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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女さまとラザン帝国
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聖女さまの乗り掛かった舟

「なぁ、元気出せよ。」

「……別に、元気だし。」

「あんな村、焼き払っちゃえばいいの。風評被害甚だしいの。」

「しないって!」


ハンナの無茶な提案を否定する。

ため息を一つついてゼルの方を見ると、伏し目がちに頷いてくれた。


「そんなことをしたら、人間と和解どころじゃなくなってしまいますしね。」

「なんだかんだ一番短気な奴がよく言うよ。」


あの時点で、真っ先に村を消滅させようとしたのはゼルだ。

魔族だって人間だって、大切なものを傷つけられることは憎しみを生む。

魔族が怖い、というのは、力を持っているから、当然だ。

ブチ切れた蟻と、ブチ切れたドラゴンがいたら、誰だってドラゴンが怖いだろう。

それを、さも魔族が悪かのように語る人間はずるいと思う。


「ところで、ファストとやらの話、聞いてなかったんだけど。」

「ああ、なんか変な儀式していた集団が呼び出した劣化悪魔ね。でかいだけで弱かったから、忘れてた。」

「情報共有って大事だからね?」


アレクシスが笑いながら言うが、なんか目が笑ってない。これは、怒ってるな。


「その後が衝撃的過ぎてすっかり忘れてたんだもん。」

「そのあと?」


これは話したっけ?とか思いながら、ハンナとの出来事も簡単に話す。

古竜のおっさんが出てきたり、ハンナを半殺しにしたり、と。


「一日に二度も半殺しにされると思わなかったの。」


ぷぅっと頬を膨らまして、珍しく子供っぽい仕草をするハンナ。

こうしてみると、この子も7歳なんだよなぁ。

てか、二回って何?

私の視線に、ハンナはいつものジト目で答えた。


「一回目は、ティーナお姉ちゃんに滝つぼの傍でぶん投げられた時なの。子供は、全力で地面に向かって投げると死ぬの。ちゃんと覚えておけ、なの。」

「マジで!人間て、地面より脆いの!?」

「……むしろ、魔族は地面より硬いのか?」


確かに、意識せずにぶつかると痛いけど、自然に魔力操作を覚えるから、危機感に反応して魔力で体守るじゃん。


「魔力で体を守るのって、危なくなると目を閉じるような、条件反射でしょ?……はっ!

魔力が少ない人間は、そんなこともできないのか!」

「はい、ティーナさん、よくできました。殺しちゃったら困るので、次からは気をつけようね。」


呆れすぎているのか、死んだような眼をしつつなんだか少し冷たいアレクシス。


「まったく、本来なら、国をあげて討伐に乗り出さなくてはならないレベルの敵も、一捻りだってんだから。魔族っていうのはつくづく規格外だよな。」

「そう?70代の勇者(シンディ)なんて、剣の一振りで劣化悪魔三体を刻んだとか言ってたし、あんたも半人前とはいえ勇者なんでしょ?手こずるような相手じゃないわよ。」

「……人外のババアと一緒にすんじゃねぇよ。あれは、人間じゃない、魔族の領域だ。」

「勇者を魔族呼ばわりって、あんたも勇者でしょ。どうなのそれ。」

「俺は、劣化勇者(はんにんまえ)なもんでね。生粋のやつらと一緒にしないでくれ。」


あーあ、ちょっと遊びに行くつもりが、大ごとになってしまったなぁ。

劣化悪魔(レッサーデーモン)と戦ったり、村人に聖女だって明かしたり。そんなつもりは、微塵もなかったのに。

劣化竜(レッサードラゴン)の討伐だけで、さっさと済むものではなかったし、仕方ないけど。


「ねー、アレクシス(あんた)の、その勇者の因子の半分は帝国の王子が持ってるんでしょ?」

「仮説だけど、おそらくはそうだろうな。」

「あんたはどうしたいの?」


力を渡すのか、それとも貰うのか。

そもそも受け渡しの方法なんて知らないけどね。


「いや、勇者とか俺無理だし。そもそも、力を求めてる帝国のトップが、完全な勇者の力を手に入れられるかもしれない状況で、手放すわけがないだろ。」

「ふむ、それもそうかぁ。」


帰り道は、特に敵に出会うでもなく、のんびりとした帰り道。

人間に拒絶されたことが悲しくて、あまりいろいろ考えないようにしながら、深く考えない会話をする。

アレクシスたちもわかってくれているのだろう、一つの話題の深く突っ込むこともせず、たまの沈黙も交えつつ、帝国の首都へと帰る。

依頼もこなしたし、あとは帝国のギルドで身分証を出してもらえれば、次からはすんなりと国に出入りできる。

そんなことを思っていると、がさりと茂みが揺れた。


「勇者!?勇者様なのですか!?助けてください!」


ん?

