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偶には長めにのんびりと

 この森に俺はクロを放し飼いにせずにいる。それは何故かと言うと、縄張りというモノがあるからだ。

 この森を荒らす気でいる訳では無い。一時的にここで時間を潰す為にこの場所を選んだのだ。クロのみで余り奥に行かせるとメルフェの木の側に縄張りを持っているあの巨狼とぶつかり合ってしまうだろう。

 そうなると面倒なので俺は側に居るようにクロに言っておいてある。


 で、つむじ風のメンバーはと言うと家に付いている風呂に入っている。一風呂浴びている。


「あー、気持ちがいいわねー。こんな真昼間からお風呂だなんて。」


「そうですねー。贅沢です。」


 マーミとミッツがそう言ってのんびりと湯船に浸かってそんな言葉を漏らしている。

 風呂の準備は俺がやった。ダンジョン都市の冒険者ギルドには嫌がらせをして今の所は後は暫く放置して様子見だ。

 ここで特にやる事は無い。なので風呂にでも入る?と俺が提案した所、二人が食いついてきたのだ。

 のんびりと時間を過ごすのも良いだろう。ダンジョンの異変騒動でどうにもバタバタとした数日間を過ごしている。

 ならばリラックスする時間も必要だろうと言う事で、何かこれと言って何もせずに過ごそうと言う事になった。


 カジウルはベッドでゴロゴロ。ラディは森の中を散歩してくると言って居なくなった。

 師匠はと言うとちょっと出かけてくると言って何処かに行ってしまった。


「で、俺はクロに寄りかかって昼寝だな。日向ぼっことクロの体温の挟み撃ちはヤバいくらいに眠気を誘うなぁ。」


 そうして俺は外でウトウトしていた。周囲の警戒はクロが居る事でしないでも済んでいる。

 森の生物たちは突然現れた強力な魔物の気配でここの周囲には近づいてこないでいる。それを確認済みである。

 そんな蕩ける様な微睡みに沈んでいた俺に急接近してくる存在がいるのを感知した。その正体は。


「おい、エンドウ!いきなりお前は何処に消えたのかと思えばこの様な場所に!私がこの世をクルッと一周軽く見て来ている間にあそこからどうやってここまで移動したんだ?」


 ドラゴンだった。どうやら久しぶりの目覚めで世界がどれくらい様変わりしたかをザっと空を飛んで回って見て来ていたようだ。


「あぁ~?お帰りドラゴン。ふぁ~・・・んん!で、感想は?」


 俺はドラゴンに世の中を見て回って来てどの様に感じたかを聞いてみた。


「私の知っている城も都市もほぼ無かったな。どれくらい長く私は寝ていたのか。しかし人の営みは何らこれっぽっちも変わっていない様子だったな。業の深いものよ。」


「姿を見られて大騒ぎ、何て事にはなっていないよな?」


 俺がそうやって「目立つような事は避けてたか?」と聞いたら。


「むむ?別段姿は隠しておらんぞ?エンドウに魔力を抑えろと言われていたからソレは継続していた。おそらくは私を目撃した者はいるかもしれないが、それでも大騒ぎと言う事は無いだろうと思うが?」


 ドラゴンと人とは捉え方も、ましてや考え方も違う。大幅な隔たりが最初からあるのだ。何を言っても無駄なのかとちょっとゲンナリしかけるが、俺は根気よくドラゴンに言い聞かせる。


「ドラゴンにとっては人はちっぽけなものだろうけど、人にとってはお前は「怪物」「化物」なんだ。なるべくなら驚かせない様にしてやってくれ。でないと、ドラゴンがそういうつもりで無かったにしろ、人を殺す可能性があるんだから。」


「何だ?私を見て勝手に死ぬ者が現れるというのか?ソレは無いだろう。」


「いやいや、何言ってんだよ?ビックリし過ぎて頓死するかもしれないじゃないか。人って言うのは許容範囲を超える恐怖を一気に受けると平気で死ぬぞ?魔力を抑える事は普段から絶対にし続けてくれよ?それを一気に普通の人たちの側で解放したら死人がバタバタ出るからな?」


 この説明にドラゴンは「ふむ、なるべく気をつけよう」と言ってくるのだが、俺はそれでもまだ不安だった。

 しかし余りしつこく言うのも何なのでこの話をここまでにしておいた。俺も師匠から同じような事を言われていたからだ。余り説教できる立場に無い。なのでここで話題を変える。


