聖女さま依頼の村に行く
「よくおいでくださいました!」
「これで村は助かります!依頼を出しても、劣化竜ともなると、低レベルの冒険者では倒せないそうで、毎日怯えながら暮らしておりまして。何でも、Aランクの冒険者様だとか!我々は幸運です!」
来るといきなり、村長の元へと通された。結構歓迎ムードで、嬉しいのだが……依頼は確か劣化竜の討伐である。
村を荒らす劣化竜を討伐するという依頼を受けたのだが、そういえば、少し前に劣化竜を見た気がした。
肉塊として。
ハンナはクロコダイルを倒したと言っていたが、間違いなくあそこには劣化竜の死体が3体以上有った。つまり、依頼内容が劣化竜三体以下の討伐だとすれば、既に終わってしまっている、ということになる。
「我々も、微力ながらお手伝いさせていただきます!」
「ああ、足手まといにならないように気をつける!命を捨てる覚悟でいる!俺たちにも家族を守らせてくれ!」
何やら、無駄に気合が入っている村人たちが、それぞれ手に鍬や鋤、鎌などを持って集まっており、村長の家の外から声をかけてきた。
頼むから同行しないでほしい。心の底から邪魔でしかない。
「あ、あー……。えーっと。すみません、依頼内容の確認してもいいですかね?」
「あ、ああ。何だ?まさか、劣化竜の数が多くて無理だとか今更……。」
私の発言が、劣化竜に対する怯えに聞こえたのか、村長が不安そうに答える。
「あ、いやいやいや、そうではなくてですね、劣化竜何体とか書いてなかった気がしたので……多くて?」
「あ、いや、その。」
ハッとした顔で慌てて口を閉じる村長。
あれ?これってもしかして、ワザと数を書かずに討伐依頼出してた?
「何だ、そういうことか?」
アレクシスが、呆れ顔で頭をかいた。
「分からない場合、数を明確に記載する義務はないからな。ワザと書かずに、冒険者を集められれば、たとえ失敗しても、魔物の数を減らしたり、捨て駒に使えるし、失敗すれば依頼料も要らない。いい考えだな。」
「け、決してそんなことはありません!」
慌てて取り繕う村長。
数がわかっていないしにしても、複数体いることが分かっていればその事を記載する義務はあるそうだ。
それにもかかわらず、劣化竜の討伐、とだけ書かれた依頼書。
そこには、多少なりともアレクシスが言ったような思惑があったのではないだろうか。
「違うんです!数を明記すれば、受けてくださる方がいなくなるのではないかという不安から、このような事をしました。卑怯なのは分かっていますが、我々も生活がかかっておりまして、大変申し訳ありません!」
慌てる村長の隣で頭を下げたのは、娘らしき40代くらいの女性だった。
「まぁ、劣化竜ってだけでも依頼を受ける人を選ぶってのに、それが複数となると、確かにな。」
「ふむ。劣化竜程度ではどさくさに紛れてアレクシスを亡き者にできないと思ったが、複数いるなら或いは……。」
「或いは、じゃねよ!」
仲良しコントの二人は置いといて。
でもなぁ。アレクシスの話じゃないけど、なんか少し引っかかる気がするんだよな。
劣化竜なんて、ビッグホーンじゃあるまいし、そんなに群れでいるような物じゃない。
悪魔召喚の余波とかで、周りのトカゲやヘビ、ネズミなんかが魔力を帯びて悪魔化したものだと言われていて、たまに一体二体いる程度。
魔力濃度が濃くて自然発生する魔王領と違い、人間の領地で、群れで生息してるなんてことあるのか?
「で、何体くらいなの?」
「わ、我々が確認したのは、10体です。」
「よっしゃぁあああ!もがっ。」
「ひっ!?」
あ、つい。
流石に10体もいれば、まだ残ってる!大丈夫!
「劣化竜が10体だって!?そんなバカな!」
喜びの雄叫びをあげてしまった私は、ゼルに抑え込まれ、強制的に静かにさせられたが、ジークハルトとアレクシスは驚き、顔を見合わせていた。
確かに、流石に10体はそうそういないよね。
誰かが意図的に召喚でもしてない限り。劣化竜が沸くとすれば、やっぱり悪魔召喚かぁ。あと、魔力濃度が濃いと出やすいよね。
魔力濃度が濃いなんて、近くに竜や魔族がいるとこで悪魔召喚でもしない限り、そんな事にはならないんだけどな。
悪魔召喚?竜?魔族?
うーん。
「なんか、嫌な予感しかしないから、帰りたくなってきた。」
「なななな!?お願いします!私たちには、貴方様方に頼る他ありません!どうか、どうか!!既に何度か冒険者の方々が来てくださっているのですが、倒せず、国に兵団も依頼しているのですが、戦争の余波でこちらまで手が回らないそうで!後生です。お願いします!」
「うっ。」
「ティーナお姉ちゃんどうしたの?らしく無いの。いつもなら、魔物を屠れる事に狂喜乱舞する筈なの。」
「私のイメージって、どうなってんの?」
思った以上に必死な村長たちに詰め寄られ、ドン引きしていると、ハンナが呆れ顔でこちらを見る。
でもさ、劣化竜が湧いたのは、もしかしたら、悪魔召喚したバカの近隣に魔力の塊とも言えるヒメの父竜がいた上に、魔力タンクとも言える聖女たちが近くの町にいだからかも知れない。
なんて言える!?いや、言えない。
そもそも、あんなところで聖女召喚のつもりで悪魔召喚してる奴が悪い。
そうだ、あいつらが全部悪い。
まてよ。
聖女召喚て事は、巡り巡って私のせいなのか?
