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さて、ここからどう出る?

 俺たちはダンジョン都市に戻って来ていた。あの後、暫く時間を置いて研究者たちが調査報告書を書き上げてから帰還したのだ。

 ここのギルドの事を無視して別の土地のギルドに行っても良かったのだが、つむじ風の皆は「ケリをつける」という意見で一致した。


「目立つのは宜しくねぇが、それでも舐められっぱなしって言うのは放って置けないんでな。」

「そうよねえ。私も同じ意見よ。それに、別の所に行ったとして、ここのギルド長が邪魔してくる可能性高いからね。そんな鬱陶しい事されるのはごめんよ?」

「教会の件もあります。捨て置く事はできないです。始末をつけたく思います。」

「ヤレヤレ、俺だって確かに綺麗に問題を片付けてからここを移動したいが、お前ら、証拠は集めてあるのかよ?」

「ラディよ。それはお前が一番分かっている事だろう?その様なモノを集め調べる時間などあったか?この様子だと力づくでギルドを潰すつもりだろう。こうなっては気が進まんが、私だけ拒否と言う訳にもいくまい。」


 こう言った形で俺たちは取った宿の一室に集まって会議を開いていた。


「で、エンドウ?何でそれが一緒にこの部屋に入ってるのよ?狭いでしょうが。」


 マーミに突っ込まれた。そう、クロがこの部屋に一緒に入っている。あの巨体であるからして、普通の宿の部屋では入る事は不可能だろう。

 だから、もの凄くお高い宿を今日この日だけは取る事にした。その宿はもの凄く巨大な宿泊施設で、入り口はデカいし、部屋もクロが寝そべるのに充分な広さである。まあクロが居るとマーミの言う通りに部屋の圧迫感は否めないかもしれないが。


「それにしても良くここまで連れてこれたもんだよなぁ?信じられねえよ。門番たちが腰を抜かしてたじゃねーか。もう既に噂になってるだろうぜ。何せ大通りを闊歩してきたんだからな。」


 カジウルが俺をからかうようにそう言ってくる。そうなのだ。門では一悶着起きていた。主にクロの件で。


「調教してあると言ってお前がクロに色々と芸を見せたのは、こっちも見ていて面白かったがな。」


 ラディが呆れた感じで感想を言いつつもクスクス笑ってくる。


「良く見れば可愛いですから。この毛並みもいつまでも触っていたいくらいに柔らかくて吸い付いて来てとろけます。」


 ミッツはもうクロにメロメロだ。別段ミッツに触られる事がクロは嫌では無いらしく大人しくミッツのしたいように毛を撫でさせている。


「ミッツ、アンタ良く魔物を気軽に触れるわね?いくら何でもソレはどうかと思うわよ?」


 マーミはミッツの行動に少々引いている。しかしどうやらミッツがいつまでも恍惚の表情で触っているので、自分もその手触りが気になるらしい。ちらちらとクロとミッツを見ている。


「調教師というモノは珍しいものだ。良くもまあこのダンジョン都市に認定所があったモノだな。それが私には驚きだ。」


 師匠はそう説明する。門番との悶着ではその調教師の専門の認定所という場所から職員を急遽呼び出していた。

 俺とクロだけが都市の中に入れない状態で待たされたのに、ようやっと来たその職員とやらもクロの迫力に負けて腰を抜かして話を先に進めるのが遅くなった。


「ちゃんとクロの大きさに合った首輪が見つかって良かったよ。まあ、その分時間が掛かったけど。それにしても要領悪いよなぁ。兵士が呼びに行ったなら道具一式と書類は全部一揃え持ってきて置いて欲しかった。」


