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手早く終らせる

 そのまま俺たちはそのダンジョンの最奥まで行き、無事にボスを倒す事に成功する。


「全く、お前も大概ではないかエンドウよ。この私のアレに匹敵する攻撃をして見せるとは。」


 ドラゴンが言うアレとはこのダンジョンに入って直ぐにドラゴンがやったあの「ドラゴンブレス」である。

 そして俺がボスを倒したのはそれとあまり変わらないが、込める魔力の密度と範囲を限定した魔法だった。

 そのダンジョンボスは醜悪で巨大なスライムだったのだが、まあ、見た目は茶色くて汚らしい。ドロッとした黒くてまだらな「何か」がその体内に浮いていて非常に嫌な気分にさせられる見た目だったのだ。

 そして何よりも先ずその悪臭だった。そのスライムの体のあちこちからどうにも何らかの「ガス」であろうモノがプシューっと定期的に噴き出ていたのだ。

 これには俺もドラゴンも顔を顰めた。扉を開ければ真っ先にその臭いが鼻を攻撃してきたから。

 その後は直ぐに魔力で風を起こしてその臭いを散らして跳ね除けたが、その場に長く居たいとは思わせない物だった。


 少しだけ扉を開けた隙間から見えるスライムに俺は躊躇い無しに即座に魔法を放った。部屋の中に入らずに、である。そして速攻で扉を閉めた。

 閉じた扉からもの凄い衝撃が走る。どうやら可燃性のガスだったようで、それは俺の魔法の放つ熱で着火してどうやらガス爆発でも起こした様であった。

 そしてもう一度ソレが収まった後に扉を開いて中を覗いてみれば、スライムの残りカスの一欠けらも残っていなかった。

 四角い部屋だったのが、その爆発の規模で「球」の形に変形していた、部屋の形が。

 一応はダンジョンは魔力で世界から隔離されていると言うので、この爆発で他に被害は出ていないと思うが。コレを見てドラゴンは俺へと「お前も大概だろう」と突っ込んできた訳だ。


「さて、次だ。さっさと片付けるぞ。行こう。」


 俺はコレを誤魔化す様にして話を逸らす。ドラゴン程では無いが、俺も我を忘れる様な体験をした後だとこうして威力の面での制御がままならなくなると言うのはある。

 悪臭と醜悪なあの見た目はソレを起こすのに充分なモノであったと言う事だ。


 こうして俺たちは自分たちの受け持つ中位のダンジョンを片っ端から潰していく。中で待ち構えていたボスの種類で言うと。

 ゴブリンの上位種とみられる個体。巨大な蜘蛛。首から上が無い巨人。雷をその身体に纏う巨蝶。猿の顔を持ち体は巨牛。象の様な長い鼻を持ち単眼でカバの身体の魔物などなど。


「あれ?俺たちの受け持ちってもう終わりか?」


 調子に乗って次へ次へとどんどんとダンジョン攻略をしていったので余計に攻略し過ぎたかとちょっとだけド忘れした。


「んん?良いではないか。別に多く潰す事は悪い事では無いだろう。ほれ、気になるなら一度全員に連絡を取ってみればよい。」


 ドラゴンは「確かめてみろ」と俺に言う。なのでここでせっかくなので一次報告という形で皆に連絡を取ってみる事にした。


「あー、テステス。聞こえてるー皆?ちょっと相談しておきたい事があるんだけど、いいか?」


『なんだ改まって?今ちょっと忙しいから後にしてくれねーか?』


 カジウルがどうやら何かトラブルに見舞われたのか、ちょっと焦った感じでそう言ってきた。


『申し訳ありませんエンドウ様。私たちは低位のダンジョンに最初に入ったのですが・・・どうやらここはゴブリンの巣になっていたようで。大量に今それを「駆除」している所なんです。』


