聖女さまと村の黒幕
「と、いう訳なんです。」
村人が語った内容は、おおよそ想像通りの内容だった。
要は、我が身可愛さに自分たちを助けに来た冒険者を殺し続けていた事になる。
約束通り、リーダー格の男は聖女云々の下りや、解呪をしたあたりはぼかして話さなかったが、大まかな経緯はわかった。
だがしかし、他人の立場でそれを責めることができるかと言われれば、難しい。
自分の大切な人の命と、あかの他人の命、平等だというのは綺麗事だ。
戦争で、死者の名前がずらりと並んだのを見て、自分の知人や血縁者がいないことが確認できると、その死者の数に心を痛めるより先にホッとするだろう。
それは、人間でも魔族でも同じで、少なくとも私は、そのことを責めるつもりはない。
「それは……大変でしたね。」
生贄を出さないと殺される。
しかし、出したところで次を要求されるだけ。
家族を殺さないために、見ず知らずの冒険者を犠牲にすることで、何とか乗り切っていた事実。
「聖女教というものがあるのは知っているが、ここまで無茶なのは聞いたことがないな。黒魔術を織り交ぜた新興宗教か?」
「優れた治癒能力を持つ巫女をたて、聖女の奇跡をうたったものや、実際の聖女の遺品なんかを祭っていることはあっても、生贄だなんだという話は初めて聞いたぞ。」
アレクシスとジークハルトは、顔を見合わせて首をかしげる。
いつも喧嘩をしているように見えるが、結構この二人はなかよしだ。実際、妹が絡まないとジークハルトに欠点は見えないし。
「我々も詳しいことはわかりかねますが、実際そういって生贄を要求されていましたし、少なくない数の村人が殺されています。」
村長とリーダー格の若い男が俯きながら言った。
その様子を何か納得のいかないような顔で見つめていたゼルが、問う。
「ちなみに、ずっと疑問なんですけど。何故一番初めの段階で魔物討伐の依頼を出したのですか?その様子だと、国の方にも劣化竜の被害しか報告してませんよね?劣化竜の討伐でなく、村人を虐殺する危険な宗教集団の排除依頼を出せば、話は違ったのでは?」
「そ、それはその……。」
確かにそれは私も気になっていた。
初めの段階でも何やら呪詛を受け、助けを求められない状況ならわかるが、そうではなかったのだとしたら、わざと生贄を集めていただけで、むしろ積極的に宗教集団に協力していたのではないかとさえ思えてくる。
「……わしは、魔物を使役する危険な宗教集団の討伐、と依頼を出した。しかし、実際にギルドや帝国には劣化竜の被害のみが報告されていた。」
震えながら村長は言う。
「何度か使いを出したが、向こうの返事は同じ。そうなると、向こうの上層部で黒ローブどもの仲間が情報を操作しているとしか考えられないだろう!もう、俺たちに味方なんていなかったんじゃ!だから、冒険者を……。」
なるほど、そりゃ、まぁ、人間不信にもなるわな。
村から必死に助けを求めても、伝わらないのだから。
「上層部の方を疑うのはいいんだけどさ、もう数か所疑った方が良いと思うんだよなぁ。」
「もう数か所?」
「例えば、村から帝国へ報告に行ったのは誰だ?村長の手紙をきちんと渡したのか?この村の中に、黒ローブどもと同じ宗教の者はいないのか?村人の思考を宗教集団の都合のいいように誘導している人物はいなかったか。そういったことだよ。」
アレクシスの言葉にどよめきが走る。
「何を言い出すんだ!俺を疑うというのか!」
立ち上がった村人その一。
彼は、村長たちと違って劣化竜の森に一緒にいた人物だから、私が聖女だと知っているはず。
「家族も同然の村人を生贄に捧げないといけないような宗教に入るわけがないだろう!」
続いてその二。
「そうだ!よそ者が偉そうに!」
そしてその三、四と、次々に村人の冷たい声が浴びせられた。
おっかしいなぁ。
聖女って言うと、もっと崇められると思ったのに、思った以上に不人気。
「ま、よそ者なのは間違いないわね。」
私はため息交じりに呟く。
「でも、殺されかけたのも事実だし、真実を知りたいと思うことがそんなに悪い事なの?」
それでも、村人のヤジはやまない。
聖女召還のためにひどい目にあったのだから、聖女を疑う気持ちもわかる。
とはいえ、ここまでのものかな?