 遅くなった理由もそこが主にメインだ。職員は手ぶらで来たのである。いや、この場合は呼びに行った兵士の説明なども色々と大幅に足りなかったんだろう。

 職員の腰抜けが治った後も「何だコレは」「あり得ない」などと繰り返し何度も職員が喚いたのも時間が大幅に無駄に過ぎた原因である。


「夕食はどうするの?こいつをこの部屋から出せないでしょ?」


 クロを容易にこの宿の食堂まで連れて行けないだろうとマーミが指摘してきた。確かにここに来るまでにも相当に騒ぎになっている。


「エンドウは部屋に食事を持ってきて貰って食えばいいだろ?それくらいはしてくれるだろ宿の方も。俺たちは外に行って飲んで来ようぜ?」


 カジウルはそう言って俺だけ残して繁華街へと繰り出そうと言ってくる。門での事があって時間は夕方に差し掛かっているのだ。


「せっかくこの様な高級宿に泊まるのにカジウルはここの料理を堪能する気は無いんでしょうか?」


 ミッツはそう言ってカジウルが外食したいと言う理由が分からないと述べる。述べながらもクロを撫でる手は止めない。


「それにしてもこの宿は流石この都市での最高級だな。クロが居てビビりはしつつも俺たちの対応をそつなく熟していた。肝を据わらせる訓練でも普段から教育してるのかね?」


 ラディはこの宿の俺たちへの対応を褒めている。確かにこの宿に入った時にはクロを見てビビッて後退りくらいはしたが、その次には「いらっしゃいませ」と挨拶をしてきたくらいだ。ここの宿の従業員たちの心はかなり強靭である。門番は腰を抜かしてるのでそれと比べたらここの従業員の方が胆力凄まじい。


「さて、私は食堂の方に行って食事を摂ろうと思うが、皆はどうする?ああ、エンドウ、お前の分は私から伝えておこう。この部屋に持って行くように言っておく。」


 師匠が言外に「お前は部屋から出るな」と言っている。まあ、それは穿ち過ぎな捉え方かもしれないが。


「あ、私の分も一緒にお願いします。」


 そう言ったのはミッツだ。どうにもハマったらしい。何にか?ソレはクロの毛にである。

 コレにマーミは呆れた感じでミッツに視線を送っている。そこまでのモノなのか?と言った疑問も込めて。

 こうして食堂で食べる組と部屋で食べる組で分かれた。カジウルは大人しく宿の食事を摂るらしい。


「お高い所の飯は確かに美味いんだけどな。食い応えが感じられないのがよ?まあ、嫌いじゃねえんだ。今日はここで食うさ。」


 と言って食堂で食べる組である。その際に「美味い酒があるはずだからソレを堪能するぜ!」と気合が入っていた。

 美味しいお酒なら当然お高いに決まっている。しかも高級宿の扱うお酒だ。お値段はかなりのモノになるだろう。しかし心配は要らない。つむじ風の皆は相当稼いだと言っていた。ならば飲み過ぎを注意しないでもいいだろう。


 俺とミッツは寝そべってリラックスしているクロに寄りかかっている。このなんとも言えない温かさが眠気を誘ってくる。

 しかしここで食事が運ばれてきたようでノックがされる。それに俺は返事をして入って来て貰う。

 従業員は既にクロに対して警戒心は無いように見える。いや、そう言った風に見せているだけで内心はハラハラしているのかもしれない。

 それを抑え込んでこうして食事の準備をテーブルにしてくれているのだ。何処までもプロである。

 準備が終われば美しい盛り付けの料理がテーブルに並んだ。従業員は即座に部屋を去って行く。

 俺とミッツはいい香りをさせるそれらの料理を時間を掛けてゆっくりと楽しんで食事をする。


「あの、エンドウ様?一つ宜しいでしょうか?」


 食事を終えてミッツが俺へと質問を投げかけてくる。


「ん?何だ?マルマルの教会に様子を見に行きたいって話か?」


 以前にミッツはそう俺へとお願いをしてきている。しかしそれでは無い様で。


「この都市の教会の不正を全て白日の下に曝したく思います。エンドウ様の御力を貸して頂けないでしょうか?」


 どうやらミッツは本気でここの教会を潰したいらしい。コレに俺は。


「まだ止めといたほうがいいな。潰すならギルドだけにしておこう。教会は健康、治療、命を扱ってる。それらを幾ら不正の証拠があろうともいきなり潰すと住民への負担が大きいはずだ。とは言え、やってる不正が許容できる範囲であったなら、だけど。目に余る、何て事があるなら一緒に片を付けておいた方が良いかもな。」


 冒険者ギルドと教会がどの様な癒着があるというのかは、まだ分からないし、想像ができない。

 なのでソレを調べるにしても今日では無い。明日以降になるだろう。その事も含めてミッツに落ち着くように言う。


「今回は一応はここの冒険者ギルドがやらかしている、って言う点で殴り込みをするだろうから。ミッツも冒険者であるから今回は教会の件はその次って事で我慢してくれ。」


 これにミッツは大きく深呼吸をして理解を示してくれた。


「分かりました。今回はつむじ風の一員として対処します。ですが、もし、調べて行くうちに教会が見逃す事の出来ない犯罪を犯していると分かれば・・・私は容赦はしません。」


