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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女さまとラザン帝国
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竜帝王とゆかいな仲間たち

「……くくくっ!くはははは!!」


ざわり、と空気が揺れた。

ティーナたちが去った後、村の片隅で砂が舞い上がった。

そこに現れたのは、一人の男性。


「とんだ邪魔が入ったものだな。」


その人影を、満足そうに見つめるのは、現れた男よりも一回り大きな男性だった。


「はっ!申し訳ございません!」

「良い。吾輩も油断した。まさか、完全覚醒前に聖女が現れるとは。」

「お恥ずかしながら、糧である劣化悪魔を犠牲に、何とか生き残りました。」

「吾輩もだ。あれほどの力を持った聖女がいるとは、復活したての悪魔の身体では勝てる保証はない。劣化悪魔を倒しただけで満足して去ってくれたのは、僥倖であった。力を取り戻し次第、殺しに行かねば。」

「まったく、天使どもの話を鵜呑みにしてはいけないという、見本ですな。仲間にも連絡しておきましょう。」


夕暮れ時、あのような殺戮劇があった村では、ほとんどの人間は家の中から出ようとはしなかった。

様子を見に来た騎士団も、劣化悪魔が現れ、それを冒険者が倒した、という報告を持って帰った後なので、村は静まり返っていた。


「全くだ。どこに耳があるかもわからんしな。」

「ひっ……。」


男たちが目を向けた先には、ローブを着た一人の男。

村人に紛れていた、真・聖女教の一人だ。

彼は、どさくさにまぎれて、この村から逃げようとした。しかし、その生き延びる事への焦りが、皮肉にも裏目に出てしまったのだ。彼は、二人の悪魔と目が合い、その瞬間、恐怖の感情に覆いつくされ、生きることを放棄した。

