表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/327

ダンジョン都市の冒険者ギルド

 まだ俺たちは都市に帰還してはいない。どうにもギルドに提出する調査書が上手く纏められないらしい。

 ワークマンは研究者たちに俺の懸念を説明し、口止めをしてくれている。それらの口裏合わせも綿密にしておきたいと言う事で、その点でかなりの時間を要している。

 ここでワークマンが出てきて難しい顔をしながらこちらに近付いてきた。そしてどうやら思い付いた事があったらしく。


「先に冒険者たちを帰しただろう?今頃はまだ調書を取っているだろうからまだ時間はあると思うが。それでも、ギルドは再びここへと冒険者を派遣してくるかもしれん。その時はどうする?」


「ん?どうもこうも、調査は終わっている。ダンジョンは消滅させた。それを伝えて一緒に都市に戻れば良いんじゃないか?」


 俺の思考はまだ甘かったらしい。ワークマンは俺へと注意喚起する。


「あり得ない、と思いたいのだが、もしかしたらギルドがダンジョンを潰した君を「罪人」として捕らえようとして来るかもしれん。」


 コレに俺は「はぁ?」と声に出してしまう。何でそうなるんだ?と。


「ギルドは、この高難度ダンジョンだけでは無く、吸収された低位ダンジョンの件も纏めて君に責任を押し付けかねないと愚考する。余りこう言う事は言いたくないのだが、商人が黙ってはいないはずだ。そうであってほしくないと今までずっと考えていたが、どうにもギルドは一定の商人たちと癒着をしている可能性がある。」


「それって専門で提携、契約とか言う形では無く?癒着?・・・犯罪・・・じゃないのソレ?」


「ああ、そうだ。法には罪としてはっきりと書いてある。いわゆる裏取引だな。以前不自然な形の売買があったのを私も何件か把握している。証拠は無いが。」


「俺に責任、つまり、ダンジョンが消えた事で将来に稼げるはずだった金の補填を俺にさせようと?」


「話が早くて助かる。でっち上げた罪を着させて無理矢理にエンドウ殿を奴隷働きさせるような内容を契約させようとして来るかもしれない。」


「そうかぁ、そこまで腐っているならば、その時はしょうが無い。全力で抵抗させて貰うとしよう。取り敢えずギルドを物理的に完全に潰してから後の事は考えるよ。」


 俺のこの言葉にワークマンがもの凄く緊張した顔になる。そしてもっと落ち着こうよ、みたいな事を言ってくる。


「そ、そんな事をすれば憲兵に捕らえられてしまうじゃないか?謂れなき罪を被せられる所では無い。自分から罪を作ってどうするんだ。正面から戦うというにしても、もっとやり方があると思うのだが?エンドウ殿の力があれば幾らでもやりようがあると思うのだが・・・」


「うーん?別にねぇ?そんなクソみたいな組織なんて一度根底から壊れなきゃ、元に戻すのってどれだけの時間と労力と人材と金が要ると思います?丁寧にすり潰していくみたいに穏便に汚職してる奴らを牢屋にぶち込めれば良いんですけどね?それ、可能ですか?理想通りにそれがなされたとして、どれだけの年月、要ります?徹底的に先にド派手にぶち壊してからの方が証拠集めも楽だと思いますよ?ぶっ壊した後にそいつらの犯罪の証拠とか探そうと思えば幾らでも強行捜査できるじゃないですか。」


 短い間だったとは言え、ワークマンは俺がどれだけの力を持っているかは多少理解している。

 そして多分俺の言葉が胸にすとんと落ちたのだろう。俺の意見に頬を引くつかせながらも反対はしてこない。


「まあ、それもここに冒険者がまた来て俺へと何かと「文句」を付けてきたら、って言うのが前提ですけどね。ソレが無いなら別にそこまでの事をしようとは思わないので、安心してくださいよ。」


 この俺の言葉でワークマンは頬を引き攣らせたままに「お手柔らかに頼む」と言って、まだまだもう少し時間をくれと研究者たちのテントの方へと戻って行った。


 で、ワークマンが戻った所でカジウルが現れて俺に言う。


「話は横で聞かせて貰っていたがな?あんまり暴れると目立つから勘弁してくれ?お尋ね者にはなりたくは無いだろ?」


「もうその時はその時じゃないか?俺がそうなったらつむじ風の皆は素知らぬ顔で居ればいいさ。皆が俺のやる事に全部が全部付き合わないでも良いんだからさ。」


「おい、俺たちは仲間だろうが。エンドウ、もうそう言う事は今後言うんじゃない。」


 カジウルは眉間に皺を寄せつつそう俺へと言ってくる。なんだかんだ言ってカジウルの人としての懐が深い事がこの言葉で理解できる。


「あら?私は他人のフリさせて貰うわよ?エンドウと一緒に行動してたらどうなるか分かったモノじゃ無いんだから。暴れる時には言いなさいよ?くれぐれも私を巻き込むような事をしない様に、いいわね?」


