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ちょっと全力を出していく

「外から核になっているモノよりも強力な魔物が入って来るとしようか。それが運良く最奥にまで到達したとする。で、ここでその核の部屋にそのままソレが侵入するとどうだ?互いに争う事になろう。外部からの魔物がその核の魔物を丸呑みしたとしようか。その場合は核の魔物が持っている因子、要素をそのまま吸収する形で乗っ取りが完成する。他にも二つ三つか、乗っ取りの方法はあるが、今回はこれであろうな。しかし、本当にどれだけの運があればこの様な事になるのか?かなり低い確率になるであろうな。」


「ソレが今、目の前に成功例があるんだが?絶賛今俺の張った魔力障壁を壊そうと滅茶苦茶体当たりして来てるんだが?」


 ドガン!ドガン!と一回一回力を溜めてヒュドラは体当たりをしてきている。しかし障壁はビクともしない。いや、俺がさせない。かなりの魔力を込めてあるのだ。

 今俺は即座にこのヌシを滅さずに観察を続けている。一応はワークマンへの報告もしようといった気遣いを今頃思い付いたからだ。

 彼の研究にも少しくらいは貢献してあげようと思っての事であるが今更だ。しかし今回のこのケースはレアだと思われるのでドラゴンの話はちゃんとワークマンに伝えるのが良いだろう。


「それにしてもさ。吹き飛ばした首が再生して元に戻るのも気持ち悪いけどね?その吹き飛んだ首が巨大なアナコンダに再生して別個で動き始めるのは流石に無いと思うんだ。」


 気持ち悪い、非常にこれ以上無いと言うくらいに気持ち悪い。ヒュドラの再生した首もどうやら「脳」まで再現再生されているらしく、こちらを見据えて睨み動いている。

 ちぎれ飛んだ首の方はと言えば、当然そこには「頭部」が付いている。それがそのまま千切れた部分から尻尾までニョキニョキと再生、生えて別個体として動き出すとは思わなかった。


「なかなかの再生能力だな。どうやらこのダンジョンの魔力と既に馴染んでいるようだ。最初からこの魔物の持っていた特性をさらに引き出しているようだぞ?」


 ドラゴンは落ち着いて解説を入れてくれるのだが、俺はこのヒュドラの気持ち悪さに気が行っていてそれどころじゃない。


「一息で殺すにしたってさ?なんだろ?肉の一部が少しでも残ったりしてたら、そこからまた復活しそうじゃん?慎重にやっておきたい所なんだよねー。」


 俺の心情のままに攻撃をして、それで「はい終わり」ならいい。けれどもこのヒュドラの特性をちょっとでも目の当たりに観察していて「一欠けらでも細胞を残しておいたら駄目だ」と直感が湧く。


「俺の攻撃を耐えたりして来たらそれもそれで厄介だし。込める魔力を調整しないと俺たちも破壊に巻き込まれるだろ?」


 このヒュドラの再生力を侮りたくはないし、そもそもソレを完膚なきまでに消滅させるにしても、過剰な魔力を込めた魔法だとこのダンジョンを一気に巻き込んで即座に消滅させかねないと感じたのだ。

 このヌシの部屋丸ごとヒュドラを巻き込んで消滅させた場合の後の事が怖い。それができるだけの魔力は俺は自分の中に「有る」と確信している。

 いるのだが、ダンジョンは何が起きるか分からない、と言うのを今更に強く意識する。ヌシの部屋ごと消した場合のこのダンジョンへの影響はどうなる?消滅までの猶予はどれくらい残るのだろうか?