 ハッキリとミッツはそう宣言した。この決意を覆らせる事は容易にはできないだろう。

 さて、俺はここでクロにも餌をやろうと思ったのだが、クロはこの時俺の意図を悟ったのか、何なのか。首を持ち上げて左右に振った。


「なんだ?要らないのか?んん?散歩した時にでも何かしら捕らえて食べたのか?腹が減ってないって事か。」


 どうやらクロは餌は要らないらしかった。そのまままた体勢を変えて背伸びをするとまたゴロリと横に寝そべってしまう。

 既に外はもう暗くなって夜の時間だ。しかしまだここにはドラゴンは居ない。俺たちの下に戻って来ていないのだ。いつの間にかフラッといなくなって、まだ帰ってこない。


(俺たちに一緒について来ると言っていたけど。今頃は何処で何をしてるんだか?)


 こうして明日の事もあるので俺は寝ようとベッドに入る。ミッツはまだまだクロを撫で足り無いとばかりに食事後もずっとクロにくっ付いていた。ソレを放って置いて俺は先に寝るのだった。


 そして翌日、俺は揶揄われた、ミッツと一緒に。今朝もつむじ風は俺の部屋に集まっている。今日の事をミーティングするために。


「昨晩はお楽しみでしたね?部屋に戻って来ないから何してんのかと思えばさー。」


 マーミがそう言ってクスクス笑ってくる。あのままミッツは昨夜俺の部屋から出て行っていないのだ。

 そう、撫でていたクロに寄りかかってそのまま眠ってしまったのである。俺はそんな事は既に先に眠っていたので放置である。

 マーミとミッツは同じ部屋に泊まる予定だったのだが、ミッツが戻って来ない事でマーミはずっと昨夜は何事か起きたかと心配をしていた様だ。

 その仕返しと言わんばかりに今マーミはミッツを揶揄っている。


「そんな事は知らんがな。朝起きたらミッツがそのままクロにべったりで眠ってたんだよなぁ。逆に俺が驚いたんだが?逆に寧ろ警戒心ミッツ無さ過ぎ何だが?」


 一晩経ってもミッツが戻って来なかった事で朝にマーミが俺の部屋に入って来てこの事が発覚した。その時俺はベッドの中でお休みグッスリでまだ寝ていた。

 マーミは分かっていて揶揄って来ているのだが、ミッツは両手で顔を覆って黙ってしまっている。幾ら仲間とは言え、クロが居たとはいえ、同じ部屋で男と一晩一緒だったという事実に少々、いや、かなりのショックがあるようだ。幾ら何も男女の「アレコレ」が無かったとは言え、である。


「おい、マーミ、もう揶揄うのはその辺にしとけよ。今日はギルドに突っ込むんだからな?」


「昨夜は別段何もギルドの方から動きは無かったな。俺たちが都市に入った情報すら得ていないのかね?」


「で、カジウルよ、突っ込むとは具体的にどうするつもりだったんだ?」


 カジウルはマーミを止めようとし、ラディはギルドの動きが鈍い事に呆れを、師匠は具体的な作戦を聞きたいとカジウルに問いかける。


「んー?具体的も何も、このまま俺ら勢揃いでギルドの前で抗議するだけで良いんじゃないか?エンドウ、何か抗議文の内容考えといてくれ。」


「丸投げかよ。カジウルが考えればいいじゃん。」


 俺はしっかりと突っ込みを入れたが、マーミがコレに無駄だと返す。


「エンドウ、駄目よ、こいつにそんな文章考えられる頭は無いから。」


 仲間同士、長年やって来てお互いの事を分かっているとは言え、幾ら何でもこの言い様は無いと思うのだが。


「俺としてはな、ギルド長を一発ぶん殴って終わりにしたい所なんだよ。ゴタゴタしたのは苦手だからな。七面倒臭い言い合いは俺の領分じゃないんだわ。」


 カジウルはマーミの辛辣な言葉には何も言い返さず、代わりに自らの考えを口にする。


「取り敢えず朝食にしませんか?ギルドに向かう間に何かしら考えて置けば良いじゃないですか。取り敢えずギルドのダンジョンへの対処、認識の甘さを軸に本来の冒険者としての本分を説くというのでどうでしょう?」