 マーミが横からそう伝えてくる。明確に「迷惑だ」と。


「不可抗力であれば許してくれよ?一応は気をつけるけど、どうなるかなんて俺でも先の事は分からないしな。」


 俺はマーミの求めにそう返事をする。これにマーミは。


「そんな事になればしょうがない、何て言うと思う?エンドウが慎重になって動いていればそうはならないでしょうが。絶対に巻き込まないでよね。」


「おいおいマーミ、俺たちはパーティだろう?そもそもお前がエンドウを勧誘したんだろ?」


 ラディがマーミのこの発言に割って入ってきた。続けてラディは言う。


「エンドウが取り返しのつかない裏切りをしてる訳じゃ無いんだ。そうなれば最後まで面倒見るのがパーティってやつだろ?」


 こう言われてマーミは「ぐぬぬ」と良い返しが思いつかなかったらしく顰め面になる。


「私はどこまでもエンドウ様に付いて行く覚悟があります!」


 いつものようにミッツが「賢者至上主義」みたいな感じで会話に加わってくる。こう言った発言は毎度の事なので俺は完全スルーする。カジウルもマーミもラディも俺と同じ反応である。

 そう言い切ったミッツだけが鼻息を「ムフー」と大きく吐き出して、気合充分みたいな感じで立っている。


「お前らは何という会話をしているんだ、全く。エンドウ、ギルドという組織を甘く見過ぎだ。冒険者ギルドは巨大だぞ?ソレを敵に回すつもりなのか?」


 師匠が今度は諫める様に俺へとそう言ってくる。でも俺の気持ちは変わらない。


「回すも何も、やるからには徹底的にやらないといけないと思いますけどね?巨大だって言うならなおさら。一応は言っておきますけど、このダンジョン都市のギルドが悪事を働いている、って言うなら、それを白日の下に曝すべきじゃないんですか?バラされた事を面子を潰されたと言って追いかけ回してくるって言うなら、只々ギルドが薄っぺらい組織だって言うだけですよ、巨大だろうが何だろうが、ね。この都市のギルドが重大な犯罪を犯していたとちゃんと認めて対処してくるのが、健全な組織って言えるんじゃないですかね?敵に回す?はて、その巨大な冒険者ギルドって言うのは、犯罪組織なんですかね?舐められっぱなしではいられない?面子を潰されて大損させられたら報復しないと保てない程に人望も信用も無い、杜撰でガタガタな土台の組織なんですか?」


 俺が出したギルド批判に師匠が口を閉じて黙ってしまう。そして少々の沈黙の時間を得て大きく溜息を吐いた。


「正論だけで世の中は回っていない、という事だ。世の中の者たち全員がエンドウの様な「力」を持っている訳では無い。持っていたとしたら、正論も押し通す事ができるだろうがな。お前はそれでいいかもしれないが、何ら汚職に関係をしていない者たちの事を考えてやってくれ。混乱をもたらして良い事など無いだろうに。」


「いえ、必要なら誰かが無理矢理にでもしなきゃ世の中は変わらないものでしょう?その誰かって言うのが、結果、大体は力を持っているんですよ、大抵がね。逆に言えば力が無い人は幾ら変えようと動いても大きく世の中は変えられない。力無い人が変えようとするならば、誰にもバレない様に力を「蓄えて」おかないといけない。変えられるだけの力を。変えたい事柄が大きければ大きい程、蓄える力もより多く蓄積しないといけない。このダンジョン都市の冒険者ギルドが俺を動かすようなマネをしてきさえしなければ、それは今まで通りに何も変わらない毎日になる、って事です。力を持っている存在が動くにしたって、それは切っ掛けが無ければ動かないもんですよ。」


 世の中が変わる案件での例えで言うと「坂を転がる雪玉」である。それは転がれば転がる程にその大きさをどんどんと膨れ上がらせていって、世の中を変える程の大きさ、力になる、といった具合だ。