なにやら、薄汚れた男が、突然茂みから現れ飛びだしてきた。


深い森の中を歩いているのだ。

所々で弱い魔物の気配はしていたが、人のにおいはしていなかったので、基本的に無視をしていたのだが。


「なるほど、奴隷か。」


130センチほどの小柄で、人間の子供に似ているが、尖った耳と緑色の身体。

よく見るとサイズの割には老けた顔をしているので、成人男性なのだろう。

片耳には切れ目と識別番号の刻まれた魔道具が付いており、誰が所有しているのかといった情報が刻み込まれていた。


「なんだ?主人から逃げてきたのか?悪いが、奴隷を勝手に開放したり連れ去るのは犯罪でな。」

「ち、違います!ご主人様を助けてほしいのです!」


ううーん。

普段なら、面倒ごとには喜んで首を突っ込むところなのだが、昼間のこともあり、正直心が折れかかっているので、できればご遠慮したいところなのだ。


「どうする?お嬢様?」

「やだ。帰る。」

「だそうだ。助けが欲しいなら、帝国のギルドにでも行きな。」

「そ、そんな!!お願いします!!」


しつこいぞ、こいつ。

思い切り冷たく突き放したが、それでもしつこく食い下がる。

目には涙が浮かんでいる。どうやらこの男は、ホブゴブリン族のようだ。

人間より身体能力はあるが、魔法が苦手で、自然に溶け込んで暮らすことを好むため、人間に言わせれば、野蛮な一族、らしい。

人間たちは知らないだろう。彼らは芸術性に富み、農作業や家畜の扱いにたけたとても素晴らしい民なのに。

争いを好まないため、人間と衝突することも少ないし、集落からはぐれたホブゴブリンが人間の奴隷として暮らして居ることは珍しくない。


「疲れてるのよ。こんな状態じゃ、あんたの望みをかなえられるとも限らないわけ。助けられなかったら意味ないでしょ?」

「で、でも、さっき勇者だって!」

「ほらアレクシス、ご指名だ、行ってこーい。」

「ちょ、俺だけ!?てか、あんまり勇者って言うなよ。俺は本来存在しないはずの勇者なんだから。ばれちまったら隠してる意味がないだろ。」

「あ、そうだった。ばれたところで私に実害がないから、つい。」

「……お前ってそういうやつだったよな、そういえば。」


私たちが言い合いをしている間、男はおろおろと私たちを見ながらうろたえている。

ホブゴブリンを奴隷にしていて、その主人といえばほぼ間違いなく人間だろう。今日はもう、人間にかかわりたくないのだ。

助けたらまた、魔族め!死ね!とか言われるじゃん。絶対やだし。


「今夜は満月です!どうか、お嬢様が、生贄になってしまう前に、助けてください!」


その言葉に、全員の動きが止まり、ホブゴブリンの男を見る。

……。また、生贄?


「まさかとは思うけど、生贄を使って聖女を呼び出そうとかしてる黒いローブの集団だったりする?」

「な、ご存じなのですか!?」


……。

またお前らかぁぁぁぁ!!


「あー、えっと、劣化竜を連れて来る黒ローブなら、一掃したはずだよ?」

「へ?劣化竜?」

「違うの?」

「60頭ものビッグホーンを使役している集団です。定期的にビッグホーンの餌と生贄を要求しに来まして……村はもう限界なんです!ギルドにも討伐依頼を出しましたが、なかなか冒険者の方は派遣されず、ついにお嬢様が生贄になる日が来てしまいまして。確かに大した謝礼は出せません、しかし私にとっては大切な家族で!!いてもたってもいられず、私の給金を握りしめ、家を飛び出してきた次第です!」

「……なんだその、微妙に違うパターン!」


ついつい叫んでしまった。


「ビッグホーン自体は大した敵じゃないけど、60頭って結構多いね。」


大抵は10頭前後で行動するビッグホーンを思い描き、呟く。

あれ?ビッグホーン?


「あー……大丈夫、おそらく残りは10頭だ。」


アレクシスは苦笑しながら首をかしげて見せた。


「なんか、乗り掛かった舟っぽいし、手助けするのもやぶさかではないんだが……。」

「村人が冒険者を殺しに来たり、劣化悪魔に変身したりしないでしょうね……。」


ジークハルトとゼルはため息交じりに呟く。


「な、何ですかその修羅場は。」


ホブゴブリンの男性は、訳が分からない様子で答えた。

そりゃ、わけわからんだろうな。あんなごちゃごちゃした戦いはもう二度とごめんである。


「まぁいいわ。仕方ない!もう悪魔でも竜でも何でも来いっての。」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」


涙を流して喜ぶホブゴブリンの奴隷さん。


「ワタクシ、シィナ家に仕える奴隷のゴウと申します。見ての通り、ホブゴブリン族です。」

「私がティーナ、こっちがハンナとゼル。向こうにいるのがアレクシスとジークハルトよ。よろしくね。」

「勇者様ご一行が来てくださるなら心強い!どうぞよろしくお願いします。」

「あー、悪いんだけど、勇者っていうの黙っててくれる?」


アレクシスは困ったように付け足す。


「あ、お忍びの旅でしたか!えっと……30代の勇者様……は王子さまでしたっけ?あれ?そうすると50代の?あれ?」


年齢や見た目から、30代の勇者であるクラウス王子でも、50代の勇者であるラルフでも無いことに今更ながら首をかしげるゴウ。


「その辺は、スルーして。」

「は、はい!」


下手に追及して、依頼を断られるわけにはいかない。ゴウは多少の疑問は抱えつつも、家族である雇い主の少女を助けることを優先したのだろう。

それ以上は突っ込まず、自分の住む村へと案内を始めたのだった。


帝国の首都と、さっきの村との中間地点にある村のようだが、来た道を少し戻ってしまうことになるのが残念だ。


「ところで、何で草むらから現れたの?」

「あ、えっと、その、人によっては亜人を忌み嫌う事もありまして。なるべく接触しないようにと、隠れた次第です。しかし、勇者という言葉を聞きまして、つい。特に、ラルフ殿とシンディ殿は亜人や魔族への差別意識が薄いとよく聞きますので。」

「まぁ、確かにそうかもしれないけどさぁ。クラウス王子とかは、亜人も魔族も忌み嫌ってるって話もあるし、流石に奴隷をいきなり殺すとかはないと思うけど、気をつけないとだめよ。」

「はい、ご忠告痛み入ります。」


そんなこんなで、しばらく歩くと、さっきの村よりもずっと寂れた小さな村へとたどり着いたのだった。


少し短めですが、お盆で少し忙しいので・・・。


いつもありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

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