「ドラゴンも風呂に入るか?あ、お前の表皮って熱を遮断するんだったか?なら風呂に入っても只の水浴びと変わらないか。」


 俺はドラゴンに入浴を提案する。ずっとドラゴンは空を飛んで世界を見て回っていたというので、多少は疲れているだろうと、風呂にでも入って癒やされておくか?と言った提案だったのだが。

 確かドラゴンは熱に強いのだ。人にとってはアツアツの湯でもドラゴンにはぬるま湯以下であるだろう。


「ふむ?風呂だと?湯を浴びるのか?妙な事を人はするな。では私もそれをして見る事にしよう。これほどに人のする事に興味が出るのは初めてだな。エンドウ、お前と知り合ったからだな。これまでは私と比肩する存在など皆無だったからな。お前のする事に一々興味が出てしまう。」


 そこでマーミとミッツが風呂からあがってきた。俺が外に置いておいたテーブルに用意しておいた冷やしておいた水をがぶりと飲んでいる。


「あー!これこれ!風呂上がりの火照った身体に冷たい水が沁みるわ~。」


 マーミがおっさん臭い事を口走る。牛乳か、或いはコーヒー牛乳でもあればもっと抜群に爽快だっだだろうが、残念ながら用意できていない。


「はぁ~。お水がこんなに美味しく感じる何て。こんなに明るい時間に何て贅沢な時間でしょうか。」


 ミッツは普段から別段何も感じずに飲んでいた水が美味しく感じるらしい。まあ、解る。


「じゃあちょっと俺たちも入るかね。ドラゴンも入るだろ?」


「うむ、私も体験してみようではないか。さて、その風呂とやらは何処だ?」


 美味そうに只の水を飲む二人を観察して、早く自分も風呂を体験してみたいと言った感じでドラゴンはソワソワする。俺はそれに苦笑いをしてドラゴンを風呂へと案内する。


「おい、ちゃんと湯船に浸かる前に湯を身体に掛けて一旦表層の汚れを流してから入るんだぞ?」


「ふむむ?只の湯に浸かるだけでは無いのか?汚れ落としも兼ねるのか。身体を温める以外ではそう言った行為でもあるのだな風呂と言うのは。」


 理解が早くて助かる。そう言えばドラゴンはこの見た目だ。器用に桶で風呂から上手く湯を掬えるだろうかと気になってしまった。

 しかしそこは魔法で解決だった。俺はドラゴンの頭上にアツアツのお湯を発生させる。

 ドラゴンがそれに気づいて顔をそちらに向けてきて認識してから、それを落とす。

 バシャリとその湯がドラゴンの背中を大いに濡らす。何度もこれを繰り返すくらいなら、背を流すのにどうせなら出しっぱなしでやればいいかと思って風呂場のシャワーを頭の中に思い浮かべてソレを魔法で実行する。


