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南東連盟とPKOとの合同航空演習の計画の調整に、大使や外務省の方々が走り回っている。通る訳無いよなあ、と上官が苦笑した提案が通ってしまったことに驚きつつ、言いだしっぺとして書類仕事と各所への連絡に明け暮れている。
今も、オツ要塞宛ての書類やら手紙やらを満載したザックを背負い、デュラン要塞の中央司令所の廊下を発着場へと向かうため早足で歩いている。こういう時、身長が低いのは不利だなあ、と内心苦笑していると、背後から声をかけられた。
『えーっと、そこのお嬢さん?』
お嬢さん、なんて失礼だなあ、と思って振り返ると、そこには、軍服と違い、ベージュの上着に白いシャツを来た、整っているけれどどこか華美な服を着た女性と、手の平サイズのレンズのついた何かを持ったズボンから帽子まで黒い格好の男がいた。
確か、あの何かはカメラ、とかいう映像を撮る機械だったな、と思い出しつつ、二人の左腕に着いた何か文字の書かれた緑色の腕章から記者だと目星を付けた。女性が化粧をしていることから考えて、多分地球側の記者だろう。
『この歳でお嬢さん、なんて呼ばれるなんて思ってなかったよ』
そう呆れてみせると、女性は分かりやすく動揺した。
『そ、それはごめんなさい』
『イヨさん、こっちの人には外見と年齢合わない人がいる、って言われてたっすよね?』
男が女性にため息をつきながらそう言ったけど、言われた当人の前でそれ言うのは失礼じゃない? 流石に指摘しないけどさ。
『一発目から当たり引くとは思わないでしょ普通』
おい開き直るな。なんか調子狂うなあ、と苦笑すると、男が謝った。
『何かすみません』
『別に構わないけど、何の用?』
時間が勿体ないので先を促すと、女性はコホンと気を取り直してから言う。
『私達は『日日放送』というテレビ局のものでして』
『テレビ、って、確か地球のメディアのひとつだっけ?』
『はい、そうです。つきましては、少し取材をさせていただけないかと思いまして』
少し、ということは半刻(三十分)かからないだろう。それくらいの余裕はある。
『いいけど、移動しよっか』
廊下だと邪魔になる。
移動しながら話をする。女性はイヨ・サイトウと言い、男はシューゾー・カゲノと言う名前で、言葉尻からすると、どうもPKOの方々が悪いことをしていないか探りたいようだ。
ヘリ部隊の人に言って発着場の端を借りる。ヘリ部隊の人は親切にも椅子代わりの木箱を三つくれたので、それを置いてメディアの二人と向かい合う。
『今更ですが、映像を撮っても良いですか?』
『いいよー』
そんなやり取りから、取材は始まった。
* * *
斉藤伊予は焦っていた。彼女は、日日放送の関連事務所に入社してから七年勤務しているという、中堅でも新人でも無い微妙なキャリアのリポーターだ。今回異世界という危険地帯に派遣されたのは、何かしなければという焦りからの志願であったが、競争率が低かったのでこうして来ることが出来た。だが、会社から受けた『自衛隊が悪事を働いていると取れる映像か証言を撮っても来い』という指示を異世界に来て三日経った現在も撮れていない。取材期限が一週間と短いこともあり、彼女は焦っていた。
そんな中、皮鎧に古くさいカバンを背負った、明らかに異世界側な人物を廊下で見つけ、声をかけたのだが、ヘリポートの端で取材を始めて一分と経たないうちに、彼女は心が折れそうになっていた。
「良ければ、簡単な自己紹介をしていただいてもよろしいですか?」
「いーよ。私はフィア・ナイ・ドラコアイン王国軍副空軍将兼第一航空試験隊隊長。ドラコ、って呼んで欲しいな」
斉藤は叫びそうになった。フィア・ナイ・ドラコと言えば、『スノウホワイト』の異名を持ち、異世界軍との講和までPKOの連中を殺しまくった殺人鬼だ。そんな危険人物に、これから話を聞かなければいけないなど。斉藤は泣きたくなった。だが、斉藤はプロだ。決して、カメラの前では不要な感情を見せることは無い。
それでも引きつる頬を何とかしようと意識しつつ、斉藤は仕事を続けることにした。
「分かりました、ドラコさん。私は、斉藤伊予で、カメラを持っているのが影野修造です」
「斉藤さんに影野さんね」
「はい。では、早速質問に移ろうと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
軽く息を吸い、斉藤はリポーターの顔になる。
「では、まず、PKOの面々と戦争になると分かった時、貴女はどう思いましたか?」
「うーん」
ドラコは、少し腕を組んで考え込んでから、説明を始めた。
「そもそも、始めはPKOの方々を異世界の軍だと思って無かったんだよね」
「そうなのですか?」
これは、初耳の情報だ。何せ、ここ異世界での戦争の経緯は国際連合の中で機密とされ、公開されていないからだ。斉藤達一般の地球の人々は、異世界の軍は、帝国から対PKOの呼びかけがなされて攻撃をしてきた、と思っている。
突然のスクープに、斉藤は心が躍るのを抑えられなかった。
この作品、最後に書き足したのは一年以上前らしいのです。
その頃より上手く書けるようになっているかなあ?