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今度は教会へのメスかな?

 アレから三日が過ぎた。冒険者ギルドが打ち出したダンジョン攻略には国の監視官が付き添う事がすぐに決定し、昨日の内に出発をしている。

 ペリオンの仕事は非常に早く、ギルドへと即座に自ら赴いて事の最後までを「保障」すると言う名目でこの話を結構な権力を使って捻じ込んだそうな。

 保障と言うのは要するにだ、これから起こる一切合切の件に関して国が全て監視をすると言う意味である。

 このダンジョン攻略に出る前のギルドの騒ぎ、この都市で起きていた暴動寸前の住民たちの集会を問題視していると言う事だ。

 この国側からの割り込みにギルド側は頷かざるを得ない。国は住民の安寧を重要視しなければならない。その責を負っているのだ国は。

 ギルドが危険なダンジョンを放置していた、などと言う事実はいつまでも放ってはおけない。今までは問題が表面に出て来ていなかったから黙認していた国は、こうも派手に事が広がったら黙っても居られない。


 しかしギルド側にも都合が良いのだ。ダンジョンを攻略したと言うのを国が保証する、目の前で確認したという報告が都市中に広がればギルドへの攻撃的批判は全て抑え込めると判断しただろうから。


「でも、もうダンジョンは既に全て無いんだけどね。さて、コレでペリオンは納得してくれると思うから、後はワークマンの論文の件だな。」


 予定では明日には書きあがると言う事なのだ。しかし少しくらいは余裕を持って読み直し、確認し直しの日にちを設けている。

 なのでギルドがダンジョン攻略(笑)を終えて帰って来たくらいに完成を見る事になるだろう。

 そんな風にして俺はお茶を楽しんでいる。研究所の客室だここは。そして警邏をお願いした全員も一緒に此処でくつろいでいる。


「結局はエンドウがずっと魔力を広げてりゃ済む話だ。俺たちが一々外で見回りしなくても良いんだもんな。それくらいの労力は屁でもねーんだろ?直ぐに気付けて良かったぜ。」


 カジウルは昼間っからグイっと酒を煽る。完全に「オフ」の状態だ。


「誰か来ればソレの対応を私たちがすれば良いだけよね。無駄に私たちがここの周囲で目を光らせる何て無駄な仕事だったわ。」


 マーミがそう言ってチラッと俺へと横目で視線を向けてくる。そして「ふん」と鼻で笑ってきた。


「あー、まあギルドの方があんな対応策を出してくるとは思って無かったからね。ワークマンへのギルドからのちょっかいも考えなくて済んでるのは有り難いかな。」


 俺はマーミへとそんな返しをするが、それでもワークマンの身柄の安全を今は考えておかねばならない時間だ。

 論文執筆に余計な問題を挟み込まれる様な真似はされたくはない。論文書き上げの邪魔は排除である。


「それにしても、こんなのんびりしてても良いのでしょうか?取り敢えず・・・私は教会の動きも気になります。」


 どうにもミッツにはここのギルドと少なからず「裏」取引があっただろう教会も一緒に「痛い目」を見せたいらしい。


「焦るなよ。ギルドや商人たちとは違って教会は不気味にも全く動かないからな。しかもこの都市では教会は特に重要だ。冒険者以外の病人や怪我人にも関係している。治療という点でな。」


 ラディはそう言ってミッツに教会への対応は慎重にしろと説く。


「なあ?そんなに気になるなら多少強引にでも教会に行って何かしらの証拠を探してみるか?」


 俺のこの提案にこの場に居る全員が眉根を顰める。師匠はこの場には居ない。今もワークマンの方の助手みたいな事をして貰っている。


「余計な仕事をこれ以上増やす気か?止めとけ止めとけ。きっとクソみたいな内容にちげえねえよ。」


「あらカジウル?決めつけてるの?まあ、何だか他所の教会よりもキナ臭さは爆発してる所は同意だわ。」


 珍しくカジウルの意見にマーミが同意している。と言っても、いつもいつでもマーミはカジウルに反発している訳では無いのだが。


「私もそう感じます。この都市の教会の雰囲気は何だか嫌に「お金」の空気が鼻に付きました。」


 ミッツにはミッツなりに何かと勘が働いた部分が教会に在ったんだろう。独特の気付いた何かがあったに違いない。


「・・・コレは噂なんだがな?教会に治療を受けに行った冒険者、そして戻って来た冒険者の数が合わないと言う話がある。」


 ラディが突然「ホラー」な話をし始めた。コレに俺たちは黙って耳を傾ける。


「確証も証拠も無い。しかし、まことしやかにだがそんな噂話が拾えてる。そこら辺の調べは付けられてない。過去の調査の結果が残っている訳でも無ければ、噂が真実だと言える出来事も確認出来てはいない。」