 もし一瞬でダンジョンが消滅する事にでもなれば俺たちはそれに巻き込まれて脱出する時間も無く共に消滅させられてしまう可能性を考えてぞっとする。

 あり得ない、何て事は、有り得ない。そんな言葉が脳裏を過ぎる。今まで順調にダンジョンをクリアしてきているから余計に怖い。


「何を考えているのかは知らんが、どうするのだエンドウよ?私がやるか?」


 ドラゴンは俺の不安に気付いたのかどうなのか、俺へとそんな言葉を掛けてくる。別にドラゴンがこのヒュドラを何とかしてくれると言うのならソレはそれで構わないのだが。


「時間は掛けていられない。ちょっと本気を出すからドラゴンは先に外に出ていてくれないか?」


 俺はここでワープゲートを出す。繋がっているのはこのダンジョンの入り口付近だ。


「一気に消し飛ばす。他のダンジョンの様子もこの様子だと早めに見に行っておかないといけないだろうしな。時間を掛けてはいられない。」


 俺は覚悟を決めた。ワープゲートを通って外に出たドラゴンを確認してから、俺は自身の中の魔力へと意識を集中した。

 そしてこの部屋ごとヒュドラを消し飛ばすつもりで魔力の密度を上げていく。こいつが生き残って外に出たら厄介だ。

 俺が安心できるだけの魔力をありったけ掌に集める。それを放つ。放ったらすぐさまに俺もワープゲートに入って外に脱出だ。その後は直ぐにワープゲートは閉じる。

 次には地鳴りがした。下と思ったら直ぐにダンジョンの入り口は閉じ始める。みるみるウチに入り口は小さくなり始めて地鳴りが終わる頃にピタッとソレは消え去った。


「おかしな事が起きた後はそれに連動しておかしな事が連続で起きるよね。俺の判断が間違っていなくて良かった・・・」


 それにしてもだ。こうも俺が思い描いた不安がそのまま現実になるなんてどう言う事だろうかと思案にふけりそうになる。


「あの魔物はどうやらダンジョン内の魔力を自分に急速に集めて吸収をしていたようだな。倒されれば空間を維持するための魔力すら残っていなかったとは。一歩間違えば消滅に巻き込まれていた所だ。まあその時には自身を守るための空間を作り出していただけだがな。」


 どうやらそう言う事らしい。ドラゴン先生の解説がありがたい。俺が一々悩まなくて済む。


「とは言え、まだ俺はその空間を魔力で創り出すって言うのやった事無いんだよな。出来るようになっておいた方が良いか?」


 できるとは思う、だが、ブッツケ本番はしない方が良いだろう。練習を何処かでしておいた方が良いかもしれない。


「まあお前なら簡単にできるだろうが、慣れておいて損は無いぞ?さて、次に行こうか。この調子だと面白そうなのがまだまだありそうだな?」


 こうして俺たちは次のダンジョンへと向かい攻略を開始したが、そこは別段おかしくなっている所は無く無事に消滅をさせた。そして外に出た時にドラゴンがぼやく。


「つまらんな。もうちょっと歯ごたえのある獲物が良かったが。弱い者をいじめる趣味は無いのだがな?」


 ドラゴンが次はダンジョンのヌシを倒したのだが、何とも言えない文句を垂れている。ここは巨大タニシがダンジョンのヌシだったのだが、ドラゴンが開始早々に尻尾での叩き付けをしたらあっさりとその殻を打ち砕き一撃で倒してしまったのだ。


「俺たちの目的は何だったのかを思い出せよ。遊びでやってんじゃないんだよ。ったく。さて、次だ次。」


 こうして残りの低位のダンジョンはどれもが別段異変が起きていた訳では無かった。

 そのおかげで昼を少し過ぎたくらいの時間で無事に全てのダンジョン攻略が終わる。いや、一つだけ終わっていない所があった。


「おーい、カジウル?そっちはまだ終わって無いのか?」


『貧乏くじを引いたぜ。どうやらゴブリンども、中を拡張してたらしい。迷路みたいに入り組んでる部分で時間を食った。だけどももう目の前にヌシの部屋の扉がある。直ぐに片づけて合流するつもりだ。』


『・・・あら?カジウル、ちょっと待ってください。・・・鍵穴です。どうやらコレは・・・』


 ミッツが扉に何かを見つけた。何処までも貧乏くじだろう。面倒な事が起きていたようだ。どうにも二人の攻略しているダンジョンはヌシの部屋に「鍵」が必要なパターンだったらしい。

 ソレを今から探さないといけないと言う事だ。ラディが居れば恐らくは扉の前に辿り着く前に「鍵」のある隠し部屋を見つけられていたかもしれない。

 俺は扉を思いっきり蹴って破壊して開けてしまったが。


『カー!面倒くせぇ!くっそ!コレ蹴破れねーかな!ったくよー!』


 カジウルがそう叫んでいる。俺と同じ思考である。滅茶苦茶面倒臭いとコレに感じているんだろう。俺も同じだった。

 最奥まで来ていると言う事は大量のゴブリンは駆除が終わっているんだろう。扉前に来るまでに駆除に意識が行ってしまい、「鍵」の隠し部屋の事に何て気が回らなかったに違いない。

