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御挨拶をしましょう

 お前の迷惑となるのならばと、そう言ってドラゴンは発していた魔力を抑え込んでくれた。どうにも話がこのままでは進まないとドラゴンも分かってくれたみたいだった。

 コレにどうやらラディもミッツもホッとした様子の表情を見せる。どうやら非常識が「ある程度は受け入れられる」レベルにまで下がった事に安堵したようだ。ドラゴンの存在感はそのままであるが。

 二人はいつもの調子に戻ったのか、俺へとまたしても意見を飛ばしてくる。


「もうこの際だから言う。お前のやる事に驚かない、などと言ったが、あれは撤回する。負担だ。こんな存在が現れるとか、毎度の事のように今後続くなら俺はお前から離れたい。」


 ラディが大きな溜息を吐きつつもそう俺へと伝えてくる。なのでこれに俺は返事をする。


「いや、多分これほどのでっかい案件はこの先、早々無いと思うから、今回は勘弁してくれ。我慢させて悪かったよ。」


 コレにミッツはドラゴンをちらちらと視線を向けながら言う。


「わ、わわ、私は、エンドウ様に・・・何処までも付いて行きましゅ・・・」


 どうにもいつものミッツの力強さはそこには無い。しかし意志の強さは伝わる。何せドラゴンを怖がりつつも俺へとそうやって自分の気持ちを伝えて来るのだから。


「あー、ミッツ、有難う。まあまあ、ドラゴンは別にこちらに害意は無いから安心してくれ。・・・なあ?頭の中に話しかけるのだといきなりで驚かれるだろうから、その口で言葉を発せられないか?」


 俺はドラゴンへとそうお願いしてみた。どうにもこうにも体構造が全くの別物のドラゴンに「喋れ」と言っているのだから無理な話だと思うのだが。


「ふむ、別に構わん。コレで良いか?ん?昔と言葉が若干違うか?響かせ方はコレで伝わっているか?」


 いきなりドラゴンが喋り出すので二人は「ひっ!」と驚いたような顔を見せる。これにドラゴンは気遣ってくれた。


「お前たち二人はこのエンドウの仲間なのだろう?ならば友の仲間を傷つけるようなマネはせんよ。そう怯えるでないわ。・・・まだ漏れ出る魔力が多いか?」


「いや、大丈夫だよ。ちゃんと漏れ出ているのは抑えられてる。けど、まあ、その分ちょっとその身から出ている圧力は上がったかな?もう少しだけ抑えつけれれば何とかイケる。」


 俺はドラゴンの状態を魔力ソナーで観察していた。これを不快に思わずにドラゴンはまた自分の魔力を操作し始めた。


「なかなかに難しい事を言ってくれるな。その様な事を今までしてきた事は無かったのだが。まあ、私が他者にこの様に配慮する事がそもそも皆無だったのだがな。」


 そう言って「エンドウは出来ているのだから私にもできる」と言ってその身体表面に流れている魔力を内部へと収めてくれた。

 一気にその存在感が半分近くまで小さくなる。どうやら成功したようだ。その証拠に先程からずっと息を殺して静かに呼吸をしていた二人が深呼吸をした。


 ここでラディがどうやら腹が据わったようで。


「ドラゴン、俺はエンドウの仲間・・・の、ラディと言う。よ、宜しくたのむ。」


 どうやら挨拶はちゃんとしておこうと言う事であるようだ。これに続いてミッツがおろおろしつつも自己紹介をした。


「あ、あの!私はミッツと言います。こ、今後ともよろ・・・しくお願い申し上げます・・・」


 二人ともぎこちない。しかしこれは慣れるまでどうしようも無いと思われる。そしてまだ俺の仲間は三人残っているのでその点をドラゴンへ今の内に伝えておく。


「あー、えーっと、ドラゴン。俺の仲間は後、三人居るんだ。あ、そこで伸びてるのはここ、このダンジョンを調査したいっていう、何て言えば良いかな?調査員なんだ。だからって言ってこの人に危害を加えたりしないでくれよ?」


「ふむ、気絶させてしまった事はしょうがない事として許して欲しいものだが。」


「そこは仕方が無い。俺の落ち度だ。俺が平気でも他の人がどう感じるかまで考えてなかったのが原因だ。後でその点はもうちょっと色々と考えておかないといけないんだよなあ。」


