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ヌシの正体

「人生何があるか分からないもんだな。海を船で爆走したり、ダンジョンの中をこうして移動したり、なぁ?」


「素敵です!こんなに気持ちが良くて夢みたいな事を体験できるなんて!」


 ラディは呆れた感じで、ミッツは大喜び。そしてワークマンの顔色は青い。


「・・・そんな馬鹿な・・・私はそうだ、きっと夢を見ているのだ。そうだ、そうに違いない、ははは・・・」


 どうにも空を飛ぶ事はお気に召さなかったらしい。ワークマンは自身の体験している事を受け止め切れていない様子だった。

 そう、俺は三人と共に空を飛んで移動している。それはヌシの居る場所がもの凄く奥地にあったからだ。

 普通に徒歩で移動すれば何日かかるか分からない位に遠い。だから、一気にその場所まで行く為にこうして魔法を使って移動をしている。

 速度はそこまで全開では無い。だがそれなりに速い。自分では「これくらい大丈夫」と思っている速度であっても、この世界で生きている人の常識を当て嵌めると「速過ぎる」と判断されてしまうから。

 余りにも限界を超えた刺激を与えられると、人は脳の活動を急停止する。そう、気絶するのだ。

 ワークマンはそのギリギリをまだ超えてはいないのだが、もうちょっと俺が速度を出そうとすれば、たちまちのうちに気を失いそうである。


 しかしラディとミッツは別段この速さには慣れたものである様だ。海での船による体験があったからだろう。

 あの時もこれくらいの速度は出していた。とは言え、具体的にどれくらいの時速になっているかはイマイチ俺もピンときていない。

 適当に「そこまで時間を掛けずに到着する」と判断した速度を出して飛んでいるから。


「おー、もうちょっとで目星をつけた奴の居る場所に到着するけど、手前で降りるからなー。準備は良いかー?」


 俺は一キロ先だろうか?ヌシの居る場所の手前で着陸をする。ゆっくりと三人が姿勢を整えて着地失敗をしない様にと気を遣って速度を徐々に落としていく。


「よし、到着。いやー、上空から見てたけど、何だろうな?どんどんと木々が生えて林や森になっていってたな?あっちこっち。もうそれこそニョキニョキと。」


 俺は空を飛びつつも周囲のその変化は目に入れていた。どこもかしこもどんどんと早回しで木々が生い茂っていく光景は異様であった。

 そんな木々がどんどんと生い茂っていても、この広大なダンジョンはそれ以上の変化を起こしてはいない様子だった。


「拡大はもう止まったようだけど、時間が経てば経つ程、草原が無くなってこのダンジョン全部が森に変わっただろうな。・・・あ!」


 俺は着陸後、目的の場所へ歩き始めた。それに続いて三人も続いて後ろを付いて来ている途中で気が付いたようだ。


「なあ?もしかして、この草原の入り口の扉、もしかしたらもう木が覆って目視で確認できない位に埋まってるんじゃなかろうか?」


「おいおい、エンドウが居なかったら俺たちは遭難か?そもそも、ダンジョンのヌシを倒した後に、お前とはぐれれば、ダンジョンを脱出できずに消滅に巻き込まれるじゃないか。」


 ラディは勘弁してくれとそう口にする。まだ余裕が見て取れる。


「ラディはこの間に魔力での索敵範囲を広げられるようになったと言っていたので大丈夫なのでは?」


 ミッツはそう言ってラディをからかうような、しかし真剣に言っているような、そんな判断に困るコメントを吐き出す。どうにも緊張はしていない様子。

 だが、ワークマンが駄目だった。着地後からはきょどりっぱなし、おどおど、怯えっぱなしだった。


「な、何故お前らはそうやって平然としていられるんだ?凶悪な魔物がこのダンジョンには存在しているんだろうが。そしてこれから向かうのはここのヌシだと思わしき存在の所なんだろう?何で、何でそこまで気を抜いていられる?」


