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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女さまとラザン帝国
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聖女さまと人間の悪意

近々別サイドの話を挟む予定です。

ううーん。

Bランクの魔物退治の依頼か。


「村を荒らすレッサードラゴンの討伐、食用の暴れビッグホーンの討伐。このあたりが妥当ですかね。」


ジークハルトは私たちを見まわしながらそう言った。

正直言うと、レッサードラゴンやビッグホーンなんて、剣を習いたての子供が練習に倒すような魔物である。

こんなものに村を荒らされていてどうするんだよ人間。


「ちょっと一応、力加減の都合で聞きたいんだけども。」


私は、風の魔法で声を散らしながらアレクシスたちに尋ねる。


「Bランクっていうのは、普通の人間では苦戦するのかな?というか、普通の人間が普通に倒せる魔物ってどれくらいなの?」


大まかにラードルフさんに聞いていたとはいえ、ラードルフさんの認識もどこまで正しいかわからない。一応確認が必要だ。


「俺たちは、まぁそんなに苦労せずに倒せるけど……そうだな。訓練された兵士や多少名の通った冒険者が1対1で倒せるのがBランク。Aランクになると、訓練された兵士や有名な冒険者が数人でかかるのが普通かな。俺たちも、Aランク相手だと相当準備をして構えたとしても、相手の種類によっては1対1で勝てるかは、運もかかわってくる。」

「その辺を考えると、一般的な冒険者が倒せるのがCランク、駆け出しだとD、一般の人間はEランクを倒すのがやっとかな。」


アレクシスとジークハルト二人の説明に、分かっていたとはいえ呆れたような顔をするゼル。

こんなの、魔族と戦おうとしている連中の強さじゃない。


「その情報が本当なのでしたら、私たちは何に怯えているんでしょうね。」


人間は、極悪で非道で、肉親すらもいたぶって殺し、小さな赤子ですら殴り殺すことがあると聞いていたので、正直もっと強くて怖い生き物だと思っていたのだけれど。

やっぱりとてつもなく弱い。


「お前らからすればそうかもな。だからこそ、けた外れの強さを持っている勇者と聖女に頼りきりになるんだ。」

「ま、分かった。とりあえず平均的な冒険者が魔族の子供より弱いというのはわかった。」

「魔族の子供?」

「ビッグホーンなんて、子供が晩御飯のおかずに獲りに行くレベルの魔物だもの。」

「そんな、魚釣りでもするような気軽さでBランクの魔物を狩ってるのかよ。」

「あんたたちが弱すぎるのよ。」


しかしまぁ、人間の弱さを嘆いてても仕方がない。

私たちは依頼をこなさなくてはならないのだ。


「Bランクの魔物だと、多少苦戦しているふりをしながら倒せばいいわけね。依頼自体はどっちを受けてもいいわ。」

「うーん、まぁ俺たちが一緒なわけだし、そこまで演技しなくてもいいがな。」

「じゃぁ、依頼の報酬額の良い方、レッサードラゴンの討伐でも行きますか。」


ジークハルトとアレクシスは、少し悩んだ末にレッサードラゴン討伐の依頼書をボードから外すと受付へと提出した。


「はい、レッサードラゴンの討伐ですね!こちらは、Bランクと、難易度は高めの依頼となっておりますが、Aランクの方が2名いらっしゃるので大丈夫ですね。気を付けて行ってらっしゃいませ。」

「今回は、ドラゴンだーわーい!ってならないの?」

「いや、レッサードラゴンて、根本的に違うじゃない。一緒にしたら古竜のおっさんたちが怒鳴り込みに来るかもよ。」

「うっ。それは勘弁なの。」

「比較対象がなんかおかしい気もするが……ま、そうだな。ドラゴンなんて大層な名前がついているが、竜種というよりは大型のトカゲにちかいからな。どちらかといえば、リザードマンやサラマンダーが種族としては近いかも似ているかもしれない。」


私とハンナが話していると、ジークハルトが親切に説明してくれた。

ハンナは、実力はかなりあるが、魔物などの知識に関しては比較的少ない。やはり年齢の分だろう。


「ふーん。じゃぁ、トカゲ退治なの。」

「とはいっても、翼もありますし、体も大きいです。油断は禁物ですよ。」


ゼルが一応付け足して、ハンナが頷くと、ざっとギルドの中も見たことだし、私たちはその場を後にしたのだった。


「いやー、びっくりした。兵士募集、ワイパーンの討伐、黒牙狼の討伐、古竜の討伐、なんていうSランク依頼もあるのねー。ああいうのやりたかったー!」

「古竜はやなの。またあのおっさん出てくるの。」

「ま、まぁ、さすがに別人だとは思うけどね。」

「別人、というか、素材収集でしょうね。あれは、討伐と名がついているだけで、素材を安く買い叩きますよって言う、詐欺まがいな依頼だよ。」

「あー、ねー。」


素材に報酬を付けるよりも、討伐を目的とした依頼の方が、あくまで素材はサブ依頼扱いになりやすく受け取れる、というせこい技なのだそうだ。


「兵士募集もそういう意味では常時依頼でしょうけど、数に制限なしとか、書いてありましたね。」

「そりゃ、戦地に送った分だけ死んでるからな。制限なんてないだろうよ。ま、依頼を受けた時点で手付金が支払われるからな。それを目的にして破棄予定の奴隷や病人が志願することもあるくらいだ。」

