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ランチュスタ公国からPKOへの傭兵の売り込みは、上手いこと行っているのかいないのか良く分からない。だけれど、PKOとしては「現地の国からの支持を受けている」という実績が欲しいらしく、テイラー少将を中心に賛成の方向で動いているようだ。
アイン王国が協力してるじゃないか、って? 何かね、地球では、アイン王国は現地の監視役、てことになってるらしいよ? にしてはズブズブの関係だけどね。
ということで、デュラン要塞にホワイトとランチュスタ公国の外交官が泊まり込んでいるんだけど、ホワイトは私にくっついて行動してる。いや仕事しろよ、って言ったら。
「先生から教えを受けているので、仕事の範囲内です!」
だってさ。あんまり大声だったもんで、PKOの憲兵に怒られたけど、彼女らしくて安心した。
それなら良いのか? と私はホワイトと一緒に飛び回っているのだけど、飛んでびっくりしたのは、ホワイトの技量だ。何と、高度四千メルトでも安定して飛んでいるのだ。
通常、グリフォンライダーの飛行高度は、爆装無しで新兵で千五百メルト、熟練兵で三千メルトと言われている。四千メルトを安定して飛べるなんて、我がアイン王国では『ナイトメア』を始めとした『エース』部隊でも小隊長格位なものだ。百騎長になっているのは、伊達ではないらしい。
空を飛び、デュラン要塞に帰りながら雑談に興じる。
《かなり腕を上げたね》
《いえ! 『グリフォンナイト』に比べればまだまだです!》
そうホワイトは謙遜する。『グリフォンナイト』は『ナイトメア』部隊を率いる隊長で、爆装した状態でも高度五千メルトで安定して飛べるという、アイン王国の誇る英雄の一人で私の教え子だ。化け物なんて言われることもある彼を目標にするなんて、凄い向上心で嬉しくなる。
《そっか。ちなみに、爆装してたら何メルトで飛べる?》
《そうですね……。三千二百メルトは確実です!》
《おお!》
なら好都合だ。ランチュスタ公国はアイン王国の古くからの同盟国でもあるし、問題は無いだろう。
《あのさ、時間に余裕があるなら、『オツ要塞』に来ない?》
《良いですが、何かあるのですか?》
そう首をかしげるホワイトに、私はにんまりとして告げる。
《いやね、私の部隊も暇してるからさ、オツ要塞にいるグリフォンナイトのエース集めて『急降下爆撃』の基礎を教えてるんだよね》
途端、ホワイトの飛行は乱れた。この感じは歓喜したホワイトに乗騎の『アセア』が驚いた感じだな。それでも高度があまり落ちない、って何気に凄いよね。
《ほ、本当ですか!? 良いんですか!?》
《アイン王国側の代表は私だから、私が良い、って言えばこっち側は問題ないよ。一応そっち側の許可は取っといて欲しいけど》
《急いで取ってきます!》
私は、速度を上げようとしたホワイトを制する。
《急いでも私が一緒じゃないと教えられないんだけどなあ》
《……はっ! すみません!》
《いやいや、気持ちは分かるから》
そう苦笑する。本当、貪欲で良い子だ。
《しかし、私だけ教わる、というのも悪い気がしますね》
ホワイトはそう言いながらも笑顔だ。全く本心隠せて無いよ。
《んー。なら、『南東連盟』の各国に連絡して、合同航空演習、ってする?》
《良いですね!》
ホワイトは興奮しつつ、さらに案を出す。
《どうせなら、PKOの方々も呼んで大々的にやりましょう!》
《……さては戦闘機と演習したいな?》
私はホワイトの思惑を見抜いて言った。するとホワイトは《バレましたか》と頭をかく。
《先生には隠し事をしたくないので言いますが、本国から戦闘機の戦闘能力を調べて来いと言われてまして。それに個人的に興味もありますので》
それ絶対後の理由が主体だろ。分かっているけれど、指摘はしない。お題目、というのは重要なのだ。
《PKOの方々と演習、ってさ、良く考えたら傭兵の売り込みにもなるよねえ……》
《そうなのですか?》
試しにかまをかけてみると、首をかしげられた。仮にも百騎長なら気付こうよ。
《だって、演習したら実力が分かるでしょ?》
そこまでヒントを出したら、流石にホワイトも理解したようだった。
《それなら、確かに売り込みになりますね!》
ホワイトは何やら気合いを入れる。
《アイン王国でも傭兵業しないか聞こうかなあ?》
《となると共に飛べますね! 楽しみです!》
アセアと一緒になって興奮するホワイト。単純でいいなあ、と思いつつ考える。
PKOは内部崩壊するかもしれない。そうなったら、私達はPKOが背後から虐殺されるのを黙って見ているか、助けるかを選ぶ必要がある。上手い具合にPKOが帝国の戦力と経済力を削ってくれているので、ここは帝国と戦う道を選んでも勝ち目はある。拡張主義な帝国とはいつか決着を付けないといけない以上、チャンスを逃す必要は無い。徹底的に叩こう。
《楽しみだねえ》
私は、強敵と戦える歓喜と、その強敵が弱ってしまっている哀しみに、表情が歪むのを止められなかった。