 最初は手のひらサイズの大きさの雪玉も、坂を転がるにつれて周囲の地面の雪をくっつけていき、次第に手の付けられない大きさへと成長していく。大きくなると言う事はその中にエネルギーをその分蓄えると言う事だ。


「どうやらその切っ掛け、とやらが来ちまったらしいぞ?」


 ラディがそう言って遠くを指さす。そちらを向いてみるとどうにも昨日都市に戻って行った冒険者たちとは別の冒険者が十五名でこちらへとやって来ているのが見えた。

 俺は必要だ、と思った時以外は大体は魔力ソナーを切っている。今も切っていた。ラディは普段から警戒を怠っていないんだろう。もしくは訓練のために常時アンテナを張り巡らせているのかもしれない。

 俺はその冒険者たちが見えた時に魔力ソナーを広げてそいつらのアイコンが何色になっているかを確認した。


「赤い・・・本当に来たのか。こう言うのを「フラグ即回収」とか言うのかね?」


 どうやらワークマンの当たって欲しくないと言っていた最悪の予想が現実になるようだ。

 そしてその冒険者たちは俺たちの前に集まって威圧を仕掛けてきつつこう述べる。


「お前らがつむじ風か?大人しく俺たちに付いて来て貰おうか?ギルドはカンカンに怒ってるぜ?お前らがやらかした事についてな。おい、研究者ども!お前らもだぞ!何でこの馬鹿どもを止めなかった!お前らの仕事はダンジョンの研究だろうが!ダンジョンを消すなんて判断をしたこいつらを何故力づくでも止めなかった?お前らの本分はダンジョンを消滅させる事じゃねえ!研究してその成果をギルドに報告する事だろうが。お前たちにもギルドは責任があると言ってる。研究者共も大人しく俺たちに連行されろ。」


 駄目だった。ここまで腐っているのかと研究者たちも、つむじ風の皆も思ってしまった。

 ギルドがギルドの責任を果たしていない。それなのにこちらへと全ての面倒事を被せてきている。


「なあ?冒険者ギルドの責務って何だろうな?冒険者をまとめ上げるのが仕事だったんじゃないのか?で、その冒険者の果たすべき仕事って言うのは、ダンジョンを被害が広がる前に消す事で合ってるよな?間違ってるか、カジウル、俺の認識は?」


「いや、それで合ってるよ。信じたくもねえし、見限りたくも無かったが、ここダンジョン都市の冒険者ギルドはどうやら本来とは懸け離れちまってる、ああ、そうだな。全くの別物だなぁ。」


「おいお前ら何をゴチャゴチャ言ってやがる!ギルドの意向に逆らってタダで済むと思ってやがったのか?あぁん?」


 その金儲けの事だけにしか興味が無いギルドの使いっ走りが偉そうにしている。ここでは自分が一番偉いんだとでも言いたげに。


「もしかして、もしかしてだけど、別の他に何か重要な隠した裏があって俺たちを安全に連行するためにこの冒険者たちが派遣されたとかいう可能性は・・・」


「お前らにはダンジョンを消した責任として今後一生を奴隷として契約してただ働きさせるんだからな。ダンジョンから産出される金を今後とも得られるはずだったのに、頭の悪い無駄な正義感を振りかざしてダンジョンを消しやがって。お前らのやった事はギルドの上役も怒りが治まらねえとよ。商人様たちもコレは参ったと言っておられた。何処までも馬鹿だぜお前らはな。せいぜい頑張ってずっとダンジョンの代わりに金を生み出し続けるんだな。そうだな、男は鉱山送り、女は娼館か、或いは金持ちの愛人契約か?その前に俺たちが楽しんでやってもいいか。」


 この言葉でニヤニヤ、ゲラゲラと笑う冒険者十五名。俺は一縷の望みを絶たれてしまった。


「ラディ、このギルドの情報を事前に調べていたりとかしなかったのか?」


 マーミとミッツが今にもこの冒険者たちを「撃滅」したそうに見ていた。なので俺はソレを「ドウドウ」と言って感情を抑える様にと制しながら聞く。


「あー、すまない。ここまでとは俺も思っていなかったから、自分の趣味の方に力を入れていた。」


「なんかさ、冒険者ギルドは小さいか大きいかはあるかもしれないけど、どこも腐ってる部分があるみたいだな。」


 俺はギルドに良い印象を持てていない。ギリギリでマルマルの冒険者ギルド長個人に、そこそこの信頼を置いているくらいである。


「世界中の冒険者ギルドがこうとは限らんだろうエンドウよ。まあ、それにしてもこの対応は私も呆れてモノが言えんが。」


 師匠が冒険者たちを見てそう溜息を吐く。この言葉に集まって来ていた研究者たちもどうやら同意するように頷いている。

 研究者たちはどうにも最初にダンジョンから出てきたクロの事を目にしていた時点で、研究一筋の考えを改め始めていたようで、今ではこのギルドの対応を冷静に見る事ができているようだ。冒険者たちを見るその目には冷たいものが籠っている。

