聖女さまは帝国へもどる
遅くなってすみません。
「本当に世話になりました。大量に余ったエリクサーは、本当に返さなくていいのですか?」
次の日の朝。シークスの家に一泊した私たちは、そこそこ早めの時間に、邸を後にした。
見送りに来てくれたシークスと娘のナナ、使用人の姿をした息子のシチ、そしてすっかり元気になった嫁のヤエ。
少し後ろには、ホブゴブリンのゴウもいる。
「そのくらい、1日あればできるからいいわよ。」
「……そういうものなのか?」
「この人、規格外なの。普通に考えると、ダメなの。」
「まあ、魔族の聖女なんて聞いたことないですからね。ありえないことがありえるのでしょう。」
シークスは苦笑すると、小さいながらもずっしり重い袋を差し出してきた。
「エリクサー代としては、少なすぎますが、我々の精一杯です。どうかお納めください。」
「だから、いらないってば。」
「しかし、それでは、我々の気持ちが収まりません。どうか、受け取っていただけないでしょうか?」
私は、困り果てて助けを求めるようにアレクシスを振り返った。
「んー。もらっとけば?お金なんてあってもこまらねぇし。受け取ることが優しさってこともあるんだぜ。」
「うーん。そっか。まぁ、じゃあ、貰うね。ありがとう。」
この領地もあまり裕福ではなさそうだし、特にお金に困っていなかったから、受け取らない方がいいかと思ったが、そう言われると仕方ない。ありがたく受け取ると、魔法収納へと突っ込んだ。
「嫁と娘の命を守っていただけたのです。正直、安すぎるお礼ですが。我々の気持ちです。」
どうやら、村の人たちからの気持ちも入っているらしい。
なんだかんだ感謝されるって、気持ちいいなぁ。
酷い拒絶を受けた後なので、なんだかこそばゆい気もするが。
「この村は、僕たちが守るから。聖女さまの加護に恥じない働きをして見せるね。」
嬉しそうに、聖女の紋章のあるあたりを撫でるシチ。
「一応、近々聖女として名乗り出る予定だけど、今はまだ、各国が聖女を血眼で探している状況よ。絶対にばれないようにね。それでも万が一ばれた場合は、『加護のある者、もしくはその関係者に関係者に手を出した場合、聖女の敵対国とする。』とかなんとか言っといて。」
「はい。何から何までありがとうございます。」
各国が血眼になって探している聖女だ。
近々名乗り出る、などと聞けば、それこそ自分の国に引き入れようと必死になるだろう。
ま、過去の聖女たちは、ひどい扱いを受けることはなかったものの、それでもやはり国の宝であり兵器、みたいな扱い受けてるみたいだったしなぁ。
「ですが、聖女さま。お気をつけください。この村では、受け入れられている風潮がありますが、基本的に魔族は、人族にとって、恐怖の象徴であり、敵です。人の悪意は、とても恐ろしいのです。どうか、ご無事で。そして、願わくは、私たちが家族として暮らせる世界を。」
「任せて。そのために、来たんだからね。」
自分の子供と、他人のふりをする生活も、決して楽ではないだろう。
きっと、こんな思いをしている人たちはいっぱいいる。
いつか、その昔のように、魔族と人間、亜人たちが何の隔たりもなく暮らせる世界になればいいのに。
「じゃ、また。」
「アレクシス様も、どうかお気をつけて。」
こうして私たちは、1日遅れで帝国への帰路に着いたのだった。
☆☆☆☆☆
「そういえば、疑問なんだが。お前はハーフなんだろ?何ていうか、半分人間、て感じはしないよな。」
「ん?知らないの?ハーフ、っていうのはそもそも存在しないよ?」
「へ?」