 二人も一応は魔力ソナーが使えるはずだ。しかしその広げられる範囲はどれくらいかは知らない。

 けれども隠し部屋を見つけられずに最奥にまで来たと言うのならばその精度はまだまだ低いのかもしれない。


「俺がそっちに応援に行こうか?どうする?ラディの居る位置の方が近いか?」


『ダンジョンはもう残りカジウルの所だけか。なら俺が行ってもいいが。ちと遠いな。エンドウが飛んで行った方が早いかもしれん。』


 そう言う事らしいので俺が行こうと思ったのだが。


『いや、俺たちで何とかする。クソみたいに湧いて出て来るゴブリンどもに気を取られ過ぎてたんだ。油断だぜ全く。』


『はい、皆さんは先に戻って休んで頂いていて結構ですよ。私もここまで来るのに少々魔力の消費を抑えていたんです。この先に何かあるといけないかと思って。でももうゴブリンの方も殆ど狩りましたし、「鍵」を見つける為に全力を出そうと思います。』


 ミッツはここで全力宣言をした。コレに返す言葉は。


「無理はするなよ?無茶だと思ったら直ぐに撤退して応援を呼んでくれ。そのための魔石だからな。」


『はい、大丈夫です。心配ありがとうございますエンドウ様。』


 こうしてそのダンジョンはカジウルとミッツに任せて俺たちは一旦合流をする事に。待ち合わせ場所はダンジョン都市の外壁部。そこからワープゲートで都市内部に入る。

 先日ワークマンに連れられて入った研究所にワープゲートで一気に到着である。


「すみませーん。ワークマンさんは居ますかー?」


 俺はそのまま扉を開けてそう声を張ってワークマンを呼ぶ。失礼で無礼な呼びつけ方だが別に気にしない。まあ気にするのは彼以外の研究員だろう。

 ワークマンは恐らくはこの研究所での役職が高い。これは只の俺の勝手な予想だが。

 そうなると内部の関係者はその高位役職をそうやって簡単に呼びつけようとする俺に警戒心と嫌悪感を抱くに違いない。

 と、思ったらどうやらダンジョン調査に出て来ていた調査隊の一人がコレに反応したようで。


「ああ、貴方ですか。少々お待ちを。誰か、案内をお願いして良いか?彼らを客間に。」


 こうして俺たちはあっさりとこの研究所の客間へと案内される。しかもお茶と茶菓子まで出して貰えた。


「エンドウよ。この香りの良いモノは何だ?ふむ?それにコレは・・・うむ、甘いな。」


 ドラゴンは直ぐにお茶と菓子をぺろりと平らげる。この客間に入るまではドラゴンには姿を消して貰っていた。

 余計な波風は立てないのが一番である。とは言え、この客間に入って直ぐに魔法を解いて姿を丸出しにしているのだが。


「やあ、すまないね。・・・で、今日は、まさか?」


「ああ、もうダンジョンは潰してきた。残りは一つなんだが、それがちょっと時間を食いそうでね。それと、低位のモノはいくつか残す予定だったんだが、変更した。それらの説明をしに来たんだ。」


 俺が代表でそう言うとワークマンはカクッと足元が崩れるようにしてふらついてしまった。突然の事で相当なショックを受けたらしい。


「どう言う事だか、説明をお願いしても良いかな?」


 ワークマンのこの求めに説明が長くなるからと言う事と、他にこの話を聞かれると余計な混乱を招くと言う事で客間のドアのカギを閉めて貰う。

 そしてゆっくりとソファに腰を据えて話し始めた。俺がメインで本筋を順を追って説明しつつ、所々はここに来た皆にも補足で追加情報やらその現場の状況説明なども入れて貰い、情報密度多めで話をしていく。

 ドラゴンもダンジョンで解説してくれた内容をワークマンにしてくれた。してくれたのだが、まだまだワークマンはドラゴンの事が怖ろしいようで引き気味にしつつも、しかしドラゴンからされる説明を夢中で聞くなど、複雑な様相を呈していた。


