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大暴れの時だ

 低難易度のダンジョンはどうすると言うのだろうか?どうにも流れ的に稼ぎの一番低そうな物を残すと言ってる様に俺には聞こえる。


「そうだな。徐々にダンジョンに頼らない都市へと変えていく、というのが私の掲げたい代物なんだ。だから、最初は高難易度を、さらに少しづつ年月をかけて中位を。最終的には低位のダンジョンも全て消滅させたい。そして、先ずはエンドウ殿、貴方に高難易度の攻略を依頼したいんだ。」


「そんな計画を勝手に俺に託す様な形で良いんですか?初っ端からコケる可能性を考えなかったんですか?」


「そんなヘマはしないだろう?まあ、そうだな。私の当初考えていた予想の斜め上を行かれるかもしれないと言うのは考えたがね。」


 そういってワークマンが何ら邪気の無い顔で笑う。どうやら本気でこの話を実現したいと考えているようだ。


「それって研究者としてどうなんです?研究対象を消すんですよ?」


「だからだよ。私は今回の事で良く身に染みた。確かに解らない事を知りたい、調べたいと言った欲求はあるがね。それは余裕が有る状態だからこそ、前面に出せる物だったんだ。今、我々の、この都市の置かれている状況はいつ崩れてもおかしく無かった。それにやっと、遅くはあったが気付けたんだ。余裕なんて勘違い、それこそ存在などしていなかった。これに私は研究者として出した結果が「ダンジョンは即座に消滅させる事」だったよ。これまで奇跡が続いてきてこの都市は継続、発展できていたが、もう駄目だろう。ダンジョンを放置する危険に住民たちは気付いてしまった、少なくない数が。薄氷の上の都市であるとね。だから、私はこの都市の未来を救いたい。」


 真剣にこんな申し出をされて断る程に俺は冷めた人間じゃない。まあ、さっきまでこの都市からトンズラする事も考えていたくらいには薄情でもあるが。

 しかし、こうして一人の、知り合って間も無いけれども、顔を突き合わせて真剣に願いを口に出されて「だが断る」などと突き放す程には冷徹では無い。


「分かりました。やりましょうか。・・・あ、師匠にやって貰おうかな?森での静養したらきっとまた魔法をぶっ放したいとか言いそう。そうならなかったら、俺だけじゃなくて皆も巻き込もう。」


 今回の件は俺だけが問題じゃない。つむじ風のメンバー全員もこの件に巻き込むべきだと俺は考えた。

 一人であっちのダンジョン、こっちのダンジョンと移動するのは面倒だ。ならば別々に分かれてそれぞれのダンジョンを手分けして攻略した方が早そうである。


「じゃあちょっとこの話を皆にしてきてもいいですか?ダンジョン攻略、協力しますよ。」


「有難い。君たちに頼めば攻略したも同然だな。マクリール殿の実力はもう既に分かっているし、エンドウ殿の力量は人外の域だ。二つを同時に潰せればこの都市の混乱も一気に鎮静するだろう。」


「いや、俺でしょ、師匠でしょ、一応は余裕を見て後は二人一組でダンジョン潰して貰って四つ同時で行きましょうか。んでもって早めに終わった所から次々にダンジョンを潰していきましょう。中位と高難度のダンジョンって全部で幾つありますか?」」


 俺のこの言葉に「は?」とワークマンが返事に詰まる。


「いや、聞いていてくれたか?理解してくれていたか?少しづつ、ダンジョンを減らしていってだな?」


「いや、もう全部この際、低位以外のダンジョンは全部潰しちゃいましょう。今のこの都市の空気、勢いがまだ残っているうちに。コレが落ち着いちゃうと反発勢力が何処からともなく湧いてきちゃって計画が無駄になりますよ。商人が絡んでくるでしょうからね。きっとお金で強引にダンジョン攻略をさせないようにしてきますよ、きっと。」


 この意見にワークマンが深く考え込んだ。きっとその可能性を今頭の中でシミュレーションしているに違いない。優秀な研究者だから理解も早くて助かる。


「そうだな、それもそうか。そうなれば「落し所」なんてモノを作られて有耶無耶にされてしまうだろうな。ダンジョンと言う危険が。」


 そう言う事だ。商人が金儲けのためにダンジョンを残したいと言うのであれば、きっと「安全と儲け」を天秤にかけた落し所を作って来て住民たちを説得してくるだろう。

 そうなれば今のこの空気も霧散してしまう。そうなったらもう二度とこの都市がダンジョンを攻略すると言った流れにはならなくなるだろう。

 安全だと訴えて、そしてその言葉を住民が受け入れたとしても、表面的に危険が見えなくなってより「破滅」という恐ろしいモノが潜伏してしまうだけだ。

 その破滅が一度でも表層に現れて溢れれば止める事などできないと言うのに。失われる命と多くの悲しみが生まれるだけだと言うのに。それを住民たちは知ろうともしなくなるだろう。


