするのは俺も御免だったからな。丁度良い。」


 ラディが俺へとそんな風に言ってくる。しかし俺はコレに納得いかない。


「何が脅し過ぎなのか分からないんだが?優しく対応しただけじゃないか。何でそうなる?」


「分かってないのねあんたは本当に。ああいった業界じゃそう言った「優し過ぎる」対応をして来る相手は逆に怖ろしいと認識するモノよ。ま、カジウルが簡単に取り押さえた事も一つの要因ね。」


 マーミが説明してくれるが、イマイチ俺には分からなかった。しかしそれで良いんだろう。


「さて、どうされますか?もう一度ギルド長の所にエンドウ様は行くおつもりで?」


 いつものミッツの「アレ」控えられている。いつもは「流石エンドウ様!」などと口にしていたが、今はどうにも今回の問題の件の早期解決を中心に置いている様子だ。

 コレはどうにも教会が悪事に関わっていたと確信しているからこそなんだろう。教会所属のミッツにはそこら辺が気になって仕方が無いと見える。


「行ってもどうにも昨日と同じ態度を取られるだろうし、止めとくよ。今日はのんびりと過ごしたいな。クロの所に行って昼寝でもしたい。」


 これまでの動き回っていた反動か、クロのあの心地良い毛並みに包まれて昼寝がしたいと思ってしまった。


「行ってきたらどうだ?研究所の警戒は俺が代わってやるよ。ミッツもそんな風に尖っていないで一緒に行ってこい。」


 ラディがそう言ってくれるので俺はコレに甘える事にする。余り焦ってもどうしようもない事である。ミッツもこのラディの指摘に思う所があったのか、それともただ単にクロに会いたかっただけなのか。


「はい、分かりました。エンドウ様、ご一緒しても宜しいですか?」


 と言ってきた。別段コレを断る理由は無かったので一緒に移動する事にする。

 ラディには何かあった時の為用に「電話」を預けて俺はワープゲートでクロの居る森、師匠の隠れ家へと移動をした。

 しかしそこにはクロは居ない。何処に行ったかを確かめるのに魔力ソナーを広げてみると、どうやら自らの餌を取りに森に入っている様子だった。

 静かに、そして確実に獲物をしとめるためだろうか、脳内マップに出て来るアイコンの動きが非常にゆっくりとした動きとなっている。


「どうやらもうちょっと帰って来るのに時間が掛かりそうだ。取り敢えずここで昼寝でもしていようか。」


 俺は二つ椅子を地面から生み出す。魔力を地面へと流し、そのままイメージを乗せて引っ張り出す感覚だ。出て来るのはしっかりと土が固まり形作られたリラックスチェアである。

 クロの毛並みに癒やされるつもりだったが、クロが帰って来るまでは森林浴でもしていればいいだろう。

 ミッツもコレに反対は無いのか、有難うございますと言って俺の出したリラックスチェアに寝そべる。


「・・・教会は本当に今までずっと悪行を重ねて来ていたのでしょうか?本来の教会の本分を忘れて。」


「世の中にはやむにやまれぬ深い事情があって始まった事って言うのも、無くは無い。けれど、それを悪い事だと解っていて始めた事なら容赦は要らないんじゃないか?それも悪意に満ち、自分の利益追求、快楽の為だと言うのなら、なおさら罰せられなくちゃ駄目だろうね。」


 俺はあの豚司教の姿を思い出しながらそう言葉にする。ここでミッツの「信じたくはない」と言った気持ちも分からないでも無いが、俺は見て来てしまった。ダンジョン都市の教会の司教のあのたるんだ腹と顔を。


「今日はそこら辺の事は考えないでおこう。結果ならもうすぐ出るんだ。その時になったらその時の判断を下せばいいんだから。ここで幾ら悩んでも無駄にはならないけど、ここで気持ちを落ち着かせておくのもまた無駄にはならないよ。」


 温かい日差しの中、その言葉の後はそのまま眠ろうと俺は目を閉じる。ミッツの方からも会話をこれ以上続ける意思は無かったようで黙っていた。

 それから一時間程度静かな時間は過ぎる。ここでやっとクロが戻って来た。

 ミッツはコレに早速起き上がってクロに近付く。そしてその毛を撫で始めた。

 クロはコレを気にしない。どうやら自らの力よりもミッツの方が強者だと言うのを本能的に理解して従っている様に見える。

 そのままクロは地面へと寝そべった。それに合わせてミッツがそのクロの腹の毛の中に埋もれるように身を預ける。


「クロは気持ちいいですよねー。うふふふふ。はぁ~、このスベスベモフモフは何もかも忘れさせてくれます・・・」


 どうやら少しはストレスを緩和させる事に成功したようだ。いつものミッツの雰囲気が戻ってきている。

 俺はそのままリラックスチェアに寝そべったままだ。ミッツにそのままクロを独り占めさせておいて俺はそのまま寝転がったまま、一つ背伸びをしてもう一度目を瞑って微睡みの中へと入った。


 俺たちは夕方になってから研究所へ戻る。名残惜しいと言った目をしたミッツをクロから引き剥がして半ば引っ張るようにしてワープゲートを通らせた。

 この時にはもう既に冷たい空気をミッツは纏っていない。どうやら充分な気分転換をさせてやれたようだ。


「帰ったかエンドウ。論文は出来上がった。コレを申請して城の方の専門の研究機関へ提出するだけになったが・・・持って行ってくれるか?」


 師匠が出来上がった論文を片手に俺へと寄って来る。


「アレ?ワークマンは?ああ、疲れて眠りました?なら俺が明日にでも直接王子様に渡してきた方が早いかな?ああ、それと各地にある別個の研究機関にもばら撒いた方が余計に早いですよね?」


「おい、そこまでしろとは言っていないぞ私は。全く、そこまではせんでも良い。」


「そこまでって、何処までですか?」


 俺と師匠はそんなやり取りをする。しかしここでドラゴンが入って来た。


「むむ?別の地域に行くのか?なら私も観光を楽しむぞ?連れて行けエンドウ。」


「お前はいきなり出て来るなよ・・・ややこしくなるだろうが。はぁ~、とは言え、今のお前は人型だしな。前の姿よりかは連れ歩きやすいか大分。小遣いはやるから、勝手に見て回って来ても良いぞ?ほら。」


 前の竜状態でならこの様な放任な事は言わなかったかもしれないが、今のドラゴンは何処からどう見ても人だ。

 いや、美人過ぎる所はあるのでその点で問題が起きそうではある。寧ろ確実に起きそうだ。

 しかしそれも「人の問題」で済む範囲だと判断した。「竜と人」といった形にならない分だけ相当マシである。

 そんな「人の問題」でなら解決もしやすいだろうし、師匠をお目付け役に付ければきっと俺が監視していないでもそれなりに大事には発展しないだろうと思えた。


「師匠、ドラゴンの見張りお願いしますね。こいつが突拍子も無い事しない様に見ていてください。」


「お前は私の使い方が荒くなってきてはいないか?・・・前にも言っただろうに、荷が重いと。」


 そう言いはしても師匠は俺が論文を渡しに行く間だけだぞと言って了解してくれた。

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