うん、考えるのやめよう。
「あのー……引き受けていただけるのでしょうか?」
黙り込んだ私たちを見て、不安そうに村長の隣の女性が声をかけてきた。
「あ、ああ、はい。大丈夫です。劣化竜程度なら、何十匹いても……あ、いや、はい、頑張ります。」
「すみません、彼女は、劣化竜を見たことがなくて、張り切ってしまっていて。」
私が喋り始めると、ゼルが余計なことを言うな、と視線で訴えかけてくる。
うう。口が軽いんです、すみません。
適当な嘘でフォローしてくれたので、私は貝になることにした。
「では、少し休ませていただいたあと、劣化竜を狩りに行きますので、目撃情報があった辺りを教えていただけますか?」
「あ、はい!我々がご案内しますので、大丈夫です!」
ゼルの言葉に、村人が意気込んで手を挙げる。
「あー、いや、危ないですので、なるべく我々だけで行きたいのですが。」
「いえいえいえ、冒険者様たちにそんな危険を押し付けるわけには行きません!我々もお伴します!」
「劣化竜は、Bランクの魔物です。何かあったときに守れるとも限りませんから。」
「そんな!守っていただかなくとも結構です!死ぬ覚悟はできています!」
「こちらの攻撃に巻き込んでしまう可能性もあります。なので同行はお勧めできません。」
「邪魔はいたしません!万が一巻き込まれても、それは我々の責任ですから!」
「ですが……。」
ゼルが、遠回しに、邪魔だからついてくるなと言っているにもかかわらず、何が何でもついて来ようとする村人達。
前回失敗した冒険者がどんな構成だったかは知らないが、Aランクが2人いる時点で、劣化竜数体くらいなら平気だし、10匹とは言え、こちらは5人。
たとえ私たちがCランクでも、無謀ではないと思うのだが。
そこまで心配するような事かな。
いや、心配というよりは、ついてきたいだけな気がする。自殺願望なのか、あるいは?
「分かりました、しかし戦闘中はなるべく後方で控えて下さいね。」
説得が面倒になったらしいゼルが諦めて、その場は御開きとなった。
「では、準備が整ったら声をかけて下さい。我々は外で待機しております。」
そう言って、村長と、その隣の女性、部屋にいた数人の村人が外へと出て行った。
私たちは、なんとなく腑に落ちない感じで、準備を始める。
「防音防魔結界」
「怪しさ抜群の村なの。何なの。」
私が、盗聴を邪魔する結界を張ると同時に、ハンナが不満を漏らした。
やけに必死な村長と、何が何でもついて来ようとする村人達。
村のために必死になる気持ちもわかるが……ここに来るまでにざっと村を見たところ、そんなに荒らされまくっている様子はない。
「なんか、村長の態度に違和感があるし、必死すぎる割には、村が荒らされてる様子もないし、寂れてるようにも見えない。そのくせ、村をあげて村人総出で私たちを援護とか言いながらついて来ようとする。」
「村人が総出で付いてきても、邪魔でしかないですよね。」
「はっ。寧ろ邪魔したいんじゃないのかと思えるね。」
アレクシスがそう言うと、ジークハルトはポンと手を叩き、口を開いた。
「ああ、邪魔したいのかもしれないな。」
自分たちで依頼をしといて、邪魔したいってどう言うことよ。
「俺が、どさくさに紛れてアレクシスを亡き者にしようとか言った時、村長の目がものすごい速さでこっちを向いた。」
「ああ、冗談と本気もわからない村長かと思ったがな。」
「いや、俺はそこそこ本気だが。」
「おい。」
「それはともかく、あれは、あの目は、恐れと焦りを含んでいた。どさくさに紛れて亡き者にされたら困ると言うことなのか、それとも、どさくさに紛れて亡き者にしたいという、裏があるのか。」
自分たちの計画を見透かされたと思い、一瞬取り乱してしまった、と?
「ははは、まさかぁ。考え過ぎじゃない?」
「人間て、そんな汚いことをするんですか?」
「そもそも、何でわざわざ討伐依頼出して、失敗させようとするわけ?そんなことしてなんか得することでもあるのかな?」
全て憶測とはいえ、確かにこの依頼には、違和感がある。
本当に討伐してほしいなら、正確な数を明記して危機感を煽り、強い冒険者を手配してもらったほうがいいはず。
いくら受けてくれる人がいなくなることを警戒しても、少なく見積もらせ、討伐できるか怪しい冒険者を呼び集めても、結局失敗すれば何もならない。
「今も、息を潜めて中の様子を伺ってる人間が何人かいますね。」
「やっぱりかー。そそくさと村長達が出て行った割に、襖の裏にへばりついてる人間がいるから一応結界張ったけど、一体どうなってるのかな。」
「ま、裏がありそうですけど、とりあえずは討伐に行きましょう。」
「そうだね。余計な話をせず、さっさと終えてしまうのが吉だろう。」
そういって私たちは、簡単に準備を済ませ、村長の家から出ると、村人に先導され、劣化竜がいたと言う森の奥へと向かったのだった。
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