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観察をしよう

 まあその後は邪魔が一切入らずに焼肉パーティーである。ダンジョンから出て来る魔物は無く、皆がそれぞれ俺が切り分けた肉の部位を好きなように食べていた。

 人数が多いのでそれぞれ厚さは薄めだが、噛めば噛むほどにその部位の味が口の中に爆発する美味さなので丁度良かった。

 ドラゴンはと言うと器用にその手?前足?を使って肉を焼く。鉄網は炙られ続けていて熱くて火傷は必須なのに素手?のままだ。


「何、これくらいの熱では私を焼く事はできんさ。丁度温かいくらいだな。」


 と言いつつ満足そうにゆっくりと味わって肉を咀嚼している。俺は当然、箸を作り出してソレを使用して肉を焼いている。

 ちなみに、焼き台一つでは数がこの人数だと足りていないので新たに四つ追加で作っている。もちろんプロパンも。

 研究者たちは肉に夢中で台の事も、火の事も忘れているようだった。その中でワークマン一人だけが肉を食しつつも「いや、この台はどうやって何処から?違う、火の供給源は?」などとブツブツ口にしている。その顔は真剣なように見えて肉の旨味でとろけていたが。


 夕食は終わる。仕方が無い事だ。牛魔物は俺の知る牛よりも1.3倍は大きさがあったが、この人数で、しかも肉のおいしさに夢中になって全員が食べ続ければ直ぐにソレは無くなってしまう。

 夢のような時間は終わり、後は寝るだけ。きっと夢の中にもこの肉の味は出てきて彼らを幸せへと誘うだろう。


「じゃない、エンドウ、どうするつもりなんだ?この後のダンジョンの見張りは?」


 師匠が俺がお腹いっぱい夢いっぱいな状態に水を差してくる。しかし真面目な師匠らしいと言えばそうだ。

 つむじ風の皆はそれぞれ先程の夢心地の時間を反芻していてダンジョンの事などすっかりと頭から抜け落ちていた。当然ドラゴンもである。その姿は腹を上に向けた仰向けで、何故だか非常に幸せそうである。ドラゴンの表情が、何故か今は簡単に読み取れた。


「あー、そうでしたねー。まださっきみたいな魔物が居るのであれば狩り尽くしておきたい所です。」


「そう言う事では無いだろうに・・・まあ、言いたい事は解るが。」


 ここで当番を決める話に、しなかった。俺がやっておくと名乗り出たからだ。


「俺が今日はやりますよ。魔物がさっきみたいに出てきたら、それを倒したとしても収納できるのは俺くらいでしょ?なら昼間に休息を取らせてもらいますから、皆は寝ちゃってください。」


「お前がそこまで言うのであれば休ませて貰おうか。しかし、良いのか?休みたくなったら私が変わろう。遠慮無く起こしてくれ。」


 師匠はすんなりと俺の申し出を受け入れるが、しかし気を配る言葉も掛けてくる。


「はいはい、分かってますよ。ここからダンジョン内の縮小、消滅の様子を確認しつつ起きておこうと思ってるので俺の事は気にしないで良いです。」


 ここはダンジョンの入り口直ぐ目の前である。俺は今も魔力ソナーをダンジョン内へと広げてその様子をつぶさに観察していた。

 俺のこの言葉に師匠は「ほどほどにな」と溜息をついてからテントへと入って行った。


「ダンジョンを様子見するだけだって言うのに、師匠は俺がまた何かやらかすとでも思っているのかなぁ?あんまりじゃないか?それは?」


 確かに今までにも「やらかし」をいくつかは注意されてきていたので俺もそれ以上は何も考えない様にした。

 ダンジョンの中へと意識を集中する。魔力ソナーで得た情報を脳内で整理しつつ、それを映像化するかのように。

 すると俺の脳内ではまるで自分が実際にダンジョン内に入ってこの目で見て来たかのような光景が浮かび上がってくる。


(こんな事を出来るんだ。外面が人のままでも、中身は化物、って言って良いよなあ。ドラゴンなんて言う存在からもお墨付きを貰っちゃってるしなあ)


 しかし俺はここで化物と人の定義とは何か?と考えた。あくまでも俺は人である。そう、人なのだ。

 我思う、ゆえに、我あり、と言うやつだろうか?いや、使い方が違うような。


(まあ、いいさ。世界中の人たちが俺の事を化物と呼ぶまでは俺は人さ、人)


 そんな風に思考していたらどうにもダンジョンに変化が起きているのが感じ取れた。縮小し始めているのだ。

 そしてソレは本当に、微かにずつではあるが、確実に起きている。それを感じ取った魔物から動きが活発化し始めているのが分かった。


(随分と動きが早い。魔物はやっぱり野生動物だからか?勘が働いたとか?ダンジョン縮小はこのタイミングは早いのか?それとも遅いのか?)


