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 対異教徒連合軍を震撼させた、合衆国軍のゴーレムは『ロボット兵器』というらしく、魔法技術でなく科学技術の産物なのだとか。操縦者は遠方から操作出来るため、兵士の損耗が起きないと合衆国軍では盛んに導入されているそうな。

 そのロボット兵器の空軍版である『ドローン』が、今朝地球から運ばれて来た。

「ふーん」

 これなら、グリフォンを落とすのには使えそうだけれど、障壁を張れるワイバーンは厳しいだろうなあ、と思っていたら、今回は攻撃ではなく偵察に使うのだとか。今日中にドローンは合衆国軍のものを四基、中国軍のものを四基、イギリス軍のものを二基運び込む予定だそうな。

『ん? イギリス?』

 初めて名前を聞く国に興味を抱き、比較的暇そうな紙タバコを吸っている男の兵士に聞くと、面白い話が聞けた。

 何でも、国際連合に所属する各国は、各々が勝手にこの世界を分割占領しようと動いていたものの、この度の対異教徒連合軍との講和が結ばれたことに「話が違う!」と多くの国が反発。さらにぐちゃぐちゃになる中、「口先でどうこう言っても戦争は終わらないだろう」と気付いた国が何カ国か出たそうな。で、それらの国々は資金調達組と実動組とに分かれ、実動組の第一弾としてイギリス空軍が来ることになったそうな。

『そんなこと話していいの?』

『外務担当がアイン王国に通達する、って言ってたから大丈夫じゃないかな?』

 何だか適当な人だなあ、と思いつつ、礼を言って離れようとすると、男に引き留められた。

『おっと。出来れば、代価になるような情報が欲しいんだけど?』

『例えば?』

『んー、石油、って、知ってるか?』

 どうもこの世界の資源に興味があるらしく、一般常識程度の情報は話すことにした。

『石油ね。蒸気機関の研究が上手く行ってるから、この調子だと五年以内に消費量が跳ね上がりそう、って昨日の新聞に載ってたなあ』

『蒸気機関は石炭じゃねえの?』

 変なことを言う人だなあ、と首をかしげる。

『いや、石炭は合成出来ないけど石油は合成出来るからね』

 そう言うと、男はタバコを手から滑り落とした。

『ちょ、え、石油合成出来るの!?』

 そんな驚かんでも。男はタバコを踏みつけて飛び上がらんばかりだ。

『普通に麦わらとかおがくずとかから出来るけど……』

 あまりの驚きように、私は悟った。

『……もしかして、地球じゃ石油って合成出来ない?』

『ああ!』

 地球では石油や天然ガスといった化石燃料に依存した経済形態らしく、石油の枯渇は目の前、と各国は慌てているそうな。この世界を分割占領仕様とした裏には、そんな話があるのだろう。

『……その技術、買えないかなあ?』

 男の真面目な口調に、少しだけ考えて答える。

『んー、今PKOとアイン王国は直接的には物々交換しか出来ないから、こっちに無い技術と交換すればいいんじゃないかなあ?』

『難易度高いことを』

 苦笑する男に、私も苦笑する。

『お互い事務的な付き合いしかしてないもんねえ』

 その事務的な付き合いですら、過労で倒れた人がいる程度には忙しいので、個人的に付き合う余裕なんて無いのだけれど。

『ふーむ……。何とか出来ないかちと上と相談してみるわ。出来れば、君もアイン王国側にそれとなく伝えて欲しいんだが……』

『普通に報告書に書くつもりだったんだけど、足りない?』

 事実を述べると『十分だ』と言われた。

『んじゃ、俺は仕事戻るわ』

『ありがとねー』

 男と分かれ、『デュラン要塞』を軽くぶらついて貸して貰っている部屋へ入り報告書を書く。

 書いている最中にお昼になったので、食堂へ行き何か食べようとすると、テイラー少将に呼び出されたので彼の執務室へ急ぐ。

『話があるが、とりあえず食事にしよう』

 出された食事は、部下達に大好評だった『ハンバーガー』。確かに、美味い。二個おかわりしてオレンジュースを飲む。ん?

『これはオレンジュース?』

『ああ。結構な数の食品が検疫を通ったのでな。我々の口に合うものはこの世界のものを買うことにしたのだ』

 確か、PKOはこの世界に布などを売るばかりで買うものが無かった。その状況を改善しないと、とは言っていたのだけれど、もう改善し始めたのか。

『なるほど、経済的に健全だね。で、話って何?』

『ああ。この世界のトイレ事情について知りたいのだが』

 何でも、ダール州の占領下の街に下水道を整備しようとしたらもの凄い反対運動が起こったのだとか。

『それは仕方ないね』

 私は首をすくめる。さて、お仕事の時間だ。

 まず、この世界では、人糞というのは貴重な肥料の原料である。そのため、多くの農民は都市に行き金銭や野菜と人糞を交換している。つまり、都市民からすれば、人糞は安価ではあるものの収入源のひとつで、農民にとっては生命線なのだ。

 私の説明に頭を抱える少将に実例も紹介しておく。

『我が国じゃあ人糞の売買に課税する、って連絡して反対運動起こさせてから、じゃあ上下水道を増税無しに国の方で整備、管理する代わりに処理施設から出る汚泥を肥料に加工して安く売る、って本案を認めさせたね』

『それは真似出来んな』

 少将は苦笑いだ。

『しかし、参考にはなった。助かる』

『いえいえー』

 この後も、細々とした質問に答えていった。

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