「とまあ、こんな感じでな。コレを研究結果としてワークマンには論文を発表して貰いたいんだ。ダンジョンが如何に放置すれば危険な物であるか、改めて世界に発信して貰いたい。コレを知った人々が信じる、信じないにかかわらず、コレは波紋を呼ぶだろうし、改めてこの都市が考えなきゃならない事を突き付ける材料にもなるだろうから。冒険者ギルドの方もコレを放ってはおけなくなるだろうからな。多分この論文に対して証拠が無いだ、何だと言ってくるかもしれないけど、言い返してやればいい。お前らの方こそ低位のダンジョンを放置し続けていて管理の一つもしてこなかったクセに何を知っているだ?ってな。この論文の協力者には俺たち「つむじ風」の名前を出していい。ギルドの方では正式につむじ風に依頼を出している記録の方は残ってる。高難度のダンジョンを師匠が一度暴れて魔物をバンバン狩って金に換えてるからな。その協力者の俺たちが実際に全てのダンジョンに入って危険性を確認したと言うのは、論文に対しての信憑性をこれ以上無いくらいに高めるから。ワークマンが考えていた計画は甘かった、と言わざるを得なかったんで、それを変更してダンジョンは全て潰してる。すまないな突然こんな結末になって。」


 俺は一応全ての伝えたい事を最後に一気に言っておいた。もう潰してしまったモノはしょうがないし、何もせずに放っておくなんてできなかった事も事実だ。

 だからこの事実をワークマンには世間へと公表して貰うのだ。そうすれば正当性が確立する。

 幾らこの都市が「ダンジョン」を土台に経済が回っていたとしても、身近にある危険が実際に溢れ出て来ていたらと考えれば「死」を意識しざるを得ない。

 ならばその危機を事前に潰したと言う理由があれば、これから起こる騒ぎの大きさが一段も二段も引き下げる材料として使用できるだろう。

 冒険者ギルドへの「追撃」としても使える。そして商人にも「目の前の命の危機と、金、どちらが重いか?」と問いかける事ができるだろう。

 この俺の思惑の全てが全て、上手いように転がるとは思ってはいない。もの凄く斜め上な理由で冒険者ギルドも、それと不正で繋がっている商人もイチャモンを付けてくる可能性も否定できないのだ。

 金に目が眩んで何も理解しようとしない者たちには何を言っても無駄と言う訳である。


「解った・・・そこら辺は直ぐに取り掛かろう。私がこの様な事になる切っ掛けをエンドウ殿に持ちかけたんだ。最後の片づけは私が責任を持ってやり遂げなければならん。」


 ワークマンはそう言って立ち上がる。そして頭を下げて来た。


「この都市の平和を守って頂き、かたじけない。ここに住む者の一人として、礼を言わせてくれ。本当に、ありがとう。」


 どうやらワークマンはちゃんとこの都市に迫っていた未曽有の危機に対してしっかりと理解している。

 俺たちがこのタイミングでダンジョンを潰していなかったら「氾濫」が起きてこの都市に、住民たちに命の危機が迫っていたと。


「あ、師匠、この論文の手伝いってしてあげられません?師匠は以前にそう言った書類仕事とかもやっていたりするでしょう?いち早く論文を仕上げるためと、協力者としてしっかりとワークマンの側に居た方がより一層、印象付けられそうですし?・・・ああ、それと、用心棒?護衛としてワークマンの側に居ないと駄目かもしれないですね。」


 師匠が俺のこの言葉を聞いて眉根を顰めた。そして「まさか」と言った感じで口を開く。


「おい、エンドウ?まさかそこまでの事をしては来ないんじゃないか?」


「師匠、甘いですよ。ギルドが俺たちへと仕向けてきた奴らの事を、言った事をもう忘れたんですか?耄碌するにはまだ早いでしょう。最悪の事態を考えると先ずワークマンが殺されるのが最初ですよこの場合は。」


 幾ら何でもと師匠は言ったが、俺のこのセリフに直ぐ黙る。こっちも理解が早くて助かる。


「とまあそんな訳で、皆でこの研究所の周囲を守ろうか。」


「いやいや、お前一人居ればこの研究所だけなら簡単に守れるだろうに。とは言え、まあ持ち回りは決めておくか。」


 ラディがこう言って皆でやろうと声を掛ける。


「私が一暴れして黙らせて来ても良いが?」


 ドラゴンがそう提案をして来るのだが、コレに俺はまだ早いと言っておく。


「ドラゴンがソレをやるのは最終手段だ。それこそ、そうだなあ・・・ギルドが「無能」だって言うのを知らしめる時に出番だろうな。」


 俺がこう言ってドラゴンを引き留めると素直に引き下がってくれる。しかしその後にドラゴンは「その時になったら大暴れするぞ?」と言ってくる。コレに俺は切り返してこう言う。