 こうしてまだ目覚めない研究員が起きるのを待つ事になった。その後1分程経った頃にワークマンの目が覚める。


「は?ここはどこだ?いや、私は気を失う前までダンジョンに居たはずだ。・・・まだダンジョン、なのだな?うぅ、私は何故気絶をしたのだ?思い出そうとすると・・・うっ!頭が・・・」


 今ワークマンの視界にはドラゴンは入っていない。そしてこの発言に俺はドラゴンへと頼み事をした。


『なあ?ちょっと上空に暫くいておいてくれないか?どうにも彼には刺激が強過ぎたみたいだ。まだ落ち着いていないみたいだから、もうちょっとだけ彼の視界の中に入らない位置取りの場所に居てくれ。頼むわ。この状態じゃまたドラゴンを見たら気絶しそうだ。』


 俺は頭の中でそうドラゴンへと言っておく。するとコレにドラゴンは。


『うむ、分かった。ではこの空間の核の場所に到着するまでは真上にでも飛んでいよう。さて、その核の場所はエンドウは分かっているか?』


 ドラゴンは俺の頼みを聞くよ、と返事の後にヌシの居場所は分かっているか?と聞いて来る。コレに俺は正直な所を吐き出す。


「いやー、ヌシの居場所、分からないんだよなぁ。ドラゴンは直ぐに分かったんだけどさ。もしかして、ヌシって小物?」


 俺は魔力ソナーで自分が把握できた中に「ヌシ」が見つけられなかったと言う事を正直に話した。コレにラディは。


「おい、エンドウ?・・・ドラゴンがこのダンジョンのヌシじゃ無かったのか?」


「いやー、それがさー、ちょっと訳があるんだよ。先ずはそれから説明した方が良いか。」


 そもそもドラゴンがヌシだったならば「友達になりました」なんて言ってその存在をここにまで連れて来る訳が無い。

 このダンジョンを消滅させるために俺たちはここに来ているのだから。

 そしてポケッとした顔で俺とラディのやり取りを聞いているワークマンが一言。


「お前たち、何を言っているんだ?・・・あぁ、そう言えば確か私たちはあの恐ろしい存在を前に此処で待っていたのだったか。君が一人で行ってくると言って・・・何故ここに居る?」


 ワークマンにはどうやら衝撃の強さが原因で少々の記憶の混濁が発生しているようだった。

 しかしこれを一々解消するのは手間だったので、俺はドラゴンが説明してくれた内容をここで話した。


「それでエンドウ様はヌシの居場所が分からない、と。うーん?それほどまでに小さいヌシなのでしょうか?もしくはエンドウ様の索敵を躱せる何かを発動しているのかもしれないですね。」


 ダンジョンのヌシにも色々と摩訶不思議な部分があるのは分かっている。これほどの広大なダンジョンであろうとも、だからと言って巨体のヌシだとは限らない。

 もの凄く小さい小動物がヌシだった場合は俺の魔力ソナーでも探し出すのはかなりホネである。

 ここまででワークマンは話に若干ついてこれずに困惑している。


「確か、そうだ、エンドウ、君が戻ってきて、それで・・・!?」


 どうやらやっと全部思い出したようだ。ワークマンの顔が驚愕の表情に変わっている。


「核の場所は私が分かる。どうやら私から漏れ出ていた魔力がいきなり止まって引き出せなくなった事で慌てているようだ。それを辿って行けばよい。」


 上空にぷかぷか浮いていたドラゴンがそう言いながら降りてくる。どうやらワークマンが落ち着いたのを見計らったらしい。

 で、全て思い出したワークマンが再びドラゴンを見た事で息が止まっていた。しかし辛うじて気絶は免れている。


「よし、じゃあドラゴン、案内を頼めるか?・・・あのさ、そのヌシを見つけてもいきなりブッ飛ばさないでくれるか?俺たちには「調査」って名目があるからさ。今回の事の大本を突き止めるって言うのもこの中に入ってるんでな。それと、お前が遠慮無しの一撃をすると俺たちが危険に晒されそうだ。」