 じっと俺は椅子に座ったままで集中して観察を続ける。いきなり魔物が動き始めたからと言って、その動きは別にそこまで激しいモノでは無い。

 異変に気付いた、しかしどうしていいか分からない、といった具合でどうにも自身のテリトリーを動き回っている様子だ。

 しかしこのままダンジョンの縮小がハッキリと分かり始めれば、この魔物たちはぶつかり合う事になる。

 これだけ広いダンジョンだからこそ、今はこうして魔物同士がぶつかり合う事は無いだけで。コレが極限に狭くなったら当然異種魔物同士が自分の生存を確立させるために自分以外の魔物を攻撃し始めるだろう。

 争いが起こる。それはおそらくだがかなり激しいものとなるだろう。そして、その中から「逃げる」最初から闘争を選ばない魔物が当然この出口を目指して怒涛の勢いで出て来てしまう事になる。


(今の内に牛肉確保のために動いた方が良いな・・・いきなりだけど、師匠に見張りを変わって貰うか?)


 まだ時間はあった。魔力ソナーであの牛が何処らへんに生息しているのかの把握も済んでいる。

 だが猶予は感じられない。ドタバタが起きた後では余計な事に意識を向けていなければならなくなり、そしてトラブルなども多くなる可能性が高い。

 今ここで早めの対処をしていた方が後々に好都合だ。ならば話は早い方が良い。


「師匠、ちょっといいですか?お休み中の所スイマセン。ちょっと用ができました。見張りを変わってくれないですか?入り口には一応は魔力で蓋をしていくんで安全は確保しておきますけど。」


 俺がこの決断をしたのは師匠がテントに入ってから大体二時間後の事である。


「・・・何かやらかす気か?お前と言う奴は。まあ、いいだろう。一応はこの中で自由に動く事の出来る者はお前くらいだからな。立場の面で見ても。行ってこい。」


 きっとギルドの要請の事を言っているんだろう。確か応援の冒険者十名、つむじ風の五名での総勢十五名という人数の指定の中に俺が入っていないという話の事だ。

 コレに俺は師匠へと「有難うございます、行ってきます」と感謝を伝えてからダンジョン内へと高速で飛んだ。


 ワープゲートを使わないのは一応はこのダンジョンに何かそのせいで影響が起きないようにとの心配からだ。

 不測の影響が出てしまえば俺も命にかかわりそうだと判断しての事である。


「ダンジョンは魔力で「独立空間」をこの世界に現出させているって事だったような。それならワープゲートはちょっと危ないと思った方が良いよな?」


 緊急事態になれば使う事はためらわないが、それは今ではまだ無い。なので俺は魔法で宙に浮き、かなりの速度を出してダンジョンの奥へと目指す。そして到着後は。


「良し!一つ残らず獲物は確保!どうせあれらが外に出ちゃえば冒険者が狩る対象になるだろうし。それに、どうにも「普通」の冒険者じゃ力不足みたいだったしな。俺がここで狩り尽くしても文句は無いだろ。」


 つむじ風の皆なら対処は可能だろうとは思えたが、もうギルドに戻っているであろうあの十名の冒険者には荷が重いはずだ。

 最初にこのダンジョンから出てきたあの猫型の魔物に対して何ら手出しできずに怯えていた様子では、このダンジョン内の魔物のそのどれもに太刀打ちできはしないだろう。

 こうして俺は仕事をさっさと済ませるために速度を全開にして目的対象の狩りを始めた。


 もちろん狩るのは牛である。これらを人工的に飼育できればもの凄い利になると思うのだが、今は緊急事態として狩り尽くすつもりだ。

 今の俺は食欲に若干偏っていて、この魔物が絶滅、何て事には意識は向けていない。

 所詮はダンジョンの中の魔物だ。本来ならダンジョンが消滅すると共に消え去っていた存在である。

 なら俺がここで魔物たちを全部狩り尽くした所で文句を言われる筋合は無いという事だ。どうせギルド所属の今居る冒険者だけでは、このまま放置すればダンジョンから溢れてくるだろう魔物には対処不可能だと考えれば、俺のしている事は別に間違っちゃいない。