どさり、と倒れ伏す男。

男を一瞥すると、男たちは口元を持ち上げていやらしく笑った。


「人は弱い。これほどまでに弱くなっていたのか。」

「……ふむ。やはり、()()の影響でしょうか。うまくいっているようで何よりです。」

「程よく手入れしてこその庭木だからな。人間だってそうだろう。家畜は、太らせて食うに限る。」

「せやなー。7000年ぶりにフォアグラとか食ってみたいわ。」

「「なっ!?」」


倒れた男の更に向こう側から、一人の老人が現れた。


「貴様、何者だ!」

「ん?ワシ?通りすがりのジジイやで。あ、ちなみに言ってみたはええけど、7000年前にもフォアグラとか食ったことないからな。」

「そんなことは聞いてない!その魔力、人間ではないな!?魔族か!」

「いやー、見た目はこんなんやけど、生まれてこのかた、ずっと心は人間やで。あ、今は人間の姿やっけ?」


老人はよっこらせ、と腰を伸ばすとワザとらしい仕草で腰をトントンと叩く。


「ふざけるな!」


男は、鋭い爪で老人を切り裂いた。()()()()()()|。


「おお、危ないな。ワシの可愛い孫ちゃんに魔の手が伸びたら困るんでな。雑草の処理はきちんとやっておかんと、夏場の庭とかすごいことになるんやで?知っとる?」

「だから何だ!くそ!ファスト様、お気を付けください!こいつ、只者ではありません!」

「ふん、この気配からするに、なんらかの竜の一族だろう。貴様一人では荷が重いかもしれんが、吾輩とがいれば、倒せる。慌てるでない。」


大柄な方の男が、ずいっと前に出る。


「わしもな、全盛期やったらお前らくらいちょろいんやけども。悪魔二人か。久しぶりの運動にしては、ハードやのぉ。」

「ふん、誰が二人だと言った。」


大柄な男が片手をあげると、暗闇の中からさらに三人の男が現れた。


「あ、何や、いっぱいおるんやん。……卑怯やで!」

「卑怯もくそもあるか。のこのこと現れたトカゲ風情が。さっさと消え失せろ。」

「おわぁぁぁっ!?」


無言で放たれた攻撃魔法を、わざとらしく紙一重で避けると、老人は空に向かって手を振った。


「あかんわ。やっぱり手伝ってーな、シンディちゃん!」

「やれやれ、耄碌ジジイが。あんたたちと違って人間は繊細なんだ。70過ぎた年寄りをこき使うんじゃないよ!」


繊細、といった本人は、空に控えていた古竜の背中から飛び降り、ふわりと地面に着地した。

普通の人間にできる芸当ではないのだが、本人たちはお構いなしだ。


「なんだ、やけに老いぼれた助っ人だな。」


ファストと呼ばれた悪魔の男は、余裕の表情で嗤っている。

手下らしき悪魔は、話の最中もそれぞれがシンディと老人に向けて魔法を撃ち続けている。

二人は、それを避けたり弾いたり打ち返したりと、休む暇がない。


「もう引退したいんだが、なかなか見込みのある弟子が育たなくてね。やっと見つけた後継者たちを、むざむざ殺されるわけにはいかないんだ。」

「残念だったな、その後継者とやらが育つ前に死ぬことになって。」


大柄な悪魔(ファスト)が剣を抜き、シンディに斬りかかる。

シンディは、全く慌てずに自分の剣を抜くと、うっすらと発光するその剣で、正面からファストの斬撃を受けた。


「ほう。なかなかやると思えば、貴様、勇者か。聖女の次は古竜に勇者……。面白い!」


二人は、何度も切り結ぶ。

剣技ではシンディの方が格段に上だが、やはり年と力の差があり、有効打を与えるには至らない。

そんな二人を横目で見ながら、竜帝王(ジジイ)は苦笑した。


「人間が弱くなったとはいえ、やはり勇者は別格やな。ワシもさっさと片付けて助太刀しよか。」

「ちんたらしてんじゃないよ!あたしだって、そんな長くはもたないからね!せっかくかわいい孫を手に入れたんだ。まだ死にたかないよ!さっさと倒しちまいな!」

「とはいっても、こっちも悪魔4匹おるんやで、シンディちゃん頑張ってや。」

「五月蠅い!人間とトカゲがつるみやがって!」


4体の悪魔は、竜帝王を取り囲み、それぞれ爪や剣で攻撃をしながら、体力を奪っていく。

村を巻き込むことを警戒して、防御壁を張ったり、力を加減して戦っているので、正直かなりきつい。

それでもなんとか、一体、二体と数を減らしていき、最後の一体と向き合う。


「どうや?耄碌したジジイでもなかなかやるやろ。」

「き、貴様ぁぁぁ!」


血の流れ出る腕を抑えながらこちらを睨む悪魔にひらひらと手を振ってやる。


「あまり調子に乗るんでないよ。」


ところどころ服を切り裂かれながらも、シンディは確実にファストを追い詰めていた。

流石、このババア強い。

ババアといっても、ワシの1/100しか生きてないけど。50年ほど前は、年甲斐もなくドキドキするほどの美女だったのに……勿体ない。

姫騎士とか、やっぱり元異世界の人間としては、萌えても仕方ないやろ。うん。


「ファスト様、我々の力を……!」


最後の一人を倒すと同時に、悪魔の一人が何かの呪文を唱えた。

あ、これ不味いやつや。

ワシは慌てて倒した悪魔に止めを刺そうとするが、一瞬遅い。


「ガハッ!」


かろうじて優位に立っていたシンディは、膨れ上がったファストの魔力に弾き飛ばされる。


「油断、するなと、言っただろう……。」


木に叩きつけられ、血を吐くシンディ。

一気に不利になった、と、治療のためにシンディに駆け寄ったが、彼女は手で俺を制すると、ファストへの警戒を促す。


ファストは、五体の悪魔を取り込み、先ほどまでとは比べ物にならない魔力を放っていた。

治療をしている間、待ってくれるほどお人よしには見えない。

まずいなぁ。


シンディはというと、懐から何やら小さな瓶を取り出すと、そのまま一気に飲み干す。

まさか、あれって……。


「よし!完全体の悪魔なんて何年ぶりだい!?ワクワクするねぇ!孫にもいい所見せたいしね!」


相当大きなダメージを受けていたはずのシンディは、すくっと立ち上がり、ファストを睨みつける。

……今の、特級回復薬(エリクサー)だよな?

いくら勇者とはいえ、そんなにホイホイ飲んでいいものなのか?バカ高かったはずじゃぁ?