 そのクロはと言うと、遊ばせていた。大人しくお座りや伏せなどをさせて待たせておくのもどうかと思って適度な運動をさせないと太るだろうと考えて。

 今はここの周囲を駆け回らせている。初めての地上なのであんまり遠くに行かない様にと注意もしてある。満足したら戻ってくるようにとも。

 そしてここにはドラゴンも居ない。この冒険者に「脅し」を掛けて一昨日来やがれと言ってやるにも、このままではこの冒険者たちはこちらの言葉に耳も貸さないだろう。


「おい、てめえら!さっきからこっちを無視して何を話し合てやがる!さっさと荷を片付けて俺たちに素直に付いてこい!時間は有限なんだ。無駄な時間を俺たちに使わせるんじゃねえよ!それとも何か?ここで痛い目を見させられ無けりゃ言う事を聞けねえのか、てめえらは?」


 凄んで来るが、それにビビる者が一人も居ない。研究者たちの方も当然、こんなチンピラの脅しなんかよりも本能的な恐怖を先に一度経験してしまっているのだ。ビビらないのは当たり前である。

 クロやドラゴンの方がこいつらよりもよっぽど怖かった事だろう。それを既に済ませてある研究者たちがこの脅しに屈する訳も無く。

 冒険者たちを無視して研究者たちは自分たちがしなければいけない仕事に戻り始める。それは調査書の仕上げである。

 これを冒険者たちは片づけをやっとする気になったモノと判断して俺たちつむじ風の方へと意識を集中してくる。


「さあ、今度はお前たちだぞ?こっちには倍の数居るんだ。抵抗して来ようとしても無駄だぞ?」


 今度は数の優位でマウントを取ろうとして来るのだが、それが滑稽に聞こえてくる。ここに居る皆は数での優位など無意味なくらいの強さを持っている。

 なので数が倍だろうが何だろうが、この「十五」という数なら誰か一人が動くだけで事足りる。いや、準備運動くらいにしかならない。


「なあ?俺がここでこいつら全員片付けるって言うのはあり?」


「止しておきなさいよ。この場はそれで片付くけど、そもそも問題はギルドと商人の方でしょう?なら幾らこいつらをここであしらっても根本的な解決にはならないわ。」


 俺が「もういいかなぁ?」と聞いたらマーミに「無駄無駄」と指摘される。コレに確かにと思って俺は「面倒クサッ」と口から洩れてしまう。

 ここで冒険者たちに俺たちへと脅しをかけて来ても無駄だと分からせても、その大本のギルドに行ったらまた脅しをかけて来るに違いない。二度手間だ。

 ギルドの上役、この場合はギルド長だろう。それに直接「お話」をつけなければこうした下っ端を送り付けてくる事を止めたりしないだろう。

 彼ら冒険者は只の使いっ走りであり、権限など何も無いに等しい。ここで追っ払ってもまた次、また次と同じ様に使いっ走りが繰り返し送られてくるだけだ。

 何せ大本の人物が俺たちの「強大さ」をその身で直接分かっていないのだ。椅子に座ってふんぞり返って人を顎で使っているような奴が素直に「ハイソウデスカ」と言って納まる訳が無い。

 そう言った輩は大抵プライドだけは高いので、そうやって自分の出した使いっ走りを相手に返り討ちにされると逆切れする。偉い自分の言う事を聞かないとは馬鹿にしているのかと。逆らう気なのかと。

 何処まで行っても自分の権威に固執して他人の発言には耳を貸さず、そして自分の持つ権力に何処までも根拠の無い自信を持つ。


(まあギルド長がそう言った人物だというのはまだ決まった訳じゃ無い。一度も合っていない人物をそう評するのは愚かな事か。とは言え、この冒険者たちの発言でもう大体の人物像は分かっちゃうけどなぁ)