「うむ、気を付けよう。エンドウの仲間たちは脆弱者であるようだからな。私が気を付けねば余波だけで粉々であろう。加減をするのは苦手なのだが、善処しよう。」


 コレに三名はさっと顔色を青くする。これを安心させるように俺は一言。


「あー、その時には俺が守る様にするから、そんなにビビらないでくれよ。」


 これは俺が無理を言っている。ビビるなと言われてもできる訳が無い。


「では、行くぞ。・・・どれだけの速度を出せば良い?」


 ドラゴンは出発すると声を掛けてきてヌシが居るだろう方向へとその顔を向けたのだが、そこでピタッと止まって振り向いてこちらを窺ってきた。


「正直に言って私は他種族に合わせた事が無い。友と呼べる存在も今までに二つ、三つ居たくらいしかない。人種の進行速度はどれ程迄が限界だ?分からん。」


 どうやらこのドラゴン、気遣いができる気のいい奴らしい。俺はコレに対して返答をする。


「じゃあ俺が飛ぶ速度に合わせてくれるか?よし、行こう。」


 俺はふわりとその場で浮く。次に同行者三名が俺と同じ様にその場に浮き上がる。

 その後はここまで来た時と同じ様に大空へと舞い上がり、ドラゴンが向いた方向へと飛行した。


 飛んでいる間、俺はピーターパンを思い出していた。一緒に飛んでいるのは子供などでは無く良い歳した大人と、妖精では無くドラゴンであるが。

 暫く飛んでいればドラゴンがどうやら目的の場所に着いた様で着陸態勢に入る。


「もうそろそろだ。とは言え、どうやらそ奴は、ほれ、そこの山の洞窟内に隠れておるようだな。」


 俺たちは飛ぶ速度を落としつつ高度を下げる。地上に降りる前に目の前に見えていた山、そこにある洞窟にヌシは居るとドラゴンは言う。

 しかし降り立った場所はその山のかなり手前だ。まだまだ草原である場所である。コレにどうしたのかと思ったのだが、自分で魔力ソナーを広げてみたら理解した。


「なんだ?向こうに違和感が・・・もしかしてコレで誤魔化されて分からなかったのか?近くに来てようやく分かった。」


 そこはどうやらその山の中にある洞窟への入り口らしい。その入り口にどうにも魔力で「蓋」がされていたようで。

 草原のド真ん中に地下へと続く階段が突然存在している。


「私にどうやら「線」が繋がっていてな。盗人は私の魔力をそれで抜き取っていたらしい。止まった私の魔力を必死になって吸い上げようと慌てたのだろう。その「線」の強度を上げたようでな。これを逆に辿る事でこの位置を特定できた。後は中に入って奴の所まで行くだけだ。ああ、もしくは私がこの山ごと全て消し飛ばしても構わんのだが。」


「やめてくれソレは。俺たちが無事じゃいられない。取り敢えず入ろう。・・・罠があるかも確かめなきゃいけないか?うーん、全員で入るのもどうかと思うんだが。だけども分かれるのもどうかと。ワークマンさん、どうします?貴方だけでも戻ります?」


 ドラゴンが過激発言をしたので俺はそれを止める。そしてこの場に居る全員でこの洞窟内に入るのを躊躇った。

 問題はワークマンだ。彼は戦闘技術も、自分の身を守るための手段も持たない。なのでこのまま一緒にヌシの居場所へと一緒に行っても良いものかどうか。


「・・・今更だろう?ここまで付いてきたんだ。ひ、ヒヒヒヒ・・・め、目の前にこんな恐怖の存在が居るのに、これ以上の事があると思うのか?」


 ワークマンは壊れかけていた。主にドラゴンの事で。多分、それと追加で空をかなりの速度で飛んだ事で。

 もう今以上の恐怖や危険なんて早々無いだろうと言いながら引き笑いである。

 コレに俺も「それもそうだ」と開き直る。そもそも危険を承知でワークマンはこのダンジョン同行をしている。それは覚悟を決めていると言う事だ。それこそ死ぬかもしれない、と。

