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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の旅路
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聖女さまは家出に失敗する

今回は、少し長くなってしまいました。

「ここでは、ゆっくり話し合えないわね。みなさん、場所を移しましょう。」


母様に促され、しぶしぶと従う。

呆れ顔のゼルと何か言いたそうな父様を引き連れ、明らかに怒りがにじみ出ている母様の背中を見つめながら、作戦の失敗を痛感した。


父様だけなら、キラキラを使えばどうにでもなった。ゼルも力任せに気絶させることもできなくは無い。しかし、流石に、普通の人間である母様に手を上げれば、どうなるか。

間違っても殺すようなことになれば、たとえ聖女の力で癒したとしても、許されるものではない。

まぁ、母様に手を上げようとすれば、私もただでは済まないだろうけど。


「あなたも来なさい、エミール。」


声をかけられ、木の陰からそっと出てきたのは弟のエミール。さっきまでは気づかなかったが、一瞬、両親に対して敵意を出してしまった時、刺さるような殺意を感じたのは気のせいではなかった。


「姉様、あんまり勝手なことばっかりしないでよね。」


10歳になったエミールは、まだ子供とはいえずば抜けた才能を持っていた。魔王譲りの魔術に、剣術、母譲りの回復魔法も神聖魔法レベルで使いこなす。

正直、私との相性は最悪だ。

キラキラを操れる以外は、まったくかなう気がしない。


「父様はともかく、母様に手を出すなら、僕が相手をするからね。」


エミールが母様の側につくのであれば、正直力ずくで家出することは不可能になったと言っても過言ではない。

私が(エミール)に勝てたのは、彼が5歳の頃までだ。

少なくとも魔族の中で、彼に剣で勝てるものはいない。こんなことなら、剣にキラキラ付けてあげなきゃよかった。


「……()()()()?」


なんか、父様が密かにダメージを受けているが、それは置いておこう。


「エミールは、マザコンなんだから。」

「母様のこと嫌いな奴なんて、いないよ。姉様も、母様の事大好きなくせに。」


不貞腐れながら、挑発程度に悪口を言うが、エミールは乗ってこない。

腕も立つ上に、馬鹿じゃないのが扱いづらい。

そう言う意味では、私がいなくとも城の守りは安心なのだけれど。


「父様は?父様は?」

「今はそう言う話じゃないから、黙ってて。」

「はい……」


威厳のかけらもない親バカ魔王は、愛息子(エミール)にバッサリと切り捨てられ、小さくなっている。

普段だと、母様が聖母の笑みで癒してくれるのだが、今はその気休めもなく、少しかわいそうな気もするけど。


しばらく歩いて、広間にたどり着くと、母様に促されて全員が着席した。


「さて。ティーナ。貴女は、家出しようとしていたのね?」


全員が座ると同時に、私を正面から見据えた母様が言った。


「は、はい……。」


力では私の方が強いかもしれないが、やはり母である。

尊敬もしているし、なんだかんだ言って、怒ってるのを見ると怖い。


「私は、みんなも知っているように純血の人間です。力任せに戦えば、小さな子供にすら一瞬で殺されてしまうくらい、弱いわ。人間は、とても弱いの。」


息継ぎをする頃、優雅とも言える、自然な動作で入ってきたゼルの父(ロベルト)が慣れた手つきで紅茶を出し始めた。

同時にゼルの目が泳ぐが、ロベルトはチラリと彼を見ただけで壁際に控えた。


「だからとても臆病なのよ。正直、ケロッと溶岩に浸かる魔族や、毒の沼で洗濯している魔族、猛毒の植物を美味しそうに食べる魔族を見て、ものすごいカルチャーショックだったわ。」


頭を抱える母。確かに、瘴気の森は人間には危険すぎる場所でも、魔族には住みやすい所だったりする。

人間の物差しで測るから、魔族が異常に感じるかもしれないが、魔族は魔族のルールの中で生きている。


「それでも、私の命を助けてくれただけでなく、一度たりとも蔑まず、真面目に話を聞き、こうやって仲間に加えて家族にしてくれた父様やみんなには、感謝しても仕切れないと思っているの。」

「し……シルフィーヌ……!」


感動の涙を流し、母様に抱きつく父様。さっきから、魔王の威厳は微塵もないが、それが父様なのだ。優しくて、涙もろくて、家族想い。

だからこそ、その父様を悪だと言い切る人間が許せなかった。

母様は、苦笑しながら、父様の背中を撫でる。


「だから私も、正直我慢の限界にきている部分はあるわ。大切な家族である魔族を、殺して当然だと言う顔で切り捨てる人間を、本当に情けなく思うの。」

「でしょ!?だから、私は……!!」

「でも、それはそれ。私も、父様も貴女たちが大事なのよ。」


困った顔をする母様。父様もウンウンとうなづいている。

母様に撫でられながらなので、やはり威厳はない。


「貴女は、神聖魔法を使えるだけでなく、聖女の力を持っているわ。一つの国に一人か二人程度しかいない神聖魔法の使い手を、盾として使い捨てるくらいのことは、平然とやってのける人たちだもの。もし貴女が聖女だと分かれば、どんな手を使っても捕まえ、いいように扱おうとするでしょう。洗脳し、人質を取り、傷つけ、思い通りに動かなければ、他人の手に渡る前に殺そうとしてくるかもしれない。」

