聖女さまは殲滅する
暑い日が続きますね。
一行が案内されたそこは、心配していた場所ではなかった。
ハンナが大暴れした例の場所に行こうものなら、如何したもんかとビクビクしていたのだが、最悪の事態は回避されたらしい。
多分。
私たちが水浴びをした滝の下流で、成る程、劣化竜が好みそうな岩場や水場がある。
悪魔召喚で呼ばれた低級悪魔が小動物に憑依して生まれるものだと言われているが、一応生殖活動やらをするので、増えるからなぁ。
「目撃されたのは、この辺りです!」
先頭を歩いていた男が、こちらを振り返る。
示されたそこは、見通しが悪く、川の音が大きいので、物音も感知しづらい。
鬱蒼と木が生い茂り、かろうじて草が踏み荒らされたかのように広くなっている、といった程度の場所だった。
「うーん、冒険者にとって、戦いにくいことこの上ない場所だな。」
「そ、そうなんです。戦いにくい場所だということもあり、今まで来てくださった冒険者の方々も、とても苦戦しておりまして・・・。」
ジークハルトが辺りを見回すと、呆れたように呟いた。そのセリフに、村人は慌てて取り繕う。なんだかなぁ。おかしなことを言っているわけではないんだけれども、必死さが伝わってきて、なんか変な感じなのよね。
「よし、向こうの広い場所におびき寄せて戦おう。」
アレクシスは、少し先の開けた場所を指さすと、歩きやすいように剣で足元の草を薙ぎ払う。
軽く振っただけで草が切れるあたり、流石魔剣というべきか、アレクシスの腕をほめるべきなのか。
「い、いえ、その、劣化竜はこのあたりの水辺を好みまして、おびき出そうとすると、引き返してしまうんです。」
「は?そんな習性聞いたことないんですけど。」
「ここら辺に沸く劣化竜は特殊でして、その。普通とは違う動きをするのです。」
「……へぇ。」
そんなわけあるかーい!と、心の中で突っ込みを入れる。
そんな特殊な劣化竜はきいたことない。だが、召喚した人が操ってるなら別だ。
悪魔召還で出てきた悪魔なのだから、召喚者が印を刻むことによって召喚者の思うままに動かすことができる。
術者よりも弱いか、力で屈服させるのが条件ではあるが、劣化竜程度ならある程度の実力さえあれば可能である。
ま、想像通り、誰かが操っている劣化竜なのだろう。
それが村人たちなのか、違う人たちなのかはわからないが。
白々しい。そんな簡単なこともわからないとでも思ったのか。
あきれ顔のアレクシスやジークハルト、ゼルもわかっているのだろうが、誰も何も言わず、村人の説明を聞いている。ハンナは、特に興味がなさそうだ。
下手なことを言えば、劣化竜をけしかけられたうえで、村人たちの総攻撃を食らう可能性がある。それ自体は脅威ではないのだが、劣化竜はともかく、村人たちまで一掃したら、ろくなことにならないだろうからな……さすがにできない。
「まぁいいわ。この場で迎え撃ってしまえばいいんでしょ。ちょっと離れていてくれる?」
私がニヤリと笑うと、そそくさと逃げる仲間4人。
それに釣られるように、村人たちも後ろへと下がった。
見通しが悪いなら、良くしてしまえばいいじゃない。
「風刃乱舞」
さっきアレクシスが薙ぎ払った場所を起点に、半径10メートル程度の草木を風の刃が一瞬で切り刻んだ。
「ふっふっふ、すっきり!」
「自然破壊なの。」
「ん?」
「……。」
うーん。なんか、人間のモノらしき腕が一本落ちてる上に、血が点々としている気がするが、見なかったことにしよう。
だって、村人は全員後方に逃がしたし、劣化竜が沸くような危険な場所に、隠ぺい魔法を使って簡単には探知できないようにしたうえで隠れている人がいたら、それはもう、敵とみなしていいってことだよね?
おそらくこの腕が見えていたのは私と、目の良いゼルだけだろう。
よし、ここには何もなかった!