「俺としては低位のダンジョンも全てこの際片付けた方が良いと思うんですけどね。でも、それくらいならここの冒険者でもできるでしょ?なら、最後の詰めは現地の人たちにやって貰わないとこの都市の問題としての自覚が芽生えないでしょうからね。」


「・・・分かった。エンドウ殿の言う通りだ。この都市でダンジョン研究を長く続けて来ていてもこの様に情けない限りだが、力を貸してくれ。頼む。」


 ここでワークマンが俺へと頭を下げてきた。


「頭は下げないで良いですよ。そもそも、冒険者ってダンジョンを消すお仕事なんですから。えーっと、それで、今の冒険者ギルドがダンジョン攻略の手続きをしに行って、それを承諾すると思います?」


 俺のこの質問にワークマンが即座に「無理だろうな」と返してくる。


「ならば勝手にやっちゃいましょう。もう都市もギルドもこんな状況ですからね。なら、事後承諾を無理矢理ねじ込んでやりましょう。」


 俺はかなり意地の悪い顔にこの時なっていたと思う。


「どうせ俺たちは余所者ですからね。ここのギルドの流儀なんて知ったこっちゃ無いんですよ。どうにもギルドの対応が腹に据えかねてるので仲間の皆は。なのでここで一丁暴れてきましょうか。」


 こうして俺はもう温くなっている出されていたお茶の残りを一気に飲み干し、研究所を出た。


 そしてミッツを迎えに行ってから皆が居る森へと帰還する。ミッツは別段マルマルの教会で、患者の対応で忙しいと言う事にはならず、話があると言う事で早めにこうして連れて来た。


「で、エンドウ、お前悪い顔になってるぞ?嫌な予感が、するな。」


 カジウルがそう言って眉間に皺を寄せる。追撃でマーミが。


「またロクでも無い事、いいえ、突拍子も無い事考えてるのよ、きっと。」


 まあ、いつものマーミの鋭い指摘は当たらずとも遠からずだ。そして今回のダンジョン潰しに関しては俺の発案じゃない。


「で、丁度俺たちが都合良く全員この場に集まってる時点でヤバいんだろうさ。こういう時は何かしらエンドウが妙な問題を持ち込んでくる。」


 ラディは何だか俺に対して「呆れてモノが言えない」と言った様子でそう口に出す。

 ここで俺はワークマンから頼まれたと前置きしてから、事の全容を話す。そして話を終えたらドラゴンが。


「私も連れて行けよ?何だか面白そうじゃないか。丁度私も適度な運動をしたいと思っていた所だ。ここでゆっくりとしているのも良いモノだが、それだけでは怠け者になってしまいそうになる。」


 ドラゴンはこの件に付いて来ると言う。当然こうなると俺が面倒を見ないといけない訳で。


「分かった分かった。だったら俺に同行してくれ。勝手にされちゃ困るかなら?あらかじめ言っておくけど、いきなり居なくなったりするんじゃないぞ?」


 この俺の心配に「分かっている」とドラゴンは軽い返事だ。不安が拭えない。ここで師匠が意見を述べる。


「で、この件はどうやら全員ヤル気で反対をする者は居なさそうだが。割り振りはどうするんだ?」


 話を終えた時には誰も反対を述べて来ていない。寧ろやってやるぜ!みたいな空気になっていた。

 ギルドの俺たちへの態度が余りにも腹に据えかねていたんだろう。この森の中ではゆっくりと過ごしていて、その怒りを少しでも抑え込んでいたと。


「ダンジョンが危険なものだと言うのは既にずっと昔から分かっていた事です。ならば私たちは冒険者としての使命を全うしましょう。」


 ミッツはぐっと握り拳を作り胸の前に掲げる。ヤル気が入り過ぎである。しかし恰好は付いていない。クロに寄りかかったままであるからだ。

 どうにもミッツはクロを非常に気に入っているらしく、何かとあればすぐにクロにくっ付いていた。


「えーっと、それじゃあ人数の割り方を決めようか。」


 俺はここでどのように人を割り振るかを相談した。その結果。


 俺とドラゴン、というセットは当然として。師匠は単独、マーミとラディ、カジウルとミッツ、と言った具合になった。

 師匠は一人でどうにものびのびと魔法を使いたいらしい。マーミに至っては「カジウルと二人は疲れるから嫌」とストレートに拒絶されている。普段からの二人のやり取りを見ているのでこの理由には納得した。