 この報告は師匠にも、ラディとマーミにも聞こえている。この「駆除」に師匠が。


『なるほどな。そこのダンジョンはどうやらあまり人気が無かったんだろう。ギルドもそれを分かっていたのか、いないのか。放置をしていたんだろう。おそらくは稼ぎが低くて都市に住み着く冒険者には見向きもされなかったと言う事か。』


『ギルドが定期的に強制で冒険者を送り込んで数を減らしておく、何てのも、やっていなかったんだろうな。幾らダンジョンを残しておいて利用するのがこの都市の特徴だったとは言え、コレは明らかに馬鹿のやる事だ。こんなダンジョンすら攻略しておかずにそのまま管理などせずに放置なんてな。これじゃあこの都市の周辺にゴブリンが良く湧く訳だぜ。根本はこれだったのかよ。』


 ラディがそう言って呆れた感じで続けて述べた。そして次にマーミが。


『もう冒険者ギルドなんて呼べないわね。アホの巣窟、って感じかしら?もしかしてコレ放って置いたら・・・都市に重大な被害が出る「氾濫」になってたんじゃないの?』


 実にその通りだと俺も思った。カジウルとミッツが「駆除」なんて表現をするくらいだ。それがこのまま放置され続けていたらもっと数が増え続けていたに違いない。

 そうなれば溢れ出るんだろう。氾濫、という表現が確かにしっくりくる。そしてアホの巣窟、辛辣である。まあ、そう言われるだけの馬鹿をやってしまっているのは事実なんだが。

 そして俺たちはソレを阻止するのにギリギリ間に合った、と言う事だ。コレを片付けても誰も俺たちに褒賞はくれないだろうが。


「ギルドの金稼ぎしか頭に無い奴らへ「ザマア見ろ」をしてやろうと思ってやってる事が、こんな事になるなんてなぁ。尻拭いかぁ。」


 俺はしみじみしてしまう。結局はこの都市を救う事に繋がっているからだ。だけどもこの事を知る者は俺たち以外に居ない。

「骨折り損の草臥れ儲け」と言った感じでも無い。俺たちの行動はこの都市に対して利益が出ている。それはそれで別段悪い事でも無い。しかしイマイチ、もやもやした気分が残る。


「えーっと、俺の話そうと思ってた事、言って良い?」


 俺が軌道修正をして元に戻す。そして。


「皆は攻略したダンジョンの数どれくらい今?」


『高難度の方は私が今潰した所だ。それ以外は手つかずだな。少々手古摺った。まだまだ私も鍛錬が足りない。』


 どうにも話を聞くと、師匠の入ったダンジョンボスの部屋の中は広大なジャングルだったらしい。そこで猿型の魔物と対決したらしいのだが。

 一向に相手は師匠をおちょくるばかりで真面目に倒そうとして来る気配が無く、その広大なジャングルを逃げ回られたそうだ。

 それで倒すのにこれほどに時間が掛かったと。最後は師匠がブチギレて広範囲を破壊する魔法で一気にカタを付けたらしい。

 そのブチギレ寸前までは律儀にそのボスを追いかけ回して鬼ごっこを繰り広げていたそうだ。


「あー、師匠、お疲れ様です。じゃあもう高難度は全部潰しましたね。じゃあ中位と低位は?」


『カジウルの所で一つと数えて、コレは時間が掛かるだろうな。俺の所は中位を二つ潰した。エンドウの方はどうだ?・・・何でそこまで高速で攻略ができるんだ?どうやった・・・ぁあ?そうか、また穴を開けたのか。それなら納得だ。』