黒ローブたちもとりあえずは倒したし、劣化竜も倒した。
一部とはいえ村人にかけられていた呪いも解いた。
それなのに、いまだに警戒され続けている状態があまり納得できない。
そんなことを考えていると。
「なんかおかしいと思ったのは、あんたが居たからなんだけど。」
アレクシスが指をさしたのは、最初からずっと村長の横に控える女性だった。
「あんたさ、おかしくない?」
「な、何をおっしゃっているのですか?」
急に話を振られ、女性は戸惑う。
村長にぴったり張り付いているから、娘か嫁かと思ったが何がおかしいのか。
「わしの嫁がどうかしたのか?確かに、わしの嫁にしては少し若いと思うが。」
70代くらいの村長に、40代くらいの嫁。
確かに違和感があるレベルで歳の差があるが、50代の男に20代の女性が嫁ぐことはないとは言えないし、このような田舎の村ではそんなに珍しい事ではないはずだ。
特に、30代くらいで旦那を無くすと、一人で子供を育てられず、権力や金のある高齢の男性と再婚するなど、ありふれた話だろう。
「ちげぇよ。年齢の話じゃない。お前が近寄るたびに背筋がゾワッとするんだ。最初はよく分からなかったが、お前の魔力が俺の魔力と反発している気がする。」
「反発、ですか?わたくし、それほど多くの魔力を持っているわけではないのですが。」
女性は、戸惑いながらも笑みを絶やさず、答えた。
「多い少ないじゃねぇよ。気持ち悪いんだ。最初は魔族かとも思ったが、魔族の魔力はこんなに悪意に満ちてない。魔族でも人間でもなさそうだが、お前は何者だ?」
「いやですわ。勘の鋭い人間て、大嫌い。」
女性は、ゆっくりと立ち上がると、いやらしい笑みを浮かべ、嗤った。
「ほんと、馬鹿よね。私が手紙をすり替えているとも気づかずに。とってもとっても愉快だったわ。」
「な!?ニィーノ!それは本当なのか!」
村長は目を見開いて腰を抜かしつつも、嫁であったはずの女性に向かって叫んだ。
「あんたみたいな爺のところに、村の外から嫁が来るなんて、ちょっとくらい疑いなさいよ。」
「そ、それは、子供を抱えていくところもないと、お前が泣きついてきて……。」
うーむ、結構早い段階でこの村がターゲットにされていたわけね。
村長の嫁が糸を引いていたなら、確かに村人を操作しやすかったことだろう。
「ほんと、田舎の爺はお人よし。おかげで、儀式も捗ったわ。結局聖女を呼び出すことはかなわなかったけれどね。」
「まあ、そうね、聖女が召喚で呼び出されるわけないと思ってるし。」
「そんなことないわよ。何万年か前には聖女が異世界から来たという話があったり、異世界の記憶を持っていたという話があるわ。」
「そんなわけないと思うけどなぁ。」
私が腕を組むと、女性は嬉しそうに言った。
「まぁ、実際聖女なんて召喚できなくてもいいのよ。ただの餌だし。」
「餌?」
「これ以上、あなたたちに話すことでもないのよ。風刃」
女性が腕を振ると、血飛沫が辺りを赤く染めた。
近くにいた村長と、運の悪い村人数人が切り刻まれる。
あまりの展開に、ほとんどの村人は悲鳴を上げることも忘れて硬直していた。
しかし、死を目の当たりにして、パニックが起きる。
悲鳴をあげながら逃げていく者や、腰を抜かしてその場に座り込む者。
何が起きたのかわからず、新たに家から出てくるものもいた。
「ふぅん、障壁張ってるのね。準備がいいこと。」
「まぁ、自爆したりする厄介な連中相手ですからね。」
私たちはもちろん無傷。
まだ村の中に何があるかわからないのだ、そのくらいの策はとってて当然だろう。
「しかも、私の魔法をはじくなんて、あなた何者なの?」
そう問われるのと同時に、一部の村人が私たちのもとへ駆けよってきた。
「助けてください!聖女様!」
「……聖女?」
あーあ、最悪なタイミングで言ってくれましたね。
やれやれ、しょうがない。
これで見捨てるのも、気持ちのいいものではない。
私は、ハンナとゼルにアイテムボックスから取り出したエリクサーを数個ずつ投げつけると、頷く。
私の意図を組んだ二人が、ため息交じりに動き始めた。
「あなたが、聖女?面白い冗談ね。」
「冗談かどうか、試してみれば?」
それだけ言って、辺りを見回す。
死んだであろう村人は2人。
怪我人はパッと見た感じで5人。
怪我人の方はハンナとゼルが治療に当たっているためスルー。
私が触るのは二人の死者の方だ。
そのうち一人は運が悪く脳と内臓をザックリと切り裂かれ私がどうこうできるレベルではないが、もう一人は、頸動脈を深く損傷しての死。
これなら治せる。
運の良い方の死者である村長を抱えると、私は魔力を練り上げた。
「復活蘇生」
きらきらと光る魔力を浴び、まぶしく発光すると、間違いなくこと切れていたはずの長老がゆっくりと体を起こした。
「わ、わしは……。はっ!ニィーノ!」
血が足りないのか、その場から立ち上がることはできないようだが、自力で体を支え、嫁である女性を睨みつけていた。
「……驚いた、本物の聖女じゃないの。そうなると、手加減はできないわね。」
女性は、ゆっくりと異形に変化する。
とはいっても、魔族のように、ただ翼が現れるような変化ではない。
大きく裂けた口と鋭い爪。そして真っ赤な目。
申し訳程度のいびつな翼が生えたその姿。
どこか、劣化竜に似たその姿は、以前資料で見たことがあった。
「悪魔憑きだ。」
私よりも先にアレクシスが言った。
全く。悪魔召還しているかと思えば、今度は悪魔を食ったっての?
「「うわぁぁぁぁ!!化け物!!」」
見物人は、怪我の治った村人たちも含め、我先にと逃げていく。
私に縋り付いていた村人も、気が付けばすでにいない。
逃げ足の速さはなかなかのものね。
「あーっはっはっはっは!この姿を見たからには、生きて帰れると思わないでよ!」
勝手に見せておいて、よく言ったものだ。
「この姿、って、見た目が気持ち悪くなっただけじゃない。さっさとかかってきなさいよ。」
「このっ!聖女なんて、回復能力以外何もないくせに!攻撃担当の勇者や竜を従えてない聖女が、吠えてんじゃないわよ!」
「吠えてるのはそっちだけどね。おばさん。」
「ああああ!!殺してやる!!」
人とは思えない速さで間合いを詰めて来る悪魔憑き。
「回復だけかどうか、試してみるといいわよ。」
私は、ニヤリと笑いながら彼女を迎え撃ったのだった。
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