聖女さまは心底呆れる
遅くなりました。すみません。
「申し訳ありませんでした!」
いきなり土下座したのは、リーダー格の男。
それに続いて、不安そうにあたりを見回していた男たちも順に頭を下げた。
村人の中でも、成人男性のほとんどがこの討伐についてきたようで、なんかむさ苦しい光景となっている。
「謝罪はとりあえず後でいいから。何で私たちを襲ったのか教えてもらっていい?」
「そ、それはですね……。」
不安そうにあたりを見回す男。
何だ?話すと何か不利な事でもあるのか?
「何を気にしているのかわからないけど、最低限の魔法の結界は張ってあるから、下位の魔法や弓、弱い魔物の攻撃くらいなら防げるわよ。もちろんゼルたちも目を光らせているから、みすみすあんたたちに危害を加えられるようなへまはしないわ。」
「いや、しかし、その。」
「何なの?言えないっての?人の命狙っといて?」
話すと言いつつ、全員が顔を見合わせたり、口を開きかけてはまた閉じたり。
更には、一割くらいの人は、微塵も話す気がないような態度で、目を伏せている。
「俺たちを殺そうとしたってことは、殺される覚悟もしてるってことかな?」
脅しなのか本気なのかは分からないが、アレクシスが剣を抜いて近くにいた村人に向けると。
「そ、そ、それがその、こ、これは、呪術でし……ぐっ…!」
「ど、どうしたんだ!?」
恐る恐る声を発した村人が、急に胸を抑えて苦しみ始め、アレクシスは慌てて剣を下ろす。
「ああ、そっちね。」
その様子を見て、私は呟いた。
なるほど、なるほど。特定のワードに反応する呪術を仕込まれているわけか。そうなるとかけられた人全てが人質みたいなものだし、この状況の不自然さにも納得がいく。
しかしまぁ、そのくらいのこと、想定の範囲内である。
「くそ!!やはりか!!こうなったらもう我々には、お前たちを殺すか、死ぬかの二択しかない!」
倒れた村人を抱えながら、ほかの村人が涙ながらに叫ぶ。
なんか私たちが悪者になってるようで納得いかないが、彼らも必死なのだろう。そんなことでいちいち腹を立ててもしょうがない。
「はいはい、分かったから。手遅れになる前にその人を貸して。」
既にピクリとも動かないその村人の傍に歩み寄ると、そのまま抱きかかえ、少し離れた位置まで抱えて歩く。
「そんな、軽々と……。」
「イチオ…イチオ……。」
私が成人男性をひょいと持ち上げたことに驚く村人もいれば、この男が死んだことを理解し、名前を呼びながら肩を震わせる村人もいる。
しかしまぁ、私は聖女なものでして。
「まずは、隠しちゃおうかな。認識遮断」
「え!?」
結界に重ね掛けして、光の魔法をかける。屈折率などをいじって、一定範囲内のものを見えなくする魔法だが、視覚効果だけなので魔力も感知できるし触れられるし攻撃も当たる。
隠れて用を足すときとかに使う程度の魔法だ。
だが、その魔法をかけた瞬間、森の方から変な声が聞こえた。
おそらく私たちの動きを監視していただれかだろう。まぁ、それに対してはゼルがいるので気にしない。
「あなたたち、死にたくなかったら口外厳禁だからね。」
村人たちからも隠れてもよかったが、理解できない状況というのは、余計な解釈や想像で補われてしまう。それを防ぐために、私は見せる方を選択した。
「聖女の奇跡をとくと見なさい。復活蘇生」
私の言葉に反応し、身体から光が溢れる。
流石に聖女として最大の魔法だけあって、額の文様も浮き出てしまうが仕方ない。
きらきらと輝くその光は、死亡したはずの男性に纏わりつき、次の瞬間、男性の身体は直視できないほどに発光した。
「う……。俺は、いったい……。」
光が収まると、先ほどまで死んでいたはずの男がゆっくりと体を起こす。
これこそ、聖女の奇跡!