 ラディからの報告を受ける。どうやら既に中位の残りはあと一つらしい。ついでに俺の方の攻略状況を聞いてきたのだが、説明をするとコレに呆れ気味な感じで納得された。

 取り敢えずここでは中位のその残り一つをラディとマーミのペアに攻略して貰う事になった。


『なんだか私たちの負担が微妙過ぎない?とは言え、カジウルの所がもの凄いうんざりする状況らしいから分かるけどね。』


 なんだか文句を言っているんだか、納得しているんだか、微妙な声でマーミは「うーん?」と唸っている。

 大量のゴブリンの相手なんて真っ平御免、とその声からは窺えるのだが、中位のダンジョンに連続で攻略に向かうのも負担として「なんだかなあ」と言った気分のようだ。


「じゃあ低位の方の残りは俺ができるだけ片付けておくから、手が空いたらまた連絡してくれ。それで俺がまだ潰してない所があればその時にやってくれると効率がいいだろうから。それじゃ話はこれだけ。カジウル、ミッツ、頑張ってくれ。んじゃまた。」


 俺はコレを言ってから通信を切った。


「じゃあ行こう。低位ダンジョンは五つ残すって事だったから、カジウルの所で一つとして、後は六つか。よし、直ぐに片づけよう。あ、残す五つの中も魔物掃除をしておいた方が良いか?先に様子見してから判断でも遅くないな。」


 俺たちはまた魔法で姿を消して空を飛ぶ。今居る場所から一番近いダンジョンへと向かう。

 そうなれば、まあ、早い。障害物も無ければ出せる速度も尋常じゃない。一瞬で到着、と言った感じだ。


「それじゃあ今度はどっちがやる?ドラゴンはまだヤル気はあるのか?」


 小さい丘の上にある低位のダンジョンの入り口前で俺はドラゴンにそう訊ねた。


「む?どちらでも構わんぞ?今日中に終わらせたいと言っていたな?しかしそこまで急ぐモノでも無いのだろう?ならばここは別段に階層が深い訳では無いようだからな。散歩でもしながらに最奥まで行こうか。」


 ダンジョン攻略を散歩と言うドラゴン。まあこんな強力な存在からしたらこの様な二階層しか無い、しかも面積も小さいダンジョンに楽しむ所なんてそれ以外に無いんだろう。


「一応は内部の道順の調べは魔力ソナーで終わってるし。そうだな。ちょっと本来はダンジョンってどう言ったモノなのかを本格的に体験しておいた方が良いな。」


 これまで俺は「まとも」と言える様な方法でダンジョンを攻略していない。なのでここは経験を積むと言う意味でドラゴンの意見に乗る。


「魔物との遭遇、戦闘。罠の見分けや発見、回避はしてみる事として。後はそうだなあ、通路のマッピング・・・は別に要らないな。魔力ソナーで全体像はもう把握しちゃったし?」


 俺とドラゴンは別段警戒も何も無しにずかずかと地下へと誘うダンジョンの中へ入って行く。


「で、いきなり魔物と遭遇・・・3mも入って無いんだぞ?どう言う事だ?」


 スケルトン、しかも人型じゃない。狼?犬?である。いや、それだけじゃない。あからさまに種の違う骨がチグハグに繋ぎ合わされている骨の集団が今にもダンジョンから出ようとこちらに押し寄せてきていた。


「コレは様子がおかしいな?ふむ、どうするエンドウよ?恐らくはここは「異常」をきたしているぞ?散歩はお預けらしいな?」


 ドラゴンはそんな呑気な事を言っている。ここも恐らく放置され続けていたダンジョンなのだろう。カジウルとミッツが入ったダンジョンはゴブリンで、こっちは骨の魔物が出るダンジョンで。


「ここも相当に儲けが少なくて労力に見合わなかったんだろうな。それならそれで攻略してしまっておいた方が確実に安全を確保できたんじゃないのか?ソレをこうも溢れ出るまでほったらかしって・・・」


 俺は思考する時間が欲しかったので真正面の通路を隙間無く埋めて通せんぼするように魔力障壁を張った。

 迫りくる骨の軍団の迫力がヤバかった。なので落ち着きたかったのだ。それと、ギルドの杜撰な対応やら処置の仕方がなっていないのと、冒険者たちの危機感の無さに呆れてしまって気力が落ち込んでいたのだ。