 その噂の元ネタになりそうな出来事も存在していないのに、この都市ではそんな「不思議」が僅かに歩き回って、時折人々の口から洩れると言う。


「そう言うのが囁かれるのが大抵、何かと大々的にギルドが「攻略」などと言って素材を冒険者たちに取りに行かせた後であるようだ。おそらくはコレは・・・」


「ああ、全部言わなくても分かるな。普通なら「死亡」だろ?でも、それを合わせて計算しても、数がおかしいとかだろうな。だけどそこは・・・計算違い、勘違い、何て言った形で結論付けされるような小さな数・・・行方不明者、ね。」


 俺はラディの言葉の続きを口にする。そしてそこから導き出される答えは想像したくないモノである事も。

 でもここでラディはハッキリとさせないとならないと判断しての事だろう。


「奴隷だな。違法が付く。おそらくは教会の一部、しかもここの支部の上がやらかしている可能性が高い。いや、確実と言い変えてもいいだろう。」


 ラディがハッキリと言葉にしたからでもないのだが、コレを聞いたミッツからもの凄い怒りが感じられる。

 その表情は変わってはいないし、黙っていて無表情なのに、それがアリアリと分かってしまった。

 いや、その様な態度を見せているからそこ、逆にミッツの怒りが良く表れていると言えるかもしれない。


「・・・潰すしか、無いですね。」


 ゾワリと部屋の気温が下がったかのような錯覚を覚える。ミッツが漏らしたその呟きに実際の温度を下げる効果があるかのように感じられてしまった。


「落ち着けよ。きっとこのギルドの動きの結末に教会も動く時があるだろ。そうしたらその時にでも調べりゃいい。」


 カジウルがそんな言葉をミッツに投げる。コレに少しだけミッツは笑顔を取り戻したのだが、逆効果だった。

 そのミッツの笑顔は何処までも冷たい印象を醸し出していた。しかもミッツはカジウルのこの言葉に何も返事をしない。それで余計に怖い。


「・・・はぁ~。分かったよ。俺がマルマルのギルド長の所に行って知恵を借りてくるから、ちょっと待てミッツも。おい、止めろ・・・いつの間に武器を取り出してたんだよ・・・怒りを抑えろって。」


 俺がミッツへと落ち着くように言ってそちらを向いたらミッツは既に怒りから我慢の限界だったのか、その手にメイスを持っていて今にも「カチコミ」をしに行こうとしている雰囲気だった。

 ソレを必死に俺は宥めつつ、マーミもコレに「ヤバい」と感じてミッツを後ろから羽交い絞めして動きを止めていた。


「離してください・・・大丈夫ですからマーミ。一旦エンドウ様の為される事に従います。」


 どうやら「待て」と言った俺の言葉に従ってくれるようではある。が、しかしそれで何かしら「良い案」が無かった場合にはすぐにでも飛び出していくだろう。


「はぁ~。じゃあ、今から行ってくるから。ここの周囲の警戒、ラディ、変わってくれる?こんなミッツの姿、見た事無かったから凄く驚かされたんだが・・・」


「こうなると分かっていたから話さないでおいたんだがな。こうなっちゃいける所までやるしかないだろ。」


 ラディが大きく溜息をついてミッツを見る。どうやらミッツが本気で怒った時にどの様な行動をするのかラディは予想できていたようだ。


 こうして俺がワープゲートでマルマルの裏通りへと移動する。こうした「魔法」なんてモノが使えなかったりしたら、俺はもっとこの世界で疲れ果てていた事だろう。

 この様な便利な方法が無かったらきっと俺は直ぐにダウンだった。精神的にも、体力的にも。いや、精神の方が先に参っていただろうか。移動だけでもどれだけの苦労になるか。それがこの様に一瞬である。有り難味が強い。


