聖女様とおじいちゃん
思った以上に王国の滞在期間が長くなってしまいました。
サクッと帝国に向かわせるつもりだったのですが。
追記:文章力がなく、混乱させてしまってすみませんでした。
一部呼称を変更しました。
召喚、と言われて思い浮かんだのは魔王だが、ヒメが呼ぼうとしているのは別人のようだ。
この流れで呼ばれるのは、古竜の両親だろう。あの厄介な二人が来たら、また話がこじれそうだ。
適当にごまかして、アレクシスも置いて行く流れにしよう。
やっぱ、よく考えたら、ジークハルトが一人いれば、大丈夫だし。
それでも、アレクシスが狙われるのは変わりないけど。
他人のふりって事で。
「父竜とか母竜を呼ぶんでしょ?ここは狭いし、とりあえず呼ばなくていいよ。アレクシスを置いていけば済む話だし!」
「置いて行く気満々!分かってはいたけど、悲しくなっちゃう、俺。」
図書室の狭さを理由に、とりあえずお断りの方向で行こうとしたが、アレクシスがしょげただけで、ヒメは特に気にした様子はなかった。
「とーたんたちじゃないでちゅ。大丈夫。古竜の姿でいることの方が稀な人でしゅから。」
そう言って首から下げたネックレスの宝石部分、エメラルドの様な石を口に咥えた。
「あ、ちょ、待って、いいから!呼ばなくていいから!」
「遠慮しないでいいでちゅ。きっと役に立つでちゅよ!」
遠慮してるわけではない。
正直古竜は嫌なんだ!あのヒメの父親を見ても分かる。
絶対ろくなことにならない。変なのが増えるだけだ。
と、言いたいのだが、ヒメを前にしてそんなことも言えず。
「竜帝王の名前は伊達じゃないでちゅからね!血縁ではなく実力でトップに上り詰めた伝説の竜帝でちゅ。」
「ああ、もう説明だけで無理、そんなやばい人呼ばなくても大丈夫だから!」
竜帝王って、さっき読んだ伝記に出てきてたんだけど!
神の竜とか言われて崇められてたとか。
神とかロクなもんじゃないから、絶対。
マジやめて。
私が慌てふためいている間に、ヒメは口に咥えた石を噛み砕いた。
「だめぇええ!」
「竜帝召喚」
眩い光とともに、ヒメの前には召喚魔法陣が浮き上がる。
どうやらあの石に召喚用の魔力と呪文が埋め込まれていたのだろう。
光が消えたそこには、透き通る様な白髪と、たっぷりと蓄えた髭が立派な1人の老人がいた。
見た目は、70代よりも90代に近いほどの歳に見えるが、古竜だとすれば年齢は分からない。
これが、竜帝王。
全ての竜を総べる者。魔王に次ぐ力の持ち主。
「むっ!?」
渋い雰囲気を纏っており、年老いてなおその眼光の鋭さは乗り越えてきた修羅場を物語る様だ。
一見した限りでは、古竜には見えない。
いわゆる、武芸で達人の域に到達したご老人、といった感じだろうか。
膨大な魔力を中に秘め、しかし決して恐怖を抱かせないところを見ると魔力を何かしらの形で押し殺しているのだろう。
それだけでも、物凄い魔力操作能力だ。
彼は、突然のことに驚いたのか、ゆっくりと辺りを見回した。そしてヒメを見つけると。
「……ヒメたぁあああん!!!」
やはりキャラが崩壊した。
まぁ、そんなことだろうと思ったよ。竜帝王ともあろう立場の者が、こんな娘1人に、自分を召喚するためのアイテムを持たせているのだ。
どう考えてもうちの父親と同じタイプの生き物である。
何なの?
