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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様と人間の国
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転生したらドラゴンだったから

今回は過去話です。

あー、失敗した。


冷たくなって行く自分の体をどこか他人事のように見つめていた。


まさかこんなことになるとは思わなかった。

ま、昔から定番だよな。


遠くに電車が見えてるってのに、目の前で、ベビーカーが線路に落ちた瞬間、とっさに飛び込んでしまった。

反対側の線路に投げれば、助かるだろう。

とにかく自分のことなんて考えてなかった。

俺も無傷で子供を抱き上げてやればヒーローなんだろうが、そんな格好いいことはできなかったな。

ベビーカーを電車の来ていない側の線路にぶん投げた直後、衝撃。

辺りに響く悲鳴を、聞いた。


いやー、テレビとかで、そういう話をたまに聞くけど、俺には他人の子供を助けるなんて無理だと思ってたわ。

しかし、体ってのはとっさに動くもんだね。


ま、赤ん坊が助かったからいいか。

自分の手から視線をあげ、ベビーカーを見る。

そこには、駅員や周りの人に助け出される子供の姿。

泣き叫んではいるものの、たいした傷では無いだろう。


肺も潰れたのだろうか、色々声を出しているつもりだが、恐らくはヒューヒューといった息が漏れているだけだろう。


「次生まれ変わるんやったら、もうちょい頑丈な体がええな。」


とはいえ、電車に跳ね飛ばされても大丈夫なほど頑丈だとすれば、アメコミヒーローか、人外だな。

田舎では、イノシシやシカが、はねられた後逃げて行く事がよくあるけれど、内臓とかを損傷していて後で死んだりするらしいし。

そうなると、もっとでかい動物か。


って、なんで俺、来世でも電車にはねられること前提なんだよ。この痛みは、勘弁してほしいわ。

そもそも、電車とか無い地域とか、ジャングルの奥に生まれるかもしれないし。

あーあ、やり残したことの多い人生だな。

彼女もいなけりゃ子供もいない。だからこそ安心して死ねる部分もあるが。

まさか30代で死ぬなんてな。


幸いなのかなんなのか、高齢で俺を生み育てた両親はつい数年前に死んだとこだ。

この若さで、先立つ不孝とか言わないで良いのは助かるわ。


そんなことを考えながら、世界は闇へと溶けてゆく。



◇ ◇ ◇ ◇


「暗いな。」


次に気がついたのは真っ暗な部屋の中だった。

確か俺、電車にはねられて死ななかったか?


そんなことを思いながら手を伸ばそうとしてあまりに近い壁に困惑する。

どうなってるんだ?


どうやら、クッソ狭い部屋だか箱に閉じ込められているようだ。


「おーい、出してくれ!」


叫んでみるが、自分の声が反響するばかり。

どうしたものかと暴れていたら、突然上の方から眩しい光が見えた。


出口か!


俺はその出口に向かって必死で体を起こし、手を伸ばした。

ん?手、短くね?

電車に轢かれてちぎれたかと思ったが、そういうことではなく、手が短い。

仕方なくその光に向かって頭を突っ込む。


よし、出られた!


そう思った瞬間、目の前には馬鹿でかい恐竜がいた。


「あ、詰んだ。」


ボソッとつぶやいたが、その恐竜はニッコリと笑って応えた。


「初めまして、私の可愛い坊や。」

「あ、ども……。」


俺の反応に、ほんの少し違和感があったのかその恐竜は首を傾げて俺をまじまじと見つめたが、そのうち、大したことはないと思ったのだろう。ペロリと俺の顔を舐めた。

食べられることはなさそうだ、と思い改めて周りを見渡すと、そこは大きな洞窟の中のようだった。

洞窟とはいっても、片側は吹き抜け状態で、明るい光もたっぷりと入ってきている。

なんとも野生的な家だ。


そして次に自分の体を見て、その後恐竜を見て、もう一度自分を見る。

緑色の体、二本の大きなツノ。全身を覆うウロコ、長い尻尾と背中にはコウモリを思わせる翼があった。


うん、これ恐竜やない。

ドラゴンや。


「これなら確かに、電車に跳ね飛ばされても死なへん自信あるわ。」


どうやら俺は、ドラゴンに生まれ変わったらしかった。


……なんやねんドラゴンて!