「私は強いわ。捕まったり、殺されたりなんかしないもの。」

「確かに、洗脳も効かない、傷をつけてもすぐ治る、毒を飲もうがケロッとしている聖女なんて聞いたことないけど。それでも、例えば私たちやゼルが人質に取られたら?」


母様を人質にしようと思えば、父様とエミールを先に倒さなければならないし、相当大変だとは思うし、そもそも、魔王である父様を倒せる人がいないから人類は躍起になってるんだろうけどね。


「そんな奴らやっつけてやるわ!」

「手を出してくる相手を、手当たり次第に殺すの?」

「そ、それは……」

「殺せば、また憎しみを買うわ。しかもね、貴女が人の街に出ていかなければ起きることがないような事件が起きてしまうかもしれない。殺さなくてよかった人を殺さなくてはいけなくなるかもしれない。」


私は、何も言い返せなくなっていた。

私が、出て行く事によって、余計な事件が起きてしまうことを懸念しているのだろう。


「それでも……私は、みんなを守りたいのです。」


子供のわがままのように、ただ、それだけをつぶやくように絞り出した。


「それに関しては、私も同じよ。」

「僕だって、そうだよ。」


母様に続いて、(エミール)も同意する。


「だから僕は強くなる。僕は、手の届く範囲は確実に守ってみせる。」


10歳の子供に守られる魔王というのもどうかと思うが、正直なことを言えば、彼は、魔王に負けず劣らずの実力を持っているのだ。

だから、彼が守ると言えば、本当に守れるのだろう。


「だから、姉様は、好きにしたらいいよ。」

「ほえ?」


てっきり反対していると思っていたエミールから、思わぬ援護がきて、間の抜けた声を出してしまった。


「父様が過保護だから、みんな忘れがちだけど、姉様って相当強いからね。単純バカな部分があるから、心配なのは間違いないけど。」

「エミールは、常に一言多いわね……」


味方をしてくれてるのかなんなのか、毒舌すぎてわかりづらいが、どうやらエミールは反対ではなさそうだ。

呆れたようにため息をついた母様は、目を閉じて少し考えをめぐらした後、


「一年で、少なくとも一度は帰って来なさい。人の世界を見て回るのも経験の一つでしょう。」

「え!?シルフィーヌ!?」


まさか、許可すると思っていなかった父様は、椅子からずり落ちそうになっていた。


「ダメじゃよ?マイスイートエンジェルを、危険に晒すなんて絶対許さんよ?」

「あなたも昔、お忍びでこっそり城から抜け出したことがあるって言ってませんでしたっけ?」

「ぐぬぬぬっ」


父様も同類かい。


「心に刻みなさい。人を信じすぎてはいけません。言葉で説得なんて、この数百年一度も成功していないのですからね。」

「じゃから、行っても無駄なのだと言っておろうが。」

「でもね、私は、魔族を心から愛せるようになったのよ、あなた。」


そう言って、母様は父様を抱きしめた。


「うーむ……そう言われてしまうと、わしは弱いからな。」


少し、顔を赤くしながら、父様は言葉を続ける。


「こっそりと、危険に飛び込まれるよりはマシかの。とにかく人前では、そのキラキラを絶対に出さないこと、聖女だと言わないこと。何かあったら年配の勇者(ラルフ)を頼りなさい。手紙を用意するから。後、あの若い方の勇者の言葉は、何があっても信じるでないぞ。」


魔王の娘が、勇者を頼るのもどうかと思うが、父様が信用している唯一の人間なのだろう。

手を挙げると、ロベルトがペンと紙を持って来て、父様はサラサラと手紙を書いた。


「ほれ。この手紙を持って行くがいい。大量の魔力を流し込まないと読めないようにしたから、万が一落としても安心じゃ」


何、その便利な技術。今度ゆっくり教えてもらおう……。


「ありがとう、父様。」

「あとな、母様よりも人間の生活に詳しい奴を案内につけるから、連れて行くがええ。明日には、呼んでおいてやるからの。あと、ゼル。娘をよろしく頼むぞ。」

「やっぱり、私も行く事になりますかね?出来ればやっぱり遠慮したいかなって。」


ここまで来て、すごく後ろ向きなゼル。自分から行くとか言ったが、まさか本当に両親から許可が出るとは思ってなかったのだろう。

その耳元に、低くどすの利いた声が囁かれる。


「お嬢様に指一本触れてみろ、私が殺してやるからな。」


いつのまにか、ゼルの隣にいたのは執事のような格好をしたロベルトだ。


「ひっ……」


全力でビビる息子(ゼル)


「いいですか、ゼル。命をかけてお嬢様を守るのですよ。」

「は、はい……。」


逃げ道のなくなったゼルは、死んだような目をしているが、尊い犠牲だと思って諦めてもらおう。


「では、今日は遅いのでもう寝なさい。出発は明後日の明るい時間にする事。分かったかの?」

「はい。」


スッと立ち上がって、有無を言わさない威圧を込めた父様に、やっとの事で威厳が戻った。


こうして、私の家出は失敗したものの、旅の許可は下りたのだった。


やっと、旅に出る下地ができました。


ちなみに、旅に出る前に、ちょっと別の話を挟む予定です。



ブックマーク、コメント、メッセージ等本当にありがとうございます。とても励みになります。


面白かった、と思っていただけたら、ページ下部の評価の方もどうぞよろしくお願いいたします。

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