聖女さまは全て無に帰還す@ゼル挿絵
下の方にゼルくんのイメージイラストあります。
25歳くらいの気弱なイケメンに、脳内で補正をよろしくお願いします。
『まだいたのか。よほど死にたいと見える。』
ニヤリと口元を釣り上げたレッサーデーモンに向かって私はびしっと指をさすと言った。
「さぁ、かかってきなさい!この下等生物!」
あはははは!
これは良い。
なんか気になってついてきただけなのに、レッサーデーモン!
まさに棚ぼたである。
劣化、とはいえ悪魔族だ。
モンスターとしてのランクはS。
いやー、久しぶりに見た。
ゼルが悪魔神官という役職を持っているのも、魔族と悪魔との関わりの深さを物語っているのだが、近年魔王領に悪魔が顔を出すことが減っていて、絶滅危惧種とまで言われている。
まぁ、本来は魔界に住んでるので絶滅も何も、見かけないのは普通なんだけど。
そもそも、人間が神を信仰するように、魔族は魔神を信仰している。
そしてその魔神の創り出したものが、悪魔だ。
魔神も神の一種で神界に住んでおり、人間の信仰している主神と対になる存在。
神が光を、魔神が闇を管理する。
神の祝福で生まれるのが天使で、魔神の祝福で生まれるのが悪魔。
その悪魔の血を引くものたちが劣化悪魔と言われているが、正直神話の域なので私はよく知らないのだが。
天使が堕天して人間になったり、悪魔が浄化されて魔族になったりしたなんていう話もある。
ま、諸説ありとしかいえないよね。
特に人間は、自分たちの都合のいい方に話を捻じ曲げるからなぁ。
悪魔や天使は流石に格が違う存在なので、父様でも苦戦するが、劣化悪魔は混ざり物のため、その能力は低い。
特に、この世界にちょっかいを出すことを好むため、召還されて出てくることがよくあるのだ。
とはいえ、ランクはS。
勇者が仲間を伴って倒しに来るレベル。小さな国なら滅ぼされてしまうこともある、厄災とまで言われた魔物。
魔族であっても、そこそこ実力のあるものでないと相手にできないとされている。
だけど、そこそこで事足りる。
魔王や近衛兵クラスになると、劣化悪魔などそんなに強敵とも思わない。
あれ?そういえば、人間の神聖魔法とは違い、魔族が神聖魔法を使う場合は、魔神の力を借りてるのだけれど、私の聖女の力は主神由来の光の力。
どっちの力で治癒してるんだろう。
『悪魔の血を引く我を、下等生物だと!?貴様!楽に死ねると思うなよ!』
うむ。
下っ端感丸出し。
「いいからかかってきなさいよ。少しくらい遊んであげる。」
『まずはその、不快な言葉を発する喉を潰してくれるわ!』
わお。
攻撃する場所の指定いただきました。
そのくらいしても、余裕で殺せる相手だと思っているんだろうな。
「劣化悪魔程度が、偉そうに。」
『殺してヤルゥ!!ガァァア!』
喉とか言いながら、もう殺そうとしてるやん。
考える力も劣化してるのね。
巨体のくせに、そこそこ素早い。
人間ではなかなか対処できないような踏み込みで駆け出し、私の喉に向けてその鋭利な爪を突き出した。
その手を掴むと、そのまま、優しく、骨ごと握りつぶす。
『ギャアアアア!!』
頭の理解が追いつかないまま、反射で私の手を振り払うと、後ろに飛び退いて睨みつけてきた。
『ギ、貴様、人間じゃない……!』
「はぁ?一度も人間だなんて言ってないじゃない。ほら、喉はここよ。次はもっとちゃんと狙いなさい?」
『グ、グァァァ!!』
冷静に考えることよりも、私を殺すことを優先したのだろう。先ほどとは違い、致命傷を狙っての急所への攻撃。
魔法でも使えば、冷静に考える間を持てたかもしれないのに、残念だね。
『魔族だからって、悪魔族を舐めるなよ!お前らは、所詮……!!』
「そうそう、ちょうど良かった、試したかったのよ。」
馬鹿の一つ覚えのように突進してきた魔族の逆の手をつかみ、捻りあげる。
『グアアア!!はなせぇええ!』
ゴキンッ!
「あら、ごめん。思ったより脆くて。」
もう片方の腕もへし折ると、その腕を掴んだまま聖女の魔力を練り上げ、流し込む。
『な、なんだこれは!?』
まとわりつくキラキラを認識すると同時に、魔力を流していた腕の方から、劣化悪魔の体が崩れ始めた。
そこまで効く!?
『う、ヴァあああ!!』
絶叫する悪魔を投げ捨て、首を傾げる。
岩肌に激突した劣化悪魔は、ゴボッとどす黒い血の塊を吐いた。しかし悪魔は謎だな。崩れた腕のあたりを見ると、骨らしきものも見えているが、血は流れてはいない。
魔族にキラキラを使うと、ものすごい疲労感で数日寝込む、というのは知っている。しかし、悪魔に使うと、自身を保てずに崩壊するなんて、聞いたことないんだけど。
いや、過去の聖女の記録では、魔族と同じく弱体化させることができる、と有ったはずなんだけど。
その情報がまちがっているとは考えにくい。
弱体化させる、としか聞いたことがないのに、完全に今、消滅させる勢いだった。
腐食するように崩れる様子は、神聖魔法の効果に近い。アンデッドなどを浄化するのと同じ扱いなのか?