 血の気がずっと引いているようで、その顔色は終始青い。呼吸もどうやら緊張で上手くできていないようだったので俺は落ち着くように言う。


「はい、ではここで大きく息を吸って・・・吐いてぇ・・・吸ってぇ・・・吐いてぇ・・・はい、ワークマンさんもやってください。息、止まってますよ?」


 ワークマンはそう指摘されて気付いたのか、ぎこちないながらも大きく息を吸って深呼吸をしたのだった。


 そして歩き続けて暫く。どうやら付けていた目星はドンピシャで当りだったようで、俺たちの目の前、その100m程の先の場所にヌシであろう存在の姿が見えた。

 いや、もう既に空を飛んでいた間にちょっぴりとだけではあったが、その姿は事前に見えていた。

 しかしここで聞いておかねばならない。


「ワークマンさん、ちょっと聞いていいですか?高難易度のヌシは今まで一度も挑戦する冒険者はいなかったんですか?」


「・・・いる訳が無い。ダンジョン内の魔物を倒していたとは言え、それは入り口付近に居た、比較的まだ強さが「マシ」な奴ばかりだ。奥地に入って全滅しかけた冒険者が居た事で、それ以降は奥まで探索、ましてや、ヌシを倒そうと言った奴らは居なかったよ・・・」


 疲れたようにそう説明をしてくれるワークマン。違う、疲れていると言う訳では無く、どうやら目の前に見える山の様な存在に対して絶望を受けているみたいだ。


「どうするんだエンドウ?あれは流石に無いぞ?近づけば近づく程、ヤバさがびりびり来る。」


 ラディも見えている存在の強大さを肌で感じているらしい。そしてミッツは。


「ここまで来ましたが、これはいくら何でも・・・一度ギルドに戻って報告をした方が?」


 どうにもミッツまで怖気づいたようだ。しかし俺は別段恐ろしいとは感じなかった。寧ろそのヌシを見て「カッコいいな」と感想を持ったのだから。


「ドラゴンだよなぁ。スゲエや。顔がシャープで、体つきもスリムなタイプだ。眠ってる姿も雄大で、なんだろ?いつまでも見ていたい気分にさせられるなぁ。」


 そう、俺たちが見ているのは大きな大きな、それこそちょっとした小高い丘か?と勘違いしてしまいそうなほどの巨体のドラゴンだった。

 そのドラゴンは睡眠中でこちらが幾ら近づいて行っても起きてきそうにない。


「なあ?エンドウ、お前はあの魔物の事を何か知っているのか?あれはどう見ても次元が違うぞ?」


「そうですね。この様な強大な存在が居たのであれば、もっと世界中に知れ渡っていてもおかしくはないはずです。」


「あれ?二人とも知らないの?うん?ああ、ドラゴン、って言う言葉もこっちには存在しないのか?アレを表現する言葉は無いんだな。只々「魔物」のくくりなのか。しかも何?知られて無い?伝説の物語の中に出てくるだろう定番の存在なのになあ?・・・あれ?じゃあ俺がこのヌシを殺せば「ドラゴン殺し」とかになっちゃ訳?」


 歩いている、止まらない。どんどんとドラゴンへと近づきつつも俺たちは会話を続けていた。

 ワークマンも付いて来ている。ここで置き去りにされれば他のうろついている魔物の餌になってしまいかねないのでしょうがなく、と言った感じで足取りは重い。近づきたくないんだろう、ドラゴンに。その顔色はどんどんと青くなって行く。


「エンドウ、俺はその「ドラゴン」とやらにこれ以上近づきたくはないんだが?大丈夫なんだろうな?もしも危なくなったらお前が俺たちを守ってくれよ?あんなのに勝てっこないぜ?」