 そして一度気絶と言う疑似的な「死」を経験した後だ。もうこれ以上の経験などこの先無いだろう。危なくなったら俺が彼を守れば済む事だった。


「じゃあ行こうか。俺が先頭を行く。一番後ろはドラゴンが警戒しつつで。一列になって進もう。何か危険を見つけたらすぐに声を掛け合って知らせる事。」


 そう言って俺は階段を下りていく。当然、事前の危険察知は最重要項目だ。俺は魔力ソナーをこの洞窟入り口から広げて中の構造を全て把握する事にする。

 しかしどうにも道は一直線、入り口にかけてあった隠蔽なども気にしてどこかに違和感が無いかも探したのだが。


「罠も無い。隠し部屋も無さそう。このまま奥へと進んでも大丈夫なんだろうか?もしかしたらこれ自体が罠だったりしないか?」


 俺はそう思って一度立ち止まる。そして振り返って全員へと意見を求めた。


「まあ、罠であろうとも進むしか道は無いな。最終的にどうにもならなくなったら、エンドウ、頼んだ。」


 ラディは全部俺へと丸投げする気らしい。


「取り敢えず手掛かりはここしか無いですし、最奥まで行くしかないと思います。」


 ミッツはと言うと、他に情報も無いので選択肢は無いと考えているようだ。


「私はもう君たちに任せるしかない。ここに来て私ができる事など何もないからな。」


 ワークマンは既にお手上げ。と言った感じだ。そしてドラゴンはと言うと。


「私たちがここに入ってから繋がっていた「線」は切れた。どうやら向こうも異変にようやっと気付いたらしいな。このまま逃がすつもりは無い。一気に進むべきだな。逃げられれば面倒だ。」


 どうやらヌシが場所を移動したりすればまた追うのが、見つけるのが面倒になると。


「じゃあ、一気に行くか。皆、ちょっと我慢してくれるか?」


 一直線の通路ならば単純な方法を取ればいいだろう。俺は全員浮かせる。


「一気に突っ切る!舌噛まないように気を付けて。んじゃ・・・ゴー!」


 何故か明かりの一つも無いのに明るい通路内。その一直線を高速で飛行した。


 ヌシは山の中と言う事だったので、その直線通路はかなりの長さだった。幾ら進んでも一向に終着点が見えてこない。

 もしかしたら罠なのか?などとも思ったその時にやっと目の前に巨大な扉が見えてきた。

 その扉の前にゆっくりと着地するために計算して速度を落とす。

 このまま扉をぶち破っても良かったのだが、今は俺以外の者たちが居るのでそれは止めておく。


「やっと到着したんだが、扉の前はかなりの広さになってるな。通路はそこそこに狭かったのに。」


 ようやっと目的地に辿り着いた。このまま勢いで中へと入っても良かったのだが、休憩を挿む事にした。ワークマンが限界のようだったからだ。

 彼の顔色は青い。どうやら速度を出し過ぎたようだ。直線通路がどれくらいあるのかがイマイチ掴めなかったので俺は飛ぶ速さを大分出していた。

 この通路、どうにも俺の魔力ソナーが無駄に反響してしまう構造に作られていたようで長さが把握できなかったのだ。


「どうするエンドウ?ワークマンをこのまま中へと連れて行くか?俺が付いてここで待っていても構わないが?」


 ラディはそう言って限界ギリギリと言った感じのワークマンへとちらりと視線を向ける。

 これ以上は彼への負担が今以上に激しくなると見込んだのだろう。主に精神の方の。


「もう私たちが扉の前まで来ている事はヌシには筒抜けでしょうか?あちらから奇襲などをして来る可能性は?」


 ミッツはここでなかなか鋭い突っ込みをしてきた。確かにそう言った可能性は無くは無いだろう。

 このダンジョンのヌシは「知能」「知恵」と言った物を持っている存在だろう事が予想できるからだ。

 そもそも、地下で寝ていたドラゴンの漏れ出ていた魔力を自分の為に利用しているのである。そう言った方法を知っている者で無ければできない芸当だろう。

 そしてこれほどまでに用心をした備えをしている事で知恵を持っている事も読み取れる。

 入り口が隠蔽されていた事も、この通路が魔力を反響している事も、その証左だと言える。


「扉を開けた瞬間に先制攻撃か?気にする事は無い。私が全て薙ぎ払えばいいだけだ。」


「いやいや、薙ぎ払うなよ。一応は調査しにきているからさ、低級ダンジョンが高難易度に吸収された原因は知っておきたいんだよ。いきなり消し飛ばすとかは止めてくれ。それと、その薙ぎ払いの余波でここが崩落したら生き埋めだろうに。」