「おお?面白い事を魔法でするものだ。いやはや。コレは心地が良い。」


 ドラゴンは俺が発生させたシャワーの下でうっとりとしている。そこで服を脱いで裸になった俺がそのドラゴンの背中を撫で洗う。


「おいおい!くすぐったいぞ!?何をする!おい!ちょ!止め!?」


「体の汚れをある程度落としてからじゃなきゃ風呂の湯が汚れやすいだろ?ホレホレ。尻尾の方も擦るぞ。」


 ドラゴンはそれにどうやら力が抜けるのか、身を捩って俺の手から逃れようとするのになかなか遠ざかれないでいる。

 こうしてザっと汚れを落としたドラゴンを「オッケー」と言って風呂に入らせる。すると。


「ふむふゥ~。風呂とはなかなか良いものだな。じんわりとこの絶妙な温かさが良い。」


 そう言ってぷかぷかと仰向けで器用に湯船に浮いている。コレに俺は「ドラゴンて実は軽いの?」などと下らない事を考えてしまうが、それ以上は気にしない事にした。

 俺も身体をある程度洗ってから湯船へと浸かる。久しぶりに風呂に入った事で日向ぼっことも、クロの体温とも違う別種の心地よさにまたしても眠気に誘われて目を瞑る。


「あぁぁ~、極楽ごくらぁくゥ~。」


 マーミにおっさん臭いと思ったが、よっぽど俺の方がおっさんである。たっぷりと15分は湯に浸かり風呂を出る。一緒にドラゴンもだ。

 そして出てからの冷たい水を一杯、腰に手を当ててグビッと一息で飲み干す。これまたおっさん臭く「ぷはぁ~!」と息を吐き出すのも忘れない。


「ふははは!確かに何の変哲も無い水が美味いな!コレは面白いものだ。」


 ドラゴンは俺の用意していたコップを器用に持って俺の真似をして一気に冷水を飲み干していた。そしてミッツの言っていた感想と同じ事を述べている。

 温まった身体をゆっくりと冷やすために椅子を用意して座り、流れていく雲を眺めつつゆったりとした時間の流れに身を任せる。

 俺の真似をしてドラゴンも楽な態勢で椅子に座り、ボケーッとしていた。そして一言。


「この様な時間の過ごし方を今までした事が無い。いやはや、面白い体験だ。お前に付いて行くと決めて正解だったぞ。」


 ドラゴンはそう言った感想を漏らすとまた黙る。散歩に出ていたラディが帰ってくるまでこの時間は続いた。

 次に暫くして師匠も帰って来る。何処に言っていたのかと聞いてみたら。


「うむ、森の最奥に行っていた。あの時には私は途中までしか己の力で入れなかった。まあ、どれだけ私が成長したのかを確かめに行ったのだ。」


 師匠はどうやら魔力ソナーを使いつつ魔物と遭遇しない様に奥地へと入ったらしい。そして道中で猿の魔物を一匹仕留めてからメルフェの木へ到着したそうだ。

 六つ程の実を取って来ており、猿の毛皮は綺麗に剥いで肉は巨狼に渡してきたそうだ。

 巨狼の方も師匠の事はちゃんと覚えていたようで襲われたりする事は無かったそうである。

 ラディの散歩も似たようなモノで、森の周辺を回って地形や魔物の分布調査、それと魔力ソナーの鍛錬の為だったらしい。

 コレに俺はこんな時にやらないでも良いんじゃないか?と問うと。


「いや、こういう時だからこそだろ?安全でいて、そこそこ危険。鍛錬には丁度良い。問題はいついかなる時に起きるか分かったモノじゃないからな。そういう時に即時対応できるようにするためにはこう言った時間で効率的に鍛錬をするのが一番良いんだ。充分に有意義な時間だったぜ?」


 こうして俺たちは時間も丁度夕方に差し掛かると言う事でバーべキュウをする事にして用意を始めた。

 この時に出したのはあの羊魔物の肉だ。全員で楽しく美味しく頂いた。癖が無く、しっかりとした噛み応えの肉でじんわりとした独特の旨味があって「酒が欲しい」と思ってしまう。

 食べ終わったらデザートにメルフェの実だ。師匠はその為にと取って来てくれたらしい。マーミとミッツはコレに即座に飛びついた。

 何処の世界の女性も甘味には目が無いらしい。師匠はもう木の場所で一つ食べたらしく要らないという。

 カジウルとラディは一つの実を半分ずつで良いと言う。残り三つは俺とクロとドラゴンでと言う事になった。


「腹が一杯でな。肉はウマかった。しかしなあ?酒が無いのが残念だった。」


「メルフェ何て高級品は食べ慣れていなくてな。口の中も胃もあんまり多く入れるとビックリしちまうよ。」


 カジウルは小さくぼやく。ラディはどうやらメルフェの実を余り食べ慣れたくはないと言った感じだ。確かに高級品だと言うメルフェの実は滅多に食べられない物だろうし言いたい事は分かる。

 しかし二人ともやはり「甘い物は別腹」が発動でもするのか、嬉しそうな顔で「甘い」と漏らしていた。

 クロはと言うとメルフェの実をスンスンと鼻をヒクつかせてからパクリと齧り付いた。毒が無いか、自らが食べても大丈夫なモノなのかを嗅覚で確認していたらしい。

 そしてドラゴンはと言うとこれもまた嬉しそうな顔に俺には見えた。


「ほほう!コレは見た事が無いな?ふむドレ?どうにも強い甘みだな。しかし後味はすっきりとしているのに口内に甘みの余韻がいつまでも・・・コレは美味い。」


 などとコメントしていた。一々感想をそうやって口に出さないと死んでしまう病気か?と思ってしまう。ドラゴンの食レポ何て誰得なの?とかもついでに思ってしまったが、それは直ぐに忘れる事にする。