「御免ください。ギルド長との面会をお願いします。」


 俺はマルマル冒険者ギルドへ移動。直ぐに中へと入ってそんな言葉を受付嬢にかけた。


「・・・はい!エンドウ様でございますね!こちらへどうぞ!」


 何だろうか?俺への対応がやけに丁寧で特別だ。この様な受付の対応にギルド内に居た少なくない数の他の冒険者が「え?」と言った感じでこちらへと視線を一斉に向けてくる。

 そもそも俺の個人としての名前を把握されているのがどう言った事だろうか?


 取り敢えずギルド長に会えればどうでも良い事なのでそれらの視線も疑問もスルーはするのだが、カウンター横の「関係者以外立ち入り禁止」の通路の奥へと俺の姿が完全に消えるまで、向けられた視線はずっと離れなかった。

 そうして案内された部屋に入ればお茶が出される。そして「今お呼びしてきます」と言って案内をしてくれた受付嬢は部屋を出て行く。


「ここまでする事無いだろうに。勝手にギルド長の前に出て行った方が良かったかな?」


 前にも突然来るなと指摘はされたが、話を早く終わらせるのには直接出向くのが一番手っ取り早い。


「だから、前にも指摘をしたが・・・急に・・・まあ、良い。それで、今日はどの様な?」


 部屋に入って来たマルマル冒険者ギルド長、ミライはそう言いながら俺の対面の椅子に腰かける。


「あー実は相談があって。ちょっと知恵を借りたいんだよね。とは言え、力づくで解決もできる案件だとは俺も思ってるんだけどさ。それだけだと波風立つ高さがどうにもかなりのモノになりそうなんで。」


 ダンジョン都市、いや、既にダンジョンは無くなっているので只の名も無い都市?であるのだが、そこで起きた事の詳細を最初から俺は説明をした。

 ダンジョンに異変が起きて、調査したら、危険であったので潰した、都市周辺の全てのダンジョンはもう無い、ギルドの動きと商人の癒着、教会の裏問題、などなど。

 少し時間が掛かったが、取り敢えずは重要な中身は全部ぶっちゃけてしまった。別に秘匿しておかねばならない事では無いから。


「あ、それと今回の事の顛末をワークマンが論文書いて国に提出するんだけど、写しは欲しい?」


「・・・待ってくれないかしら、ちょっと頭の中を整理するから。・・・なんて相談を持ち掛けて来るのよ・・・本当にもうっ!」


 それから大体五分くらいの時間を掛けてゆっくりと俺の持ち掛けた相談を咀嚼して呑み込んだギルド長。


「今は問題は教会、で良いのよね?ギルドの事は既にほぼカタが付いたと言っても良いでしょうし。・・・そうね。本当にその噂が本当ならこちらで魔道具を貸すわ。一応は私の権限で特別に。」


 録音をする道具、それをギルド長の独断で俺に貸してくれるらしい。


「それで会話の証拠って事か。そうだなあ。書類を残してたりしなかったらソレはそれだしな。もし不正の帳簿が存在していても、バレたら即座に処分、何て事になったら証拠も無くなるしな。」


 俺の魔法があればそんな物は直ぐに見つけられるだろうし、処分される前に確保なんて事もできるだろう。相手側が俺たちつむじ風の動きを把握、見透かしていて先んじて動くと言った事は起きそうも無いが。

 だけども教会とギルドの繋がりをハッキリとさせる証拠が今回は欲しいのだ。しかもその内容が直接的で言い訳できないモノであればもっと良い。


「教会とギルドのどちらかで・・・まあ、今回のこの「誰も被害が出なかった」と言う中身を話し合う事になるでしょうから、その場の会話を拾えばいいでしょう。長年繋がっていたと言うのであれば、教会が奴隷なんてモノを購入しようとしていたとして、今回の確保できる数が一つも無い事をギルドへと事情説明を求めるでしょうからね。」