「さてと・・・よし、もう居ないみたいだな。一旦戻るか?いや、他に有用な魔物が居ないかどうか見て回るのもありか。」


 俺の魔力ソナーは使い続けてかなりの性能アップが掛かっていた。一度遭遇した魔物はハッキリと分かるだけでなく、その魔物がどれくらいの魔力を持っているのかが分かるようになった。

 いわゆる「存在感」の大きさが感じ取れる。なのでまだまだこの広い空間を飛び回り、そうした存在を一目見ておこうという形で俺は再びこの中を飛び回る事を考えた。

 牛魔物を狩り尽くした、と判断するまでにおおよそ一時間は掛かっていた。その間にも縮小現象は治まるどころか僅かずつながらも加速していた。

 しかし今の状態で脱出するのに余裕が無い訳では無い。魔力ソナーで随時様子を探っているが、いきなり消滅すると言った気配も感じられない。


「よし、じゃあ先ずは群れを成している方へと向かってみるか。」


 こうして俺は魔物反応が六十以上で固まっている方へと飛んで行く。そこで見た物は。


「こっちは羊か?・・・やけに凶悪だな。あの群れが一纏めで突進してこられたらひとたまりも無いな?」


 その羊には立派な角、しかも前方に鋭い先が向いている。体格もどうやら普通の羊の1.5倍はあって、しかもその目は真っ赤だ。

 白眼に血管が走って血走っている、とかじゃ無く、丸々真っ赤なルビーでも埋め込んでいるかのような瞳をしていた。

 そんな集団がそれぞれ自身の角で仲間を傷つけない様にと、絶妙な間合いを取って群れていたのだ。

 そんな相手が一斉に自分へと敵意を持って突っ込んできたら?ソレを想像して自分がボロ雑巾の如くにされている映像が頭の中に過ぎる。


「おお、コワい。まあ、俺ならそんな突撃を食らっても無事だろうけど。うーん、これらも狩っておいた方が良いかー。」


 どうにも懐に入れておけばいつかは使い処がありそうな素材である。毛がもっこもこだ。羊だから当然ではある。

 そしてジンギスカン。羊肉だ。牛もアレだけ美味だったのだから、と言った欲望の元、俺はその羊の群れを狩り尽くす事に決めた。


「さて、一気に方を付けたいけど・・・それぞれを一撃で仕留めて手早く済ませないとな。時間が・・・あまり無いしな。」


 俺は羊たちの上空、真上に居る。全力で脳味噌を働かせ続けた。


「全ての羊に・・・ロックオン。魔力のイメージは完全にできてる・・・良し!発射!」


 俺は手の平をその群れへと向けて気合を入れて声を発する。その掌から羊の群れと同数の光の筋が飛び出す。

 それらが一匹一匹の脳天へと全て狙いを外さずに直撃した。一匹の漏れも無くその光は羊の頭を貫通し絶命させる。


「良し!直ぐに血抜きをしてインベントリに仕舞ってしまわなければ。肉に血の臭みが残ったらやだしな。」


 俺は地上に降りて一気に魔物の死体へと魔力を流す。六十を超えるその数が宙を舞い、逆さ釣りになって血がまるでその射抜いた穴から蛇口でも捻ったかの如くにじょぼじょぼと流れ出る。

 周囲は血臭で一杯、とはならない。これを見越して俺は魔力で風を起こしてこの臭いを一纏めにして上空へと流していたからだ。


「さて、他に同じ魔物の群れは無いかな・・・残念、無いか。いや、これだけの数が獲れたんだ。贅沢を言うのがおかしいか。」


 俺は血抜きの終わったその羊の魔物を一纏めにしてインベントリに入れながら呟く。


「それにしても・・・まあ、これだけの事をして俺になんの感慨も湧いてこないのは、やっぱり駄目な方向だな。」


 自分はもう「日本」には戻らない。それはもう決めていた事だが。そしてその以前の自分とはもう中身が変質して別人の如くになったとここで感じた。


「気分は・・・別に悪く無いな。おっと、こうしちゃいられない。ダンジョンの縮小には・・・まだ時間がありそうだ。」


 こうは言ってもあまり欲張り過ぎて自分も一緒にダンジョンの消滅に巻き込まれても馬鹿馬鹿しい。

 余裕は見てはいるが、いつこの縮小の規模が早まるかは未知数だ。だからここで俺は退散しようと考えたのだが。


「あっ?川が・・・流れていたな、そう言えば・・・川魚?鮎とかいるかね?塩焼き・・・じゅるり。」


 駄目だった。今の俺は食欲に支配されている。自分の今居る場所は危険だと理解できていても、欲望に逆らえなかった。コレはおそらくはあの美味し過ぎたあの牛肉が影響している。