「震えが先程から止まらないのですが。あの、もうそろそろ一旦止まって様子を見ませんか?」


 二人も俺が行くからしょうがなく、と言った様子でついて来ているだけだったみたいである。


「じゃあちょっとここで三人は止まっていてくれていいよ。俺だけ近づいてみる。」


 そう言ってスタスタと俺だけがドラゴンへと接近する。そうして目の前が「壁」と感じる程の距離まで近づいた。


「うわぁ、綺麗な表皮をしてる。深い青だなあ。宝石みたいだ。・・・はぁ~、何この手に吸い付くような感触。いつまでも触っていたくなる手触りだ。気持ちいいなぁ。」


 俺は全く怖がりもせずに遠慮無くドラゴンの肌に触れる。そしてその触り心地にうっとりした。

 温かいような、冷たいような不思議な触感。そして滑らかな手触りで、どんな最高級品の皮製品でも敵わない、と言った感想を俺は持った。


 これにどうやら違和感を感じたのだろうドラゴンが身じろぎをする。その微かな動きでさえ、地を揺らす。


「おおう、凄い迫力だ。・・・ああ、ヌシを倒しに来たんだったっけ?でもなあ?寝ている所を襲うのか?そんな事はしたく無いなぁ。いつまでも触っていたい。」


 じっと俺が手を付いていたのがどうにも刺激になったようで、のっそりとしたゆっくりとした動きでドラゴンの首が起き上がった。

 そしてどうにもまだ眠かったのか、瞼をそれこそ何度もゆっくりと持ち上げては落とし、持ち上げては落としを繰り返している。

 その顔の高さはキリンの高さを優に超える。もの凄く上にあるので見上げるのが大変だ。


「あ、起きちゃったか。ごめんな。あんまりにも気持ちが良かったものでつい。不快にさせちゃったか?」


 俺は思わずそのドラゴンの顔を見ながら謝ってしまう。どうして自然とそうやって謝ったのかは分からなかったが、どうにもコレは正解だったようで。


『私の眠りを妨げたのはお前か?寝ている者の身体を不躾に撫でまわすのがお前の流儀だとでも言いたいのか。痴れ者め。殺しはせんでおいてやる。これ以上ちょっかいを出してくれば消滅をさせるぞ?何処へでも行くがよい。私の機嫌がこれ以上悪くならないうちにな。』


 俺はコレにピンときた。俺の魔石「電話」を使った時と似た感じだったからだ。頭の中に言葉が響く。


「あー、貴重な睡眠を邪魔して申し訳なかったんですが、こちらにも貴方にお話がありまして。申し訳ありませんが、説明のお時間を頂いても宜しいでしょうか?」


 ここで俺は咄嗟に会社員時代の喋り方が出た。営業をしていた頃の言葉使いになっている。

 で、コレが功を奏したのか、ドラゴンはどうにも俺の求めに応じてくれると言う。


『私を前にして怯えぬその勇気に免じて話を聞いてやろう。まあ、いつまでも眠っているだけでは怠惰にも近い。少しくらいは起きて活動する事もしなければな。・・・ん?んん?おい、ここは何処だ?』


 ドラゴンは俺を見やりつつもその後は首を左右に振って周囲の様子を少しだけ観察した。したのだが、二往復した時にその動きが止まって困惑した様子になった。

 このドラゴンの隙に俺は食い込んでみる事にした。会話が、話し合いが成立する相手なのだ。これを逃す手は無い。

 言葉が通じない魔物でも、ましてや本能のままに生きる獣でも無い。このドラゴンとはコミュニケーションが取れるはずだ。


「アナタが今置かれている状況をこちらは説明ができます。どうでしょうか?落ち着いてお話をしませんか?」


 どうにもこうにも、このドラゴン、何か変だった。このダンジョンを創り出しているのがこのドラゴンだと言うのであればこうした反応をするのはどうにもチグハグだ。

 このダンジョンの変化を分かっていない。ドラゴンが起こした変動では無いと言う事だ。


 そして俺はこのドラゴンとの話し合いを確実に確保するために「情報を持っている」と語りかける。

 どうやらこのドラゴンは理知的である。いきなり襲い掛かってくる「力こそパワー」みたいな脳筋俺様暴れん坊将軍馬鹿では無い様子。いきなり暴れたりする事は無いだろう。

 ならばここで俺は穏便に済ませたいよ、と言った態度を見せておく事は重要だ。

 まあドラゴンが俺から情報を吐かせるために暴力を使用する、と言った方面に「理知的」だったら意味が無いのだが。


『ならば早く説明をせよ。どう言った状況に私は居るのだ?ここは外に居るようでいて、隔離空間、だな?私はその様な事をした覚えは無いし、そもそも地中奥深くで私は眠っていたはずだ。』


 何も説明せずともドラゴンは「ダンジョンだ」と言った事は把握していたようだ。しかしそもそもドラゴンは地中深くで眠っていたと言う。

 そしてこのダンジョンを形成しているのはドラゴン本人?では無いとも。

 ここまでドラゴンが分かっているのであれば俺が説明する部分はどう言えば良いだろうかと考える。

 そして意を決してそれこそ俺たちがどうしてこのドラゴンの前に現れたのかを最初から事情を説明する事にした。そしてそれを説明する事、5分。この間ずっとドラゴンは辛抱強く俺の話を聞いてくれた。