 ここでクロはと言うと、どうやらこの森でお留守番をするらしい。俺たちに付いて来ると言った感じでは無かった。あくびを一つして横になってウツラウツラで居眠りしている。興味が完全に無いのである。


「まあ、コレで良いでしょ。明日の朝に出発してその日の内にさっさと片付けちゃおうか。時間を掛ける理由も無いから。ラディ、ダンジョンの位置の把握とかはしてある?」


「それならやってある。都市の周囲のダンジョンの数は異常だ。高難度が「三」、中位が「十」、低位で「十三」ある。馬鹿な話だぜ、これだけの数を今まで放って置いたんだからな。でかい事故が今までよくもまあ一度も起きなかったものだ。驚くよりかは呆れるぜ。その中でも高難度と低位は一つずつ潰したから「二」と「十二」だな。」


 驚きの数である。何が起きるか分かったモノでは無い、そんな存在がこれほどにあるのかと。これでは薄氷では無い。細い糸の上を綱渡りだ。


「じゃあ高難度と中位は全部潰すとして、低位は五つ残して他は全部潰しましょう。あ、それじゃあ今回の件での連絡をし合うための道具を渡しておくから、使い方をここで簡単に説明しておこう。」


 俺はあの例の魔石を取り出す。そう「電話」の魔石である。こういった場面以外に使えるタイミングがほぼ無い。

 なのでせっかく作ったのだからと思ってソレを全員に渡す。緊急連絡用、及び定時連絡用だと。

 その日の残りはその「電話」の使用感を確かめて時間が過ぎた。


 こうして翌朝である。先ずは腹ごしらえだ。今日の内に目的の分を全部片づけたい。朝食はしっかりと食べておく。その時にマーミから小言を言われた。


「なるべくならこの魔石は使いたくないわね。万が一にもコレの事がバレたらとか思うと持っていたくないわ。こんな厄介なもの。幾ら便利でもね。」


 この「電話」の魔石はこの世界ではオーバーテクノロジー?と言える。なのでこうしてマーミが「手に余る」と感じているのだ。

 コレが普及すればこの様な事を口にするなんてしなくなるだろうが。しかしコレを作れるのは今の所は俺だけである。そして俺はこの魔石を大量生産などする気は無かったりする。


「コレが無いと連絡を取りづらいし、今回だけは大目に見てよ。事が終わったら回収するしさ。」


「エンドウは面白い物を作るのだな。その様な事を私は今まで考えた事も無かった。コレが柔軟な思考というモノか。」


 ドラゴンがそう言ってその手に「電話」を持ってまじまじと眺めている。

 今回の「ダンジョン潰し大作戦」はドラゴンが俺に付いて来ると言う事で一応は持たせてあった。

 いつ俺の目から離れて何処かにすっ飛んでいくか分かったモノでは無い。ドラゴンは自由奔放だ。行方不明になると俺が不安になる。余計な事をドラゴンがしないか、と。

 そんな事を思ってふとドラゴンを見れば「電話」を何処に仕舞ったのか?いつの間にかその手からソレが消えていた。しかしここで俺は考えるのを止める。捨てた訳では無く何処かに持っているんだろうと思って気にしない様にした。