 俺はドラゴンの言葉に突っ込みをしておいた。コレに「おう、そうだった、そうだった」と軽い感じのドラゴン。

 別段ここが崩落したとしてもこれだけ強大な存在がそれで死ぬとは思えない。だからこんな大雑把に「消し飛ばせばオールオッケー」みたいな発言をするんだろう。

 こちらはそれをされると堪ったものでは無いので一々止めないとドラゴンがやらかすかもしれないのだ。扱いに暫くは困るだろう。

 一応はこう注意していても、思わず、と言った感じで咄嗟に動く事もあるだろう。そうなればそのウッカリで周囲は大惨事、と言った事も想定しておかねばならない。


「もう大丈夫だ・・・私もここのヌシがどの様な存在であるのかを自分の目で確認しておきたい。」


 ワークマンが息を整えてからそうハッキリと自身の意思を言葉にする。こうもきっぱりと言われてしまえば「止めておけ」などとは言えなくなる。


「じゃあ開けるぞ。皆、警戒をしておいてくれ。ラディ、ワークマンの安全に気を配っておいてくれるか?俺も一応は安全確保には気を付けておくけど。」


 俺はそう言って扉を開けた。するとそこには異様で異常な光景が広がった。また目の前に扉が現れたのである。


「二重扉?いや、そもそも、草原に入るのに扉で、ここにも扉で、その先も扉?マトリョーシカ?」


 そんなくだらない事を考えている場合では無い。もう一度覚悟を決めて扉を開く。そうしてやっとそこには求めていた相手が居た。


「ようこそ、我が世界に。君たちを私の実験体第一号として迎え入れようではないか。」


「あんたがここの「ヌシ」で合っている、って事でいいのかな?話し合いができる様だからいきなり消し飛ばしたりはしないけど、問答によってはあなたをブッ飛ばさなくちゃいけないから、覚悟はしておいてくれ。」


 俺は先ず代表として目の前の存在へとそう宣告する。しかしこれを笑われた。


「くっくっくっ!この私を?倒す?は!呆れたモノだ。この私が誰だか分からずにここに入ってきているとはな。」


「いや、何処からどう見てもローブを羽織った只の骨にしか見えないんだが?それで誰だか分かれとか、個人特定とか、識別しろとか言うのはあんまりじゃないか?」


 俺たちの目の前に居るそのヌシは文字通り、骸骨である。その骸骨が喋っているのだ。


「お前たちの様な程度の低い者には分からんのか、この素晴らしさが。まあよいだろう。お前たちも私と同じになればすぐに理解できるようになる。」


「何だ、私の魔力を横から掠め取って偉そうにしておいて、只の死人では無いか。つまらんな。そして下らん。もうよかろう。これ以上は別にこれと言葉など交わす意味は無い。もういいか?」


 骸骨が俺たちを「自分と同じにしてやるよ」と口にした後に、ドラゴンはあきれた様子でそう言葉にする。

 ドラゴンはこのヌシがどう言った「存在」なのかは分かっているようだ。

 しかしそこら辺がイマイチぴんと来ない俺たちにはなんのこっちゃ?である。

 ここでドラゴンの言葉にどうやら骸骨は怒ったらしく。


「私を死人だと!?この!私を!?誰だ私を馬鹿にする者は!偉大なる力を得た私をつまらない?くだらない?そいつだけはこの私自らの手で引き千切って殺してくれるぅゥぅゥぅ!」


 いきなりキレた。しかも、もの凄く盛大に。あんまりにも突然に。


「ほれ見ろ。こやつ、既に魂が歪んでおるわ。ついでに修正も不可能な所まですでに行っておる。」


「私の魂が歪んでいるだと?何を言っている?私は真っ当だ。そう、準備は整った。長い年月をかけたが、この私の力の下に世界は平等となり、永遠の平和がもたらされるのだ。素晴らしいだろう?」


 さっきまで思いっきりキレていたはずの骸骨がいきなりもの凄く冷静な声音でそう語り出した。これには正直言ってコワい。サイコパスな反応だ。

 しかも自身が魔力を掠め取って利用していた相手、ドラゴンの姿をその視界に入れている様に見えるのに、リアクションが無い。

 ここは「どうしてここにこいつが?!」などと言った反応をしていても良さそうなモノなのに。ドラゴンと何故かそんな風に微妙に噛み合わない会話が続いている。


「言っただろう?言葉を交わした所でこやつはもう死んでおるのだ。死人と生きている者とは相容れん。こやつはもう狂って、壊れておる。即座に消滅させてやるのが慈悲と言うものよ。」