 ミッツがやっとこ復活した。そしてまだ食事をしていないと言う事で先にそちらを済ませてしまおうと提案してくる。

 コレに反対するような事も無いので俺たちは部屋を後にする。今日は食事の後は直ぐにチェックアウトしてギルドに向かう予定なのでクロも一緒に連れて行く。

 流石にクロを連れて行くと食堂で他の客に迷惑が掛かるかと思ったのだが、その心配は無かった。


「お客様方には特別な場所をご用意しておきました。そちらの従魔もご一緒にこちらへどうぞ。」


 恐らくは俺がクロを連れて食事をしようとした時の為に準備がされていたのだろう。どうやらこの宿の広い庭にテーブルとイスを用意したようだ。

 そこに俺たちが着席すると次々に従業員が食事を運んできた。


「朝の冷たい空気の中で温かい食事かぁ。日差しも入って来て丁度いい感じね。なかなか良いじゃない。」


 マーミはそんな風に言って食事を始める。俺たちも同じく食べ始める。クロは柔らかな芝生の上に寝そべってゴロリとリラックスしている。

 そこへまた料理が運ばれてきたのだが、どうやらソレは俺たちの分と言う事では無く、クロの分らしかった。

 分厚く切られたステーキだ。アツアツと言う訳じゃ無く、しっかりと熱を冷ましてあってクロがすぐに食べやすいようにと準備をされていたものである様だ。焼き加減はどうやらレアである。

 ソレを恐る恐る、だがしかし、しっかりとした足取りで女性従業員がその皿をクロの前にスッと置いた。

 一礼して去って行く時も慌てず騒がず綺麗な所作で戻って行くので俺はそれに感心した。


 クロもどうやらそのステーキが自分に出されたものだというのを理解したようで、のっそりとゆっくり動きつつもその分厚い肉に齧り付く。

 どうやら気に入ったようで夢中で食べているそのクロの様子に俺は癒やされる。まるでデカイ猫だ。まあ、顔つきはかなりスマートで野性味が半端ないが。


「後で宿の支払いに色を付けたいんだけど、カード払いでそう言うのってできるの?」


 俺はこの宿のサービスを非常に有難く思ったのでそう疑問を口にしたのだが。


「できるぞ。一言幾ら位を追加で支払いたいと言えば向こうで清算手続きは直ぐにやってくれる。現金でそのまま直接支払いをしても大丈夫だぞ。」


 食事を終えたカジウルがそう教えてくれる。ここで俺はクロに出されたステーキが幾ら位の値段なのかな?と呟いてみる。するとソレはラディに聞こえていたようだ。


「宿の方から何も言われずに出されたものだからな。そう言った場合は料金は取られないもんだ。お持て成し、って言うやつだな。エンドウが追加で支払う分はそんな値段の事など気にせずにお前が勝手に決めればいいのさ。」


「さて、朝食も終えたし、休憩もそこそこ。行こうか。」


 師匠はそう言って席を立つ。そしてスタスタと宿の外へと行ってしまう。どうやら自分の支払いの清算は済ませてあるようだ。


「マクリールさんはちょっと妙な所がせっかちなんでしょうか?でもギルドまでは少しここからは遠目ですし、歩いて丁度良いくらいなのかもしれませんね。」


「ああミッツ、先に私が支払いは済ませておいたから。行きましょ。」


 マーミもミッツも席を立つ。二人は同部屋だったので先にマーミが支払を済ませていたようだ。これにミッツが「後で半分渡します」と口に出している。


「それにしても、ギルドはどうにも能天気らしいな。使いっ走りに出した冒険者が一日過ぎても帰ってこない状況だろうに、呑気なものだ。なんの動きもこちらへ起こしてこないな?」


 そんな事を述べながらラディも席を立つ。続いてカジウルも席を立ちつつ言う。


「あいつらをマーミがブッ飛ばした後は放置だっただろ?全員気絶させてあったしなぁ?今頃起きて来てる頃じゃないか?ま、どうでもいいがな。」


 最後の最後で席を立つ俺は支払いカウンターへと赴き、クロに出された食事分のサービスに対して追加で支払いをしたいと申し出た。

 その際に俺は金貨20枚をカウンターに並べて差し出す。こう言った事はカード支払いで済ませると味気無いし、現金でドカッと出した方が俺の気持ち的にもスカッとするので金貨払いにした。

 コレはクロをこの宿がすんなりと受け入れてくれたお礼という意味も含んでいたりする。


「これほどのお気持ちを頂けて、我々従業員一同、嬉しく思います。有難く頂戴させて頂きます。」


 気持良く受け取って貰えたので俺はそのまま宿の外に出る。その時に俺に付いて来ていたクロが丁寧にお座りして従業員たちの方へと顔を向けてお辞儀をしていたのが横目に入ってきた。


(こいつも出されたステーキに何かしら思う所があったのかねぇ?)