『なるほどな。私が寝ている間に随分と変化を起こしていたらしいな、人の世は。ふむ、それと、私の睡眠中に漏れ出ていた魔力を勝手に利用して、どうやらこの空間を創り出していた者が居るらしい。いい度胸では無いか。』


 ドラゴンはそう言ってフムフムと頷く。俺がドラゴンをこのダンジョンのヌシだと思って「討伐」しに来たと言う点を何も気にしていなかった。

 むしろ逆に、ドラゴンから漏れ出ていたと言う魔力を勝手に拝借していたという存在の方に怒りを覚えている様子だ。


「あの、俺はアナタを殺そうとここに訪れたんですよ?そこは不機嫌になる点じゃ無いんですか?」


 どうしてそこまでドラゴンは、俺がここまで来た理由が気にならないのかと疑問で思わず聞いてしまった。


『む?お前は私と同程度の存在強度を持っているだろう?よく見れば私に挑むだけの権利をお前は有していた。ならば機嫌など悪くする要素は何処にも無いではないか?矮小な有象無象が群れて私に挑んできたと言うのであれば面倒この上無かったであろうがな。そうなれば機嫌は多少悪くなっただろうが。お前が私を倒そうなどと言うのであれば、私は正面からその挑戦を受けるぞ?そこには強者同士の闘争はあるだろうが、恨み辛みなどの下らん事など挿む余地は無い。怒りもまた同様だ。』


「器がデケェ。カッコいいなぁ。あ、すみません。思わずこぼれました。あー、それじゃあえっと?このダンジョンを生み出している奴って他に居る、って事で合ってます?貴方の力でこの空間を縮小、或いは消すと言った事は出来ませんかね?」


 俺はドラゴンへと「無理だろうな」とは思ったがお願いをして見た。これにドラゴンからは予想通りの答えが返って来る。


『ふむ、私の魔力を使ってはいるが、ここを形成している核は私では無いので無理だろう。お前はこの空間を消滅させたいと言ったな?ならばその核となしている存在の所に行くと言う事だ。ならば私も共に行くぞ。私の魔力を掠め取るような癇に障る真似をした愚か者は私の手で消してくれようぞ。まあ、暇潰しだな。こうしてまた眠る気にもなれん。眠っていた間に世の中がどれくらい変わったのかを見て回るのも面白かろうて。』


 いや、予想の斜めに行った。このドラゴン、俺たちに付いて来る気らしい。


『よし、お前は私と契約をしろ。なに、別に大した事は無い。私と友になるとここで誓えばいいだけだ。それだけの資格をお前は持っている。誇っても良いぞ?何せ小さき生き物「人」が私と同等、同格、存在強度が同程度であるのだからな。・・・むむ?おい、おかしいな?人如きが何故私と同等の力を有する事ができている?』


 どうやら今更その点に気付いてドラゴンは首を傾げた。その後はじっと俺をその目で睨むように見てくる。もの凄くその顔を近付けてくる。


『お前、異様だぞ?何故お前の内部を見ようとすると弾かれるのだ?私の魔力眼で何故お前の奥底が見えない?』


 そうやってドラゴンは「納得がいかない」と言いながらいつまでも俺を睨み続けた。

 しかしいつまでもそうしている訳にもいかない。ラディもミッツも待っている。ついでにワークマンも。


「じゃあ取り敢えずその契約というのをしましょうか。えーっと?何か決まった文言とかはあったりします?」


『別段決まり文句は無い。まあ、しいて言うなれば、意識を私へと向けて魔力を流しつつ宣言をすればいいくらいか。』


 コレに俺は分かりましたと答えて言われた通りにしてみた。しかし俺は別にここでこのドラゴンが俺と契約をする意味は見いだせない、正直に言って。

 これ程の強大な力を持つドラゴンが一々俺とそうして「友」にならずとも、このままダンジョンの中をドラゴンが単独で移動してその「盗っ人」を見つけて退治すればいい話だからだ。