「悪食の闇」
粉々になった木や草、そして謎の腕を闇魔法で虚空へと消し去ると、そこにはきれいに刈り取られた爽やかな広場が現れた。
点々とした血の跡は多少残ったが、うん、私の殺気に気づいて、それでも逃げなかった動物がいたんだろう。
ということにしよう。
「さぁ、戦いやすくなったし、いつでも来いってね!」
「な……話が、違う……。」
私が、ゼルたちに向かってピースサインを送ると、村人の集団の中から、ぼそりと呟く声が聞こえた。
「話?」
「あ、いえ、何でもありません、聞いたことのない魔法だったので、驚いただけです!」
声を発したらしい村人は、すぐにほかの村人に抑えられ、後ろへと下がる。
そりゃ、聞いたことないだろうなぁ。
上級の魔法だし。魔力の少ない人間にはそうそう使えまい。
「この程度広かったら、いつ来ても楽に戦えるな。」
「そうだな。これなら安心だ。」
アレクシスとジークハルトは、苦笑しながら辺りを見回す。
暗に、こっそり襲い掛かるのは無理だぞと、アピールしているようだ。
「で、しかし、劣化竜来ないね。これだけ派手な音を立てたら来ると思ったんだけど……。」
「あ、クロコダイルならいるの。」
ハンナが指をさした茂みが、がさりと揺れた。
「クロコダイル?」
私が目を細めてそっちを見ると、確かになにやら怪しい影がある。
しかし、尻尾だ。
こっちにあからさまな敵がいるというのに、その状態で尻尾を向ける事なんてありえない。
あるとすれば、その視線の先に指示を出している誰かがいる場合だろう。
「ねぇ、ハンナ、あれって、クロコダイルじゃなくない?」
「なの?」
暫く向こうの様子をうかがっていると、ゆっくりとした動きで劣化竜がこちらへと向かってきた。
「やっぱりクロコダイルなの。大きな口と牙ととげとげの尻尾なの!」
「ハンナ……クロコダイルに翼はないわよ。あれが、劣化竜よ。」
「……なの?」
「ハンナさんは初めて見るんですね。クロコダイルはもっと地面を這うようなトカゲに近い形をしています。劣化竜のように2本足で歩いたりしません。」
ゼルの説明を聞き、ハンナは困ったように首をかしげた。
「ハンナ、見たことあるの。二時間ほど前に、あれ、6体ほど細切れにしたの。」
「……。」
目の前に佇む4体の劣化竜。
村長が言っていた劣化竜の数は10体。
「えー。10ひく6は4……でいいのかな?」
「そのようですね。」
私たちが、どうしたものかと顔を見合わせていると、そんなことはお構いなしに劣化竜は私たちへと襲い掛かってきた。
見通しがいいので、とても戦いやすいです。
「とりあえず、倒してから考えよう。」
「それがよさそうね。」
アレクシスの案に私が乗っかると、それが合図で一方的な殺戮が行われた。
「風の刃!」
周りを巻き込まないよう注意を払いながら風魔法を撃つと、一体の劣化竜が細切れになりその場に崩れ落ちる。
下位の魔法ではあるが、私のように魔力が多いと、威力もそこそこなのだ。
「氷の槍よなの!」
次にハンナが唱えた魔法で、一体の劣化竜はその場で串刺しの氷像と化した。
「じゃぁ、私はこの一体を。」
ゼルはさっさと剣を抜くと、少し後方にいた劣化竜に狙いを定め、首と胴体を切り離す。
「お前らは、ほんと規格外だな。」
アレクシスとジークハルトは、息の合った剣戟で数回刃を躍らせると、あっけなく最後の劣化竜を切り伏せた。
「で、あんたらの目的はそれか?」
振り返りざまの、アレクシスの剣は村人の首筋にぴったりとあてられていた。
さっきまで、少し離れた場所にいたはずの村人が、劣化竜と戦っていたアレクシスの背後にいたのだ。
その手には短剣を握りしめ、アレクシスへと振りかぶっている。
私たちはあっさり倒しすぎたせいで、どうやら村人たちが背後をとるスキがなかったようだが、よく見るとそれぞれの後ろの数メートル離れた位置に、不自然に得物を構えた村人がいる。
「お前ら……何者なんだ!!くそ、ついてない!!」
アレクシスの背後にいた村人は、吐き捨てると慌てて後ろへと下がった。
「いやいやいや、ついてないのは私たちだからね?何で親切心で助けにきた村の村人に命を狙われなくちゃならないのよ。」
「何者って普通に……依頼を受けてやってきたAランクの冒険者と、Cランクの冒険者ですよ。」
私たちが、改めて武器を構えなおすと、村人たちもじりじりと下がりながらこちらをけん制する。
「だから俺は今回は諦めようって言ったんだ!」
「仕方ないだろ!切り札の劣化竜が、突然6体も姿を消したんだ!これが焦らずにいられるか!」
「だからって、返り討ちにあってちゃ何もならねぇだろ!」
「そんなこと言ったって、生贄が足りなければ、殺されるのは俺たちだ!」
「はいはい、みなさんその辺で。」
いつの間にかリーダー格の男の背後に立っていたゼルが、にこやかに男の首に短剣を突きつける。
突きつける、というか、先端は多少刺さってる気もするが。
「てめぇ……。」
「で、何故か巻き込まれてしまった私たちに、何かしら謝罪と説明はしていただけるんですよね?でなければ、ショックのあまり手元がくるって刺してしまいそうです。」
あ、ゼル、怒ってる……。
「わ、分かった!全部話す!話すから、許してくれ!」
ほかの村人の声に、ゼルはピクリと眉を動かす。
「いやいやいや。説明を受けるのは当然の権利であって、取引の材料にはなりませんからね?話された後に許すかどうかは、こちらの判断です。」
「わ、わかった!とりあえず剣を下ろしてくれ!話すから!」
男の言葉に、もう一度にっこり笑ったゼルはすっと手を離すと劣化竜の肉塊の方へと歩いて行った。
「では、謀られたことに対する謝罪はお嬢様方へお願いします。助かりたければ、彼女たちを説得してみてください。私は、折角の肉がもったいないのでこっちで肉塊の処理をします。ああ、まだ肉塊になりたい劣化竜がいたら、そっちも処理しますので、ご安心を。」
そういって茂みを見ながら口元を持ち上げた。
茂みの中にいまだ隠れている人がいることはわかってる。まったく、ゼルは優しいなぁ。
そんなわけで、私たちは劣化竜の死体のないあたりへと集まり、話を聞くことになった。
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