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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女さまとラザン帝国
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聖女さまと妖精王の娘

「お、終わったあぁ。」


何とか、希望者全員に聖女の加護を施して、休憩に入る。

聖女の力は神の魔力……神力ともいうけど。その神力由来とはいえ、別に魔族や悪魔と相性が悪いわけではない。

攻撃や浄化に使えば、絶大な効果があるのに、魔族にも普通に加護を施すことができる。

実際、魔族に治癒や復活魔法だって効果はある。

まぁ、後日ものすごい倦怠感で寝込むくらいのもので。

ということは、聖女の治癒と加護はまた違うものなのかな。今、加護をつけた人たちはケロッとしてるし。

正直、人体実験とかをしているわけではないのでよく分からないんだけど。


「お疲れ様、なの。これに懲りたら、軽々しく加護とかしない方が良いの。」

「うう。聖女として役に立ちたい気持ちが空回り……。」

「人の役に立ちたい魔族とか、人間から見ると違和感しかないけどな。」


呆れ顔のハンナとアレクシス。

ゼルとジークハルトは、色々と後処理の手伝いに回っているようだ。


「でも不思議なのよね。何かあったらいけないと、念のため護衛代わりにゼルたちを村に置いて別行動をしてたのは確かなんだけど。アジトにはあいつら以外の気配はなかったし、ハンナが替え玉だと分かったのもアジトについた後。私たちがあいつらを倒してしまったのが何かの引き金としても、自爆したタイミングが早すぎる気がするんだけど。」

「うーん、そうか?誤差の範囲な気もするし、何らかの引き金が別に存在したのかもよ。」

「あ、そうだ。途中で、魔王の気配がしたんだった。その頃かも。」


私がボソッと呟くと、あからさまに顔をしかめるアレクシス。


「魔王?俺はそんなもの感じなかったが。勇者って魔王の気配とか感じないものなのか?」

「あんたは、竜帝王の魔法で勇者の魔力を別空間に分けてるからねぇ。普通の勇者とは違うかもね。」


まさか、丁度そのころ魔王が悪魔を処理していたとは知らず、ちぐはぐな会話をしたのち、考えてもよく分からないけど、結果オーライ、ということで話が付いた。


「実際、紛れ込んでいた信者が数人死んだだけで、村人には被害は無し。今後は謎の宗教集団に怯えることも無いだろう。目的は達成ってことだな。」

「そうね。特にこの村は隠れ里だけあって、力を持った先祖返りがいっぱいいるから、本気を出せば戦力に事欠かなさそうだし。」

「聖女の加護付きだしな。」

「あは。あははは。」


聖女の文様は、基本的には他人に見えないように背中や後頭部、耳の後ろにつけたのでそう簡単にはばれないだろう、が。


「しかし、聖女の存在を安売りしてもいいのか?」

「あんなことがあった後だけどさ、ここの村の人は信用してるし。何より、この後ナルノバ王国に帰ったら大々的に聖女の復活を世に広めてもらうつもりなんだから、ちょっとくらい良いわよ。」

「ま、お前の好きにしたらいいさ。うちの国に属してくれるならそれ以上のことはない。」


珍しく王子らしいことを言った後、あくびを一つ。


「今日は疲れたし、早く休もうか。」

「そうだな。」

「あ、ちょっと待ってくれんかの?」

「ああああ!?」


突然背後に魔王(とうさま)が現れ、アレクシスが飛び退く。


「びっくりした!!全身が、ゾワッてなったぞ!?」

「ん?なんじゃ、お主勇者なのか。害虫見た時みたいな反応、止めてくれるとうれしいんじゃがの。」

「と、父様?急に現れると、人間たちが魔力に当てられてしまいますよ!」

「いや、妖精王に特殊な封印石貰ってきたから大丈夫なはずじゃぞ。ほらほら。」


嬉しそうに見せるそれは、かなり大掛かりな魔法のかかっている宝石だった。

なんとも美しい、大粒のサファイアだろうか。


「へぇ。確かに、かなり抑えられてるわね。」

「ふっふっふ、私の全力の魔法がかかってるからね!それでも多少漏れ出してしまうあたり、魔王ってすごいわー!」


父様の後ろからひょっこり顔を出したのは美しい青髪の少女だ。

背中には羽もついており、絵本で見た通りの妖精である。サイズが想定よりも大きいが、それでも、小人、と呼べるサイズである。


「さすが我が娘!見事な魔法だ。」


更にその陰から、威張りくさった態度のおっさんが現れる。


「あ、元妖精王。」

「……その通りだけど、なんか元っていうのを強調されると複雑な気分。」


どうやら、お父様と元妖精王は、海の妖精王を訪ね、一人増えて帰ってきたらしい。と、いうことは。


「妖精なの!欲を言えば、もう少し小さいほうがよかったの。」

「何故初対面でダメだしされるのか。」


やはり妖精に幻想を抱いていたらしいハンナが、複雑な表情で妖精の少女を見るが、妖精の少女は苦笑しただけで受け流したようだ。


「依り代に乗り移った妖精たちは縮むからね。そのイメージが強いのかも。」

「ふーん……。」


何となく、納得したようなしていないようなハンナは、少女とおっさんをじっと見ている。


「そ、それはともかく、娘さんに会えたのね。」

「ああ。やはり海の妖精王に保護されておった。保護、というか、国民を石化させた後、自らの魔力をすべて宝石に移し、自分を封印したんだそうだ。その後、海の精霊王は、石化した国を海に沈めたのち、封印の管理とはぐれた妖精の保護をしてくれていたらしい。彼女には頭が上がらんよ。」

「とにかく国民を石化させることを優先したからね。そのあと怒り狂った聖女が、父ちゃんを封印している間に海へ逃げたの。今、国の石化も解いて、海底都市として結界を張りなおしてきたところだよ!」

「良かったじゃない。石化が解けたってことは、王妃様にも会えたんてしょ?」


何気なく私が言うと、重苦しい空気に包まれる。

あれ?もしかして、言ってはいけないことを言っちゃった?


