1、1日でも早ければ
飽きなければ続きます・・・
・・・なんということ。
何故私はもう少し、タイミングというものを見て思い出せないのか。
自分のせい、と言ってしまうにはあまりに理不尽な事柄であるが、最早そうとしか言いようがない。
いつだって何故か私は、何においても間が悪い。
例えば、小さいとき弟が高価な壺を割ってしまったところを目撃したところへ偶々メイドが通りかかり、狡猾な弟は私が割ったのだとメイドに言って罪をなすりつけられたり。
例えば、つい最近だと屋外で魔術講義中、たまたまクラスメイトの魔術に被弾してしまって意識がなくなり医務室で寝ていたら、講義中留守だった教室に誰かが忍び込みカバンから財布が無くなったクラスメイトが出たらしく、いなかったし怪しいと犯人にされそうになったり。
例えば、今。
幼馴染と談笑していたら、たまたま通りがかった教室のなかで婚約者が別の女とキスをしている・・所謂浮気現場に出くわしてしまい、幼馴染といた状況を逆手に取られて私が浮気していると浮気相手とグルになって私を糾弾し。。
その、婚約者がたまたま王子だっただけに、誰も疑うことなく私を捕え床に顔をつけさせられているという、なんともヘビーな状況。
「シヴィリ、釈明はあるか。」
何が釈明だ。浮気していたのはそちらであろうに、という意味を込めて睨みつけると、私を取り押さえている王子の取り巻きが、私を押さえつける力を強めた。
精神的苦痛と肉体的苦痛に、悔し涙が出そうになって、それは相手の思うつぼだとなんとか涙をおし留める。
どれも、私に落ち度など全くないのに、タイミングが悪かっただけで全て私が悪くなってしまう。
更に間が悪いことに、このタイミングで何故か前世のことを思い出す。あと1か月、いやあと1日でも早く思い出していたら、回避できたのだ。
そう、このシーンを見たことがあるから―――前世の、ゲームで。
・*・*・*・
「ねえねえ先輩、これ面白いからやりましょ?」
と差し出された箱には、中央に「マルールの薔薇」と書かれた後ろに7人のイケメンと1人の美人が描かれている、つまりゲームのパッケージだ。
「やだよ、それ乙女ゲームのくせに略奪系でしょ?ちょっとなあ・・・」
つい最近発売されたばかりなのに、売れに売れたらしく有名になってSNSなどでどのシーンがいいなどちらほら見かけた。
手で押し戻して拒否を示すが、「そんなこと言わないでくださいよー」と食い下がる後輩。
若干の面倒臭さを感じるが、乙女ゲームが嫌いなわけではない。寧ろ好きで片っ端からやっていくタイプだ。
ところがそんな私でも手を出さないジャンルがある――そう、略奪愛。
あまり、ゲームとはいえ他人の幸せを奪うのはなあ・・と思ってしまうのだ。
「先輩は考えすぎですって!所詮ゲームなんですし、ノベルゲーじゃないのでゲームとして楽しめますよ!」
全くフォローになっていない気がするが、この子がここまで推すということはつまらないゲームではないのだろう。
ただのノベルゲー・・苦手なジャンルの上に、所謂適宜選択肢を選んでいくだけのただひたすら文章を読むゲームではないらしいし、この様子では何度断っても推してきそうな気迫がある。
「わかったわかった、やってみるよ」