「エルフと人間のハーフとか、ハーフエルフって呼ばれるじゃない?あれは、自分たちの種族に誇りを持っているエルフたちが、劣等種の人間の血を引いた者に対して言う、差別的な呼び方なだけで、そもそも魔物や亜人と人間が混ざると、人間の特徴なんてほとんど出ないのよ。」
ぴこぴこと、羽を出したり仕舞ったりして遊んでいるハンナ。
大きなローブを羽織っているので、羽自体は見えないが、ローブがピョコンと膨れたり凹んだりしている。
危機感薄いなぁ。
「そういうもんなのか?」
「んー。遺伝子的に弱い、というか、人間が魔力を帯びると魔族になる、みたいな?魔族の血を引いた時点で魔族になるみたいな?私その辺の理屈は知らないけど。遺伝に関して優劣の種族があるらしくて、精霊族と人間とかだと、人間が優性だとか有ったような。」
「稀に、魔力が弱いと魔族の特徴を持たずに人間として生まれてくることがあるみたいですけどね。その結果、先祖返りなんていうことが起きるんでしょう。」
「へぇ。じゃあ、ハンナは先祖返りって呼ばれてるけど、厳密には獣人て言う扱いなのか。」
「なのなの。」
「でも、そんなことになれば、普通に魔族や亜人が人間と混ざれば混ざるほど、人間が絶滅しちまうんじゃぁ?」
「理論上はそうかもしれないけど、クオーターとかになるとやっぱり魔力が薄れて普通に人間が生まれやすいらしいし。どうしても魔族や亜人を同種として受け付けない層がいるから、平気なんじゃないの。」
そんな話をしながら、気が付けば帝国の首都へと帰ってきた。
「思ったより長い旅だったな。」
最初とは違い、入国審査のある門の方ではなく、パスを持っている人向けの門だ。
これは、ギルドでもらった依頼書を見せるだけでいい。
「よし、通れ。」
門番が事務的な感じで、アレクシスに書類を返す。
こちらの門には、亜人や魔族をチェックする機構は無さそうだ。
そんなことを思いながら少し揉めている様子の正門に目を向けると、亜人奴隷を連れた男が目に入った。
どうやら、奴隷に奴隷の文様が入っていない、とのこと。
そういえば、あの村のシチには、奴隷の文様が入っていたな。その辺は徹底しているのだろう。
同じ家族なのに、娘は普通の人間、息子は魔族の先祖返りをおこしたため奴隷。
やっぱり悲しい。
「仕方ないだろ。どうしても亜人は人間より力も魔力も持ってる。奴隷紋無しに奴隷と主張するのは難しいさ。」
私の視線に気づいたらしいアレクシスが言う。
「そうなんだけどね。」
後でみんな助けちゃおう。
心の中で呟くと、前を向いた。
「ギルドに報告して、あと、変な宗教集団が沸いてるみたいだし、教会も行こう。」
「あんなの見た後だと、教会が胡散臭く感じるな。嫌なもんだ。」
アレクシスの言葉に、祈るように手を合わせ、街中でも遠目に目立つ教会の方をみるゼル。
「でも、宗教っていうのは大事ですよ。文化の発祥でもあり、心のよりどころでもある。」
「お前らが神に祈って大丈夫なのか?」
「主神と魔神が敵対しているなんて記述は、魔族側の文献にはありませんからね。」
そう。
光をつかさどる神と、闇をつかさどる魔神。
二人は相反するものだとはいえ、お互いに敵対しているわけではなく、自分の担当部署を管轄しているだけに過ぎない、というのが魔族側の認識なのだ。
人間側では、魔神を倒したのが神だとか、魔神は悪だとか、言いたい放題みたいだけど。
「ほら、そういう話はこの辺で、ね。」
やっとギルドへと帰ってきた。
時間としては一日半くらいだが、異様に長く感じたな。
「じゃ、私報告してくる。」
「いや、お前が何かやるたびに話が大きくなるから、俺が行ってくる。」
そういって、アレクシスは受付へと向かった。
全く、私を何だと思ってるんだ。聖女さまだぞ!