 しかしそう言った部分の説明をして欲しいとドラゴンへと求めても話が余計に長くなるだけのように感じていた。

 なのでさっさと俺は宣言してしまう。


「私は貴方と友となる事をここに誓う。」


 そう言った瞬間に俺の中から大量に無理矢理魔力が引き出されていく。それが何処に向かったかと言うと。


『うむ、これほどに密度のある魔力はなかなか無い。起きたばかりで身体が多少は重かったが、コレで直ぐに動き出す事ができる。よし、私からもお前へと貰った魔力を流し返すぞ。』


 その言葉でドラゴンはその身体から魔力を強く流して俺へと流しこんできた。


「うひゃ!?ああ、コレが他から魔力を半ば無理矢理体の中に流される感覚かぁ。俺はこんな事を皆にしてたんだ。コレは確かにあんまり頻繁にされたくは無いなぁ。」


 ドラゴンはどうやらずっと寝ていた事で身体が凝り固まっていた?いや、魔力が停滞していて固まり動かしづらい状態になっていたと言うのか。


『良し、この大きさではお前たち付いて行くにも何かと不都合だろう。調整するか。』


 ドラゴンがそう言うと七色に全身を光らせ始めた。俺はこれを見ている事しかできない。そして光が治まったらそのドラゴンはと言うと。


『よし、これくらいでどうだ?余り巨体であっても外を歩けば目立つだろうからな。人の世を見て回るのにもあのままの姿であると騒がしくなるだろう。昔の者たちも私を見れば大いに騒いでいたからな。騒ぐだけならマシだ。いきなり攻撃を仕掛けてくる者たちも居た。そうなれば鬱陶しい限りだったからなぁ。』


 ドラゴンとはファンタジーの代表と言える存在だ。しかし今目の前に居るのはトカゲ?に蝙蝠の様な羽が生えた存在である。まるであのカッコいいドラゴンがディフォルメ化している状態だ。

 体長50cmくらいで、パタパタとその羽をゆっくりと羽ばたかせて宙に浮いている。


「可愛くなりましたね。俺としては前の姿の方が良かったなあ。あの肌の触感は最高だったのに。」


『おい、気持ちの悪い事を言っているな?まあ、いい。さて、行くぞ。私の魔力を勝手に使った愚か者を消し飛ばしに行くぞ。』


 気合は充分と言った感じでドラゴンは口から「ボワッ」と一瞬だけ炎を吐いた。俺はコレに落ち着いて欲しいともう一度声を掛ける。


「あのー?そもそもですね。貴方の名前をお伺いしておりませんでした。何という名前なんです?」


『ふむ?何だ、畏まった言葉遣いをせずとも良いぞ?何せお前と私は友であるからしてな。そうだな。古代の者どもは私を「ドリグレズト・ベリアラス・ゴルドレスラル・ベリルラーン」などと言っておった。確かこの名にはいくつか意味が込められていたという話を聞いたが、まあ、私には意味が無いな。奴らが勝手に込めた意味などを、この私が気にするなどあり得ん。そうだな、友となったお前に私の名を付けさせるのも一興かもしれん。ん?お前の名前は何と言うのだ?そう言えばまだ聞いておらなんだな。』


 お互いに名前も知らずに友宣言である。笑い話だろう、コレは。相手がこんな強大な存在で無ければ。

 しかしここで互いに名前も知らないで友達になりました、何て事に対して盛大に笑う。


『はーッはッはッはッは!この私とした事が、友とする者の名すら聞かずに契約をしてしまうとは。眠り過ぎて寝ぼけておったわ。』


「くっ・・・ふふふふふ!まあ、いいんじゃないか?さて、俺は遠藤と言う。宜しく。えーっと、名前か。まあ、いいだろ。「ドラゴン」で。」


『ふむ?それが私の名か。なかなかに良い響きでは無いか。よし、私の名は今から「ドラゴン」だ。これから宜しく頼むぞ?エンドウよ。』


 まさかこんなダンジョンの奥地でドラゴンと俺が友達になろうとは世界中を探しても誰も夢にも思わない。妄想すら難しいだろう。

 そして俺のネーミングセンスの無さ。コレは致命的だと自分でも理解している。


(まあ、その昔の名前から文字を取り出して繋げただけだしな。都合よくドラゴンって作っれるんだもの。さてはて、こんな新たな仲間?が加わったんだが、どうすればいいのよ?)