 ソレを元に戻す時間が欲しかった。しかし魔力障壁へと勢いそのままにぶつかって来る骨たちはそのまま押し合いへし合いで止まる事を知らないらしい。

 バキバキと後方から押し寄せる別の骨魔物の圧力に潰されて魔力障壁に近い骨からボキボキと嫌な音が響き続ける。それが全然止まない。


「うわぁ・・・めっちゃヤバいぞこれ?骨が砕けに砕けて・・・あぁ、もうコレ氾濫してるって事か。」


 俺は魔力ソナーでこのダンジョンを調べた時、魔物の検知まではしていなかった。どうせ低位だし雑魚ばかりだと侮っていたからだ。

 そんな雑魚でも奇襲を掛けられてこちらの反応が遅れたら、一撃入れられてしまうかもしれない。けれども、そこで怪我なんてしたりはしない。俺の身体は魔力を纏わせてそう言った攻撃を通さない様に保護してあるからだ。

 なので特に何も考えないでこのダンジョンに踏み入ったらコレである。流石にコレは引く。ドン引きだ。


「これだけの物量になるまで放置とはな。人とは愚かな者よ。利益と見なしておらぬ不必要な物であれば直ぐに片づけてしまえば良いモノを。それをせずにこうして危機を自ら招き入れるようなマネを。」