「教会の名において、この度の異常ダンジョンへの判断、決断は適正だったと証言します。冒険者ギルドの決断には断固として遺憾、抗議させて頂きます。」


 この言葉はミッツだった。教会代表という視点でこの場の冒険者たちに意見をする。

 まあ、コレで大人しくこの冒険者たちが理解を示してくれれば良いのだが、そんな事はあり得ない。先程のニヤニヤゲラゲラと笑っていた奴らの様子は以前にも何度も「悪人」がしてきているのを見ている。

 そんな奴らはこちらの意見がどれだけ正当であろうとも聞く耳など持たなかった。


「はっ!それが何だい?教会?ソレはうちのギルドと仲良しな教会の事かい?そうかー、そんな事を教会が言う訳が無いよな?なあ?お前らそうだろう?抗議?はっはっはっは!いくらでもここですればいいんじゃないか?お嬢ちゃん個人でな?」


 何を言っても駄目だった。ダンジョン都市の冒険者ギルドと教会も、裏で汚い繋がりがあるとコレで理解できてしまう。

 しかし証拠は無い。ここでミッツが幾ら正当性を訴えてもこいつらがソレを認める事は一切無いだろう。

 都市に戻ってミッツが教会からしっかりと手続きをして抗議文を冒険者ギルドに送る、何て事すら、この様子だと無理そうだ。


「冒険者ギルドに商人、それに教会も繋がってるのかー。もう、無理じゃないか?皆の判断を聞きたいんだけど、どう?」


「個人的にはつぶしてやりたいんだがなぁ?ソレをやるとよ?まあ、そのなぁ?」

「目を付けられるわね、確実に。何処に行っても私たちは注目の的になるわよ。」

「無関係の方たちを巻き込みたくは無いですが、こうしてこの場でそれが分かった以上はここで完全に潰しておきたいです。」

「放っておけばいいんじゃないか?ここを去ろうぜさっさと。こんなのに付き合っていたってこちらには何ら利益が無い。時間の無駄、労力の無駄、手間が無駄に掛かるだけ。止めとけ止めとけ。」


 カジウルはどうにも感情ではギルドを潰したいと考えているようだ。

 マーミは今後の影響を考え「目立つ」から関係したく無いと言った具合か。

 ミッツは正義感に駆られている。真っ当な感性だと多分コレが正解と言えるのかもしれない。

 ラディはどうやら何をどうした所で俺たちには何も利益をもたらさないと訴える。そしてダンジョン都市から離れようと提案してくる。


「潰すにしても、都市から去るにしても、どちらにしろ目を付けられるだろう。我々には、まあ、あまり口には出したくはないが、物理的にここのギルドも、商人も、教会も潰せる力は持っているが。それはあくまでも最終手段だ。この都市を治める者に協力を仰いで穏便に解決を求めるのが良いと思うが?ここで逃げるように去ったとしても追手が掛かるだろう。この調子だと暗殺・・・と言った事はしないだろうが、ここの冒険者ギルドが直々に「お尋ね者」として各地へと捜索を出す可能性が高い。さて、どうする?」


 師匠が纏めてくれた。一番良い案件はここの統治政府に訴えを起こす事だという。確かに俺たちには責任は無いんだよというのをここの政府が認めてくれれば幾ら冒険者ギルドでも黙るだろう。


「何をさっきからごちゃごちゃと!お前らいい加減にしろよ!?俺たちの貴重な時間を無駄に消費させやがって。もういい、痛い目を見て反省しろ。おい、女は目立たない所を叩けよ?傷物になったら俺らの報酬が減る。」


 鞘から剣を抜かずに構え、冒険者たちは俺たちを円形に広がって囲んでくる。逃がさないと言いたいらしい。

 でもそれ以前の問題だ。ここで女性を見下す発言である。先程から怒りを抑え込んでいたマーミもミッツもコレでもう爆発してしまっている。


「こいつらだけじゃなくてさ、ギルドもギルドで私たちを馬鹿にし過ぎじゃないかしら?いい加減にこっちも堪忍ができないわ。」


「そうですね。ここまでコケにされて居続けるのも我慢の限界です。取り敢えずうるさく喚くこの方たちだけでも片付けておきましょう。話を落ち着いてできません。」


 マーミ、ミッツのここまでキレた所を俺は見た事が無い。カジウルとラディは付き合いが長いからなのか、二人のガチギレがどれだけ怖ろしいか知っている様子。その顔を青褪めさせている。