「母ちゃんは、私を逃がすために聖女に捕まったのよ。石化の魔法が間に合わなかった。聖女の結界に阻まれて……。結果、父ちゃんは箱に封印されて、母ちゃんはそのまま連れていかれて。さっき、海の妖精王に、母ちゃんは聖女に宝石を生み出す道具として、ひどい扱いを受けたと聞いたわ。」

「……。そんな……。」


封印されていた二人にとっては、つい最近の出来事なのだろうが、7000年も前の話だ。

一体その後、彼女はどんな扱いを受けていたのか。

美しい宝石を生み出すことのできる妖精なのだから、様々な苦痛を受けたに違いない。


「海の妖精王の話では、次の世代の聖女が、哀れな妖精を、彼女の望み通り天に還した。と言っていた。本当に宝石を生み出すだけの機構にされ、治せる見込みがなかったのだとか。」


ぎりっと唇をかみしめ、元妖精王は言う。


「いつか、私たちに会える日を夢見て死んでいったそうよ。」


妖精の少女は、悲しそうに眼を閉じた。


「改めて礼を言おう。私は元妖精王のアレキサンドライトという。こっちが娘で、現妖精王のガーネット。我ら妖精族は全てを賭してこの恩に報いよう。」

「そんな大げさよ。必要ないって。」


私は、首を振るが、二人はしっかりと私と父様を見据える。

横からハンナがひょっこりと顔を出した。


「みんな宝石の名前なの?」

「ああ、そうだ。ちなみに嫁の名はクオーツといってな。水晶の名がついた、とてもきれいな女性だったよ。それだけではない。フェンリルに乗って駆ける姿は、力強く、まさに素晴らしい王妃であった。」


そういって元妖精王のアレキサンドライトは優しく微笑んだ。

その後、くるりとアレクシスの方に向き直る。


「で、その礼というか、お願いというか……。」


もじもじし始めるおっさんを押しのけ、精霊王の少女、ガーネットが代わりに続けた。


「一度悪魔と混ざってしまったせいか、父ちゃんに、私の加護が付かなくなっちゃったの。このままだと消えちゃうから、何か依り代を持たないといけないだけなのよ。でも、元とは言え精霊王が付けるほど大きな依り代がなくて困ってたところで、ちょうど今!すっごくいいものを見つけたわけ。」


詰め寄る少女に気圧され、アレクシスはじりじりと下がる。

彼女たちが見ているのは、彼の腰に下げられた聖剣だ。


「偶然なのか何なのか、そこに埋め込まれている石はアレキサンドライトだ。しかも込められている聖女の魔力といい、剣の造りといい、申し分ない。どうか、我の依り代にさせていただけないだろうか。」

「……すっごい、ヤダ……。」


アレクシスは、助けを求めるように私たちを見回すが……。


「いいんじゃない?妖精が憑くってことは、ものすごく強化されるわよ?」

「人助けなら、それも面白そうなの。」

「お前ら、他人事だと思って!要は、ずっとこのおっさんが憑いてくるってことだろ!?」


全力で嫌がるアレクシス。

まあ、仕方ないわよね……。旅のお供に、暑苦しそうなおっさんとか、ヤダわ。


「どっちにしろ馴染むまではしばらく休眠する。その後も、数百年は持ち主が魔力を流した時くらいしか顕現できなくなるはずだ。どうか、頼む!」


おっさんは、必死だ。

まぁ、7000年の封印が解かれたと思ったら、いきなり消滅するのも嫌だろう。


「う、うう。わかった!分かったよ!好きにしてくれ!」

「よっしゃぁ!」


アレクシスが叫ぶと同時、アレキサンドライトは光の塊となり、アレクシスの剣に纏わりついた。

暫く発光すると、そのまま消える。


「聖女様、何から何までありがとね。」

「いいのよ、ずーっと昔の聖女の仕業らしいし、私もなんか責任感じるから。」

「ありがとう。父ちゃんをよろしくね、勇者様。」

「不本意だが仕方ない。力は、あっても困らんしな。」


剣に違和感があるのか、取り外して手で握りしめるとため息をつくアレクシス。


「じゃ、ワシはこの辺で帰るぞ。いい物も貰ったしの。」


魔力を抑える宝石を握りしめ、満面の笑みで父様は言う。


「ありがとね、父様。」

「また、何かあったらすぐ呼ぶとええよ。」


軽く抱擁を交わすと、新しいお守りをくれた後、すごくいい笑顔で城へと転移していった。

ガーネットも、妖精王の仕事があるからと海底に沈んだ国へと帰っていった。


「魔王を小間使いみたいに呼ぶなよ……。」

「かくし芸で呼ぶよりましだと思うの。」

「かくし芸?」

「な、なんでもない!ほら、村長のところに行こう!」


こうして私たちは一つの仕事を終え、今日の寝床へと向かったのだった。



一応、次の更新予定の目安は9/13(金)となっております。


感想や、誤字脱字報告、ブックマーク等、いつもありがとうございます。


何度もチェックしているのですが、どうしても書き直しや書き足しで、内容に矛盾が出たり様々なミスがありまして。指摘していただけて助かります。


これからも、どうぞよろしくお願いいたします。



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