ま、今までやってきたことを考えると、口が裂けてもそんなことは言えないので黙っておく。
「お疲れさまでした。ではこちから次回からの通行証と、正式な帝国のギルド認定証になります。」
提出した、全員分のギルドカードに、帝国の紋章と帝国ギルドの認定印が押されている。
次回からは、これを見せると審査なく国に入れるようだ。
「皆さん、劣化竜を倒したんですよね?是非素材があれば我がギルドで引き取りたかったのですが……。」
受付嬢は、私たちを順に見回す。
そこそこ質量のある魔物だ。普通に考えれば、人間の魔法収納には入らない。
なので、大した量は持って帰ってきていないと判断したのだろう。
がっかりとした様子だ。
「あ、いえ、持って帰ってきていますので、後で買い取りカウンターによらせてもらいます。」
「え!やった!よろしくお願いします!」
私の言葉に、テンションの上がる受付嬢。
冒険者の質の低下から、魔物の素材も近頃は不足気味だと聞いたし、人間も大変だな。
よし、皆さんのために、たっぷり持って帰ってきた素材を放出しようではないか。
そう思ったと同時。
「売る量とかは、打ち合わせしてからだからな。」
アレクシスに耳打ちされた。
「いったんナルノバ王国に帰る予定なんですから、今は目立ちすぎちゃダメです。」
ゼルにもくぎを刺される始末。
そりゃそうだけどさ。
「さ、売却はあとにして、とりあえず教会に行きましょう。」
私たちは、ギルドでの手続きを済ますと次の目的地である教会へと向かったのだった。
☆☆☆☆
うう。入れない。
「いやー、そりゃそうか。」
「まぁ、そうですよね。」
教会につくと、門の前のオブジェが私とハンナとゼルを見て、微妙に動くのだ。
どうやら、何らかの細工がされているらしいのだが。おかしいなぁ。
ライオンを模したようなその像は、何やらそわそわしているようにも見える。
ガーゴイルの親戚なのかな?多少神聖な気を纏っているので、魔物ではなさそうだ。
というか、魔族と人間の違いなんて、魔力量と見た目だけなのに。
だからこそ、羽根を隠して角を取り、魔力を抑えれば、今までも普通にスルー出来ていた。
今更こんなオブジェごときに、私たちが見破られるはずないのに。
入り口付近でもたついていると、それに気づいたらしい協会の関係者が出てきた。
「ああ、初めての方ですか?すみません、驚いたでしょう。」
ん?この人の様子からするに、このオブジェ、魔族をかぎ分けてるわけでは、ないのか。
「これは、魔力量の判定装置なんです。ちょっと動くくらいはAランクの冒険者だとあり得るんですよ。」
アレクシスとジークハルトが首から下げているカードを見て、苦笑する。
まぁ、どちらかといえば反応していたのはそっちじゃないけど。
「ちなみに、魔族とか亜人が通るとどおなります?」
「襲い掛かります。」
「……ですよね。」
「勇者様なんかは、事前の通達を頂かないと、襲い掛かってしまう場合がありますね。後、聖女さまを判別した場合は襲い掛からずにひれ伏すと言われていますが、私は見たことがありません。生きている間に見る事が出来るといいのですが。」
うん、なんか見れそうだよ。
このソワソワは、ひれ伏すべきなのか、襲い掛かるべきなのか判断しかねてソワソワしてるってこと?
それ、めっちゃ困るやつやん!
何でそんな物騒なものがこんなところに。
「こ、こんなものがあれば、入国審査とか楽になりそうですね。」
「残念ながら、これは過去に聖女の使いとして、神の加護を得たガーゴイルが変化したものだと言われていて、唯一無二なんですよ。」
「へぇ……。」
こんな物騒なもの、その辺にあったら困るもんな!
しかし、本当に徹底して魔族を排除しているんだなぁ。
まぁ、この動きを見るに、多少意志を持った魔物のようなものなのだろう。
それなら、簡単だ。
「とっても可愛いですね。」
私は、像を正面から見据えると、口元だけで嗤った。『ばらしたらぶっ殺すぞ。』という気持ちを込めて。
何かを感じ取った像は、ぴたりと動きを止める。
「あれ?大人しくなりましたね。勘違いだと気づいたかな?では、ごゆっくりどうぞ。神のご加護があらんことを。」
不思議そうに像を見た後、深く気にするでもなく、教会の中へと戻っていった。
停電の影響か、パソコンの具合も悪く、時間がかかりました。
申し訳ありません。
いつもありがとうございます。
これからも、よろしくお願いいたします。