「行こうか。ちゃんと皆の割り振り分は把握してる?よし、それじゃあ入って入って。」


 食事を摂り終えた後、俺はワープゲートを作る。コレが繋がっている場所はダンジョン都市の人の往来が無い裏道の一つだ。

 スタート地点を都市にしたのはコレが一番、各ダンジョンの位置の方角が分かりやすかったから。


「手早くサクッと終わらせちゃおうか。」


 こうして皆はバラバラに目的のダンジョンへと出発した。俺もドラゴンを伴って俺の担当するダンジョンへと近い門に向かう。


「あ、ドラゴン、目立つから姿隠せない?こんな風に。」


 ついこの間この都市でクロを練り歩かせている。なのでここでドラゴンも見られてしまうとまた余計な騒ぎになるだろう。

 今もまだ冒険者ギルドの前にはデモが起きていて沈静化する様子は見せていない。


「まあこれも後一日、二日で商人たちが何らかの策を打って大人しくさせようとするだろうけどね。」


 コレは只の俺の予想だ。しかし明日明後日は早過ぎるとしても、きっと商人たちがこの件を治めようとする事は絶対にしてくるはずだ。

 彼らはダンジョンから上がる利益を一番受けている。ならばこのデモは非常にウザったい代物であるはずだ。放っておく訳が無い。


「あれ?ドラゴン何処行った?・・・おーい!」


「ふむ、見えぬか?ここだ、ここ。エンドウが見せたソレを真似してみたが、成功したようだな。」


「あれ?あ、マジで?一発で成功かよ。凄いな、ドラゴンって。一度見ただけで直ぐにできるようになるモノなのか?」


 こうして俺とドラゴンは都市の人々に目撃されずに門へと辿り着く。そしてそのまま透明なままで外へ出る。一々手続きやら、引き留められたりなどされると面倒なので、ここはそのまま通り過ぎる。


「よし、ここらへんで良いだろ。ドラゴン、元に戻って良いぞ。」


「なかなかに魔力を使うのだなコレは。しかしそれに見合う効果だな。」


「悪用はするんじゃないぞ?そんなつもりでやって見せたんじゃないんだからな?」


 などと言った会話を続けつつ俺たちは森の中に入る。まず初めに俺たちが潰すのは高難度のダンジョンだ。

 残りの高難度の方はラディとマーミのペアが潰す手筈となっている。

 その代わりに中位のダンジョンは多めにカジウルとミッツ、そして師匠が担当して潰していく計画だ。


 どんどんと人の入らないルートでそのダンジョンの入り口へと向かう。その高難易度ダンジョンへは一応は道が珍しく整備されたルートがあるのだが。

 用心のためにそちらからは向かわない。目撃されても面倒だからだ。光学迷彩を使ってもいいし、空を飛んで行っても構わなかったのだが。


(ドラゴンが森の散歩をしたがると言うのはどう言う了見だよ。まあ、別に良いんだけどさ)


