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反省の

 さて森へと戻って来て最初にしたのは師匠に作業を中断してもらう事だった。


「師匠?俺は無理はしないで、って言ったのに、何です?この量は?作り過ぎでしょう?」


 俺の目の前には既に出来上がった魔力ポーションが並べられている。しかも百本近く。

 一人で一日で作る量として、過剰である。師匠はまだ自分の魔力量の変動に慣れつつ無理をしない様に製造をするように言っておいたのにコレである。


「・・・すまん。製造に慣れ始めてきてしまってな。作業の効率化が少々楽しくなってきてしまって。その、何だ。魔力量も余裕が大分できてきていてな。・・・調子に乗った。申し訳ない。」


 師匠は言い訳を最初し始めていたが、俺が睨むとすぐに謝罪の言葉を吐いた。


「はぁ~。コレ、保存しておくのに冷蔵庫が必要だなぁ。専用のを作るか。仕方が無い。」


 俺は早速外に出て地面に手をかざす。そして魔力を流した。そのイメージは単純に箱である。中型の冷蔵庫。

 箱内の天井に氷を置いて冷やす単純な構造の冷蔵庫だ。それを家の中に運び込む。


「師匠、ここに氷を。それとそれ全部この中に入れて常に冷やしつつ保存しますから。ほら、早く手伝ってくださいよ。」


 師匠はワタワタとしながらもポーションをどんどん冷蔵庫に入れていく。


「あーあ、コレ、もうガドンの実も無いじゃないですか。作り過ぎでしょ、流石に。師匠、身体の具合が悪いとか無いですか?自分の身を実験に使える、なんて言っておいて、ここまで急な実験で身体を壊していたら只の馬鹿ですよ?」


 師匠は自分の身体の若返りの件とともに、少しづつこうしてポーション作りと合わせて観察すると言っていたのに。

 ここまで過剰にポーションを作り、そのせいで急激な変化で師匠が倒れたら本も子もないのだ。


「・・・スマン。反省している。もう二度とこのようなマネはしない。」


「はぁ、怒っている訳じゃ無いですから。じゃあ、食事にしましょう。マルマルの都市で色々と買い物してきましたから。あと、それと師匠に話しておくこともありますしね。」


 そんな事を口にした師匠は「何だ何だ?」と言いたそうな顔を浮かべていたが、それを飲み込んで食事の準備を始める。

 出来上がってテーブルについて食事をしながら俺はマーミのパーティーに入った事を伝える。

 そして明日にもスグにギルドでメンバーとの顔合わせ&依頼を受ける事になっている事も。


「・・・エンドウ、本当に大丈夫なんだろうな?あんまり派手な事はするなよ?お前は魔力のコントロールを修めたのか?おい、黙っていないで何とか言ってくれ。」


 思い切り不安な顔をしている師匠に俺はモヒカンの事を最初から説明して、今日の決闘の事まで話した。

 すると師匠は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。


「お前は自重をしろ・・・。多分もうあの都市でお前の事を知らない者は居なくなっているだろう。増々私が出歩けなくなっているじゃないか・・・」


「あー、俺と師匠が一緒に居たら、それはそれで関係性を探られますねぇ。そうすると師匠が若返った事を知る奴が出てくるかもしれないなぁ。勘の良い奴はすぐに気付いちゃうかも?」


「あぁ、頭を固くし過ぎだな。マルマルでの活動をしなければいい話だ。エンドウよ。ここから北に十日行った国に一度行ってくれ。あそこなら私の事を知る者は居ないだろう。そこでなら私も羽を伸ばせると言うモノだ。まあ暫くはこの森から出るつもりは無いからいつかでいい。私の「若返り」がどれ程の事なのかの観察はまだまだ時間を掛けたいからな。」


 最後に師匠から「自重しろよ?」とパーティーの事に釘を刺されて食事は終了した。

 俺がパーティーに加入した事に師匠は反対をしなかったがアドバイスもしてくれなかった。

 曰く「あのパーティーなら大丈夫だ」と一言だけ言われただけ。


(きっとソレだけ師匠も認める優秀な冒険者だ、って事なのかな?ちょっと楽しみになってきた)


