聖女さまは帝国に行く
新章突入しました。
まったり更新していきますので、どうぞよろしくお願いします。
「はるばる来たねー!なんか、やけに遠かった気がするよ、ラザン帝国。」
「あんまりはしゃいだらダメなの。」
「というか、王国までまだ1日ありますけど。」
ハンナに諌められたが、テンションは上がりっぱなしだ。
今回の旅にはヒメは同行していない。
「お嬢様、あまり田舎者っぽく振る舞うのもどうかと思いますよ。」
「いーじゃねぇか。お堅い護衛だね。女の子の笑顔を守ってこそヒーローってもんだろうよ。」
「全く。お前こそ、もう少し護衛らしく振舞ったらどうなんだ。」
私とハンナ、ゼル、そして、第二王子と騎士団長の息子の5人が帝国に向けて馬車に揺られていた。
ヒメは、急激な成長による異変なのか、昨日の分の治癒魔法をかけると、突然倒れて眠り込んでしまった。
熱もなく、スヤスヤと寝息を立てており、たまに寝ぼけたように起きるとまた寝るというのを繰り返しているため、連れて行くわけにはいかず、王宮においてきたのだ。
妹のようにヒメを溺愛してくれているフローラが、責任を持って預かると宣言してくれたこともあり、特に心配はしていない。
1日一本の特級回復薬を飲ませてくれるように頼んであるので、おそらく私がそばにいなくても大丈夫だろう。
「設定を確認しておくが、ナルノバ王国の貴族令嬢姉妹が護衛を連れてラザン帝国へ旅行に来た。お忍びなので公にはしていない。少し買い物を楽しんだら帰る予定、ティーナさんとハンナさんが姉妹で、ゼル君はその執事、俺たちが雇われた冒険者で、護衛な。」
「OK。宜しくお願いします。」
ハンナと私はそんなに似てはいないが、逆に全然似ていない、というわけでもない。
茶色がかった髪の色と目の色は、近いものがある。
顔のパーツは結構違うが、まぁ、姉妹だからといって完全一致しなくてはならないわけではないだろう。
養子とかもあるわけだし、特に人の多い帝国だ。他国の貴族の家族構成にそこまで深く追求することもないと思う。
「では、国に入る際には入国審査がありますので、その時まで、大人しくしていてくださいね。」
ジークハルトに言われ、私とハンナはナルノバ王国が用意してくれた高価な馬車に揺られていた。
帝国までは馬車で3日という長旅だ。
途中にある宿場町を経由しながらののんびりとした旅路。馬車が比較的高価なこともあり、そこそこ快適に過ごしていた。
移動中には、色々な国の情勢や詳細、貨幣価値等、人間の常識的な知識を学んでいたため、退屈もしなかった。
一つ不満があるとすれば……。
「へっへっへ、金目の物を置いてとっとと消え失せな!」
こういう輩が頻繁に現れることだろうか。
「5組目?」
「6組目なの。昨日のショボい連中をカウントすると7組目なの。」
「アレは、ただのゴロツキでしたから、カウントするかは微妙なラインですね。」
「貴族はお金持ちだから、そこそこいい馬車を!って、よく考えたらカモがネギしょって歩いてるみたいなモンだからなー。」
「カモがネギ?なにそれ。」
「よく分からんが、カモと言う生き物がいて、ネギと一緒に食べると美味しいらしい。獲物がアピールしながら囮かと疑うレベルで歩いてることを言うみたいだな。」
「初めて聞く魔物ね。カモ、だなんて狙われるためにいるかのような名前。」
「俺も、見たことはないんだがな。」
人間の言い回しはよく分からないけど、この豪華な馬車がダメなのよね。
既に役人たちに突き出した盗賊の数は100を超え、それによる報酬で暫くは遊んで暮らせるほど潤ってしまった。
なんか、幾ら何でも盗賊多くない?