 森に到着前にドラゴンから「どうせ潰すにしろ楽しまねば損だろう?」とピクニック気分で行こう的な事を言われたのだ。

 俺がそれに反対したりするとドラゴンがどう言った行動に移るか分かったモノでは無かったので今こうして森の中の道なき道をダンジョン目指して進んでいるのだ。

 しかもかなりの速度で進行中である。ゆっくりとしていられる余裕は無い。まだまだ潰すのはここだけでは無いのだから。

 そしてその速度にドラゴンも飛行して付いて来ているのだが、まあ、器用なモノで木々の間をすり抜けながら蛇行しつつ楽し気に飛ぶ。

 時速にして40くらいだろうか?木々の密度の高い森だ。そこを余裕でするすると飛んで行くものだから俺もそれに合わせてコケない様にと気を付けつつ森を進む。


 これだけの早さで普通は森の中なんて進めない。常識外れの速度を出すのだから、当然ダンジョンには直ぐに到着してしまう。そして入り口で。


「ほほう?なかなか強い魔力を放つではないか。この私が少々本気を出してやってもいい相手かな?」


 ドラゴンは凶悪な人相?になる。牙をむき出しにしてニヤリと笑った。


「おい、遊びじゃないんだ。自重しろよ。さて、安全確保っと。」


 俺は地上にぽっかりと空いた直径10m程の穴の前に立って魔力ソナーを全力でその内部へと広げた。

 一気にダンジョンの構造を把握しにかかったのだ。ついでにダンジョン内の罠も解除である。一つ残らず全て。


「おいおい、エンドウよ。お前こそ自重せんか。これでは何ら面白みが無くなるではないか。」


「だから、遊びじゃないんだって。ほら、行くぞ。」


 こうして俺たちは高難易度ダンジョンの中を一気に進んで一番奥に辿り着く。その時間15分。


「まあ、壁に干渉して地下へ続く階段に直通させるんだけどな。迷路とか付き合ってられない。」


 内部は大分複雑な迷路となっていた。地上に空いた穴だけを見れば中は洞窟と思ってしまうだろうが、実際には中の壁は人工的に整えられた様に綺麗なものだった。

 そして巨大アトラクションかと思わせる程に道は入り組んでいた。魔力ソナーを持たない者がここを攻略しようとしたならばきっと数年単位で時間が掛かると見受けられる。

 そんな中を一々歩き回って正規ルートを通るとかありえない。壁をブッコ抜いて地下へ降りる階段まで一直線だ。

 コレは研究者たちの遭難を助けた経験が生きている。後は以前に屋敷の隠し部屋を見つけた時のアレだ。通◯抜けフープ的な。


 こうしてこのダンジョンのボス部屋をサクッと開ける。そこは野球場くらいに広々とした場所だった。

 しかし狭い。何がと問われれば、その半分近い大きさの双頭の蛇が蜷局を巻いていたからだ。


「うわー、デカいにも程があるだろ?俺なんてあの口の大きさだとヒョイッと開いてパクッとな!でスナック菓子でも口に入れるみたいに食べられちまうな。」


 蛇は寝ているのかどうなのか。入ってきた俺とドラゴンに気付いていないのか。起き上がってこない。

 しかし扉から3mちょっと進んだら扉が自動で閉じてしまった。ガシャンと。

 この音にどうやら蛇は睡眠から目覚めたようだ。その二つの首の動きをシンクロさせて俺たちの方へその瞳を向けてくる。

 その目の数は八つ。そう、一つの頭に付き、四つの目があるのだ。俺の知る蛇の目の位置のその後ろにもうワンセット、と言った感じである。ぎょろりとその目が全て俺たちの方へ向けられている。


「ほほう?食いでがありそうな獲物だ。どれ、こやつは私がやる。エンドウは手を出すでないぞ?」


 どうやらドラゴンがここでヤル気を出したようだ。一対一の戦いを所望する。


「あんまり時間は掛けないでくれよ?この後もまだまだ残ってるんだからな?」


 俺がそう言い終わるとドラゴンは巨大化し始めた。蛇の大きさに合わせたようでソレが終わると「グオオオオオオオオオ!」とその巨体に合った雄たけびを上げて蛇へ襲い掛かる。