 こうして明日の事に少し子供みたいにワクワクしつつもこの日はぐっすりと眠った。


 さて翌日である。起きて、食事して、用意して、今ギルド。手っ取り早く言って今目の前には俺が加入したパーティーのメンバーである人物が並んでいる。自己紹介だ。


「おう、話は聞いてたが、本当にマーミがお前さんを説得したのか・・・うちのパーティーに入ってくれるとは・・・。まあ改めて自己紹介をしようか。俺はこの中では攻撃中心で剣をこの通り使っている。敵の注意を引いて全体の調整をするのもやってる。正直辛いんだがなコレ。とまあそれでもやっていけているのは偏に俺の天才的な・・・」


「うるさいわよカジウル黙って。あんたの戯言に付き合っている暇はないの。改めて宜しくね。私はマーミ。言わなくてももう知ってるわよね。私は弓、それと短剣術も使うわ。まあこの問題児の補助ね。」


 どうやら昨日はかなり動揺をしていたはずのカジウルは元に戻っているようだ。そしてその人物像はこのパーティーのムードメーカー的な、そしてリーダー的な立ち位置らしい。

 それでいてマーミはと言えばソレにツッコミを入れてリーダの舵取りをする副リーダーと言った具合に見えた。


「お前さんの決闘は見させてもらった。こうして同じパーティーになったからには遠慮はいらんよな。言わせてもらえば俺はお前さんが恐ろしい。しかし、こうしてもう仲間なんだ。そこら辺はおいおい小さくなっていってくれるだろうと見込んでる。それこそマーミが引き入れたんだ。これだけで人柄の保証はされてるって事だからな。俺の役目は斥候だ。後は敵の注意を散らしたり集約させたりと、もしくはそのまま直接戦闘の中に入って混乱を与えたりと言った。まあ雑用だな。ラディと言う。よろしく頼むぜ。」


「ラディは控えめに言っていますが、彼の活躍に私たちはものすごく助かっていますよ。彼のそう言った行動力や豊富な知識、罠避けなどでどれだけ窮地を救われた事か。あ、申し遅れました。私はミッツ。癒し担当です。怪我をなされた時はすぐに私にお任せを。」


 ラディは渋いオジサマ。ミッツは若い女性神官と言った感じだ。

 雑な第一印象だが、別に見た目は重要じゃない。問題は中身だ。それはおいおいこの先このパーティーで依頼をこなし続ければ自然と分かっていく事だから今はあんまりきに留めないようにしておく。

 性格が合うか、合わないか、そう言った物は先入観などがあると歪んで受け止めてしまう事も起きたりするのでなるべくフラットな精神で彼らを見る。

 そうして最後は俺の自己紹介の出番である。


「えーと、俺は魔法使い。何でもやらせてもらう。ハッキリ言って冒険者がどんな仕事をする職なのか良く解っていないんだ。この先迷惑を掛ける事も多いだろうけど、その都度、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。」


 ペコリと俺は頭を下げる。この事にマーミ以外の三人は驚いた様子だった。

 ちなみに後でマーミだけ反応が薄かったのを後で聞いたら「何となくそう言う感じがした」と言った非常に曖昧な答えで俺の方が驚かされた。変な言い方かもしれないがこれが「女の勘」と言ったモノなのだろうかと納得した。

 俺の人柄を良く観察したうえで「こういう人物」と言うあたりをつけていたと言った感じなのだろう。


 どうやら俺の印象と言うか、人柄に対して誰もが三者三様に全く違う印象を俺に持っていたようだ。


 カジウルは俺の事を良く分からんと言った具合で、ラディは普通に面食らったと言って、ミッツは礼儀正しい事を驚いた。

 どうやら俺がモヒカンを「あんな」にした事がここで大きく影響を出しているようだ。

 もちろんあんな結末を見せられて信じられないと言った感想は持つだろう。

 そしてそれがやがて、その人その人、一人一人が個人で事実を飲み込めた時にどんな感情が浮かぶかは千差万別だろう。

 きっと一番多いのは「得体の知れない危険人物」だと言った感じじゃ無いだろうか。

 俺はまるっきりギルドでの活動が無い。それがぽっと出でそれでいて熟練とは行かないまでも実力を持った相手を消し炭どころかこの世から跡形もなく消し去ってしまったのだ。人一人分を。

 まるで正体の掴めない、いきなり出て来たそんな見た事も聞いたことも無い存在がこのマルマルの都市に。

 その事実は多分、噂と共に恐怖や疑心、それと興味を引く事だろう。

 そうなれば人々が持つ感情や感想、俺に対する人隣りを想像するに、より一層複雑怪奇な様相を呈して行く事になる。


(どうか面倒事が舞い込んできませんように。でも、無理だろうなあ)


 あれだけの舞台で、あれだけの観客が居たのだ。もう既に俺にやれることなど有りはしない。

 噂の火消しにあちこち回る?興味本位で俺へとイチャモンをつけて来た奴から逃げる?偉い人から呼び出しが掛かったら拒否する?

