聖女さまと宿屋
いつもの事ですが、定期的に宿屋でのんびりします。
「何でこんなに治安が悪いの?」
「宿屋の主人も驚いていましたよね。積荷の少ない貴族の馬車がそんなに襲われるわけないって。」
宿屋に着くと、部屋を二つ借り、そのうちの一つで話し合っていた。
結局あの後、機嫌が悪くなったゼルが、自分に向かって来た盗賊を皆殺しにしてしまい、気絶した奴らも全部始末したほうがいいと主張した。
しかし、アレクシスたちの優しさのおかげで、残りの気絶した盗賊を近くの村の自警団に押し付けたにも関わらず、更にもう1組盗賊に襲われ、そちらもなかなかに酷い有様となった。
そしてつい先ほど、やっとの事で今日の目的であった街の宿屋についたのだ。
「私達が、襲われるようなオーラ出してるんじゃない?」
「いや、服装を見る限りアイツらは兵士崩れだなからな。しかも盗賊歴も浅い。金持ちは金を持っている、という単純な考えて襲って来たんだろう。」
「兵士崩れ?」
「魔王討伐に徴兵されて、何も成果が残せず、敗走して、国にも戻れず、やけになってる連中だろう。」
魔王城に到達すらできずに、周辺の魔物に襲われて逃げ帰った人たちってことか。
私たちのせいではないとはいえ、なんだか可哀想になる。
そこまでして魔族を殺したいのかなぁ。
「だからこそ、護衛の少ない貴族の馬車に嬉々として寄って来たのかしら。」
「そうですね。護衛が少ないということは、その人数で守れるくらいの戦力だというのに。それに気づいてないのか、それとも、腕に自信があるか、です。まだ不慣れな盗賊かつ、兵士崩れで腕に自信がある、ということなのでしょうね。」
「この辺盗賊が多いのって、もしかして……。」
「帝国に帰りたくても帰れない人達、もしくはその親族という事でしょうかね。」
そんな哀れな人を惨殺する執事。罪悪感がすごいんですけど。
何となく哀れな気分になったので、眉をひそめながらゼルを見る。
軽食を摘んで、多少機嫌の直ったらしいゼルは、目をそらしつつ言った。
「盗賊なんかに落ちぶれるという判断をした時点でダメなんですよ。同情の余地はないです。」
「この辺りの盗賊は、帝国に戻れないにしても、よその村に逃げ延びて、貧乏ながらも堅実に生きるという手段だってなくはないはずだからな。それをせず、未練がましく帝国のそばで、手っ取り早く金を手に入れて楽しようと考えるバカの集まりだ。」
ゼルの言葉に、アレクシスもため息混じりに答える。
それに頷くジークハルト。
「アレクシスにバカと言われるほどにバカな連中だ。こういうのも何だが、まともな盗賊は、もっと場所も相手も選ぶ。寝ぐらもまともに持たず、その日の食い扶持だけでスラムにのさばるゴロツキと大差ない盗賊だな。」
「まともな盗賊って何なのよ。」
盗賊って時点でまともじゃないでしょうよ。
しかしまぁ、何となくわからなくはない。こんなとこで、誰彼構わず襲う盗賊が、長生きできるとは思えない。
「因みに、どこもかしこも兵力不足で、盗賊の相手なんかをする余裕がないからな。厄介な場合は冒険者任せだし、襲われたくなければ、金を出して護衛を増やす以外に無い。そういう世の中なのさ。」
帝国だけじゃなく、ナルノバ王国もどうやらそういう状況らしい。自嘲気味にアレクシスは言う。
「どれもこれも、魔王討伐と言う名の自殺行為に起因している。さっさとやめさせないと、どこの国も成り立たなくなっちまう。」
「でもさー、何であんなに執拗に私たちを狙ったのかな?いくら弱そうだからって、限度があるでしょ。」
「うーん、働き手の不足から、奴隷が高騰しているってのもあるし、金持ちの娘なら身代金目的の誘拐を企てた可能性が高いかな。」
「もしくは、ただ単に私達を狙ってる可能性もあるの。」
アレクシスの言葉に、ハンナは欠伸をしながら付け足した。
「考えたくは無いが、確かにそれもあるな。」
ジークハルトは再び頷く。
「この不穏な時期に、裏切り者の可能性があるナルノバ王国からの馬車だ。盗賊を唆し、何かしらの交渉材料に使おうとした者がいないとは限らない。」
「えええ、それだったら、もう俺とか、手の内見せちゃったようなもんじゃ無いですか。うわー、ヤダなぁ。」
せっかく直りかけていたゼルの機嫌が悪くなる。
彼は、面倒くさい事が嫌いなのだ。よくまぁ、私の護衛などと言う面倒な任務を引き受けたもんだ。
ま、彼の父親に逆らえなかっただけだろうけど。
「ま、糸を引いてる奴がいるなら、お前が要注意人物になってるだろうな。俺たちも、帝国にはほとんど顔が割れてないはずだが、絶対じゃ無い。何か不審に思う者がいないとは限らん。警戒するに越したことはない。」
そう言って装備やアイテムの確認を始めるジークハルトとアレクシスをじーっと見つめる私達3人。
やっぱり、こいつら連れてきたのって、あんまりいい判断じゃないかもしれないなぁ。