 こうして食事も楽しく終えて俺たちは就寝する事にした。


 そして翌朝。俺は早起きしてこの森に自生する山菜を色々と採取、搔き集めて朝食用のサラダを作る。

 昨日は肉を大量に食べたので栄養バランスを考えてみたのだ。採れたてのシャキシャキサラダの食感が皆の目を気持ち良く、優しく覚ましてくれる事だろう。


「ふあ~!おう!エンドウは早えぇな?何だ?飯の用意をしてくれてたのか?」


 そう言って珍しくカジウルが一番に起きてきた。その手には剣を持っている。どうやら早朝稽古らしい。曰く。


「あんまりだらけ過ぎてりゃ腕も勘も鈍るからな。大体こう言うのは陰でやってるんだが、見つかっちまったな?ならエンドウ、相手してくれねーか?」


 そんな申し出をされた。俺には剣の腕と言うのは無いのだが、カジウルの鍛錬に付き合うのはやぶさかじゃない。


「なら、ちょっと前に城の騎士様がやっていた特訓をして見るか?」


 俺はアリシェルがやっていた訓練を提案してみる。コレに初見のカジウルはきっと泥だらけになるだろうが、風呂はあるしソレは別に問題にはならないだろう。

 朝稽古で掻いた汗を朝風呂で流すとか気持ちが良さそうだ。思う存分にカジウルに付き合う事にしよう。まあ、汗を掻くのはカジウルであり、俺では無いが。


「お!?なんだそりゃ?ちょっと俺が今どれくらいになってるのか試してみるか。」


 こうして始まった「地獄の特訓(笑)」はカジウルを大いに苦しめた。だが、俺の予想に反してカジウルはそこまで泥だらけになった訳では無い。


「ぬおおおおお!?お前なんちゅう訓練法を思い付いてるんだよ!?って言うか!コレ!お前!だけにしか!やれない!方法!だろ!?」


 躱し、剣で弾き、払落し、切り裂く。カジウルはこの四方八方から襲い来る地面から生える土の触手の攻撃を早い段階でほぼほぼ完璧に対応してくる。必死にそう叫びながら。


「いやー、ホント、カジウルって凄いな?・・・コレが野生の勘?」


 俺はちょとボケてみた。カジウルには才能が有るんだろう。しかしその点を褒めるとカジウルが後で調子に乗ってウザくなりそうだと、その時に何故か思ったのでこうしてボケをかまして様子を見てみた。


「誰が野生じゃゴラァ!うおっ!?あぶね!・・・あ。」


 俺のボケに対して即座に反応したカジウルが突っ込みを入れてくる。しかしその一瞬の隙に仕掛けた俺の攻撃がカジウルの顔のすぐ横を掠めた。

 コレに驚いたカジウルが余計に体勢を崩してしまう。そこへ止めの一撃が盛大にカジウルの顔面を捉える。「げがぶ!?」と言った断末魔と共にカジウルの顔は一面泥に塗れてドロッドロだ。

 これで終了で良いだろう。このままではカジウルは朝食も食べられない。俺はカジウルを風呂に入るように言う。


「よし、コレで終わりにしようか。皆もカジウルの煩さに起きてきたようだしな。風呂は直ぐに準備するからカジウルも直ぐに入って来て泥を落として来いよ。その後は朝食にしよう。」


「ああもう、気持ち良く寝てたのにアンタがうるさくて目が覚めたわよ。全く、エンドウもコイツに付き合ったんだから同罪よ?」


 マーミがそう言って外に出てきた。朝日を浴びて気持ち良く背伸びをしつつ。お次は。


「おはようございます。あら?朝食を作っていらしたんですね。あ、私スープ作ります。」


 ミッツが手伝いを申し出て来てくれる。そしてラディも起きてきた。


「勘弁しろよカジウル。やるならもうちょっと遠くでやれば良かったじゃねーか。いい加減目が覚めちまった。」


 カジウルを批難するラディは特に眠そうである。そこへ師匠が森の方から現れた。


「何をしていたのかと思えば早朝稽古か。なかなか感心だな。しかし声が大きいぞ?森の魔物を誘き寄せかねん。」


 師匠が俺よりも先に起きていて森に入っていたのは知らなかった。なので何しに森に入っていたのかと問うと。


「エンドウと考えは近いな。私は肉を調達しに行っていた。ほれ。」


 そう言ってもう既に捌いて処理をされている肉塊を出してくる。どうやら狩りをしてきていたようだ。


「じゃあそれをスープに入れて煮込みましょうか。って言うか、狩らないでも俺の手持ちのやつで良く無かったですか?」


「あまり美味い肉を食べ過ぎてそれに慣れてしまえば後戻りするのが困難、苦痛になるだろう?いくら何でも尽きない訳では無いんだ。今後にまた仕入れる事ができるかも怪しい所だ。」