 どれもコレもできそうにない。これらの事を起こさない唯一の方法は、そもそも決闘などを受けずにひっそりとしていればよかったと言う、文字通りの「後の祭り」である。


「さあ、ダンジョンアタックしましょうか!気合を入れていくわよ。何せ新しく発見された物らしいからね。慎重に五階層まで行ったら引き上げる計画よ。」


 マーミがいきなりこの場の空気を一変させる。


「ダンジョン最奥はどんな「主」がいるかは分からん。今の所調査でも内部の傾向はまだ決め手に欠けるそうだ。なんで、どんな事にも対応できる道具、装備で行くぞ。」


 カジウルはそう声音をおチャラけたモノから変えてキリリとした声音で準備を促す。

 その言葉にラディもミッツも準備は万端だと言った感じで一つ頷いた。


「え?ダンジョン?何?聞いて無いんだけど?どう言う事?」


 俺はそう言って仲間外れにされている状況に待ったをかけた。簡単な仕事?と。


「エンドウのあの実力を見たらコレぐらいは楽勝でしょ。ダンジョンの浅い所なら別段危険は少ないわ。罠もそれなりだし、それ位ならラディが全部片づけるわよ。それに魔物が出たとしてもカジウルが低階層のなら一刀両断だしね。」


 マーミは危険は無い、と言ってくるが確かにそのとおりである。俺はそもそもあの森の中を鼻歌交じりで歩けるくらいにはなっている。ならばどんな所でも楽勝かもしれないと思えた。

 だが、いきなり冒険者のイロハを知らない俺に大丈夫か?と言った疑問が浮かぶ。

 ダンジョン、そこは全く森とは環境や出てくる存在が違うのだ。しかし経験して誰もが皆成長していく。

 ならば俺もこれに乗っかっていち早く一人前になって金稼ぎをウハウハにできるようにならねばいけないだろう。

 ランクを上げて金周りのいい仕事に在りつけるようにならねばいけない。クスイへの資金提供を止める事はできないのだ。


「分かった。頼りにさせてもらうよ。行こうか。」


 俺はここでこのメンバーに怪訝な顔で見られてしまった。

 何かよろしくない発言でもしてしまっていたかと思ったのだが、どうやらそうでは無いらしかった。

 ジロジロと俺の服装を上から下まで見られている。


「なぁ?お前、そんな装備で大丈夫か?魔法使うんだよな?杖は?ローブは?腰に魔力薬は?」


 カジウルがそう言ってくる。マーミも。


「ねぇ?荷物は何か無いの?手ぶら・・・よねどう見ても。それで、その恰好?」


 残りの二人も俺に何か言いたげだったが、概ねカジウルとマーミの言った事と同じ事が言いたいのだろう。

 これにどうしようか迷う。荷物を入れたカバンをわざと背負うのか、正直に言ってしまうのか。

 ここはギルドの休憩スペース?である。テーブルの周囲には他の冒険者が居る。そんな場所で俺のこのインベントリを教えていいものかどうか。

 昨日の決闘の件で俺の顔はこのギルド内でも有名になっていた。このスーツの格好もソレに一役かっている。

 このマルマルの都市に俺の様な服を着た者など一人も居ないのだ。誰もが今このパーティーのミーティング会話に耳を傾けている。

 誰が聞いているか?この場の全員が俺の言葉に注目しているのだ。

 俺と言う奴がどんな奴なのか見極めようとするがゆえに。

 そんな場所でインベントリは説明もできないし、使う事もできない。

 師匠とクスイの反応でインベントリは世の中に見せちゃいけないモノだと言う事は理解している。

 ならばここは言葉を濁してダンジョンに行こうと促すしかない。


「そこら辺の事はおいおい言うから、今はダンジョンへと向かおうか?」


 納得はしていないまでも俺のこの言葉で皆はギルドの外へと向かう。

 その際にカジウルだけが自然に俺に近寄って来て耳元で「絶対何か隠してるだろ」と小声で言われた。こういう所が彼がリーダーを務めている所以だと理解した。

 そうしてダンジョンがあると言う方向の門へと向かう。

 そのダンジョンはここから一日程行った平原のど真ん中に発生したと言うのだ。


 そもそもダンジョンと言うのはその場に強力な魔力を持った魔物が長年住んだ場合にできる領域の事をさすらしい。

 その形とは様々で地下に拡がる広大な洞窟であったり、魔力濃度や空間にゆがみが生じる自然の一部がソレに当たったりなどであるらしい。一定の定義は在るものの、形はその魔物の影響を大きく受けた物に形成されるという。