この辺を通る商人や馬車が少ないことも何かしら関係してるのかしら。
「護衛が2人しかいない良さそうな馬車なんて、狙わないわけなわよね、よく考えたら。」
「戦力的に余裕なため、特に気にしていませんでしたが、確かにこうも頻繁に襲われるとなるともう少し地味な馬車の方が良かったですかね。」
私が顔を出して呟くと、やれやれ、と馬車を止めて降りてくるジークハルト。
既にアレクシスは、馬車から降りて剣を構えている。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!さっさと金目の物を出せ!後、女も置いていけよ。久しぶりの獲物だ。高値で売ってやるからな。ぐへへへ。」
「なんか、こう、盗賊にマニュアル本とかあるの?あまりにもみんなのセリフが同じすぎて感動モノなんだけど。」
「何だと!?このクソ女!」
今にも襲い掛かってきそうな盗賊たちに、少しウトウトしていたハンナは不機嫌そうにあくびを一つ。
「なんかあったら起こして欲しいの。どうせハンナの出番なんてないの。」
「はいはい、なるべく静かにするからね。」
そう言って、私も馬車を降りようとするが。
「いいよ、お嬢様。俺たちだけで十分だ。」
「くっ!何でよぉ!」
アレクシスに止められる。
まぁ、もう既に7回目なので分かってはいた。お忍びのお嬢様が、盗賊相手に立ち回ってる様子を見られると、あとが厄介だから、しょうがない。
しょうがないが……退屈なのだ。
「ゴチャゴチャうるせぇ!やっちまえ!」
襲い掛かってきた盗賊は10人より少し多いくらい。
しかし、まだいる。
森の中に10人以上の気配を感じながら、私は欠伸をした。
いやぁ、初めは盗賊なんてあんまり見たことがないから新鮮だと思ったけど、流石にこうも続くと飽きる。
「案外多いな、執事、手伝え。」
アレクシスがこちらを振り返り声をかける。ハンナの横で傍観モードになっていたゼルは、メンドくさそうに眉を顰めた。
人数の少ない盗賊であれば、アレクシスとジークハルトだけで楽勝なので、基本的にゼルは戦わないのだ。
本来の仕事すらサボるとは、何と言う役立たずな護衛だろう。
「ゼル、手伝いなさい。」
「了解しました。」
既に3人ほどは昏倒させられているが、それでもまだ10人近く残っている。
森の中に隠れている盗賊も合わせると、そこそこの数だろう。
こんな団体さんで襲うなんて、痕跡も全部消すつもり?帝国が近いっていうのに、治安が悪いのね。
「殺さない方がいいんですよね?」
「殺してもいいんだけど、犯罪奴隷としての報酬がもらえるかどうかっていうところがなー。」
ゼルの台詞に、アレクシスが苦笑する。
ゼルは少し首を傾げて言った。
「じゃあ、殺した方が楽じゃないですか。」
正直、人間の国に来てすぐはお金を稼がねばならなかったが、今は全く必要が無いくらい稼げていた。
その上ここ数日の盗賊襲来。
更には、ナルノバ王国というバックが付いているのだ。
わざわざ盗賊を引っ立ててお金に変える必要もない。
ゼルは基本的には温厚に見られがちだが、面倒臭がりなところがあり、必要以上に殺さないし動かないだけであって、必要とあれば汚れ役も進んで引き受ける残忍さを持っている。
だからこそ、帝国軍撃退の指揮を任せられるんだ。
「まぁまぁ、執事君。程々にね。」
「相手のやる気次第ですよ。」
ゼルは、細身の剣を抜くと気だるそうに構えた。
「相手は3人だろ!?どれだけかかるんだ!」
指示を出していた首領っぽい男は、一瞬で終わるはずの仕事が終わらないことに苛立っていた。
金持ちの馬車を襲って、金と女を奪い取るだけの簡単なお仕事。
最近は治安が悪く護衛を必要以上に雇っている馬車や商人が多く、手が出せないことが多かった。
しかしながら、今回は違う。
どこぞの令嬢の娯楽なのだろう、護衛も二人、馬車に乗っていたとしても、多くて4人だろう。これ以上ないくらいのカモである。