「まあ、せいぜいが壊しても構わない家屋などをいくつか壊すくらいだなその時は。決して人命を取るんじゃないぞ?あ、こんな事を言うと後々でこう言う事態になるって事前に言ってるようなモノじゃないか。」


 フラグである。最終手段だと言っておきながら、それは必ずやる事になると言うフラグであるこうなれば。


「さて、話は一応纏まった事だしワークマンと師匠は動き出して貰えますか。それとマーミとラディは周囲の警戒を。ドラゴンは・・・そうだな。ワークマンの疑問に答えてやったりしてくれ。お前の知識は相当に役に立つし、そもそもダンジョンの研究にもの凄く貢献するだろうしな。師匠、ドラゴンの御守頼めます?」


「おい、エンドウよ。どう考えても私には手に余り過ぎるだろう。勘弁してくれ。・・・ドラゴンからも何か言ってやってくれ。」


「ふむ、別に私はここで暴れてやろうなどとは考えておらんから安心しろ。余計な真似をすると後でエンドウが怖ろしいからな。大人しくしている。部屋で横になっていればよかろう?そ奴の質問があった時にソレに私の知る限りの事を話してやると言うのも別に拒否する事でも無いしな。」


「よし、決まりだな。ちょっと俺はカジウルとミッツの所に様子を見に行ってくるから。皆頼んだ。それじゃ行ってくる。」


 俺はワープゲートを出して研究所から出る。出た場所はと言えばカジウルとミッツの攻略中のダンジョンから一番近い草原だ。


「さて、向こうはどうなってるか「電話」で確認しても良いんだけど、行って見てみるのが一番早いな。どうせ迎えに行かなきゃいけないしな。」


 俺はそのまま二人の入ったゴブリンダンジョンへと飛行して向かう。そうすればすぐに到着だ。

 そこは森の中の崖の一部にぽっかりと空いた穴。どうやら自然洞窟だった場所がダンジョンになってしまったと言った感じだ。


「さて、ここで待っていても攻略が終わった二人が出て来るだろうけど。中に入って迎えに行った方が良いか。出る時はワープゲートで良いしな。」


 俺はそのダンジョンへと踏み込んだ。もちろん魔力ソナーを行ってダンジョン全域を全て調べ終えてからである。真っすぐに二人の居る場所に向かうつもりである。

 けれどもどうにも様子がおかしかった。二人がどうにもあっちへフラフラ、こっちへフラフラと行方が定まっていない様な動き方をしていたのだ。


「どう言う事だ?二人なら直ぐに「鍵」は見つかるだろうと思ってたんだけど・・・」


 二人の魔力ソナーなら多分見つけられないと言った事は無いと予想していたが、案外にも苦戦しているようだった。

 最奥のヌシを倒すのに恐らくだが、俺のちょっと「力」を込めた蹴りならブッ飛ばせる。もう実際にやった。

 なので俺がこのまま鍵付きの扉を破壊しても良いだろうが、それは止めておいた。


「おーい、二人とも!どう言う事なんだー?鍵がある場所が見つからないのか?」


 俺は真っ先に二人と合流する事を決断した。奇妙だったからだ、二人が見つけられない事が。


「おう、エンドウか。すまねえ。どうにも見つけられないんだわ。そのせいで歩き回らされてる。」


 既にこの洞窟の中にゴブリンは居ない。俺も魔力ソナーで調べた。全て二人で殲滅したようだ。


「残りは最奥のヌシだけなのですが・・・情けない事に私たちで幾ら探してみてもそれらしい場所が見つけられなくて。それに隠し扉的なモノすら仕掛けがあるかどうかも見つけられていないんです・・・」


 コレは少々参った事になった。それだけの難易度にこのダンジョンが変化しているという証しであるのだろうか?鍵が二人に見つけられないと言うのは。


「俺が全力で蹴れば扉を壊す事もできるけど、どうする?やっぱり鍵は意地でも見つけたい?」


 俺のこの質問に二人が黙る。少々の沈黙が訪れた。この洞窟ダンジョン内は暗いので魔法で光を出して明るさを確保しているのだが、どうにもこの沈黙が相まってホラー演出の様になってしまっている。