 ドラゴンはそう言って憐れなものでも見るような視線をその骸骨、このダンジョンのヌシへと向けていた。


「あのー、低級ダンジョンを呑みこんだのはあなたのやった事、で合ってます?」


 俺はドラゴンのこの言葉を横に置いておいて、一応調査名目の質問を投げてみた。すると。


「ははははは!そうだ!私が眠っている間抜けな存在から奪っていた魔力を使い、この身を不死身にしたのだぁ!その後も続けて私は奪った魔力で空間形成をし、こうしてやっと膨大な世界を構築した!私の世界が!外の愚かな者共がはびこる世界を駆逐する!世界は私の下に一つとなるのだ!長い年月をかけて構築したこの世界に永久不滅の王国を築こうぞ!」


 もうこの骸骨は自分の世界に浸ってしまって俺たちが居る事を認識していない。


「無駄な事をする。先程も言ったであろう。こやつの魂はもうとっくに駄目になっている。それに伴って精神も既にぐちゃぐちゃだ。放って置いても良い事は無いだろう。このまま捨て置けば暴走したままだ。愚か者とはこやつの事よ。自らの肉体を捨てて魔力で魂を包んで保護し、この世界にしがみ付いているだけだ。そうしてこの世界に存在し続けていても、代償に失った物の方が大きい事を知る事すら、もうこの状態ではできんだろう。こやつは悟る事ができなかったのだろうな、欲望の方が大き過ぎて、な。」


 何だかドラゴンは色々と知っていそうだが、ここでこのヌシをやっつけておいた方が良いと言うのは賛成だ。

 既にもう「人をやめている」と言った事はこの骸骨を見ていて痛いほど充分に分かった。


「たぶんだけど、きっとこの骸骨の生前は平和を求めていたんじゃないかと思うんだ。発言からして。魂?が歪んじゃってるらしくて、こんな風になっちゃってるんだろ?助けられないのか?でも、うーん?ドラゴンが「修正不可」とか言っちゃってるくらいだしなあ。せめてもうちょっとくらいはマトモにしてやりたいと、ホンの少しくらい思うんだが。」


 憐れ、そんな言葉が合うのだと思う、この骸骨には。もうこの骸骨は俺たちを見ていないのだ。

 俺がそう言った言葉すらも、この骸骨の耳には入っておらず。


「む!この私の高貴なる世界に侵入者か?ならばその穢れたる肉体を消滅させて、清らかなる魂のみを残してやるとしようか。・・・はっはっはっはっは!感謝せよ!この私手ずからお前たちを死と言う呪縛から解放してやろうではないか!」


 会話が、というか、先程迄のやり取りが完全にリセットされて俺たちの事を初めて見たかのようなセリフになっている骸骨。


「なるほどなあ。即座に消すのが慈悲だって?確かにそうだなあ。おっと、危ない。」


 いきなり骸骨が炎の玉をこちらに放ってきたのでそれを魔力で障壁を作って俺は防ぐ。

 一応は無酸素空間を魔力で障壁前に作り出しておいて二重に防いでおいた。燃やすための酸素が無ければこの炎の威力も下がるだろうと思って。

 そしてその考えは合っていた。障壁に炎は迫りはしたが、その威力は小さくできたようで衝撃は少なかった。この俺の対応に骸骨は。


「ふむ、なかなか魔法を扱う腕前はあるようだ。私の研究の助手をさせてやってもいいか。おい、お前、命だけは助けてやる。助ける?はて、命?」


 自分で言っている言葉に何故か疑問を浮かべている骸骨は攻撃を止めて首を傾げている。


「私がこやつを消し飛ばしても構わんだろう?私の魔力を盗んで下らぬ事に使っていたのだから、その罰を与えるならば私に権利があろう。ほれ、では、もういいな?」


 ドラゴンは調査があると言う言葉に従って今まで我慢してくれていたんだろう。コレに俺はゴーサインを出す。


「ああ、もうこうなっちゃうと救いようが無い。あ、ちょっと待てよドラゴン。こいつだけを消し飛ばす様に威力は考えてくれ?」


「なかなか面倒な注文をする。しかし、この先も手加減というものを覚えんとお前たちと一緒に世界を回れんか。ならば・・・これくらいか?」


 ドラゴンは大きくその口を開く。次の瞬間にはその口内から放たれた一筋の光が骸骨の眉間を打ち抜いた。

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