「あ、なの。思ったよりも強かったからすっかり忘れていたの。護衛さんたちも特級回復薬くらい持っとくといいの。」
そう言ってハンナは私を指差した。
そういえば渡していなかったことを思い出し、慌ててアイテムボックスから回復薬を取り出す。
「な!?特級回復薬だと!?」
「いやー、聖女さまだから持ってても当然だけど、こうやって大量にあるのを見るとなんか複雑な気持ちになるねぇ。」
彼らが持っていたのは中級回復薬だった。
大抵の大怪我なら治るが、瀕死の重傷となるとそれでは厳しい。
エリクサー10本、上級回復薬10本をそれぞれに渡す。
彼らは、受け取りながら苦笑した。
「こんなに貰って平気なのか?」
「全然平気ですよ、だって、エリクサーも上級も倉庫の肥やしですし。」
「エリクサーがボツ?」
「普通には売れないの。邪魔なだけなの。」
「ほんと、聖女さまってのは規格外だな。」
「いや、ほんと、作るの難しいんだって。気がついたらエリクサーになるし。」
「それは、お嬢様だけです。」
「そんな事ないね!絶対アレクシスもジークハルトも失敗するー!」
「何だと!?俺はこう見えて器用だぞ!」
そんな感じで、揉めた結果、特にする事がなかったので、全員で回復薬を作り始めた。
ただでさえ在庫過多なのに。
しかし、しばらく作り始めてハンナが首を傾げ始めた。
「おかしいの。初級を作るのが難しくなってるの。」
ハンナは、回復魔法の適性は低く、彼女が作るのは初級がほとんどだった。最近は、頑張れば中級も安定して作れるようになってきた、と言うところだったのだが。
なぜか今日は、殆どが中級で、加減を間違えると上級が出来てしまうらしかった。
「上級回復薬が出来てしまうの。屈辱なの。」
「ゴミとか言うなよ、上級って高いんだぞ?なんか悲しくなるから。」
「しかし変ですね。私は特に変わった感じはしませんが。まぁ、多少いつもより調子がいい気もすると言う程度で、気のせいの範疇です。」
ゼルは相変わらず中級と上級を作り、上級を私の方へ押し付けてくる。
「ちょっと、私の方に混ぜないでよ。私が失敗してるみたいじゃない。」
「失敗も何も、ほぼ全部上級じゃないですか。中級作る気あります?」
「魔力を流すと一瞬で透明になるんだよ!止められないんだよ!」
そうやって騒いでいると、回復薬作りは学校の授業以来だと言う二人がハンナと同じように首を傾げていた。
「うーん?中級の回復薬なんて初めて出来たんだけど。」
「そうだな。俺もだ。」
授業では、頑張っても初級を作るのがやっとだったらしい。
そんな二人は、しばらくぎこちない手つきで、初級回復薬を作っていたのだが、何度か作るうちに、なんと中級の回復薬ができたのだ。
「俺は、魔力こそ一般人より多いが、回復魔法の適性は低いんだがな。」
ジークハルトが不思議そうに出来上がったポーションを見つめる。
自分で中級のポーションが作れるなら、これから先かなりの節約と収入が期待できる。
「俺は、適性はなくはないが、中級を作るには魔力が足りないはずだ。勇者として完全に覚醒したせいか、それとも他に要因があるのか?薬草自体に変わったところもなさそうだったが、聖女の魔法収納から出てきた薬草ってだけで効果は上がりそうだしなぁ。」
アレクシスも、同じように自作の中級回復薬を眺めていた。
「もう、回復薬づくりが癖になってきたなの。」
「私は、子供の頃からの日課だから、やらないと落ち着かないのよね。」
そう言って、溜まった上級回復薬にキラキラを纏わせてエリクサーへと作り変えた。
「あああ、完全なる特級回復薬になってしまったじゃないですか!」
「いいじゃない、どうせ上級だってこんなにたくさんは売れないでしょ。」
「だからと言って、これはもう、なんの役にも立ちませんよ?」
「そんな事ないねー!いつかは役に立つし!」
まったく!失礼な護衛ね。
「いやー、見てるだけで価値観とかが崩壊していくわ。」
ゼルと喧嘩をしている間、アレクシスとジークハルトは、何百本と並んだエリクサーを見ながら呆然としていた。
「良ければどうぞ。」
そっとアレクシスたちに差し出すが、
「いや、流石にこれだけあっても、アイテムボックスを圧迫するから……。」
最初の20本以外は返却される。
くそ、結局はいつも通り倉庫の肥やし扱いかよ。
仕方なくそれらを私のボックスにしまいながら、ため息をついた。
「では今日はこの辺で。明日には帝国に着けると思うから、頑張ろうね。」
「ああ、よろしくな。」
こうして私たちは、男女で別れて、と言いたいところなのだが、人間と寝るとか無理、とゴネたゼルは、女子部屋のソファーで寝ることになった。
流石に、万が一でも間違いが起きる前に、ロベルトが来るだろう。
なので、私もハンナも呆れながら承諾したのだった。
もう、エリクサーの在庫はやばいことになってます。