「魚が居たら絶対に美味い・・・良し、ここから近かったな。行ってみるか。」


 自分が危うい思考と決断をしている自覚はあったが、このチャンスを逃したらいつこれほどの食材にありつけるかを考えて行動に移してしまった。

 もしかしたらもう二度とこのチャンスは訪れないのかもしれない。このダンジョンに入り生息していた魔物が独自のパワーアップをした事で、あの肉の美味さが出ているのだと仮定すると、もうこのチャンスは今回一度きりと見てもおかしくは無い。


「ギリギリまで・・・覚悟をしておいた方が良いな。限界値を設定しておかないとヤバい。」


 このダンジョンの広さは徐々に狭まっている。僅かだが、その異変で混乱している異種の魔物同士がそれで遭遇して争っている気配が魔力ソナーに引っ掛かっていた。


 先程の羊を平らげるまでに大体全体的に30分は掛かっていた。移動に、発見、仕留めて、処理して、インベントリに放り込んでと、なかなかに手数は掛かっている。

 今回の見つけた川での行動も素早く終らせられないと自分の首を絞めてしまう事になる。

 扉の位置は川から少し遠目だ。幾ら空を飛んで障害物が無く、かなりの速度で飛ぼうとも危機感は残しておかなければヤバい。この状況にいつまでも「大丈夫だ」などと呑気な事を言っていられない事を今更俺は思い出す。


 だがこの川には一切魚が泳いでいるような気配が無かった。魔力ソナーでは地形の把握はしたが、川の中までを探っては居なかったのでここに来てそれが判明してがっくりさせられた。


「いや、そもそも、ワークマンが言ってたな。草原とかじゃ無かったんだっけ以前は?その以前のダンジョン内に川があったとは考えにくいし、それでこうしていきなり川ができたとして、そこに魚が居る訳がないか。残念だ、あぁ、実に残念だ・・・」


