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 日々帝国と戦い、順調に占領地を増やしているPKOの方々だけれど、その内耳を聞きかじった感じかなり危うい感じがする。

 中国軍は捕虜を返しはしたけれど、それでも三万人以上の死者を出しており(私達が殺したんだけどね)、補充に問題が出ている。何でも、人口が増えすぎないよう人口抑制策を政策として取っていたので、数少ない子供を失った遺族の方々からの突き上げがもの凄いのだとか。負傷して帰国した人も結構いて、そこからこの世界の軍が片手間で倒せるような軍じゃない、ってことが伝わって、「話が違う!」となっているらしい。下手したら撤退しそうだけれど、本陣の守りの担当になっているから、そうなるとPKOとしてはかなり困るよね。

 合衆国軍は、人的損害はあまり出ていないものの、大量のロボット兵器を失っており、戦費に不安が出ているのだとか。なので、追加予算が下りるまではあまり戦えない状態だ。だけれど、ドローンを飛ばしては軍事施設に攻撃を加えていたりして、一番積極的に攻勢に出たがってはいるんだよね。

 なので、今戦っているのは実質自衛隊だけなんだけれど、彼らってもの凄く慎重なんだよね。臆病、と言ってもいいかもしれない。積極的に攻勢に出ず、地道に帝国領に侵入して、村々のひとつひとつを回って、PKO側につくよう調略をしかけている。しかも、完全に占領してしまうまでゆるゆるな繋がりを付けておくんだよね。帝国からしたらかなり嫌らしい手なのは間違いない。

 そんな主力の三カ国軍だけじゃなくて、最近はイギリスとオーストラリア、ロシアという三カ国の軍が新たに来てるんだけど、オーストラリアの軍の活動は低調なんだよね。多分、参加した、って実績だけ欲しいんじゃないかな?

 まとめると、PKO側は兵力と予算が少ないけれど何とか戦線を押し上げていて、帝国はじりじりと戦線を下げつつ兵力を結集している、って感じだ。対異教徒連合軍があった時にPKOについての結構な量の情報を集めて、解散した時にその情報は大陸中にばらまかれたから、帝国も結構な量の情報を掴んでいるらしく、前線に出ているPKOの軍、特に主力になっている自衛隊にかなり損害が出ているみたいだ。

 だけれど、情勢は圧倒的にPKO有利だ。帝国が拡張主義の下かなり無理のある主張で戦争をふっかけて占領地を増やしていった国、ということもあり、滅茶苦茶なことをせず、むしろ生活を良くしてくれるPKOの方々は大歓迎を受けている。

 この内政面では、道路整備だったり水道や井戸の整備だったりといったハード面を自衛隊が、技術指導だったりその地の文化の振興をイギリスが、そして入り込んでくるスパイの処理をロシアが担っていて、おまけに文化的な差異などは我らアイン王国が支援しているとあって、PKOの統治は盤石になりつつある。地球側の『門』の向こうの政治面はどう聞いてもガタガタなんだけどね。

 今日はそんなPKOの占領地、デュラン要塞の北側に位置する、ダール州と北方のガレリア州との境にある商業都市オサカに来ている。ダール州、ガレリア州、そして東方のランチュスタ公国とを繋ぐ交通の要所で、PKOのガレリア州攻略が終盤になっている今でも重要な拠点だ。ここは安全が確保されている、ということもあって、休暇を得たPKOの兵士達が良く遊びに来ている。私の部下達も良くここで遊んでいる。

 そんな平和な街に来たのは、ちょっとしたトラブルを解消するため、つまりいつもの仕事だ。休暇で来たかったのに。

 合衆国軍の兵士達が緊張した様子で見守る中、降り立った発着所にはヘリコプター二基と茶色一色のグリフォンがいた。

『お客さんはどこ?』

『こちらです』

 兵士にすぐそこの拡張された厩舎横の休憩室に案内されると、そこには、クリーム色の皮鎧を身につけた、長身の女性が簡易椅子に座っていた。私の正面になる、彼女の左肩に黒く描かれた、杖の上に剣の交差した紋様から見て。

「ランチュスタ公国の方が何の用かしら?」

 疑問をぶつけると、彼女は驚き、立ち上がり、歓喜の表情を浮かべて右拳を心臓の上に置く敬礼をした。

「ドラコ先生! お久しぶりです!」

 その声には、覚えがあった。

「ホワイト・ブル十騎長? 大きくなったね」

「はい!」

 何だ何だとPKOの兵士達が顔を見合わせる中、ホワイトは頬を上気させながら報告してくる。

「今では百騎長になりました!」

「大出世だねえ」

「いえいえ! それもこれも先生のお陰! 先の対異教徒連合軍には参加出来ませんでしたが、これからは戦列を共に出来ます!」

 その不穏で愉快な響きに、何となくどういう状況なのか想像出来たので、その予想をぶつける。

「もしかして、いつもの傭兵家業やるつもり?」

「はい!」

 ホワイトは元気良く頷いた。なるほど、上手く行けばPKOの兵力不足を解決出来る上に、旧帝国領へのPKOの影響力を抑えることが出来る。ランチュスタ公国は良い手を打ってくるなあ。と私は感心した。

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