 クロのこの行動がどの様な意味を込めてした事なのかは俺には深い所は分からない。


「さてと、じゃあギルドに向かいながらなんて言って抗議するか考えながら行かないとなぁ。」


 外で待っていた皆と合流してギルドへと通じるこの都市一番の大通りを行く。

 そんな大通りをクロを引き連れて歩くのだ。朝一から働く人々のごった返す道ではあったが、自然と人々が俺たちに道を開けて行く。

 クロの事は昨日からもう既に噂は広がっていたようだ。様々な視線がこちらに向けられている。中には情報を一切仕入れていなかったのか、腰を抜かしてぺたりと尻を地面に付けて唖然としている者も少数ながら見かける。

 そのまま暫く歩いていれば真正面に大きな大きな建物が目に入って来る。それがどうやらこのダンジョン都市の冒険者ギルドらしい。

 かなり儲けているのだろう。建物の外観はかなり派手で目立つ。ギリギリ悪趣味とは言えない程度にきらきら輝いている。真っ白なのだ壁が。汚れ一つないと言った感じである。


 俺たちはギルドにそのまま入らずに入り口の前で一旦止まった。


「おい、エンドウ、先ずはどうする?恐らくはこのまま中に入ったとしてもここの奴らは俺たちを犯罪者扱いするだろうぜ?」


 カジウルがそう言って俺へと「あとは宜しく」と言った感じで丸投げしてくる。


「何だよ、ホントにカジウルは何もしない気か?まあ、いいさ。それじゃあ事の経緯をここで大勢の人に聞いて貰うとしようかね。」


 俺は声を出してこの場で低位ダンジョンに何が起きたかのかを説明し始める。俺のその声を魔力ソナーに乗せてここの都市に住む人々の耳に届くように工夫した。

 どうにも「言霊」などと言うアレが応用できそうだったのだ。自分が発する魔力に自分の喋った言葉を「乗せる」上手く説明ができないが、自分の声の響きをそのまま魔力にくっつけるイメージで流すと遠くに居る者にまでどうやら声が届くらしかった。


 低ダンジョンが異変、高難易度ダンジョンに吸収される。ダンジョンが広域化、複雑化し、魔物も強化され、この都市の冒険者には到底管理が無理である所まで話す。


「さて、ここに居る魔物は私が従えたものです。こいつは安全ではありますが、そのダンジョンに生息する他の魔物はもっとコイツより強いんですけど、どうですか?そんな魔物がいつダンジョンから溢れ出てこの都市を襲うか分かったモノではありませんねぇ。さて、この対処は冒険者ギルドとしてどの様な対応をするのでしょうか?」


 ここまで話した時点でどうやら住民たちが危機にやっと気付いたようだ。この件は冒険者ギルドの方で緘口令でも敷かれていたんだろう。


「さて、そのようにギルドがこれまで高難易度ダンジョンを放置し、管理すらままならない状態で放置していた事が発端で今回の事に繋がりました。さて、ここで冒険者の存在意義とはいったい何でしょう?ダンジョンという未知の脅威を取り除き、人々の安寧を守るのが本来の仕事のはずでは?」


 俺が出したこの発議に自分たちの棲むこの都市が薄氷の上である事に気付く者はどれだけいるだろう?


「さて、そんな中。今回の超巨大化したダンジョンを、金を生み出す場所だとの認識でギルドは攻略するな、消滅させるなという命令を出しました。いくらなんでもこの都市に住む大勢の人の命と金儲けを天秤にかけるようなマネは甚だ行き過ぎていると感じませんか?そのダンジョンは以前の高難易度のままであっても、中へと入って魔物を狩り取る冒険者は少なかったというのに。今回のこの様な異常事態はずっとダンジョンが攻略されずに放置されていたから起こった事なのに。」


 それでもこの都市に根を張って生きて来ていた住民は生活を突然変える事などできやしない。このまま本当に危険が迫った時にしか動き出す事などできないのだ。


「さて、そんな凶悪なダンジョン、この都市に攻略、消滅をさせられるだけの力を持つ冒険者は存在しますか?このまま、また、ギルドが金儲けの為という理由でこのダンジョンを放置しておいていいのでしょうか?以前のダンジョンもロクに管理もできていなかったのに、それ以上のダンジョンとなった今、どうしてその安全が保てると言えるのでしょう?誰が皆さん住民の命の保証をしてくれるのでしょう?」