 調子に乗っていて冷静に物事を考えられなくなっていた俺が悪いのだが、心底残念な気持ちになる。無駄足に終わった事で余計に頭の中を冷やすという効果はあったが。

 とは言え、ここでこれ以上に時間を無駄にしても居られない。素早くここから移動しなければ。


「とは言え、もう戻るか?他に有用な魔物が居ないかどうか探すか?・・・最後に向こうに行ってみるか。」


 俺は多くの数が集まる反応を見せる場所へと向かってみる事にした。一応はこの川の事で冷静になれたので、今後は安全マージンを充分に取った行動を取る事にした。

 そしてその最後と言う事で巨大な森の上空へと来た。そこにあった反応というのが。


「猿、かな?凶悪だなあ、このダンジョンに生息していた魔物は、まあ、どれもこれも。」


 その見た目は額に小さな鋭い三本の角を生やしていて、手の爪も鋭く長い。しかもまるで鋸の様なギザギザだ。

 口の端からはこれまた牙が生えており、目つきも吊り上がって眼球は真っ青。まるでサファイアをそのまま埋め込んだような、である。


 で、それらを少し観察していたら、そこにゴリラである。まさしく、ゴリラだ。


「え?ここに来て普通のゴリラ?え?ゴリラ?」


 混乱は増す。俺の知っているゴリラなのだ、見た目が。そのまま。あのゴリラだ。

 しかし俺のこの驚きはまたしても良い意味でも、悪い意味でも上書きされた。ここは俺の知る世界とは違うのだ。当然そのままのゴリラな訳が無かった。


「おォうっふっ・・・背中に純白の巨大な翼が生えてます・・・」


 そう、そのゴリラ、どうにも飛べるらしかった。そして今このダンジョンに起きている異常を敏感に察知しているらしく、混乱を引き起こしている。

 そしてその混乱とともにどうやらこの猿のテリトリーに踏み入ってきたようだ。猿たちはこのゴリラを敵と見なしたようで一斉に襲い掛かっていた。


「うわぁ・・・地獄絵図だな、コレは・・・」


 ゴリラは噛みつかれたり、引っ掛かれたり、投石を食らったり、額の角での頭突きを食らったりと、猿からの一斉攻撃を避けられずに食らっていた。

 確かにその図体はでかく、俊敏とは言えない動きではあったのだが、それでも避けようとする気配すら、そのゴリラからは感じられなかった。

 しかし、猿のどんな攻撃すら、そのゴリラの動きを止められていない。そう、食らいながらも「それがナンボのもんじゃい」と言わんばかりに、そのゴリラは反撃をしていたのだ。


 噛みついてきた猿はその手で胴を掴んで握り潰して殺す。

 引っ掻き攻撃をしてきた奴はその剛腕を思いきり振って撲殺。

 頭突きをして来る奴はこちらもやり返すと言った形で自身も頭突きでお返しして猿の頭蓋を陥没骨折させていた。

 投石してくるのにはその背中の羽を広げて羽ばたいて一気に跳び立ち、空を滑空してぶん殴りに行くという豪快さ。

 どう見ても猿がこのゴリラよりも格下であった。圧倒的なゴリラの強さに猿は瞬く間にその数を減らされていった。


「多分ダンジョン内であったなら、この猿たちは数で冒険者を圧倒して相当な危険な魔物として分類されてたんだろうな。」


 しかしやはりと言って良いか、弱肉強食、弱い者は死に、強い者が生き残るという自然真理がここに働いている。

 遥かな格上には、幾ら数を揃えていても単純な正面突破では勝てはしない。作戦が必要だ。


「よし、もうここは良いだろう。扉の付近に戻っておくか。」


 俺は残酷な自然摂理をこの目にして余計に冷静になれた。ゴリラの驚きはあったが、やはり只のゴリラでは無く魔物だったという点に何故か安堵をしていたのが不思議ではあったが。

 こうしてこの森を離れた俺は扉の前にまで戻ってきた。この後はここで見張りと言った所だ。


「このダンジョンの消滅は最後まで見ておけば、後々に何かの役に立つかもしれないしな。」


 そう呟いて俺はじっとその場から動かずに、後は魔力ソナーを広げたままでこのダンジョンの様子を観察し続けた。

 そして直ぐに違和感に気付く。大きな力を感じる赤点が、同じくらいの力を持つだろう赤点と衝突していた。

 その片方が勝利をどうやら収めたようなのだが、そこからおかしな動きをしている。

 倒した赤点は灰色に変わるのだが、それに勝った赤点が近づいていたのだ。


「何だろうか?倒した獲物を食べてるのかコレは。・・・何だ?おかしいぞ?」


 魔物だからと言って、他の魔物を食べたからって即座にその時、その瞬間に「強化」なんてされはしないだろう。

 しかし勝利を収めたその魔物はどうにも倒した魔物を食べてどうやらパワーアップを果たしたようなのだ。

 魔力ソナーから感じるその魔物の発する力が大幅に上がっている事を俺は捉えていた。


 この異常を発している魔物はここからまだまだ充分な距離が遠い場所に居る。警戒はそこまで深くしないでも良いかと俺はそこで思っていたのだが。

 どうやらソレはどんどんとこちらに近づいて来ていた。その道中に遭遇した魔物との戦闘も繰り広げながら。

 そしてその闘争で勝ったら相手の死体を毎度食っているようで、力をどんどんと蓄えて行っている様子が分かった。


「マズイ・・・なんか凄い嫌な予感がする・・・」


 その力を増々強大なものにして行く魔物は俺がこの扉に戻って来る前に観察していたあの猿とゴリラの森へと突入して行っていた。

 当然そこではまたしても自分たちのテリトリーを荒らす者として猿たちが一斉にその魔物へと飛び掛かって行ったのだが。


「まるでゴミの様に消されていってるな・・・というか、何だコレは?」


 猿がその魔物へと飛び掛かると、その猿を表す赤点はパッと消える。そして消えた途端にその異常を発する赤点の魔物の力が増えていたのだ。俺の中の嫌な予感はコレで増々上がって行く。爆上がりだ。

 ここからその森へは大分遠いが、俺は魔力ソナーでその様子を今は観察、把握できていた。魔力ソナーの精度は上がっているのでその戦闘の様子は手に取るように分かるのだが、頭の中にその光景を具体的な映像として映し出したくなかった、なるべくなら。


