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 私は、発着場だという広場の横の、大きな厩舎のような建物に案内される。愛騎は外でお留守番だ。

『どうも。私がジャン・テイラー少将だ』

『フィア・ナイ・ドラコ副空軍将よ』

 差し出された手を事前情報に従って握り返し、すぐそこの、明らかに急いで用意しましたといった風情の簡易テーブルに着く。

『さて、話し合い、ということだが、どういう要件か?』

 せっかちな話し方する人だなあ、と思いつつも、表情を観察したら疲れているのを隠そうとしているのが目に見えたので、仕方ないか、と納得しつつ話す。

『どうもお互いに行き違いがあったようなので、その解決のとっかかりでも作ることが出来たらなあ、と』

『行き違い?』

 そうイライラしなさんな。仮にも総指揮官でしょうに。思ったけれど言わない。

『ええ。お互い、帝国に騙されていたようなので』

『……詳しく』

 私は、私達対異教徒連合軍が帝国の要請で集結したことと、偵察を送って戦闘になったことを話した。

『ふむ……。偵察が戦闘になったのは良くあることとして、それならば何故昨日まで攻撃を続けておられたのか?』

『ちょっと話が長くなるけど、大丈夫?』

 頷いた少将に、説明する。

 『対異教徒連合軍』とは、昔は文字通り異教徒に対抗するための連合軍だったが、今はこの大陸の危機に対抗するための軍であり、その要請は余程のことではない限り要請してはいけないことが条約で決まっており、それを自国の利益のためだけに行ったら、他の全ての大陸中の国から制裁を受けることになっている。今回は、偵察に対して行われた攻撃が普通では考えられないほど強大なものだったため、謎の軍団を大陸の脅威と判断していた。だが、捕虜の話を聞いてみると、どうもこの謎の軍団は脅威ではないぞ、ということで話し合いに来たのだ。

 私の言葉に、少将だけでなく周囲の見張りの兵士まで疲れたような表情をする。

『……つまり、昨日まで攻撃してきていたのは、我々がこの世界の脅威だと判断していたから、と?』

 『はいな』と頷く。

『昨日やって来た帝国の使者からの裏付けも取れ、あなた方は脅威、というよりも帝国の被害者だ、ということが明らかになったので、こうして私が派遣されたのです』

 少将は長く沈黙し、重苦しく口を開いた。

『……なるほど。貴女方の主張は理解した。では、その上で貴女方は何を要求するつもりか?』

『和平を』

 そう即答すると、少将は虚を突かれたような表情になった。

『既に、対異教徒連合軍では二万の死者と三万の重傷者が出ています。また、あなた方ピーケーオーの所属の兵士の死体も二万は回収しています。これ以上の流血は必要ないかなと』

 公開して良いと言われた情報をぎりぎりまで公開する。ここで疑われては、全てがご破算だ。冷や汗を抑えつつ、少将の解答を待つ。

『……我々は、地球へと撤退するよう要求してくると考えていた』

 少将は、言葉を選んでいるのか、ゆっくりと、しかしはっきりとそう言う。

『正直に言おう。我々は、既に戦える状況に無い』

 少将曰く、国際連合側でこの戦争の終わった後を見て、勝手に占領地を想像して勝手に分割すべく各国が身勝手に交渉を行った結果、各国の足並みが揃わなくなっているそうな。また、派遣された中国軍がこちらの世界で行った村人に対する虐殺行為に一般市民が反発。ピーケーオーは悪として反対運動やピーケーオーに対するサボタージュが行われるなど、ピーケーオーに参加する兵士達の故郷である地球の内情はぐちゃぐちゃらしい。

 どこまでが本当か分からないけれど、そんな状況で戦いたくないなあ、とは思う。

 『それは大変ですね』と出来るだけ当たり障りのない言葉をかけ、こちらの状況も軽く誇張した上で言う。

『そういうこちらも、現時点での死傷者の数に士気が折れている軍もありますし、不毛な戦闘のせいで物価が上がりつつあります。また、働き手を取られたせいで公共事業の滞っている国もありますし、正直さっさとこの戦いを終えたいですね』

『……お互い災難だな』

『全くです』

 疲れたため息がふたつ。

『……では、どうしますか? 和平? それとも戦いを続けますか?』

 そう尋ねると、少将は『私の一存では決められない』と前置きした上で言った。

『だが、個人的には、和平を結びたいと思う』

 良かった、とほっと肩の力を抜く。

『では、次からは正式な会談ですかね?』

『そうしよう。場所は?』

 この後は、次の会談に向けての細かい段取りを決め、自陣に帰ることが出来たのは夜になってからの話だった。


 やっと不毛な戦争が終わる。

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