 コレはどう言う事だ?なんて言って教会の不正をしていた責任者がギルドへと押しかける。

 或いはギルドが教会へと赴いて今回の取引を無かった事にしてくれと頼みに行くのか。

 どちらにしろロクでも無い話し合いがそこで生まれるであろうと言う事だ。


「その録音魔道具を私に返してくれれば、ギルドの方はこちらで緊急会議の開催と処分まで持って行くことが可能よ。しかも内容次第では確実に「犯罪者」として牢屋に入れる事ができるわね。余りそう言った事を信じたくはないけれど、確率は・・・高いのよね?貴方の見込みだと。それを信じるわ。魔道具の録音内容を複製する事も可能だから、教会の方にも同じ内容を送り付ける事もできるけれど、どうするの?」


「あーそうですね。ミッツの怒りも消化させなきゃ、って感じなので。それもお願いしても?あ、これは俺がギルド長へと個人的に頼む事なので、依頼料はいくらでも俺から搾り取ってくれて構いませんよ。」


 俺はカードを出す。今の所この中に幾ら位入っているのかを把握していない。


「はぁ~。適正価格よりも少し安くしておくわ。アナタには世話になってるしね。本当にもう、仕事を増やしてくれるわね。」


 ギルド長は読み取り機を用意して手続きをパパッと手際良く済ませてしまう。幾ら位手続き料を取られたのかの確認を俺はしていない。

 ボッたくられる、などと言った疑いを俺はミライギルド長に抱いてはいない。なのでここは信頼を持ってして差っ引かれた金額を聞かない。


「じゃあ、コレを持って行って。使い方は分かるかしら?分からなければ他のつむじ風の皆に聞いて。それじゃ、今日はこれで。」


 ギルド長はそのままさっと話は終わったとばかりに椅子から立ち上がると部屋を即座に出て行く。忙しい身であるだろうから当然の動きだろう。

 俺も別段引き留めると言った事はしない。追加で頼みたい事も無いし、用件は全て話し終えてある。ギルド長も俺の持ち込んだ問題の手回しなどで動かなくちゃいけないはずだ。


「さてと。ミッツにも今の内容を説明しないとな。・・・穏便に済ま・・・無いかもな?これだけじゃ。」


 ミッツの怒りは相当だった。俺がそう捉えただけで本当はもっと冷静であるのかもしれない。

 けれどもマーミが真剣にミッツを止めようと羽交い絞めにしていた事からこの読みは間違ってはいないと思う。

 こうして俺はギルドから出て裏通りへ、そこからワープゲートで帰還をする。


「・・・さて、それじゃあ教会の動きに対してミライギルド長から案を貰って来た。説明するよ。」


 帰って来た俺にミッツがいつも俺へ向ける視線とはまた違った真剣な目を向けてくる。

 俺はコレに若干引きながらお茶を飲みつつ皆へと説明を始めた。

 こうして説明を終えてから俺はラディから「録音機」の使い方の説明を受けた。


「で、まだギルドの方は帰って来るのに一日か二日は掛かるだろう。エンドウ、その間に仕込みでもするのか?」


 ラディは道具の使用法を俺に伝授した後はそう聞いてきた。


「そうだな。教会か、ギルドのどちらで会談がされるかは分からないから張り込みしないと駄目か?いや、別に俺には魔力ソナーあるし、それを張っていれば済むか。とは言え、ギルドと教会の両方をカバーする?それこそ面倒だな?」


 俺はぶつぶつとこの後の事を考えて独り言を口にする。俺が魔力ソナーで判別できるのは一度自分の目で見た事のある者だけ。

 なので今回は冒険者ギルドのギルド長か、或いは教会の不正をしている責任者だろうか?

 或いはそれに商人の方も絡んでいたりすると余計に面倒な話になる。そのどれもを俺は視認していないのだ。


「ちょっと今からギルド長に面会とかできるかね?一回どんな人物なのかを話してみて、その人となりを確認しておきたいんだけど。」


 俺は取り敢えず先ずはギルド長の方からの確認をしておきたいと口に出す。


「・・・難しいんじゃねーか?そもそも今回の事はエンドウ、お前が一番目を付けられてるんだぞ?とは言え、お前の容姿なんてあちら様は知りもしねーだろうけどな。良いんじゃねーか?それこそ面会なんて言わずにお前ならそんなまどろっこしい事しないでもギルド長の顔なんて幾らでも見る方法あるだろう?」