「これ、生きたまま食ってるだろ・・・うげぇ~。」


 その食えば食う程に力を増す魔物はどんどんと猿を平らげていっているらしかった。そしてとうとう、ゴリラと対面を果たしてしまう。

 猿を圧倒的な力でねじ伏せていたゴリラだったが、その力を増した魔物と比べたら弱い魔物でしかない。

 当然そのゴリラもどうやら食われてしまったようで直ぐに消えた。


「おいおいおい・・・まさか次はこっちに来るつもりか?」


 次のその赤点の動きをよく観察する。そしてやはりと言って良いのか、その魔物は俺の目の前へと現れる事になる。

 移動速度が滅茶苦茶早いのだ。俺の方へとゆっくりと近づいて来ると思ったらその速度は一気に加速した。

 そしてとうとうその姿が見えた時に俺は思わず吐きそうになった。


「うげぇっ!?気持ち悪い!・・・ベースは熊か?その背中に何だよアレは・・・」


 多分ソレは素体になっている熊の見た目をした魔物が最初は持っていなかったモノだろう。

 その熊は大体二本足で立ち上がれば優に2mは軽く超える。背中をしっかりと伸ばして立てば2m50cmは余裕で超える。

 そんな背丈がそんな高さになれば、熊である。その横幅も信じられない位に広がる訳で。背中も同じだ。

 その広い面積の背に様々な魔物の「腕」が生えている。生えていた。


「もしかして、あれは食ってきた魔物の腕を生やしているのか・・・?そう言った特性を持つ魔物なのか?」


 しかしどうにもおかしい。迫って来るその熊と呼びたくない魔物はどう見てもまともじゃ無かった。

 ここで俺はその勢いを止めるべく、その魔物へと魔力を高めてぶつけてみた。その魔物へと意識を集中して魔力をピンポイントで収束して当ててみたのだ。魔力ソナーの強化版みたいなものだ。

 多分これを受けた魔物は普通なら急ブレーキをかけて踵を返して逃げ出しているはず。しかしその魔物は。


「・・・既に発狂して壊れてるんだな。怯んだりした様子なんて一瞬も無い。」


 その魔物がどんなに強力な力を持っていても一瞬でも冷静にさせる位の力を込めたと俺は思っていた。しかしその魔物のこちらへと走って来る勢いは止まらない。

 どうやらこの魔物は俺が始末を付けなければならないらしかった。


「良し、来い!ここを通らせる訳にもいかないしな。・・・って、あら?」


 俺へと急接近していたくせに、手前30mくらいの所でその魔物は止まってしまった。

 その様子に俺はおかしいと警戒を怠らない様にしていたのだが、そいつは突然立ち上がって叫び声をあげた。

 これだけ離れていても俺の耳が痛くなりそうな程の叫びを。


「ごぎゃあああああああああああああああああ!」


 その叫びは普通じゃない空気を纏っていた。そして魔力ソナーにその瞬間異変を感じてその魔物のそのまま大きく開いた口を観察した。そこに違和感があったから。


「げっ!?めちゃクソ炎が渦巻いてる!あーもう!先制攻撃仕掛けてさっさと消し飛ばせばよかった!」


 間に合わない、そう思って咄嗟に俺は魔物の目の前に土の壁、縦横3m、厚さ20cmの巨大な壁を魔力を使って生み出した。

 次の瞬間、目の前は炎でオレンジに染まる。その魔物の目の前に壁があるので、炎はそれにぶつかってまるで扇を開くように周囲に広がった。

 もし壁を作っていなかったら、俺の居る場所は一帯が全て焼け野原だった事だろう。


「炎も熱も遮断・・・中途半端にできてないアッツ!めちゃクソ熱い!しかも・・・壁の一部が溶けてガラス状じゃんか・・・どれだけなんだよ、今の火炎放射の威力って・・・」


 その魔物は目の前の邪魔な壁をその腕で簡単に破壊して姿を現す。自身の吐いた炎が跳ね返っているはずなのだが、どうにもダメージが入っている様子は見られなかった。


「めっちゃコッチ睨んでるじゃんか・・・俺の事、完全に敵として認識して・・・るね!」


 その魔物はどうやら俺を獲物と認識したらしく、また再び俺へと向けて突進してきた。

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