 そしてその中に他の魔物が侵入したり、それが長い年月をかけて生態系を作ったりと言った自然現象まで受け入れる物だから複雑怪奇なダンジョンへと変わっていくのだそうな。

 で、そう言った事が起こるにも関わらず、そのダンジョンの「ヌシ」と言う奴はその最奥でひっそりと生き続けていて一切出てこないそうだ。

 だからどんどんとその「ヌシ」の領域は放っておけば置くほど巨大なダンジョンを形成し続けて、見る見るうちに人の住む圏内を侵食するのだと言うのだ。

 こうしたモノを排除するのも冒険者の仕事という事らしい。


「国の兵士も出張る時はもう手遅れね。そう言ったダンジョンは今は話に聞かないけど。今の時代は隠れているダンジョンを見つけるための計器も開発されたから安心よ。」


 マーミは俺にダンジョンと言うのはどんなモノか講義してくれていた。


 定期的に各地であらゆる場所へと調査隊が派遣されていると言う。

 そうして見つけられたダンジョンはどうやら「若い」ダンジョンが多く、こうして冒険者へと依頼を出して処分をさせるのが兵を出すより安上がりだからこんな仕事があるのだと言う。


「ほら、コレ。ギルドでこうして予約と順番を取って調査、及び出来るなら主の討伐を出してるの。丁度昨日はこれがあったから真っ先に飛びついておいたわ。なかなかこのダンジョンは旨味が高い層でも有るらしくって。ピンと来たのよね。」


 マーミはそう言って得意げにフフンと鼻を鳴らす。


「中で討伐した魔物と言えばビッグブスにエコーキーらしいけど。どれも大物って話よ。狩り尽くされる前で良かったわ。このダンジョンに入った同業者はまだ多くない。ここで一気に稼ぎましょ。」


 マーリはノリノリである。それに乗っかってカジウルも調子のいい事を言っている。


「一気にここの主を叩けばこの先一ヶ月は働かなくてイイくらいの金は手に入るだろ。だったらこのまま行ける所まで行くってのもありだぞ?きつくなったら即撤退、だけど下層の情報はしっかりと売れる。どうだ?行けるとこまで行っとくか?」


「駄目よ!慎重に行きましょ!今回はエンドウが居るんだから。今日は「馴らし」なんだから、どうせならこの下層階の魔物を全部狩るくらいでいいでしょ。」


 マーミはそう言ってカジウルの提案を却下するが、それにしたって「狩り尽くす」と口にしたマーミも大概だろうと思うのだが。

 その二人のやり取りをいつも通り、と言った具合で気にも留めないラディとミッツ。


「二人は意見は無いの?一応俺は新人冒険者だし、二人の意見も聞いて勉強したいんだけど。」


 俺は二人に話を振った。


「そうだな。罠は俺が見る。先攻するから慎重に俺の後ろを付いて来てくれればいい。大抵の罠は俺が全て解除する。安全は保障するぜ。でも、二重、三重罠は油断しないで解除しても完全解除に至らない場合もある。そう言った解除不能罠なんかも存在するから警戒だけは怠らずにすぐに動ける心づもりもしてもらいたいな。自負はあるんだが、それでも俺には解除が到底無理な複雑な物も出てきたりはする。まあそう言った物は階層の深い所にあったりするものだから今回は安心していい。」


 ラディは罠は任せろと、しかしだからと言って油断はしないでくれと言ってくる。


「そうですね。私は怪我を治すために居ますから。そう言った場合はすぐに言ってください。どんなに小さい傷であってもソレが後々悪化すれば大きな障害になってしまうものです。そこまで行けばそれこそ労力を多大にかける事になります。ならば幾ら小さくともその時点で直しておく方が良いと言う物です。傷を負ったらその時点で毒などの鑑定もして適切な治療をせねば命にかかわりますからね。掠り傷、などと思わずに、そう言った時でも傷を私に診せてください。」