 ドラゴンがちょっとだけ溜息を吐いて、しかしその次にはニヤリと笑う。


「エンドウよ。私がやるからその魔力の壁を解除してくれ。このまま塞いでいたとしても埒が明かんだろう?それに、この骨、どうにも脆そうだぞ?」


 確かに先程からボッキボキに折れては地面にガシャンガシャンと音を立てて落ちている。

 しかし折れて落ちた骨はまた他の何の骨か分からない物と融合して別の骨の魔物と化してまた立ち上がる。


「魔力を伴う攻撃で核となっている部分を砕かなければこやつらは消滅せぬ。一つ、この私が道を開いてやろう。」


「ドラゴン、それってお前が只好き放題に暴れたいだけだろ?」


「バレたか?いや、こやつらが脆いと言うのは確かであろう。一発で粉々にできそうだ。そんな奴らがこれだけ居るんだ。暴れ回ったらスカッとするだろう?」


 くだらない事で遊ばないで欲しい、何て事は思うが、それでも、まあ、いいだろう。ドラゴンがやってくれると言うのなら俺の使う労力は別段そこまで増える訳じゃ無い。


「じゃあ、任せた。さっさと終わらせてくれよ?」


 俺は魔力障壁を解除する。その瞬間にドラゴンが骨集団へと突っ込んで行った。


「あー、確かにスカッと気持ちがいいわ。思わず「ストラーイク!」って叫びたくなるな。」


 ドラゴンが骨の中へと突っ込んで行くと、まるでボーリングのピンがはじけ飛ぶようにして道が開けていく。

 俺はコレにボーリング場を思い出す。パカコーン!とピンがボーリングの玉に気持ち良く弾き飛ばされる音が脳内で再生された。

 そしてどうやら的確にドラゴンはその骨共の急所を壊しているのか、再生をする様子が無い。

 白く輝く骨の欠片は次々に溶けて無くなっていく。どうやら魔力で構成されていたようだ。


「そんな事があるのか。なんでもありだな。骨まで魔力で、って。じゃあ魔法生物なんかができたりするのかね?」


 骨も肉も神経も感情も何もかも、魔力で構成された存在。そんな物が創造できるのか?と俺はここでちょっとぶっ飛んだ想像をしてしまう。

 けれどもその思考も直ぐに切り替わる。どんどんとドラゴンが通路の奥へと行ってしまうからだ。オチオチ立ち止まってはいられない。直ぐにソレを俺は追いかける。


 ドラゴンは爪で切り裂き、尻尾で叩き付け、体当たりで吹っ飛ばし、噛みついて砕き、時折威力を抑えたドラゴンブレスを撃ち込んで骨共を殲滅していく。


 しかし一向に骨魔物の数は減らない様に見えた。そんな時間が暫く続く。

 もしかしたらカジウルとマーミのゴブリンの方も同じ感じの状態であるのかもしれない。

 とは言え、それももうすぐ終わりを迎えそうだった。この低位のダンジョンは通路の分岐などはそこまで多く無い。

 わらわらと骨魔物が湧いて出て来る方へとドンドンと進んで行けばどうにも大きめの広場に到着した。したのだが。


「ふむふむ?アレがどうやらこの骨共を「生み出している」存在らしいな?アレを壊せばコレ以上は骨も出てこぬようだぞ?」


 広さはざっと小学校の体育館程度か。天井もそれなりに高い。そこのド真ん中に人の頭蓋骨があった。しかしその頭蓋骨、巨大だ。高い天井にもうちょっとで届きそうな程に

 その口の中から次々に新しい骨魔物が出て来ていた。今も観察している最中なのだが、この今でさえも絶え間無く生み出し続けられては吐き出すようにして骨魔物がワラワラとその口から出て来る。


「気持ち悪いな!?滅茶苦茶おかしくないかコレ?何?生産工場?どう言う事?」


 まさかこんな物が低位ダンジョンに出来上がっていたとは思わないだろう。見ていると狂気すら感じられるその巨大頭蓋骨。


「コレってこのダンジョンのヌシ、って訳じゃ無いんだよね。だとすると、このダンジョンのヌシはどんな姿してるんだ?」


 ダンジョンとは、その核となる「ヌシ」の影響がでるものだと言うのは聞いていた。しかしコレはここのダンジョンのヌシはどう言った代物であるのかと眉根を顰めてしまう。

 この様な物が生み出されてしまったのだダンジョンの中で。ならばそう言った影響をダンジョンに与えるヌシだと言うのが逆算的に判明する所である。


「まあまあ、良いではないかエンドウよ。コレを壊してしまえば別段問題は無いだろう?ふむ?少々頑強そうだな?さて、私がやるか?エンドウがやるか?私はどちらでも構わんぞ?」


 どうやらドラゴンは自分がやるとまたやり過ぎるかもしれないと思って俺にそう提案をしてきたようだ。


「うーん?ここまで来たらドラゴンがやって良いと思うぞ?加減の練習にもなるだろ?ちょっとずつ威力を上げて行って削るようにこのでっかい頭蓋骨を壊せば良いんじゃないか?」


 一息で壊そうと思うから手加減を間違えるのだ。ならばここはドラゴンも頑強だと言っているので多少は持つだろう。小さい威力の攻撃から少しづつ威力を上げていって、自分の現状を把握するのがいい。