 ギルドが今回の異常事態によってこの都市に警報を出していないのであるならば、俺のこの演説でギルドへの不信感を持つ者が現れるはずだ。とは言え、出ると言えどもその数も少なかろうが。いや、少ないというよりも目を瞑ると言った感じだろうか。


「皆さんの安全をギルドはどの様に考えているのか?この都市の住民の命をどのように捉えているのか?声を上げて皆さんはその事を問わねばなりません。さて、今目の前にある建物は何ですか?この都市の冒険者ギルドです。さて、ならば後は簡単、ギルド長に直接その事を問いただしましょう。」


 ここで一気に住民たちがざわざわとし始める。俺はもう演説はコレで充分だなと考えた。住民はダンジョンがもう既に攻略されている、消滅している事は知らない。俺も敢えてその事は言わなかった。

 クロをここまで連れて来たのも、ダンジョンにはこんな魔物が居ますよ、と言った演出の為だ。

 この都市に住んでいる住民はダンジョンにどんな魔物が住んでいるかなど直接お目に掛かった事など在りはしないだろう。ここでちゃんとその目で魔物の脅威を感じ取ってもらうのは一番効果的な演出になる。

 ここで俺はクロにちょっとだけ本気出して鳴いてみてくれないかな、と思考する。そうするとどうにも俺の意図を読んでくれるのか何なのか。

 先程から大人しく「お座り」をしていたクロが立ち上がって伸びを一つすると、もの凄い形相になって威嚇の声を一つ上げてくれる。


「がぁァぁァぁァぁァぁァあああああああ!」


 牙をむき出しにし、その身から魔力が滲んで広がって行く。只の一般人にコレは堪らない脅しになった。

 先程の俺の演説で不信感と危機意識が高まっていた住民たちはコレに一斉にパニックに陥いった。


「さあちょっとだけ、一時的にこの場から逃げようか。皆、あそこの路地に入って入って。」


 俺はクロがギリギリ入れそうな小道を見つけてそちらにつむじ風の皆を誘導する。そして誰も俺たちの見ていない所にまで入ったらワープゲートを出して師匠の隠れ家まで繋げる。

 俺たちはこうしてダンジョン都市から一時的に避難をして一息つく。


「おい、本当にアレで良かったのか?収拾をどうつける気なんだよ、エンドウ?」


「アレだけの騒ぎになったからね。ギルドの方はこの後、対応に追われるでしょうね。」


「エンドウ様?ギルドに対してはこれだけで済ませてしまうおつもりなのですか?」


「おーいミッツ。エンドウがたったこれだけで終わらせるような奴に見えるか?」


「まだまだギルドを引っ掻き回すつもりだろう。嫌がらせここに極まれりだ。二日三日はコレでギルドも私たちどころの騒ぎでは無くなるだろうな。」


 カジウルは他人事のように、マーミは「ザマア見ろ」と言った感じで。ミッツはコレで終わりにするのかと問いかけてきて、ラディは俺がそれだけで終わらせるようなタマじゃないと指さしてくる。

 師匠はギルドの今後の状況がテンヤワンヤになるだろうと予想している。


「まあ、多分研究者の人たちも調査する事になった経緯を発表するでしょうし、もっと長引くと思いますけどね。」


 俺がやった演説だけでなく、別の組織、外部からの真実の公開に都市の住民はさらにヒートアップするだろう。


(まあ、研究者たちがダンジョンはもう攻略されたって言う事実も発表したりすれば直ぐにこの騒ぎも収まるだろうけど)


 そこら辺の匙加減は別にワークマンの判断で良いだろうと思う。都市の混乱が長引くのは好ましくない。なのでその見極めは研究者たちに任せてしまってもいいだろう。

 ボコボコにしてやりたいのは冒険者ギルドの「金儲け」が頭の中にある奴らだけだ。まあギルド長は確実にその対象だ。


(さてさて、どうなる事やら。ん?何か忘れているような・・・ドラゴンは俺たちがここに居るのを分かるのか?)


 何処をほっつき歩いているのか未だに知れないドラゴンを完全に放置していた。とは言え、アレが誰かにドウコウされると言った事は想像は難しい。


「まあ、無事だろ。その内に帰って来るかね?」

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[気になる点] 主人公の演説「さて」が多すぎぃw
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