 ラディの事も、ミッツの事も、ワークマンの事も、何も考えていない。このドラゴンを待っている彼らの所に一緒に連れて行っても良いものかどうか?


「あードラゴン、ちょっと良いか?ヌシの所へと向かう前に、ここまで一緒に来た仲間と合流したいんだが。それと、えー、ドラゴンの事を怖がってるからそいつらは、脅かしたりするのは無しでお願いする。いたずら心は控えてくれ。」


『ふむふむ、エンドウの仲間であるか。ならば別に脅さんでもよかろう。私の姿を見て馬鹿にするようであれば即座にその身を滅ぼしてやるがな。』


 コレに勘弁してくれ、と頼みながら俺は待っている三人の所に歩いて行く。

 そして姿が見えて来た所で俺は手を振った。俺が無事だった事を知らせるために。

 だがまあ、その俺の横には見慣れぬ存在がフワフワと浮いて付いて来ていたのだからそちらに全力で目が行く事だろう。

 そしてどうやらその存在感と消えたあの巨体との関連性を想像して顔をカチコチにしている。

 ここでかろうじて口を開いたのはラディだった。


「すまない、エンドウ、その浮いている奴を近付けないでくれないか?聞きたくは無いんだが、聞きたくは無いんだが、ここは敢えて聞く。こちらからもあのデカイ奴が消えたのが見えたんだが、まさか、まさかだよな?その浮いてる奴がそれと同等の圧力を発しているんだが、どう言う事だよ?」


「まあ、言いたい事は分かってる。説明をしたい所だったけど、あー、先にワークマンをどうにかしないか?」


 立ったままで気絶していたワークマン。倒れなかったのはどう言った奇跡だろうか?目が開いたままで一切の反応が無い。

 俺の言葉でミッツがハッとしてワークマンを支えて地面へと横に寝かせた。その後にミッツは。


「あの、早い所ですね、私もそのー?説明を求めたいんですが?あの、近寄らないでください!コワい!コワい!」


 俺の事を散々「賢者」などと持て囃してきていたミッツもどうやらドラゴンの存在感に怯えてしまっていた。

 なので二人には早い所安心できる材料を与えて落ち着かせたかったのだが、ワークマンが目覚めた後にまた同じ話をするのは何だか面倒臭かったので一言だけ言葉にしておいた。


「あー、こいつはドラゴン、って言うんだ。友達になった。これからこいつが一緒について来るって言うんで宜しくな。あと、ドラゴン、ちょっとその垂れ流しの魔力を抑えてくれないか?どうやらそれで三人が怯えてる。見ての通り、一人もうとっくに気絶してるんだ。コレが一般の人の反応だから、どうにかしてくれ。」


 このドラゴンがこのダンジョン以降も俺について来ると言うのであれば、いや、この調子だと絶対について来る予感。俺はドラゴンが「世の中を見て回る」と言ったのを思い出した。


(そしたらその御供は?どいつが担う?そう、友だと宣言、契約をしてしまった俺だろう?あーあ、考え無しに動いたらコレかぁ。世の中の迷惑にならなければ良いんだけど)


 それは絶対に無理だろう。見た事も無い魔物を引き連れた人物は真っ先に目立つ、警戒される、監視される、引っ立てられる。

 研究者のワークマンが知見していない魔物であるからして、世間の人々がこのドラゴンを知っている訳が無い。

 つむじ風の皆との冒険もどうしようかと今更ながらに頭を悩ませたが、今はこのダンジョンを潰すのが目的だ。

 それにはワークマンが目が覚めない事には先へと進まない。ミッツに俺はワークマンをゆすって気が付くようにと促して貰おうと思ったのだが。

 ミッツはどうにも俺の先程の言葉が理解できていないみたいで、真顔になったままに中空へと意識が溶けていてぶつぶつ何かを呟いている。

 まあ、ラディも似たような状況に陥っていて「今エンドウは何て言った?」とひたすらにその文言を繰り返していた。

 俺とドラゴンはお互いにこの先へと進まない状況を顔を見合って溜息をついた。一旦落ち着いて話ができる迄待つ事に。


『まあ良いだろう。私の寿命は無限にある。そんな中の一瞬の、刹那の時間くらい訳は無い。これくらい待つ事に憤りなど感じぬよ。』

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