「恐ろしい世の中ねぇ。」


ようは、身売りみたいなものか。

運が良ければ生きて帰れるかもしれないというような戦地(まおうとうばつ)に向かうことで、家族の生活費を稼ぐ……。

そんなに切羽詰まってるのかなぁ。


「あと、エリクサーの納品依頼もたくさんありましたね。」

「なんて言っても万能薬だからな。金さえ積めば命が助かるのなら、安いものだと考える貴族も少なくはないだろ。」

「困ってる人がいるなら、ただでいくらでもあげるんだけどね。」

「お前らが在庫放出したら、世界の均衡があっさり崩れそうだな。」」


薬はあるけど、誰にも使えないなんて、もったいないよなぁ。

ちらり、と、暗くなっている路地の方を見る。

にぎやかな街並みのせいで気づかなかったが、スラム街から出てきたような汚れた子供たちが、ゴミ箱の陰に寄り添うように座り込んでいるのをたびたび見かけた。

なるほど、ここで食事を確保するのかな。


「お恵みを、お願いできませんか。」


と、声をかけられ大通りに目を戻すと薄汚れた親子がいる。多少いい身なりをしていたこともあり、まぁ、声をかけられても仕方ないか。


「この子は生まれつき目が見えず、歩くこともできません。もう先は長くないのです。どうかお恵みを……。」


確かに子供の目は固く閉じられてはいるが、こんなとこで座り込んで物乞いしてるくらいなら、父親が働けばよくないか?

ちょっとその辺に出てウサギでも狩れば、その日の食い扶持くらいは何とかなりそうなものだが。


「ああ、あれは詐欺だぞ。」


私が気にしているのを感じ取ったアレクシスが、苦笑しながら言った。


「わざと奴隷の子供の足を折り、目を潰し、同情を買って小銭を稼いでいるんだ。人の多い街にはよくあることさ。」

「何それ!?」


考えられない。

奴隷とはいえ、子供にわざと治らないような怪我をさせて同情を買い、それで楽して小銭を稼ごうだなんて。人間の発想って、やばいな。

確かによく見ると、親子という設定ながらも男は身なりこそ粗末なものの最低限の衣食住が保証されていそうな体つきなのに対し、子供の方はガリガリに痩せ、傷やあざだらけの身体で、息をするのも苦しそうなほどである。

病気と言われ鵜呑みにしていたが、確かに病気というよりは怪我の方が多そうだ。

通り過ぎようとしたタイミングで、違う方向から来た女性がそっとその場に膝をつき、言った。


「どうか、神のご加護を。」


同時に、怪我だらけの小さな男の子がふんわりとした光に包まれた。


「下位の治癒魔法ですね。」


ゼルが呟く。


「病気じゃなくて怪我だって分かる人も多いのね。」


多少痛みが和らいだのか、男の子は弱弱しく微笑んだ。


「おねぇさん、ありがとう。」


さっきよりも呼吸が楽そうだ。

もしかして、苦しそうな演技をさせるためにわざと毎日痛めつけてるのか?

その様子を見て、男は口元にいやらしい笑みを浮かべながら言った。


「ありがとうございます。しかしこの子の目や体は治癒魔法では治りません。生まれつきなもので。それこそ、高位の治癒魔法でも治るかどうか。神聖魔法かエリクサーでもあれば別なのですけどね。」


男は、笑みを引っ込めると、わざとらしく涙ぐんでみせる。

よく言うよ、簡単な治癒魔法では治らないぐらいに傷めつけといて。

古傷や生まれついての欠損などは、その人の一部として認識されてしまうため、治癒魔法では治らない。

だからこそ、何度も何度も、傷つけ、治っては痛めつけを繰り返し、古傷となるようにしたのだろう。


「すみません。私にできるのはこの程度でして。」


治癒魔法をかけた女性は、苦笑すると立ち上がって懐から銀貨を一枚出すと子供に握らせた。


「頑張るのよ。きっといつかは聖女様のお恵みがあるわ。」


その様子を見て再びにやりと笑う男。

女性は苦笑してその場を去っていった。

女性が去っていったのを確認すると、男はひったくるようにして子供から銀貨を奪い取った。


あーあ、やなもの見ちゃったなぁ。

ゆっくりとはいえ絡まれるのが嫌で歩を進めていたため、後ろを振り返りながらその様子を遠巻きに見ていたが、見なきゃよかったかも。


「助けたいですか?聖女様。」

「さすがに、見ちゃうと、助けたいわよ。でも、一人だけ助けることに意味があるのかしら。」


皮肉っぽくいったアレクシスの言葉に私はため息をついた。

この世界には、こんな風な奴隷たちが溢れ返っているのだろう。

それをすべて助けるなんてできるのか?

そもそも、奴隷とはいえ魔族を虐げている人間を助けることに意味なんてあるのか?

子供には罪がないと、どこまで言えるのだろう。


「まぁ、その辺はあとで考えるわ。」


私はいろいろな考えを振り払うと、依頼書に書かれていたレッサーデーモンの出る村と歩みを進めた。

場所は帝国のすぐそば。歩いて半日ほどのところだ。


せっかく帝国に来たというのに。

ま、なんかモヤモヤしているし、暴れてすっきりしようかな、と思うのです。



いつもありがとうございます。

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