エリクサーや神聖魔法では不可能な死者の蘇生である。
身体の組織が生きていることが前提で、ぐちゃぐちゃの細切れになっていたり、死んでから時間が経ちすぎていると無理だけれど、10分程度なら生き返らせることが可能だ。時空魔法や治癒を併用したりすると、なかなかに反則な魔法だったりする。
「そん……な……馬鹿な。」
村人たちは、完全に呆けている。
口を開いたり閉じたり、まるで餌をもらった鯉のような、間抜けな姿で私と生き返った村人を交互に見ていた。
かろうじて言葉を発したのは、状況をさらに理解できていないイチオと呼ばれた村人だけだった。
「お、俺は死んだはずじゃ!?」
「私たちが自白を強要したせいで死なれたら後味悪いでしょ。ちゃんと生き返らせるし、呪詛も解いてあげるわよ。安心しなさい。」
「本当に、お前は特に規格外だな。」
あきれ顔のアレクシスと、ただ状況を見守るジークハルト。
ゼルの少し後方に控え、森に隠れた敵を警戒していたハンナもこっちを見てため息をついている。
「……まだ疑ってるのね。いいわ、呪詛を刻まれている人はこっちへ来なさい。」
そういうと、呆けていた村人のうちの9割が、我先にと私の傍へ駆け寄ってきた。
うっ。その勢いだと、ちょっと怖い。
「ま、これは神聖魔法だから、聖女の奇跡とは違うけどね。」
そういいながら、私はゆっくりと手を持ち上げるとそこを起点に魔法を展開する。
「解呪・エリアバージョン!」
「そんな無茶な魔法が使えるのは、お嬢様だけですよ。」
森に向かって殺気を飛ばしていたゼルも、ちらりとこっちを見てため息を一つ。
本来解呪魔法は、術者の魔力を大量に消費し、その呪いを破壊し、組み替え、修復し、無効化する。
手順を失敗すれば、術者ももちろん呪われている人も死ぬような大掛かりな魔法なのだ。
更にかかっている呪術によっては、それを打ち消せるだけの力がないと、解呪することはできない。
まとめて数十人の解呪をするなど、この天才少女ティーナ様を置いてほかにいないのだ。
ふっふっふ。
「印が……。」
何やら禍々しい魔法陣のような痣が刻まれていた村人たちの身体には、その痣が消え、代わりに小さな六芒星の印が刻まれていた。
「そ、それは仕方ないわよ!?普通の解呪でもそうだからね!呪い自体が体に組み込まれている以上、それをただ壊すだけだと死んじゃうから、代わりに無害な魔法を埋め込んでるのよ。」
「無害な魔法?」
「それ自体は何でもいいんだけど、今回はちょっと体を活性化する魔法を入れたわ。一週間かかる傷が3日で治るとか腰痛が楽になるとか、風邪をひきにくくなるとかその程度の。副作用でちょっと髪が伸びやすくなるけど、一ヶ月で1センチ伸びる髪が1.3センチ伸びるって程度よ。誤差の範囲でしょ?別に細胞の生まれ変わりを促進してるわけじゃないから、成長や老化が早くなったりするわけじゃないし。いいじゃない、それくらい。」
村人たちが、それぞれ体に刻まれた印をまじまじと見つめながら、その後、どこからともなく嗚咽が聞こえた。
伝染するように、その鳴き声は、すべての村人へ広がり、何か異様な光景となる。
「う……ううっ。」
「たす…助かった…俺たち…。」
「神よ……。」
いや?私魔族だからね?崇めるなら魔神だけど。
あ、いや、聖女の奇跡は神由来の力か。うーん。わからんからいいや。
「まさか、まさかとは思いますが、先ほど聖女の奇跡とおっしゃっていました。貴女様は、…聖女様、ですか?」
おそ!反応遅っ。
「それ以外の何に見えるのか知りたいところだけど。」
「い、いえ、すみません、思っていた外見と違ったもので!」
「……コロスゾ。」
確かに、清楚可憐な見た目じゃないけどね!?
目つきも悪いし、身体も大きめだし!?
「す、すみません聖女様!!」
私がボソッと呟くと、全力で失言したリーダー格の男が頭を地面にこすりつけながら詫びる。
思考停止していた影響か、思ったことがそのまま言葉に出たんだろうけどさ。チクショー。
「はぁ、もういいわよ。で、死んじゃう危険性がなくなったところで、大まかに話をしてくれる?」
「あ、あの。申し訳ございません。それ自体は全く構わないのですが!!村の女や子供たちにも呪詛がかかっています!それに、もし、我々の呪詛が消えたことを感知した奴らが、村を襲ったら、と思うと、一旦村に帰りたいのですが……!!」
「あの呪詛自体は、村人以外に特定の言葉を話すと発動する自動発動タイプだったし、私が解呪した中にはマーキングはなかったわ。その点は心配ないけれど、そうね、確かに劣化竜も殲滅したことだし村が心配ね。いったん戻りましょうか。」
私が土を払いながら立ち上がると、ほっとしたような顔で、座っていた村人たちも立ち上がる。
なるほど、どうせなら呪詛のかかっていない一割の人が話してくれればよかったのになーとか思ってたけど、その一割は、家族が呪術にかかっているのか。
なら尚更、自分が殺されようとも下手なことはできないわな。
あの、諦めて目を閉じた姿は、覚悟の証だったのか。
「お嬢様、戻るのはいいのですが、森の中の4人はどうしますか?」
「殺しちまえなの。めんどくさいの。」
「こらこらハンナちゃん。そんな物騒なこと言わないの。」
ゼルの問いかけにハンナが答え、苦笑しながらアレクシスが止める。
うーん、この流れでずーっと隠れているやつらなぁ。
怪しすぎるけど、殺しちゃうのも違うし、そもそも劣化竜を操っていた術者とは何者なのか?
