聖女様は偵察するようです
少し短めですが、まだ体調が思わしくないため、更新を優先させていただきました。
「作戦とか必要なかったのではないかと、お前らの無茶っぷりが怖い。」
帝国に入り、街並みを見ながらアレクシスはつぶやいた。
結局作戦がどうのではなく、なるようになった、みたいな感じで帝国に入ったのがなぜか気に食わないらしい。
「いいじゃん?うまく行ったんだし。あ、あれ食べたい。」
城から少し離れた街並みは活気にあふれ、ナルノバ帝国よりもずっと栄えているのが一目でわかった。
ゼルをパシって買わせた串焼きを齧りながら、じっくりとあたりを観察した。
なんか、出兵続きで国が疲弊してるみたいな話もあったが、少なくともこの辺りでは全く感じられなかった。
「おかしいなぁ。もっと殺伐としてるかと思ったのに。」
「そうですね。あ、お嬢様、あれも食べたいですよね?買ってきます。」
パシられてると言うか、むしろ自ら進んで買いに行くゼルは、珍しい露店を見つけるたびに全員分の食べ物を購入していた。
「お前らは、胃袋も規格外なのか。」
最初の方の店で買った薄いパン生地で野菜と肉を巻いた料理を齧りながら、アレクシスはつぶやいた。
野菜と肉に小麦の粉や卵を混ぜて焼いたらしい焼き物や、油で鶏肉を揚げたもの、それに先ほどの串焼きなどを抱えながら、なかなか消費が進んでいないらしかった。
「人間は、そんなに少食だから弱いの。もっと食べるの。」
「いやね、ハンナちゃんはどちらかといえば見た目以外は俺ら寄りだと思ってたんだけどね。」
もぐもぐと串揚げを平らげ、次に買ってきた甘い焼き菓子に手をつけている。何だかんだ、食べる速度はハンナが最速だ。
「人間に寄っているとか、虫唾が走るの。」
まるで汚いものでも見るかのようなハンナの様子に、アレクシスとジークハルトは顔を見合わせて苦笑した。
「さて、偵察といっても、今のところ食事関連の偵察、それも屋台限定では、情報が偏ります。他はどこを見ますか?」
ジークハルトは苦笑しながら本題を振る。そりゃまぁ、苦労してここまできといて、屋台でご飯食べて帰りました、ですませるわけにはいかない。
個人的には、捕まっている魔族や亜人、混血の人たちを救いに行きたいところだが、それは最後だ。
失敗した場合などに逃げなければならなくなると、本来の偵察が何一つできないまま終わりかねない。
「食事って、国の情勢を見る上でかなり重要なんだからね。穀物の状態で農作の具合が、肉の質で酪農や狩猟の状況が、メインで食べられている魔物次第で、その国の力が、果物の量でその国の豊かさが分かるんだから。輸入品の量で他国との関係もわかるわ。だから、色々食べてるのよ!」
「はいはい。要は色々食べたいんだな。」
「違うってー!」
私の得意げな説明に対し、アレクシスがサラッとツッコミを入れた。
こ、これでも王女なのよ!
そう言う知識は多少なりともあるんだから。
とはいえ、珍しい食べ物も多く、強く否定もできなかったりして。
「まぁ、冗談はさておき、王宮を見るのは無理でしょうから、ギルドと教会ですね。」
「そうですね、力を持つ団体の確認は必須でしょう。」
そう言って、ジークハルトはギルドがあるらしき方向を指差した。
「ギルドで相互登録をすれば、次回からは入国審査を省くことができます。」
「へぇ?それは良いですね。」
「ただし、何かしら一つ依頼を受けることが条件ですけどね。私とアレクシスは帝国に来るのは初めてではないのですが、ギルドでの相互登録や教会での洗礼を受けていないので、入国審査の必要があるわけです。」
「教会での洗礼?」
「この国で信仰されている宗教に従うと言う意思を示すことですね。この国は女神信仰です。聖女さまは女神の化身と言われて言わすから、そう言う意味では聖女信仰ですかね。」
あー。
確かに、煌めく魔力と奇跡のごとき治癒能力、そしてアイテム製造能力、更には魔物や魔族に対しての圧倒的な優位性。
信仰されるのも分かるか。
とはいえ……。
「ないな。」
私を一瞥して、アレクシスが笑う。
ですよね、私が信仰されるとか意味がわかりませんよね!