 師匠はどうしたモノかと、怒りをぶちまけた二人を止める手立てが無さそうだと溜息を冷静に吐いていた。


「先ずは君たちに問いたい。ギルドは今どれくらい現状を把握してる?」


 師匠がここで冒険者たちに質問を始めた。


「あぁ?俺たちはダンジョンを消滅させたって言うお前らを連行して来いと言われてるんだ。そんな事は知るか。」


「高難易度のダンジョンを攻略している私たちに、お前たち十五名は勝てるつもりなのか?」


 それもそうだ。数が多いとは言え、それは単純に言って「個の強さ」一つでひっくり返るレベルである。

 この十五名の中に俺たちに匹敵するような強さの人物が一人でも居ればまだ分からないだろうが、どれだけ観察してみてもその様な相手は冒険者たちの中に居ない。

 そこに今更気付いたらしい一人が「アレ?やばくない?」と言って一歩下がった。先程までニヤニヤとしていた顔を直ぐに引っ込めて。

 しかしリーダーを張っていただろう先程から代表して喋っていた冒険者が言う。 


「・・・だから何だよ?これだけの数だぞ?それにこっちは包囲してるんだ。幾ら強くてもこの状況じゃ・・・」


 手も足も出ないだろ?と言いたかったんだと思う。けれどもその言葉は最後まで紡がれなかった。いや、言う事ができなかったというのが正しい。

 そいつが吹っ飛んだからだ。真正面からそいつの頬をぶっ叩いたマーミによって中断させられているのだ。


「あ、思わず力が入っちゃったわ。死んでないわよね、そいつ?」


 軽く2mは吹っ飛んでいた。下手をしたらそれで死んでいる。しかしミッツがすかさず動いてその冒険者を回復させている。


「はい、コレで大丈夫でしょう。とは言え、気絶しているようです。私も一撃入れておきたかったのですが、まあ、良いでしょう。」


 逆にこの態度のミッツが怖いと感じるのはどう言う事だろうか?このミッツの発言にカジウルとラディも引いている。


「マーミ、起きたらもう一撃やっておきましょう。多分自分が気絶していた原因をこの方は理解できていなかったでしょうから。ちゃんと解らせてあげないと・・・後それと次の人への一撃は手加減をしないと確実に死なせてしまいますよ?この方はまだ運が良かっただけのようですから。」


 これだった。容赦が何処にも無い。どうやら教会の名を出してもそれが通じない所か、教会はギルドと色々と裏取引をしているだろう事に静かにキレていたらしい。

 完全に今ここに使者として来ている冒険者たちを徹底的にシメる気であるミッツは。


「分かったわ。あ、それとカジウルもラディも、あ、それとエンドウもマクリールも手出ししないで。私もちょっといい加減発散したいわ。」


 マーミはそんな風に言う。どうにもこのダンジョン異変騒ぎに少なからずストレスを感じていたみたいである。それをこの冒険者たちを使ってスッキリしたい、と。


「だからマーミもミッツもあんまり追い詰めたら駄目なんだよなぁ。しょうがねえ。腹を括るか。」


「アレだけ巻き込むなと言っておいて、肝が据わればマーミは止まらんからな。ミッツは滅多にこんな事にはならないんだが。教会もとなると、な?」


 カジウルとラディは二人してこの光景を大人しく眺める。こうしている今もマーミが冒険者を各自ビンタ一発で吹き飛ばしている。

 そしてコレに「命がやべえな」と言った被害の者だけにミッツが治療を施していた。死なせないために。

 コレに冒険者たちの方はと言うと、まるで目の前にしている現実を受け入れられていないらしく、逃げ惑う訳でも無く、只々夢でも見ているんじゃないかと言ったボーッとした目で吹き飛んでいく仲間を見ていた。

 叩かれるのが自分の番になってやっと正気に戻るのか、される前に「ちょっとま」と口にしては他の仲間と同じ様に綺麗に宙を舞う事になっている。

 まあ、信じられないんだろう。幾ら何でも細い女性の腕で、大の男が平手で頬を叩かれたくらいで2mは吹き飛ぶ光景だ。あり得ないと思って思考が止まるんだろう。


 残り五名になった時点で逃げ出そうとし始めるのだが、遅過ぎる。しかし回り込まれてしまった、と言った感じだ。振り向いたそこには既にマーミが腕を振りかぶっている状態。逃げようとした五名の咄嗟の動きも無駄に全滅させられてしまう。


「はーっ!やっとスッキリしたわ!で、エンドウ、どうするの潰すの?潰さないの?私はもうどうでもいいわよ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 久々にパーティーみんなで暴れてスカッとさせてください。あと、クロとドラゴンもw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