身代金を要求するのも良し、高く売るのも良し。
この辺には盗賊が多いのだから、少しくらい無茶をしても知らぬ存ぜぬで通すことが出来るだろう。
30人で囲めば、瞬く間に終わるはずだった。
なのに、馬車に近づくことすらできていない現状。
金目の物を出せとは言ったが、商人の馬車でもないし、大したものが出てくるとは思っていない。
命惜しさに少女たちが出すであろう金貨を奪い、護衛たちを殺した後、少女たちをどうするか考えればいい。
それなのに。
「どうなってやがる……。」
とは言っても、まだ剣を交え始めて15分も経っていない。
然し乍ら、確実に人数を減らされていく盗賊と、傷ひとつ付いていない護衛。
苛立つのも仕方はない。
「あの弱そうなヒョロ男から狙え!」
頭領が指示を出すと、アレクシスたちと直接剣を交えている者以外がゼルへと向かう。
1対3で戦っていたジークハルトとアレクシスの2人は、急に楽になったことで、残念そうにわずかに首を傾げた。
そして、森の中の援軍を牽制しながら、一人を受け持っていただけのゼルは、再びため息をついた。
「卑怯ですよね?1人相手に5人で囲むとか。さっさと逃げるなら見逃せたのに。1人ずつ相手にするより手加減が難しいので、知りませんよ。」
やれやれ、とゼルは剣を握り直す。
見た目で判断するのは良くない、とつくづく思う。
今この場にいるメンバーの中で、1番厄介で1番残酷なのが誰なのか見定められないからそういう事になるのだ。
全力で戦うなら、私が1番強いだろう。
しかし、私は母親が人間なこともあり、人間に多少甘い部分がある。
しかし、ゼルは違う。
人間を好きなわけではなく、人間を侮っておらず、面倒なことを嫌う。
「囲まれているのが分かっていないのか!?強がりやがって!さっさと死ね!」
囲んだ時の作戦でも有るのだろうか。お互いの武器がぶつからないように、全方向から剣やナタ、斧の斬撃がゼルへと向かう。
血飛沫と悲鳴、ぐちゃぐちゃに潰れたゼルの死体を想像しながら、その五人はその光景を見ることなく崩れ落ちた。
何が起きたのか、全くわからないまま。
「あーあ、手加減出来ませんでしたね。まぁ、痛いのは嫌ですし。」
悲鳴をあげることすらできない。声が出ないから。
彼らは、それぞれ武器を持っている手と、首が綺麗に胴体から離れていた。
「な、な!?魔法を使ったのか!?卑怯だぞ!」
「魔法が卑怯になるなら、魔法使いは卑怯者の集まりですね。いきなり襲い掛かってくる方がよっぽど卑怯ですよね。」
倒れて血だまりを作る五人を見ながら、頭領は何が間違っていたのか頭をフル回転させていた。
だが、答えなど分かるわけがない。
全く見えていなかったのだから。呆然と死体とゼルを見比べるだけだ。
ゼルはというと、やれやれ、とて手に付いた血をピッと振って切る。
魔法だ、と判断したのは、さっきまで構えていた剣が鞘に収まっているからだろう。
しかし、ゼルは魔法もそこまで得意ではない。
鳥型の魔族であり、武器はその目と機動力だ。普段は背中に羽が生えた姿でいるが、本気を出すときには両腕が翼になる。良すぎる目を最大限に利用した音を立てない高速移動。
彼は、猛禽類の能力を継ぐ、獣人型の魔族なのだ。
人間五人程度に囲まれて、遅れを取るわけがない。
「うわー。やりやがったあいつ。」
バラバラ死体を見て、げんなりした様子のアレクシスとジークハルト。
「しかし、あんな一瞬だけ元の姿に戻ることも出来るんだな。」
「まぁ、やろうと思えば。」
飄々とするゼルを見て、冷静さを欠いた盗賊たち。
死体を見て、恐怖に怯えれば、無駄な死体を増やすことなどなかった。
「くそ、くそおおおお!!!」
そこで引き下がる判断ができない盗賊は、只々全滅するしか道を残していなかったのだった。
ヘタレが定着しているゼル君。
たまには少しくらい頑張ります。
こう見えて、そんなに弱いわけではないのです。