 ミッツは傷の怖さを説いてくる。どんな小さい物でもソレは放っておけば大きな被害に化けかねないと。


 こうしてそのダンジョンへと向かう事暫く。今俺たちはその草原近くまで行く馬車に揺られている。

 流石に徒歩で行くには疲れる程に遠い。だから馬車をチャーターしたのだ。

 運転手も雇っての事である。コレは大分交通費が多めに出ているのでは?と俺は疑問をぶつけてみた。


「ああ、その点は大丈夫さ。ギルドが補助を出してくれてるんでな。そこまでじゃない。だけど稼ぎが悪けりゃ確かに赤字は免れないがな。」


 カジウルは心配ないと言う。そしてマーミも。


「計算したけど、大分稼ぎは出せるはずよ。一人頭だと多分経費を引いてもザっと白金貨一枚は固いわよ?」


 マーミの話によると前回にダンジョンに入ったパーティーの稼ぎがそれ位だったらしい。昨日の内に調べておいたそうだ。大雑把に試算しただけでもソレだけの収入が見込めると言う。


「でも、確か「大物」なんだろ?手に負えないとか、異変が起きて撤退しなくちゃいけなくなったりとかは?不慮の事態が起こったりする危険性は?」


 俺は突っ込んだ指摘をする。しかしマーミはそこら辺も調べていたようだ。


「今までダンジョンアタックしたパーティー、しかも下層での情報だけど。ビッグブスは自然の中に居るものよりも二回り大きい位だしね。それぐらいなら大丈夫でしょ!苦戦なんてしないわよ。」


「俺、そのビッグブスとかエコーキーとか、どんな魔物なのか知らないんだけど?」


 これに全員が「は?」と言った顔で俺を見てくる。


「いやいやまさか?イヤまさか?おいおい、ビッグブスは何処にでも存在する魔物だぞ?それこそ世界中に存在することが研究で調べられている。どんな環境にも適応してだな、確かに亜種なんて言われたりもするが、それでもビッグブスはビッグブスだぞ?ソレを・・・知らない?」


「エンドウってどこからやって来たの?そもそも何処の国出身?」


 俺はヤバいと思った。師匠にしか話していない俺の正体をこのメンバーに説明していいモノかどうか。

 ぶっちゃけ、説明事態をする事は別に構わないと思えるのだが、とにかくメンドクサイ。

 この四人はすぐに話を「飲み込んでくれない」だろう事が何となく読めたからだ。


 話している最中、話した後もきっと根掘り葉掘り、どうして、何で、信じられない、どうなってるんだ、意味が分からない、もう一度言ってくれ、耳を疑う、お前頭おかしいのか?等々。きっと矢継ぎ早に質問やチャチャを入れてくる事だろう。

 師匠みたいに何も言わずに話を聞いてくれて、そしてすぐに「理解した」とは絶対に行かないと分かる。


 迂闊な俺の発言が元になっているのだから、今この場で話してしまう事が一番なのだろうけれども。それでもこの四人に信用はまだ置けないので拒否をした。


「すまないな。教えるつもりは無いんだ。知られたくない事なんて誰でも持ってるだろ?」


 コレは嘘でもあり、本当でもある。別に教えてもいい、知られても構わない。

 だけどその事で揶揄うために絡んでくる奴が増える事だけは拒否したい。

「聞いたことも無い国出身」「正体不明」「後ろ暗い事でもあるのか?」「脛に傷のある危険人物?」

 自分の事がこの四人を通して他の人間に広まれば、要らぬ噂や尾びれ背びれが付いてしまう事も出てくるかもしれない。

 そうするとその話に乗って俺にちょっかいを出してくる者が出てくる可能性が高まる。

 モヒカンとの決闘でちょっと反省しているので、そう言った輩に今後絡まれる事の元になる情報の流出は避けたい。


 とここでカジウルが真っ先に引いてくれた。


「お前さんとやり合う気はねえよ。消されちゃ堪んねえからな。分かってるさ。冒険者は個人の理由についてあんまりツッコむのは御法度だしな。俺だって隠し事の一つや二つや三つや四つ!」