「流石に無いと思いたいけど。」
「聖女が魔王の娘とか言う話になったら、宗教まで大変なことになるってことですか。」
「そう。神聖なものと、邪悪なるものは、明確に分かれているからこそ、人々は信仰することができ、正義と悪があるからこそ、正義を守れるのですよ。」
「私たちから見れば、人間側が悪だけどね。」
「それを言い出すと、キリがないですが、どうしても分かりやすい魔王という相手を悪にしてしまうのでしょう。」
わかりやすい、ねぇ。
そんなくだらない理由で、攻められて殺されたらたまらないけど。
「さ、まずはここです。」
大きな煉瓦造りの建物を指差してジークハルトは言った。
周りの建物の数倍ある大きな建物は、歴史とその権力を十分に感じさせてくれた。
「うーん、ナルノバ王国のギルドがショボく感じる。」
「ナルノバ王国の王子の前でそのセリフ言う?」
そんなことを言いながら、どうやってあけたら良いのかわからないレベルの大きなドアの前に立つと、その扉は突然左右にゆっくりと開いた。
何らかの魔法がかかっているのだろうけれど、手が込んでると言うか何と言うか。
凄いなぁ。
「いらっしゃいませ、ギルドへようこそ。」
中には、食堂や武器屋、道具屋が大きく店を構え、入り口付近には受付らしき女性がにこやかに微笑んでいた。
建物の中は、沢山の冒険者やギルド職員で賑わっている。
「おお、ナルノバ王国のギルドが……。」
「しょぼいとか言わないで良いから!」
「まだ言ってないのに。」
そんな冗談を言いながら、アレクシスは、まず受付に行く。
「相互登録したいんだけど。」
ギルドカードを差し出しながらアレクシスは手続きを開始した。
私たちのカードも預けてあるので、全員分一度にやる予定だ。
「はい、どこのギルドがホームでしょうか?」
「ナルノバ王国だ。」
「はい、了解致しました。少々お待ちください。」
テキパキと作業を始める受付嬢。
よくある手続きらしく、特に問題は起きなさそうだ。
「はい、仮登録をいたしました。」
そう言ってギルドカードが返される。
「この後、1ヶ月以内にこの国の依頼を受けていただき、達成された場合、本登録となります。特に難易度の制限はありませんのでお好きなものをお選び下さい。」
そう言ってボードのほうを指差した。
様々な依頼がランクごとに張り出されている。
「1番上がアレクシス様とジークハルト様でAランクとなっておりますので、どの依頼でも大丈夫ですよ。」
受付嬢の言葉で、ギルドの中が少しざわめく。
成る程、確かにハンナの父であるラードルフさんと同じAランクにしては、彼らはかなり若い。そりゃざわめきも起こるわな。
高ランクには見えなかったが、改めてじっくりみると、確かにラードルフさんといい勝負ができそうだ。
「じゃ、みんなで選ぼう。」
アレクシスは、ギルド内を興味津々で見て回る私たちに声をかけた。
その声に、私たちはボードの前へと集まる。
ギルド内の冒険者の視線が集まるのが少し恥ずかしいが、多少レアなAランクが二人いることに対してなため、騒ぎになったりはしなそうだ。
「どうせなら、Aランクの依頼受ける?」
「うーん。何ランクでも良いんだけどさ、あんまり目立ちすぎるのもどうかと思うよ。」
「だって、薬草集めたりとか、聖水汲みに行ったりとか、退屈そうなんだもん。」
「やっぱり魔物討伐が楽しそうですよね。」
ゼルも、どちらかといえば、難易度の高い依頼に惹かれているようだ。
「一瞬で終わりそうなのもあるの。」
そう言ってハンナが指差したのは、回復薬の納品依頼。
「ああ、目立つからパス。」
「そうですね、あれはやめた方が賢明です。依頼主がギルドになってます。と言うことは、この回復薬不足のご時世、回復薬を確保するために、回復薬を作れる人材を見つけるのが目的でしょう。」
ああ、それは心の底から勘弁だわ。
帝国のために一生かけて回復薬を作るだけの人生とか最悪だもん。
「うーん。やっぱりBランクの討伐依頼が妥当ですかね。」
ジークハルトはじっくりとビーランクの依頼書を吟味する。
「目立ち過ぎず、かと言って地味過ぎず、退屈しなくて、全員でいく感じの依頼ですと……。」
そう言いながら二枚の依頼書を指差して言った。
「村を荒らすレッサードラゴンの討伐、食用の暴れビッグホーンの討伐。このあたりが妥当ですかね。」
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これからもよろしくお願いします