「できる事なら鍵を見つけてーんだがな?エンドウならソレができる、って言うのは疑わねーけどよ。」


「蹴り破る・・・前代未聞ですね。その様にして鍵のかかった最奥の扉を突破するなんて想像もしませんでした。」


 再びどうしたいかの沈黙が訪れる。そこでカジウルが。


「エンドウ、一回お前が調べてみてくれねーか?俺たちじゃ見つけられなかったモノがお前に見つけられ無かったら諦めて蹴破ってもらうわ。」


「そうですね。私たちもくまなく探したつもりなのですが、もしかしたら私たちでは手に負えなかった「何か」があるかもしれませんし。それは確かめておきたいです。」


「んー?奥に来る前に入ってすぐにダンジョン内を調べ尽くしておいたけど、変な反応は感じなかったんだがなぁ?」


 俺も不思議になった。どう言った事だろうかと。事前に鍵が必要だと言う話は聞いているし、それこそソレを分かっていながら魔力ソナーを広げて「違和感」を見つけられなかった。


「どうにも面倒くせぇ事になってやがる。エンドウでもわからねーのか?ならどうしようもねえんだがなあ。鍵は見つけておきたかったんだが。」


「いや、もう一度ここからやって調べてみる待っていてくれ。ちょっと本気で虱潰しするから。」


 俺はカジウルのこの言葉に待ったを掛けて全力を持ってしてこの洞窟内、それと洞窟入り口、最奥の扉のある場所も、絶対に小さな石ころ一つ逃さないつもりでじわじわと魔力ソナーを広げていく。

 で、それで判明した事があった。このダンジョン、洞窟「内」だけでは無かった。


 外の入り口よりも少し離れた森の周囲にまで「違和感」が広がっていたのだ。ソレはダンジョン内で感じる感覚と同じ物だ。要するに。


「ダンジョンは洞窟入り口前の木々の部分からだったって事か?・・・おい、ふざけるなよ?」


 違和感、洞窟入り口の直ぐ横。そこに何故か俺の魔力ソナーは不自然な窪みを見つける事になった。

 二人も連れて俺はワープゲートで一旦洞窟の外に出る。そして不自然なその窪みの前で立ち止まる。


「ここか・・・中はどうなっている?小さい穴だな。それこそゴブリンの手が入るくらいか。大人の腕は入らないな。・・・奥に何かある。」


 俺は「孫の手」の様に魔力を伸ばしてその中にあったソレを掴んで取り出した。それは黄金に光る。


「道理で見つけられねー訳だぜ。コレがあの扉の鍵かよ。エンドウがいなけりゃ見つけられなかったんじゃんーの?」


「そうですね。まさか洞窟前の森の部分から既にダンジョンとして取り込まれて?いたとは思いもよりませんでした。」


 低位のダンジョンもこうして長い年月を放置され続ければ地上に大きな影響を生むと言う結果を経験する事になった。


「それにしてもかなり意地の悪いものだろうけどな、この鍵の隠し方は。それじゃあもう一度ダンジョン内へ戻ろう。ちょっと俺キレそうなんだけど。」


「よせ、エンドウ。抑えろ。俺も怒り心頭なんだ。馬鹿にされた気分だぜ。」


 ワープゲートでもう一度中へと一気に戻る。そしてヌシの居る部屋の扉の前へ。そこで直ぐに鍵を挿しこんで回す。

 カチャリと言う音がなって解錠された事が分かると俺とカジウルでその扉を押し開けた。すると中には。


「おいおい、面倒くせぇはずだぜ。ゴブリンのこの二種がここのヌシ?これだけゴブリンが増えたのも納得だ。」


 どうやらここのダンジョンがこれ程の規模になった事を納得しているカジウル。


「これは・・・ヌシが二つで一つと考えたらいいのでしょうか?」


 そう、ミッツが言ったとおりに、この部屋には二匹のゴブリンがいたのだが。


「どうやらそうらしい。新しい発見なのかコレは?ヌシは一体が基本とかじゃないの?」


 またワークマンに報告する事が増えた。

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