 コレに俺は「確かに」と納得した。限りがあるのだから普段からホイホイと食事に出すのは止めておいた方が良いだろう。特別な時にでも出せばいい。

 こうしてカジウルへのツッコミと朝食の準備は終わり皆で食事をする。

 しかし気付いた。ドラゴンがまたいない。クロもである。


「師匠、クロとドラゴン見かけませんでしたか?いつの間にか居ないんですよ。クロにはここに居ろって言ってあったし、それを破るようには見えなかったんですけどね昨日は。」


「ん?それならどうにも森の奥に入って行ったようだぞ?・・・ドラゴンがクロを脅して一緒に連れて行っていたように見受けられたがな?」


 師匠の説明によると、ドラゴンがどうにもクロへと威嚇しているような行動を取っていたと言うのだ。

 俺はコレに「何でそうなるの?」と言った疑問で一杯になったが、次には心配ができる。


「まさかメルフェの木に行って実をたらふく食おうとしてる?おいおい、それは駄目だろうに。」


 俺はソレを考えて食事を素早く終えると皆に断って直ぐにワープゲートを繋げる。目的地はメルフェの木である。


「ちょっと行って説教してくる。ドラゴンは一体何を考えてるんだか。」


 別にドラゴンがメルフェの実が目的でクロと一緒に森に入った訳では無いのかもしれないが。それならそれで何が目的なのかを知らないと落ち着けない。


「いきなり勝手に居なくなるとか勘弁しろよ。しかもクロを引き連れてとか、何をクロにさせる気だって言うんだ?」


 ドラゴンはこう言っては何だが「落ち着きが無い」と言えるだろう。身勝手だ。

 恐らくは今まで自分に意見してくるような存在が居なかったからなのだろう。思い付いた事は誰に断る事無く、即時行動してしまうのだ。

 ソレを諫めなければならない俺が。ドラゴンに自らと同等だと言わしめた俺という対等の存在が止めなくてはならない。


「どうやらドラゴンの到着よりも俺の方が早かったらしいな。む?丁度来たな・・・おい、ドラゴン!いきなり居なくなるなよ!誰かに一言断ってから行けよな!集団行動をするなら鉄則だろうに。」


 ドラゴンは呑気にクロの背中に乗っている状態でメルフェの木まで来ていたようだ。


「エンドウよ。何故お前がここ居る?私が出た時にはまだ寝ていたはずだ。どうやって私を追い越したのだ?」


「そうじゃ無いだろう?いきなり居なくなったと思ったら、お前はここに何しに来たんだよ?メルフェの実は取り尽くしては駄目だぞ?」


 ドラゴンはどうやって俺が追い越したのかが気になるらしいのだが、俺はソレを答えずにどうしていきなり居なくなったのかを問い詰める。


「別にその実が美味かったからと言って食い尽くしに来たわけでは無いぞ?ほれ、来たぞ。こいつにどうにも興味が湧いてな。」


 そこにゆっくりと姿を現したのは巨狼だった。一匹で来ている。そしてじっとドラゴンを見つめていた。


「で、それは分かったけど。どうしてクロまで連れて行ったんだよ?しかも脅していたようだったって師匠が言っていたぞ?」


「別に脅してはいない。ちょっとだけ協力してくれと頼んだだけだ。」


「ソレを脅しって言うんだよ!」


 俺はドラゴンにすかさず近づいてその胴を両手でガシッとホールドし持ち上げて上下に揺さぶる。

 ドラゴン一匹でどこかに姿を消したならここまで気にはしなかった。しかしここでクロを連れて行くようなマネをした事で俺は怒っているのだ。


「クロは俺の大事なペットだぞ?ソレを勝手にお前が連れて行くのは駄目だろうが。なんの断りも無しに脅して誘拐みたいなマネされて怒らない方がおかしいわ!」


「ちょ!やめ!うのっ!ゆすっ!るなっ!うごっ!・・・」


 暫くの時間、充分にドラゴンを揺さぶって気を落ち着かせた俺はようやっとそこでドラゴンを地上に下ろす。

 しかしドラゴンは俺に激しく揺さぶられた事でぐったりとして荒い呼吸を繰り返している。


「で、何でこの巨狼の事が気になったんだ?あ、クロ、お前もだぞ?何かあったら真っ先に俺に助けを求めに来いよ?ドラゴンの我儘とか、脅しとかは今後聞かないでいいからな?もし問題が起きたら俺に真っ先に知らせれば俺も力になるから勝手に居なくなったら駄目だぞ?お前の身の安全の為でもあるからな?」