あ、こいつ、生首を依り代に顕現してるからか。
悪魔よりも、アンデッドに近い属性を持っているって事なのかな。
『貴様貴様貴様貴様!!殺す殺す殺す殺す!!』
「ちょっと、うるさい。」
考え事をしている横で叫んでくる。
片腕は折れていて、もう片方は付け根の方まで崩壊している。そんな奴に威嚇されても、何だかなぁ。
私は戦ってるつもりはない。
最初にも言った通り、実践しながら遊んでいるのだ。
『死ねぇええ!!闇の息吹!』
と、突然の魔法攻撃。
恨みの声に、詠唱を乗せていたらしい。
思った以上に強い闇の攻撃魔法。
イタチの最後っ屁っやつか?確かに、油断しきった人間になら通用するかもね。
だから何だよ。
避けるのもバカバカしくなり、正面から受けてたってやる。
直撃したことにより、劣化悪魔は喜色満面の笑みを浮かべ、あざ笑った。
『がはははは!!魔族ごときが!訳のわからない魔法を使って驚いたが、やはり悪魔には敵わない!』
黒い靄には、成る程、生気を奪い取る作用や、毒、細胞を劣化させ、崩壊させる作用があるらしい。
要は、闇魔法でお馴染み、腐食の魔法だろう。
どんなものかと思ったが、肌にチリチリと強い日差しを受けたような、痒みが走る。
闇魔法は、元素攻撃魔法と違い、相手に直接作用するため、互いの力の差が効果に直結する。
そもそも、闇の力を持っている魔族には効果が薄いのに、明らかに格上の私に、効くとでも思ったのか?
もやの中に包まれてしまったので、向こうからは見えないんだろうなぁ。
「不完全な召喚で現れた劣化悪魔はこの程度なのか。もういいや。」
私は、聖女の魔力を使うまでもないと判断し、普通の魔力を練り、同じく闇魔法を発動させると、モヤを食った。
『は?』
うーん、不味い。何だこの淀みきった魔力は。
「逆系統の魔法で、相殺するのは有名だけど、同系統の魔法で吸収することも出来るんだよー。」
『そんな……馬鹿な。』
気力が尽きたのか、ガックリと膝をつき、項垂れる劣化悪魔。
「あんたじゃ力不足。実験にもならないわ。」
私はそう言うと、魔法を発動させた。
「聖なる息吹よ」
聖女の魔法ではない。
高位の神官が使う浄化魔法だ。
アンデットには効果てきめんだが、どうやらレッサーデーモンにもよく効くらしい。
『や、やめ、ギャァァアア!!』
絶叫した後、その場に倒れ伏す。あーあ、さっきまでの威勢が微塵も残っていない。面白くない。
『クソ、何者、なんだ、お前は。魔族……のくせに、神聖魔法を、使う、なんて。楽に……暴れられると、聞いたのに、詐欺じゃないか……。』
絞り出すように、呟きながら、虚空を見つめている。
「ん?楽に?」
聞き返すが、特に答えるつもりはないらしい。
いや、もう聞こえてないのかもしれない。
ボロボロと崩れていく自分の体を見ながら、恨み言のような言葉だけを呟いていた。
『あの、魔女、め。悪魔を、利用、ぐっ……。』
体の器官がどうなっているのかはよくわからないが、体のほとんどが崩れ落ち、頭だけになっても、ブツブツと呟き、最後は依り代のものだろうか、比較的綺麗な頭蓋骨だけがその場に残された。
魔女?
うーん、私のことではないよね。
大した能力もない人間が数人程度でレッサーデーモンを呼び出したのもやっぱり違和感がある。
魔女とやらが何かしたのか?
キラキラの魔力も、神聖魔法で片付けられたし。
そもそも、聖女は生まれるもので有って召喚して出てくるもんじゃない。
なんだか疑問ばかり残る。
「ま、なんにせよこの場所をこのまま置いておくのはダメよね。」
6人分の死体と頭蓋骨、謎の魔法陣と祭壇。
怪しすぎる洞窟。
違う人がたまたま見つけて余計な事態になっても困るしな。
なんか陰気くさいし、全部焼いておこう。
下手に放置すると、アンデッドとかが湧きそうだ。
「浄化の炎」
聖女の魔力を込めた、オリジナルの浄化魔法。
高火力で一気に焼き尽くすので、祭壇や魔法陣などの落書きも綺麗になるだろう。
高熱で一部ガラス化してしまうのが玉に瑕だが、まぁいいさ。
……多分。
そんなわけで、スッキリ綺麗になったところで、私は意気揚々とその場を後にしたのだった。
そしてやっと思い出す。
あ、トイレの後、水浴びしようとして、ハンナを置いたままだった。
◇◇◇◇
ラフですが、ゼルくんのイメージです。
幼くなってしまったので、12歳ごろということで。
これが25歳くらいまで育ったところを想像してください……。
モデルはミミズクです。
いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。