 カジウルが正規の方法を取る必要は無いと言ってくる。


「まあ、そうか。だからって言ってもな?一応は筋を通しておきたいと言うか、何と言うか。あれもこれも力づくで出来るからって言って、それでいつでもどこでも解決だ、何て事していると性格が歪みそうで不安でな。こう言った無駄な事に時々はちゃんと向き合わないと自分を見失いそうになるだろ?」


「今更何を言ってるのよ?そんな事を口にするくらいだったら私たちへの配慮もしなさいよね?」


 マーミに突っ込みを入れられた。俺はコレに言い返せない、その自覚がある。小声で「スイマセン・・・」と、しょんぼりする事しかできない。


「教会がもし、許されざる事をしていた場合、私はこの手でこの都市の教会を潰します。徹底的に。誰に何と言われようとも。」


 ミッツがその様な事を言いだした。しかも冷たささえ感じる程の無表情で。


「・・・そうだなあ。ミッツは教会関係者っていう面もあるし、冒険者でもあるしな。俺はその決意に文句は無いし、付けられもしないよ。」


 俺は間を開けてからそう答えた。他の三人もどうやら同じ意見らしい。


「ミッツがこうなっちまったら、もう俺たちが何を言おうと駄目なんだよなぁ。それに、この都市の教会に俺たちが首を突っ込むにしても、ミッツが一番教会の事は分かってるしな。」


「ギルドとどう言った繋がりがあるかはまだ確定では無いでしょ?でも、それでも法に触れる事をしていそうだしね。その時は同罪よ。そんな教会は無くなってくれて結構よ。」


「この都市の住民には迷惑になるだろうが、しょうがないだろう。そうとなったらな。この都市に対して俺たちが慮る義理がそもそも無いのだから。それこそ関係者としてミッツが裁くのが一番だろう。」


 カジウルは全面的に任せると言い、マーミはギルド憎けりゃ教会まで憎いとのたまう。ラディはと言うとミッツがやるのが当然だろうと言ってのけた。

 確かにこの都市は大きい。ここに住む人々の暮らしに多大な影響が出るだろう、教会を無くしてしまえば。

 けれども俺たちがそんな事を気にしなくちゃいけない程に、ここに知り合いが居る訳でも無い。

 全くの赤の他人に対して配慮をする気にならないのだ。それこそ教会が本当に犯罪に手を染めているともなれば、それを放置しておく事もできない。


「全てはその時になってから、だな。穏便に済ませられる事はもうできないだろうし?事が大きくなり過ぎてるのがなぁ?」


 もっと小さい事柄であれば、もしかしたらペリオンに問題を押し付けてしまえたかもしれないが、俺たちはギルドから直接「悪意」と呼べるものを押し付けられてしまっている。まあ、それらは即刻返り討ちにしたが。