 この俺のお説教をクロはお座りの状態で素直に聞いていた。そこに巨狼が近付いて来る。そしてクロに鼻を近付けてどうやらにおいを嗅いでいる様子だ。

 それにクロは何らリアクションをせずに大人しくしていた。そもそもこの巨狼はクロよりも強い。抵抗しようとしても勝てないと、もしかしたらクロは悟っているのかもしれない。

 ここで巨狼はクロのにおいを覚え終えたのか何なのか、直ぐに離れていく。


「あー、すまないな。騒がせちゃったようで。これ、お詫びのしるしな。」


 俺は羊肉を少し多めに出して巨狼の前に出す。すると一気に巨狼の部下たちが出てきて羊肉を持ってササッと森の中へと消えて行った。巨狼もその流れに乗って去って行く。


「で、ドラゴン、お前がしたかったのは一体何だったの?」


「こんな目に私を合わせて今更それを言うのかエンドウは・・・何という横暴か。」


 ドラゴンはやっと息を整え終わったのか、俺の事を鬼畜呼ばわりしてくる。


「先ほどの魔物の気配が私の昔の知り合いに似ておったのだ。」


 俺はコレに「はぁぁ?」と口から洩れた。ちょっと深めに「何言ってんだコイツ?」と言った気持ちがそこに籠っている。


「おそらくはその子孫なのだろうな。私がどれだけの年月を眠っていたかは分からんが、そ奴が今生きている確率は少ない。奴も奴で寿命は長いとは思うが。」


 どうにもあの巨狼の先祖がドラゴンの知り合いだったと言うらしい。きっと数少ない友と呼べる相手だったのかもしれない。ドラゴンはちょっとしんみりしながらに巨狼の去った方向を眺めていた。


「取り敢えず戻るぞ。今度からはいきなり居なくなったりするなよ?誰かに何処に行くかを告げてから出かけてくれ。それと、あんまり面倒事を作らないでくれると助かるんだがな?」


「分かった分かった。もう上下に揺さぶられるのは御免だ。この私にあのような扱いをするとは、お前には逆らえんな。」


 気を取り直したのか、地面から立ち上がってドラゴンはふわりと宙に浮く。


「で、エンドウよ。お前はどうやって私たちよりも先に此処に到着したのだ?」


「ああ、そう言えばドラゴンはまだだっけか。誰にも言い広めたりするんじゃないぞ?ほれ、入ってくれ。」


 俺はワープゲートを作り出す。コレにドラゴンは「ほう?」と感心したように言う。


「コレがエンドウの秘密か?ここに入れば分かるのか?よし、行こうではないか。」


 ドラゴンは物怖じせずにワープゲートを通る。後からクロがゆっくりと入って行った。


「色々と手間かけさせるなよな、まったく。」


 そうぼやいて最後に俺が通る。そしてそこには面白そうにドラゴンが。


「なんと!魔力で空間を繋げてしまうのか!なるほどな!発想が素晴らしいではないか!コレは便利だ!」


「おい、ドラゴン、はしゃぐのもそこまでにしろよ。この事をベラベラと人にバラしたりするんじゃないぞ?こんな事ができるって知った奴らが殺到してきかねないからな。鬱陶しいだけだ、そんな事になったら。」


 俺はここでもう一度釘を刺しておいた。しかし通じているのか、いないのか。


「分かっている。この様なマネができるのは私か、エンドウくらいのモノだろう。これを利用しようと、悪用しようと考える輩に群がられるのは私だって御免だ。誰にも言わんさ。」


 ちゃんと説明すればドラゴンはこうしてすぐに理解してくれるのは良いのだが、興味が出た事には考え無しに直ぐに飛びつく傾向にあると言うの今回で分かった。気をつけなければならない。


(はぁ~。ドラゴンの御守をするなんて今まで考えた事も無いよ。この先も騒々しくなりそうだなぁ・・・)


 今日という日はそんな心配と共に始まる事になった。

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