「おいおい、多すぎだろ。そんなに持ってるのかよ。二つほどこの場で減らせよな。」


 そうツッコミを入れたのはラディである。それに続きマーミも。


「あら、そんなにあったの。ならここでちょっと二つほどゲロってもらいましょうか。パーティーの内の一人がそんなに秘密が多いとか信用ならないわね?」


「そうですね。私は神官ですし、ここで懺悔をなさるならしっかりと聞き入れますよ?どうなさいますか?」


 ミッツもそう言って真剣にカジウルを見た。これに本人はおチャラけた感じで「勘弁してくれよぉ」と頭を抱えた。

 それに四人は同時に大声で笑う。俺だけが置いてけ堀だ。咄嗟に起こった茶番。コレは俺への四人の気遣いであった。

 ちょっと悪くなりそうだった空気がコレで一気に散って無くなった。四人が笑っているのにつられてその時俺も一緒に声を出して笑ったのだった。


 しかしそう笑っている時間も直ぐに終わった。話をしている内にどうやら目的のダンジョン入り口へと到着したようだからだ。

 正確に言うと、その入口に一番近い場所に到着したと言う具合だ。止まったこの場所からその入口まではまだまだ大分ここから歩かねばならない。

 草原の真っただ中にその入口が発生したと言う事なので、ここからは徒歩で草むらを行くのだ。

 馬車は既に戻って行った。予定では五日後にまた馬車はここに戻って来て帰りの脚となる予定だ。


 俺たちはソレを見送ってから草原をひたすら歩く。足を前に出すたびに長く肉厚な草葉が抵抗してきて足取りが若干重い。それを繰り返すだけでかなりの労力を使う事になる。

 なので俺はちょっと魔法を使う事にした。


「皆、ちょっと止まってくれ。歩きやすいようにする。」


 そう言って俺は足の裏から地面へと魔力を流す。しかも一直線に何処までも何処までも。

 そうすると地面が割れて、草が左右に一メートルくらいの幅まで開いていく。

 俺の目の前にはツルツル表面の歩きやすい綺麗な小道が出来上がった。しかもここから見える地平線まで。


「・・・どうなってんだコリャ?」

「・・・何したのコレ?」

「・・・いやいや、まさか?」

「コレは・・・エンドウ・・・さんが?」


 言葉が無いとはこの事だろう。四人が四人、言葉を失って、出来た小道へと視線が釘付け。

 師匠に自重しろと言われたが、これでは早々に約束を破ってしまった事になるだろう。


「仕方が無いじゃないか。だって、ウザいんだもの草。あー、でも、魔法で草を短くカットして歩きやすいようにする、って方法もあったか。そっちの方が・・・まあ目立たなかったね。」


 そんな事をしたとしても結果は変わらないと言う事実は俺の頭の中に無かった。

 草むらに対して魔法を放って刈り取ったとしても、おそらくは地平線まで一気に刈り取っていただろう。

 そしてその規模に驚かれてきっと今と変わらないリアクションとなる。

 地味さで言えば刈り取る方がインパクトは和らいでいたかもしれない。しかし今やった事とドングリの背比べだろう。五十歩百歩。結果は「自重しなかった」で変わらないのだ。


 そう言った事に考えが巡っていない時点で俺はこの世界で自重すると言う行動がとれない人間である事は確定しているのだが、その自覚は今の俺には無い。

 驚いている四人へと「行かないの?」と言葉を掛けている時点で空気が読めていないのである。


「お、おう。い、行こうか。エンドウが・・・こうして魔法?・・・魔法?で道を作ってくれた事だしな。あ、歩きやすくて、良いな。うん。」


 カジウルがそう言って先ずは歩き出した。その後にマーミが。


「ねぇ?エンドウって、本当に魔法使い?コレを見ちゃった後だと・・・もっと何か・・・」


 そこで言葉を止めてマーミは「考えるのが怖い」とぶるっと震えてカジウルの後ろへと続いて歩く。

 ラディはまだ地平線まで続く地面を見つめていて何やらブツブツ呟いていた。


「ラディ、行きましょう。今はダンジョン入り口に向かうのが良いでしょう。後で休憩もいれますから。その時に聞けばいいじゃないですか。」


 ミッツはそう言ってラディを先に行くように促す。ブツブツ言いながらもソレに従ってラディはやっと歩き出す。


「さあ、エンドウさんも行きましょう。」


 どうやらミッツは俺の事を「さん付け」で呼ぶ事にしたようだ。どういった理由で付ける気になったのか?

 それに付いてはきっとその休憩とやらで教えてくれるだろうと考えて、俺も作った小道の歩きやすさを確かめながらゆっくりと歩き始めた。

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