「ならばこのまま一撃入れてみるとするか。あらよっと!」


 ドラゴンは次々に出て来る骨を破壊しつつもその巨大頭蓋骨へとそのままの流れで攻撃を入れた。尻尾を叩き付けたのだ。

 しかしここでベチーン!と言った子気味良い音がその頭蓋骨から響くだけで罅すらその表面には入らなかった。


「ほほう?なかなか面白いではないか。ならば次々行くぞ?」


 ドラゴンは連続して絶え間無く攻撃を続けた。その爪で切り裂き、噛みつきで砕こうとし、体当たりで割ろうとする。それでもその頭蓋骨はビクともしない。


「魔力は極力抑え気味でやっているからな。確かにこの程度では壊れんくらいには頑丈だな。ならば少しづつ威力を上げていくぞ?」


 ドラゴンは夢中になってベシベシと頭蓋骨へと攻撃を仕掛け続ける。その間に出て来る骨共はほったらかしだ。なのでそれらの掃除は俺がする事に。


「あんまり時間を掛けるなよー?まだまだ片付けるダンジョンは多いんだからなー?」


 そう言ってドラゴンに注意をしつつ、俺は通信を試みる。


「あー、皆。ちょっとまたいいか?今入ったダンジョン、低位なんだけどさ。氾濫寸前だった。骨が出て来るダンジョンで・・・」


 俺は「電話」で皆と連絡をこの間に繋いだ。片手間でワラワラ今も生み出され続ける骨を相手にしながら。そして説明を終える。


『私が入った低級ダンジョンは別段おかしな所は見つからんな。別の所を確認しに行った方がいいか?』


 師匠がどうやら低級攻略に入ってくれていたようだ。しかしそこは別に様子が変といった事は無いらしい。


「じゃあスイマセンが、攻略はそこは後回しで他の所を様子見に回ってくれませんか師匠は。それでおかしな所優先で片付けて行きましょう。こんな事で被害が出るのは馬鹿馬鹿しいんで。」


 コレに師匠は理解を示してくれて別の低位のダンジョンへと赴いてくれる事になった。


『エンドウ、こっちも中位ダンジョンが今片付いた所だ。俺たちも直ぐに低位の方の調査に向かう。当初は五つ残すと言う事だったが、これでは全部片づけておいた方が無難だな。方針を変えよう。』


 ラディはそう言って全てのダンジョンを潰してしまった方が良いと言う。コレにマーミも賛成の様だった。


『結局ギルドも、それとつるんでる商人も、ダンジョンは金の生る木だと思ってるだろうから全部潰しておいた方があいつらに与える打撃は大きくなるでしょ。やっておきましょ。』


 マーミは既にギルドにも、それと金儲けというモノで繋がっている商人も、両方ともコテンパンにしたい気持ちが強いらしい。


「しょうがない。ワークマンには悪いが、ここで全部潰しておいた方が良いな。よし、方針変更で行こう。全部ダンジョンは俺たちが潰すって言う事で。」


『おーい!まだゴブリンの片づけが終わらねえから、俺たちはちょっと合流遅れるぞー。』


 カジウルの声が割り込んでくる。どうにも何やら手古摺っている様子だ。


『どうやら低級であったはずが、中位に近い規模へと変貌していたようです。ダンジョンが広くて少々時間が必要になっています。ゴブリンを放って置く事もできないので殲滅をしつつ奥へと進んでいますので大幅に手間と労力を取られてしまっております。』


「あー、そっか。そっちはそっちで予期せぬ問題が起きてるのね。焦らずやってくれていいよ。こっちはこっちで片付けるから。それじゃあ改めて行動開始と行こう。」


 俺は「電話」を切る。とここで同時にドラゴンが巨大頭蓋骨をとうとう砕いた。バキバキと竹が圧迫されて割れる様な音が響く。滅茶苦茶響く。

 バキバキバキ、ばきばきばき、と。その音はドラゴンが頭蓋骨へと満遍なく罅を入れていく際に出た物らしい。

 そのまま止めと言った感じでドラゴンは最後の一撃を入れる。飛び上がって尻尾で頭蓋骨の脳天から床までを一刀両断?した。

 とうとうコレに耐えきれなかった巨大な頭蓋骨は粉々に砕け散って光と消える。すると生み出し続けられていた骨魔物は出てこなくなった。

 この広場の奥には続きの通路が見える。頭蓋骨が大き過ぎて裏側の事を忘れていたが、まだまだ続きがある。


「なかなか楽しめたな。さて、行くぞエンドウよ。もう少し先に行くと核の部屋だ。次はお前の番だぞ?」


 機嫌良さそうにドラゴンはそう俺に言ってくるのだが、別に次の番だとかは要らない。


「そのままドラゴンがやってしまっても構わないんだが?まあ良いけど。」


 俺とドラゴンは最奥へと向かう。どうやらもうこのダンジョンの中は他に骨魔物は居ない。

 なので残っているのは最奥のヌシの部屋だけ。こちらはさっさとヌシを片付ける事ができる力を持っているのだ。のんびりと進まずに一気に突っ切る。まだやる事がこの後も多く残っているのだから時間は無駄にしたくない。