 そんなギルドと教会が繋がっていて不正をしていた、犯罪をしていたとなったら、これらをマルッと一纏めで潰しておこうなどと思うのはおかしな事じゃ無いだろう。


 こうして俺は念のためと言う事でこの都市の冒険者ギルドへ行く事にする。


 研究所を出て未だに熱気冷めやらぬ大通りをギルドへと向かって俺は歩いて行く。

 ダンジョン攻略宣言をギルドが出したにもかかわらず、住民たちのギルド批判のデモ行進は続けられていた。

 そんな中での隙間を通って俺はギルド前に到着した。そこでも未だにずっと「ギルド長解任」の声が上がっている。


「コレは・・・中には入れ無さそうだ。しょうがないな。」


 俺は人気の無い裏通りに入ると光学迷彩の魔法で姿を消してそのまま空へと浮かび上がる。

 その状態で何処かギルドの中へと入れそうな場所を探して飛び回った。

 何処もかしこも、窓も扉も、侵入してくる者が無いように頑なに閉じきられていた。


「仕方が無い。ワープゲートでお邪魔するか。」


 このギルドには一度入った。ならばこうして籠城と言った形で何処にも入れる所が無くても俺なら楽々侵入可能だ。


「ちゃんとマトモに正面から入りたかったんだけどな。変に拘る必要も無いな。こんな状況じゃ逆に「普通」なんて言ったモノの方が通る筈が無い。」


 俺はギルド内にある一室にワープゲートを繋げて入り込む。その部屋から廊下に出れば人気は無し。


「うーん?俺は別に不法侵入をしたくて、した訳じゃ無いのにな?奇妙な感覚を持っちゃうなあ。」


 俺はここでやっと魔力ソナーを広げた。そして人の動きを把握する。


「あっちか。でっかい部屋に一人で居る人物。いかにもお偉いさんって感じだし。」


 俺は脳内マップに従ってそのギルド長らしき人物の居る部屋へと向かう。

 そしてその扉の前に来るまでにここの職員とは一人もすれ違ったりしなかった。


「そもそも職員が少ないみたいだな・・・外のデモの危険性とかを考えて自宅待機とかにしているのか?必要最低限の人員をローテーション組んで仕事をさせているのかね?」


 俺は少し強めに目の前の立派な扉をノックする。そして。


「失礼しますギルド長、御用件がありまして、入っても宜しいですか?」


 俺はそんなセリフを吐く。コレに返ってくるのは短く、そして機嫌が悪そうな一言「入れ」だけだった。

 しかし許可は下りたのだ。俺は遠慮無く扉を開けて中へと入る。

 ギルド長の執務室だと言う事がこの返事で確定したから。幾らギルド長が俺の事を職員だと勘違いをして入室許可を出しているとしても。


「んん?貴様は誰だ?おい、どうやってここに入り込んだ!?」


 直ぐに気付かれるがソレは問題じゃ無い。俺はもうここで目的は達成した。最低限ではあるが。

 そう、一度この目で確認ができれば後は魔力ソナーでギルド長の動きは追える。だけども今ここでこのギルド長の人となりも知っておくのも済ませてしまうのが良いだろう。


「初めまして、ダンジョン都市冒険者ギルド、ギルド長殿。私はこの度の問題に色々と関わっている者です。」


 俺のこの言葉で一気に目つきが悪くなったギルド長。その見た目は髪をオールバックに綺麗に整え、口髭も綺麗に整えている。

 偉そうな態度が滲み出ているそのふんぞり返らせた背筋に、俺の事を下に見てくるその視線。

 そこで俺は直ぐにこのギルド長の人間性を察した。自身の器を勘違いしている系の人物だ。


「貴様今なんと言った?関わっているだと?・・・誰か居ないか!不審者だ!狼藉者だ!コイツを捕らえろ!」


 大声で叫ぶギルド長。しかしその声は虚しくこの部屋に響くだけで誰にも届かない。


「何故誰も反応せんのだ!おい!誰か!誰か居ないのかぁ!」


「いきなりこれかぁ。器が小さい。非常に小さい。小物だな。いや、逆に見れば即断できる人物と見なせる・・・?とは言え無いな。」


 誰も自分の呼びかけに応える者が居ない、この部屋へと駆け付ける者が居ない事でギルド長は焦り始めている。

 自分の身が可愛いんだろう。危害を加えられる事を恐れているんだろう。自らの命が一番大事、そんな背景が透けて見える。

 俺を捕まえておいて後で尋問、或いは今回の事の全責任を負わせて「始末」を付けようとか、この様子だと浅はかな考えでも持っていたに違いない。


「貴様!一体何をした!?どうして私の呼びかけに誰も来ない!?確かに来させている職員を減らしてはいるが、それでも誰かしらに聞こえていなければおかしいのだ!」


 どうやらこの部屋から他室へと呼びかけると何かしらの仕掛けが起動するようだ。このギルド長の慌てようだと相当に信頼を置いていた装置なのだろうソレは。

 けれども俺が魔力ソナーを広げている時点でソレが起動しないのだからしょうがない。

 不審な点が見られた部分はそれらが一切動かない様に「固定」をついでにしてある。余計な面倒が起きるのは御免だ。


「いい加減に落ち着いて貰えませんかね?まあ、アナタの態度を見るに問答無用と言う事は分かりましたけど。はぁ~、話も聞く気が無いのならもう俺もここにいつまでも居る気も失せるので、コレで失礼しますよ。」


 俺はもう取り敢えずは目的を達したのでそう言った後は直ぐにそのまま部屋を去る。

 そして職員がすぐ側に誰も居ない事を確認してワープゲートを出してそのままギルドから出て行った。

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