「森の中にいるのは村人ではありませんか?」
一応尋ねる。
「いや、違う。あれは、奴らの仲間だ。」
「ふーん。一応今から結界を解くから、余計な事は言わないようにね。特に聖女って単語は禁句よ。」
「は、はい!命に代えましても!!何なら呪詛でも!」
私のセリフに、村人たちは必死に頷く。そんな呪詛刻んでどうすんねん。
……そこまで怯えなくてもいいけどさ。
「いや、黙っててくれればそれでいいから。あと、村に残っている人たちへの説明も私たちがするから、家族であっても下手なことは言わないようにね。」
「はい!」
村人たちが怖いくらいに従順です。
それはともかく、奴らってのが気になる。
つまりは、こんなことをさせて私たちの命を狙ったのもそいつらなわけで、私たちがプチっと駆除しても何の問題もなさそうだが。
どうしたものか。
「呼びかけて、ダメそうなら殺しましょうか。」
「そうねぇ、下手に逃げて厄介なの連れてこられても困るしね。」
結界を解くと、私はゼルの方へと歩みより、代わりにハンナが村人たちの方へと移動する。
言わなくてもわかってくれるハンナは、本当にいい子。
まぁ、私たちが全力で殺気を放つ場合、傍にいたくないというのもあるだろうけど。
「さーて、こそこそ隠れている4人組さん?ここで死ぬのか、出てきて土下座するのか選びなさい。」
私が声を張り上げるが、反応はない。全く質の悪い。
「さっさと出てきてくれないと、攻撃しますけどいいですかー?」
更に言うが、やはり出てこない。
村人の中に腕の取れた人いなかったから、少なくとも一人は大けがしているはずなんだけどなぁ。
宣言したし、良いよね。
「雷撃」
『ギャッ!』
4本の稲妻が光り、
同時に数か所から短い悲鳴が聞こえた。
致死性はない低級の魔法だが、ピンポイントで当てやすく、体の自由を奪えるため使い勝手はいい。
いる場所はすでに分かっていたので、全員に直撃させてみたのだが。
「ゼル、拾ってきて。」
「従者使いが荒いですね。」
嫌そうにゼルが森の中へと消えていき、4人の男性を担いで戻ってきた。村人たちがその様子を見て驚いているようだが、ひ弱そうに見えても、一応は魔族の男である。人間よりは力が強いのは当然だ。
あ、そうか、魔族ってばれたらまずいのか。
怪しまれたら魔法つかったってことにしよう。
ゼルは男たちを地面に転がすと、私の方へと戻ってくる。
「あんたたち何なの?」
黒いローブに身を包み、怪しさ満載の四人。
しかし、私の問いに答えることはなかった。
「……後はファスト様たちが始末をつけてくださる!貴様らは神の意志に逆らった!聖女様の世界にゴミは不要だ!!貴様らみんなまとめて死ぬがいい!」
「神の導きと御心のままに。」
「この不浄なる世界に、救済を。」
『救済を!』
ん?
何か聞いたことあるセリフだな、と思った次の瞬間、男たち四人が爆散した。
私の結界の中で。
ゼルが下した瞬間、四人の男から殺気を感じたので、彼らを結界で包んでおいたのだ。
なので、四人がすっぽり収まる範囲の中で爆発が起きた、というだけの事である。
自分たち全員に結界を張るよりも、そっちの方が楽だからそうしたのだが、結果的には男たちが勝手に約3メートル四方を焦がしながら自殺しただけとなった。
まぁ、爆発の勢いから察するに、そのまま食らえば一キロ四方くらいが焼け野原になって吹っ飛んだ気もするが、何もなかったので良しとしよう。
「……なんか分からないけど勝手に死んじゃったから、とりあえず帰ろうか。」
話を聞けなかったのは残念だが仕方ない。
ある程度は村人から聞けそうだし良しとするかな。
「な、何なんだ、あんたらは……。」
「人畜無害な、旅の冒険者よ。」
ボソッと呟いた村人に適当に答えると、疲れ切った様子の村人を促して、村へと引き返したのだった。
ていうか、聖女だって言ってるのに、なんか村人たちの反応イマイチだなぁ、という不満を胸にしまいながら。
いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。