人外に生まれ変わるにしても無理があるやろ。

しかもこの世界、絶対電車とか無いで。

ツッコミどころが満載すぎて色々追いつかない。


とりあえずは母竜から与えられた謎の肉と葉っぱを深く考えないようにして貪るのだった。

考えたら負けやな、多分。



◇ ◇ ◇ ◇


「ま、参った。分かったから、もうやめてんか。」


それから数百年。

成竜になった俺は、前世の知識やらを総動員して古竜の中でもトップクラスにまで上り詰めていた。

元々魔王に次ぐ力を持つ古竜だが、その中でも俺は、生まれつきズバ抜けた魔力とセンスを持っていた。

その能力と前世の記憶。

チートと言われても仕方がないほどのイージーモードで竜としての人生を謳歌していた。


しかしそこに、悪魔が舞い降りた。


数時間後には、俺は、竜の里を壊滅状態に陥れた相手に、土下座して命乞いをした。


「はははは!所詮トカゲね!」

「頼む、里のみんなにこれ以上手を出さんといてくれ。」

「……ん?なに、あんた。訛りおかしくない?」


大聖女と呼ばれたその女は、俺からむしり取った片方の翼をポイと投げ捨てると首を傾げた。


「そんな変な喋り方、こっちで聞いたの初めてよ。関西弁みたいな言葉が、ドラゴンの里で使われているなんて知らなかったわ。」

()西()()?」


俺の聞き間違いでなければ、今、関西弁て言ったか?


「ああ、いえ、なんでもないのよ。どうせドラゴンなんかには分からないでしょ。」

「お前まさか……日本人やったりする?」


恐る恐る問いかける。


「はぁ?なにこのトカゲ。何でそんな事……。ああ、そうなの?まさかとは思うけど、まさかなの?」


キャハハハハ!と甲高い声が辺りに響く。


「そうなの!あなたも生まれ変わってここに来たのね!でもさ、竜って!人外に生まれ変わるとか可哀想すぎる!!」


竜の死体が辺りに溢れかえる里の中で、場違いな笑い声を響かせながら、ひとしきり笑い転げた後、言った。


「ほんとはさー、竜帝を下僕にして連れて行こうと思ったんだけど、同郷のよしみってことであんたで良いや!ねぇ、魔王倒しに行こうよ!」


血に濡れた手を差し出しながら、ニッコリと笑った。

勧誘のように見えて、とにかく威圧が凄い。

聖女の魔力に絡め取られ、体も自由がきかない。


「嫌なら良いよ、まだ生きてそうな竜は何体かいたし。」


目線の先には、ピクピクと痙攣する俺の母竜や、妹竜、そして竜帝や側近の竜が数体生き残ってこっちを睨みつけていた。


聖女が本気を出すと、竜の魔力は吸い取られ、強制的に服従状態になる。

なので誰1人として、彼女に傷を負わせることが出来なかった。

一方的な殺戮である。


「でもさー、どうも強制でペット化(テイム)するより、従ってもらった方が魔力の流れがいいみたいなのよね。あんた私のペットにならない?」


聖女と呼ばれたその女は、悪魔よりも凶悪な笑みでこちらを見ていた。

何でこんな女が聖女なんだ。

これじゃあ、竜や魔王の方がずっとマシじゃないか。


従わなければ、他の竜も殺すという脅しに屈して、俺は自らその女に従った。

聖女とはいえ所詮人間なんて100年もしないで死ぬだろう。

その後ゆっくりスローライフを楽しめばいい。


「わかった。みんなを助けてくれるなら、俺はお前に従おうやないか。」

「やりぃ!ドラゴンゲットー!」


そう言って、何気なく振りまいた聖女の魔力で、命が残っていた竜たちは、瞬く間に全ての傷が消え失せた。

まるで何事もなかったかのように。


化け物か、こいつ。


俺はその時、聖女の奇跡というものに恐怖しか無かった。


「私は、エルゼ。でもこの名前好きじゃないのよね。あっちでは加村聖良(カムラセイラ)って名前だったの。親しくない人に下の名前で呼ばれるのは嫌だから、カムラって呼んで。」

「……わかったよ、カムラちゃん。」


こうして俺は、聖女の竜として更に名を馳せる事となった。



◇ ◇ ◇ ◇


「あー、なんか懐かしい夢を見たような?」


可愛い孫娘を愛でた翌日、ものすごく嫌な夢で目が覚めた。


「どうせなら、ヒメたんと戯れる夢が良かったわ。」


もう、7000年以上も前のことだが、あいつの中では、まだ終わっていないという事なのだろう。

ずっと日本に帰りたがっていた、転生者。加村聖良。


しかし、直感が告げる。

()()()()()に手を出してはいけない、と。

アレは、恐らく神の手から外れた存在だ。


神の子とも言われたカムラも、手を出せばタダでは済まない気がする。


「ま、ワシはヒメたんさえ無事ならええわ。」


そう呟いて、庭の畑を見回す。

さ、今日も張り切ってスローライフに勤しむとするかな。

このジジイ、重要なのか重要じゃないのかわからない微妙な立場ですね。



いつもありがとうございます。

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