 目の前に行き止まりあればソレを開通し、そのまま直進する。大きく曲がる様な通路に入れば無視して壁を貫通させて穴を開ける。

 低位のダンジョンのはずなのに迷路の様な構造になっていたので、これらを無理矢理ブッコ抜いてヌシの部屋まで直進する。


「さて、どんなのがここのヌシになっていたんだか。その面を拝ませて貰うとしよう。」


 最奥の扉を見つけて早速入ろうとして手をかけたのだが、開かない。


「んん?んんんん?・・・開かないな?押して駄目、あ、取っ手が無いから引くのは無理か。引き戸?でも無さそうだ。両開きの扉だしな。あ、そうか、鍵か。」


 前に聞いたヌシの部屋を開ける「鍵」の話を思い出した。どうやら隠し部屋とやらがこのダンジョンには有るらしい。

 そこにこの扉を開ける鍵がきっとあるのだろう。魔力ソナーを広げてこのダンジョンの中は隅々までもう判明はしていたのだが、隠し部屋などと言った存在の違和感に気付けなかった。


「・・・まどろっこしいから無理矢理扉をぶち抜いた方が早いな。蹴破れるかな?」


 俺はそう考えてどれくらい力を入れたらいいかを考える。でも、駄目だった。自分で「まどろっこしい」などと口に出しているくらいだ。出せそうなだけの全力をここで込めてしまった。


「・・・ふんっ!」


 自身の身体を魔力でコーティング、そして蹴る力に籠める魔力はできるだけ大きくするようにし、そして勢い良く思いきり飛び上がって扉へと跳び蹴りを入れた。


「エンドウよ、お前も大概では無いか。よくも私の事を言えたものだ。」


 ドラゴンが何か言っていたようだが、俺の耳には扉がぶっ飛んだ大きな音が入って来ていて聞こえなかった。

 で、そのぶっ飛んだ扉はと言うと、中の「ヌシ」にぶつかり勢いでその首の一本を千切り落としていた。


「おおお・・・やっちまった・・・で、ヤマタノオロチ?一つ、二つ、三つ、四つ・・・あれ?首が九つあるな?」


 どうにもソレはヒュドラ?と言って良いらしい。良くあるファンタジー物に出てくる多頭の蛇である。

 その身体の大きさも巨大だ。胴体だけで太さが3mか、4mか。そこから首が伸びているので全体的な高さとしてはもっとある。

 尻尾の長さも尋常じゃない。その太さも大の大人が三人分か、それ以上くらいある。一薙ぎで人なんて軽く吹き飛ばせるだろう。ひゅんひゅんと風切り音を鳴らして左右に振っていた。


「それで、ぶっ飛んだ扉で首を一つ千切るくらいの威力とか出しちゃった事に自分でドン引きなんだけど。それ以上に厄介なのが再生能力?」


 そのヒュドラは首が無い部分からニョキニョキと元通りになっていっている。見る見るうちに。ハッキリ言ってキモイ。


「ここのダンジョンは低位だったんじゃないのか?コレを見るにあからさまに高難度なんだが?」


 目の前のヒュドラから感じる圧力は低位では無い明らかに。


「おそらくだが核が高位へと進化したか、或いは、外部から入って来た、より強力な魔物に乗っ取られた、何て事もあるかもしれんな。」


「んな事あるんかい。放置する事って増々これじゃあマズイ事だったじゃん。つか、乗っ取られるとかあるのかよ。驚きだよ。」


 また新たにドラゴンの口からダンジョンの奇妙奇天烈な事実が発表されるのだった。

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