「うるさッ!耳が痛くなるだろうが!叫ぶんだったら最初に注意しておいてくれよ。」


 咄嗟に耳を塞いだが、それでも頭を直接揺さぶる程の振動があって顔を顰めてしまう。しかしこの俺の文句がドラゴンには聞こえちゃいない。

 もう蛇とドラゴンは絡まり合って互いに噛みついたり、締め上げたり、体当たりし合ったりと、怪獣大決戦の様相になっている。


「俺の入る余地は無さそう。まあ良いけどね。それにしても何だかドラゴンの楽しそうな事。」


 良い運動にでもなるんだろうドラゴンはこの程度なら。それとは違って蛇の方の様子を探ってみたら、こちらは逆に余裕が無いように感じられた。


「ドラゴンは大分格上なんだろうな。それがいきなり目が覚めて襲い掛かって来るとか、どんな悪夢だよ。」


 ドラゴンが襲い掛からなかったら蛇の方が俺たちに襲い掛かって来ていたんだろうが。そうなれば迎撃するだけだったのだが。


「おーおー、思いっきり蛇の尻尾を齧り取ってるよ。ド迫力だな、オイ。負けじと蛇もドラゴンの尻尾を齧り切ろうとしてるけど、どうやら硬くて無理なようだな。」


 一方的にドラゴンが蛇を齧り荒らす。徐々に蛇の方は傷が増えていき、とうとう二つの頭を叩き潰されてしまった。

 動かなくなった蛇をドラゴンが齧ってむしゃむしゃと食べる、咀嚼する。そしてこんな事を言う。


「なかなか密度の高い魔力を内包していたな。コレは御馳走だ。」


 上機嫌でバリムシャと蛇を齧り呑み込んでいくドラゴン。ハッキリ言って絵面が恐ろしい。


「本当に俺の出番無かったな。まあ良いけど。ドラゴン、満足できたか?できたんならさっさと出るぞー。」


 もうコレで攻略は完了したのだ。ならばここにもう用は無い。次々に攻略をしていかないと時間が幾らあっても足りなくなってしまう。

 ドラゴンは蛇の残りを丸呑みすると直ぐにまた小さいサイズに縮んで笑う。


「はっはっはっは!なかなか楽しめた!次はこれの一つ下の規模だったか?ならば、蹂躙だ。」


 外に出ればドラゴンはご機嫌で次のダンジョンを目指して飛行する。


「待て待て!落ち着けって!先ずは人目に付かない様にするのが先だって。」


 光学迷彩の魔法で姿を消す。出来る限りダンジョン攻略している場面を他人には見られない様にしたい、今の時点では。

 まあ都市の方があれほどの騒ぎになっている状態では、他の冒険者がダンジョン攻略をしようとしてこちらに来ているとは思えないのではあるが。

 それでも可能性はなるべくなら摘んでおきたい。ドラゴンに俺の心配をちゃんと説明してから次のダンジョンへ出発だ。

 お次はここから近い場所にある中位の難易度のダンジョンである。そこも地下へと下がって行く構造のダンジョンらしい。


「で、あっという間に到着しちゃったんだけど、まあ、良いか。早いに越した事は無いからな。」


 空中を飛んで行けば即座に目的地へ辿り着いてしまう。このペースだと俺たちが一番早くノルマのダンジョン攻略は終わりそうだ。


「じゃあいっちょここでも・・・」


 俺はここでも魔力ソナーを広げると同時に罠などの解除もしてしまおうとしたのだが。


「おい、待て待て。腹ごなしに私がやる。エンドウは見ていろ。」


 ドラゴンがどうやら先程腹に入れた「魔力」を使って俺の代わりに内部の処理をやってくれるようだ。


(いや、そもそもアレだけデカイ蛇を食って・・・何処に入ってるんだよソレは?)


 俺は今更そんな事を思考してしまう。だけども直ぐに止める。考えても仕方が無い事だからだ。

 所詮ドラゴンは未知の生物だ。ならば研究者でも無い俺が一々ドラゴンの食べた物の体積の行方など気にする必要は無いのである。

 ファンタジーの存在であるドラゴンなのだ。それは「無為自然」収まる所に納まっているんだろうきっと。そう思っていないとこの先も無駄な事で悩まされるのは目に見えていた。

 ならばここは賢い選択として難しく考えない事が正解なのである。


「へぇ~。俺のやってる所を見ただけでマネできるのか・・・なんかソレ狡くね?」


「何を言っているエンドウ。使える物は使う、当然の事だろう?魔力量が少ない者にはできん芸当だがな。私なら大抵の事はできる。やらない、もしくはその様な事を考えない、と言った部分はあったが。今はお前が居るだろう?エンドウのやる事、為す事に興味がある。それらを私も吸収させて貰うさ。今までで一番充実しているかもしれんな。」


 そう言ってドラゴンが「わははは」と笑う。


「ここの核はエンドウが倒して見せてくれ。そう言えば戦闘と言った点でお前が戦っている所をまだ見ていなかった。どの様な手を使う?どの様に相手を圧倒する?いやはや、楽しみだ。」


 そう言ってドラゴンはダンジョンの中へと入って行ってしまう。

 その後に俺も付いてったのだが、まだドラゴンは「腹ごなし」を続ける気らしかった。

 その口を大きく開けていた。その口内には青い光の粒がどんどんと発生し収束している。


「おい!馬鹿止めろ!そんなものいきなりブッパなす奴がいるか!」


 遅かった。ドラゴンはおそらくだが、階層を降りる階段の方角を向いていたんだろうと思う。

 その方向へといわゆる一つの「ドラゴンブレス」という必殺技を出したのだ。

 優しささえ感じる魔力の青い光が周囲を照らしたかと思うと、次には突然に視界を真っ白に染め上げる光が。解き放たれたのだ、ブレスが。

 次には一筋の青白い光線が壁を突き抜けたかと思うともの凄い熱と爆風がダンジョン内に充満する。

 それらが治まるまでにザっと三十秒程だろうか?既に光の筋はそこに無い。しかし代わりにその光が通った部分には巨大な穴が開いている。何処までも奥まで。一直線に。


「いやー、久々にやったので加減をするのを忘れていた。ちょっと魔力を込め過ぎたか。エンドウ、無事か?」


 土煙がまだ治まり切らない中、俺はスゥ~っと近づいて、一気にワシッ!とドラゴンの胴を掴む。そして上下に激しく揺さぶった。


「お前はコレで二度目だぞこらぁ!後この先で何回やらかせば気が済む?一気にやるにしても、もっと大人しくやりやがれ!」


 俺はそのままドラゴンを左右にも追加で激しく振りながらドラゴンへと説教を続けた。

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