「あんたも何を呆けているんだい!来るよ!」


大きな衝撃波とともに、地面がはじけ飛ぶ。

何らかの魔法を使ったのだろう。さっきまで俺たちがいた場所は、どす黒く変色していた。


「ちなみに孫って、あの、うちの娘の背中に乗ってる少年の事なん?」


豆粒のようにしか見えないが、シンディをのせてきた古竜の背中に、もう一人の人影がある。


「そうだよ?」

「どう見ても、角と羽があって、人間には見えへんけど?ていうか、血のつながりないやろ。」

「それが何なんだい?」

「まぁ、ええけど……。」


相手の攻撃をかわしながら、反撃の機会をうかがうが、こいつ、恐ろしく強い。

正直、かるぐちでも叩いてないとやっていられないほどに。


「こんなところであんたと死ぬのは不本意だね。」

「ワシ、まだ死なへんで。ヒメちゃんの花嫁姿見るまで死ねるかいな。」

「あたしも、孫の前で無様な姿は見せられないね!」


重い衝撃波が、ワシとシンディに傷をつけるだけでなく、村を守るための障壁にヒビを入れる。

くそ、流石に守り切れへんぞ。


シンディが傷つくたび、上空からものすごい殺気が放たれる。

しかし、降りてはこない。本人が一番わかっているのだろう。足手まといにしかならないことを。

賢明な判断だ。さすがは魔王の息子。


「もういいだろう。遊び飽きた。死ぬがいい。」


先に膝をついたのはシンディだった。

人間の中では最高峰の勇者も、歳には勝てないか。

昔の彼女なら、この程度の相手に後れを取ることも無いはずだ。

ワシも、結界に割く魔力がなければな、と負け惜しみを考え始めた時、空から一つ影が落ちてきた。


「おばーちゃんに何するのさ。」


聡明な少年だと褒めたところだというのに。

勇者の印を持つ魔族の少年は、シンディを庇う様に立ちふさがった。


「まったく。まだ、あんたじゃ相手にならないよ。100年してから出直してきな。」

「守りたい相手を守れないで、100年も後悔して生きるなんて、拷問もいいところだよ。」


この子は、まだ魔力の扱いに慣れていない。

莫大な魔力を扱うための、身体(うつわ)が足りていない。

身体さえ成熟すれば、神や魔神に匹敵する可能性すらあるほどの力を秘めているというのに。


「勿体ない。」


ついついそう呟いてしまった。

全く。

禍々しい匂いをかぎ取り、災いの種を積んでやろうと思ってやってきたが、シンディだけでなく、未来ある若者まで……いや、まてよ。

この子は、あいつの息子だろ?


「死にたいなら、貴様から殺してやろう。」


悪魔(ファスト)は、余裕の笑みを浮かべ、右手を振り上げた。

しかし、その手は、振り下ろされることなく、消滅した。


「はい?」


ファストは消え去った自分の右手をまじまじと見つめ、そのあともう一度自分が殺そうとしていた相手の方を見る。

そこには、先ほどまではいなかった引き締まった体躯の男が一人、少年とシンディを庇う様に立っていた。

よく見ると、その足元には召喚の魔法陣が光を放っている。エミールが、呼んだ男は、今日の天気でも尋ねるかのように、軽い口調で言った。


「誰を、殺すと言ったのじゃ?」

「……次から次へと!!」


怒りに任せ、逆の手を振り上げるファスト。しかし、その腕も、次の瞬間には消え去っていた。

圧倒的な力を持つその男は、煩いハエでも払うように片手を軽く払う。


「まさか、ワシの天使を殺そうって言ったわけじゃ無いよね?」

「…え、魔…。」


ファストは、自分の身に起きたことすら理解できないまま、肉片一つ残さずに消滅した。

何だよ、この理不尽な力。魔王って、こんな奴だったか?

最後に見た時よりも、桁違いに強くなってやがる。


「父様!」

「おうおう。ワシの可愛いエミール!大丈夫だったかの?どこか怪我は?痛いところはないかの?」

「全く、あたしたちと戦うときにその力を使えば一発だってのに。全く、親ばか魔王には困ったもんさね。」


傷一つない少年を抱きしめ、体の隅々までチェックする魔王を見て、シンディは苦笑する。


「結局おいしいところは全部持っていかれてしもたやん。」

「何じゃ?急に呼ばれてきてみれば、シンディに、古竜のジジイではないか。」


暫く息子をなで回し、満足してやっと周りを見たらしい。


「こんなところで何をやっとるんじゃ?」

「いや、ちょっと、不穏な因子を摘み取りに来たんやけどな。思いのほか寄る年波には勝てなくてな。」

「そんな分身体で来るからそういうことになるんじゃろう。」

「ち、バレバレか。」

「おぬしがそんなに弱いはずなかろう。シンディと違って歳を感じる身体でも無かろうに。」


そういって辺りを見回す。

ほかの敵を探しているのだろう。

特に敵がいないことを確認すると、息子(エミール)の方に手を伸ばす。


「さ、パパと一緒に帰りましょうね!」

「やだ!もう少しシンディばーちゃんと一緒に修行する!」

「……。」


エミールが、シンディに抱き着き、シンディは勝ち誇った顔で魔王を見る。


これが、この世で最強ともいわれる魔王の姿なのか。

あんぐりと口を開け、だくだくと涙を流しながら放心していた。


「今回の礼の代わりに、しばらく修行つけてから返してやるよ。あんたは嫁さんのところへさっさと帰りな。」


シンディの言葉に、魔王は助けを求めるようにワシとエミールの顔を見るが、どうやらエミールはシンディとの修業が楽しくて仕方がないらしく、大喜びをしている。

この状況で、ワシにできることなど何もない。


「……後で、ちゃんと送り届けてやるから。」


そう言うのがやっとだった。

それ以上、何も言えなかったし、できなかったのだから仕方ない。


最強の力を持った魔王は、燃え尽きた灰のようになりながら、転移の魔法で城へと帰っていったのだった。


いつもありがとうございます。

久しぶりの魔王さま登場でした。ちょっとかわいそうなので、またそのうち、子供たちとの時間を満喫できる話を挟めたらいいなと思っています。


これからもよろしくお願いします。


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