最近は親バカがデフォなの?あ、この場合はジジ馬鹿か。
「おじいちゃま。お久しぶりでちゅ。」
威厳もクソもかなぐり捨てて、ハアハアしながら幼女に抱きついている姿は、側から見るとただの変態である。
子供が嫌がっていないので、かろうじて通報は免れるかもしれないが。
慣れたものなのか、苦笑しながら祖父の背中をポンポンと撫でる。
「ヒメたん、おじーちゃんはさみしかったんやで!もっと呼んでくれて良かったんやからな!今回はどうしたんや?困ったことでもあったか?それともお小遣いか?あ、こやつら全員消し炭にしたらええんか?」
小遣い欲しさに竜帝王を呼ぶ孫がいたら殴っても良いも思うぞ。
何となく慣れた雰囲気に、私達は竜帝を前にして異常なほどにリラックスしていた。
というか、呆れていた。
普通であればその威圧だけで、人間は生命活動を放棄すると言われている竜帝。
その中でも生きる伝説と言われているこの竜帝王。
何千年もの時間を生き、どれだけこの世界を見てきたのだろう。
「消し炭とか、さらりと不穏なこと言わないで欲しいんですけど……。初めまして、竜帝王様。」
私は、とりあえず代表として頭を下げる。
「おじーちゃん、こちら、魔王の娘のティーナちゃんでちゅ。」
「ん?魔王の娘?」
それまで、孫娘以外は路傍の石ころか何かだとでも思っていたらしい竜帝王は、初めて周りにいる人々に意識を向けた。
「魔王の娘?確かに魔族やけど、混ざりもんやし、聖女やないか、この子。」
「はい、人間の娘で、魔王の娘であり、聖女でしゅ。」
「……。ほんまか!何やそれ、人間は魔力だけやなくて、聖女まで魔族にやってしもたんか。もう、詰んだな。」
ぽりぽりと頭をかきながら、竜帝王は呟いた。
流石に竜帝王の伝記は私でも読んだことがある。
奇跡の竜王とか、神の竜とかとにかく凄い伝説だ。
何より、この竜、7000年以上生きている。
「それよりも、おじいちゃま、お願いがあるのでしゅけど。」
ヒメは、竜王の呼び方を改め、畏まった様子で話し始めた。
そっちに視線を向けた竜帝王は、顔が緩みきっている。
「ヒメたんのお願いなら、何でも聞いたるで。」
孫とは、祖父母にとって、子供とは違いただただ甘やかすことができる最高の生き物だ。
そこに、自身の子供の可愛かった時代だけを投影し、とにかく愛でる。
竜帝王とて例外でなく、このままだと孫娘のために世界を破壊することすら厭わないだろう。
「ん?ヒメたん、しばらく見ないうちに大きなったかな?見た目はともかく、魔力量が桁違いや。ワシも歳をとるわけやな。」
「あ、しょうでちた。おじいちゃま。あのね、私がなかなか成竜にならない理由がわかったのでちゅ。どうも、呪いらしくてでしゅね。」
「よし、殺そう。」
不意打ちだった。
周りの人間が凍りつくほどの殺気。
唯一普通の人間であるフローラは、こんなふざけたやりとりだけで気絶した。
シンディやアレクシスも、全く動けず、冷や汗をかいている。
「お、落ち着いてくだしゃい。私を可愛がりすぎた両親の言霊の呪いみたいでちて、今は治療中でしゅので、大丈夫でち!」
あえて父のせいと言わないのは、あれだけの力を持つ古竜の父親でも、この竜帝王の前では塵芥に等しいと分かっているからだろう。
「ふむ。可愛いヒメちゃんの期間が長いのはワシ的には萌えやからええねんけど、呪いとなると流石に可哀想や。治してくれてるのは聖女か?」
「あ、はい。」
竜帝王が突然こっちを振り向いた。
殺気振りまいたり威圧したり、忙しい人だなぁ。
「ほー。ベースが魔王の娘だけあって歴代の聖女とは桁違いやな。とはいえ、うーん。天然ものか。」
私のことをマジマジと観察しながら呟く。
天然とかなんか失礼な事を言われた気がするけど。
「まぁいい、そろそろ引退して老後をスローライフと思っとったけど、少しくらい孫のわがままに付き合うのも悪くないやろ。特に、可愛いヒメたんの恩人なら尚更や。さて、ワシは何をすればええんかな?」
こっちを見てニヤリと笑う。
「本当は、そっちにいるアルフォンスの子孫と手合わせしたいところやけど、弱すぎる。もう少し強くなったら、稽古をつけてやるから、ワシのとこへ来るとええわ。」
「え、ご先祖様をご存知なのですか。」
アレクシスを顎でくいっと指すと、懐かしむように目を細めた。
「あいつらは仲間やからな。ま、ある意味ライバルか。ま、それは今はええやろ。」
さすが、何千年も生きてると色々あるんだろうな。
「えーっとですね、このアレクシスが封印されていた、アルフォンスさんの勇者の因子を受け継いでしまいまして。」
「おおおお!なんと!ついに封印が解かれたのか!と、言うことは。」
机に置かれた剣に目を移し、ニヤリと口元を歪めた。
「カムラを殺すんやな。」
「なっ!?」
さっきから、なんか色々知ってそうだなとは思ったけど。
このジジイ、どこまで知ってるのか。
「しかし、ワシは人間の世界を離れて久しい。情勢も、現状もイマイチ分かっとらへんからな。余計な口出しはせえへんぞ。」
うーん、竜帝王にも、何か事情があるのかな。
人間の姿をしていることの方が多い竜帝王って言うのも、なんか変な話だしなぁ。
「構いません。それよりも、このアレクシスの勇者の魔力をですね、一部の人に知られたくないので、可能な限り隠したいんです。方法を知りませんか?」
「うーん、せやなぁ……」
「おじいちゃま、どうか、お願いしましゅ。」
「任せなさい!」
孫娘に全力でお願いされ、竜帝王のはメロメロになりながら即答した。
「相手にバレないってことは、勇者だとか、魔力だとか、そもそものこの世界の理から抜け出せばええんや。」
なんか無茶言いだしたぞ、このジジイ。
「ま、普通の人間には難しいかもしれへんな。こっちに来い。ワシがお前の存在を歪めたろ。」
「え、なんか怖い。」
「お前、なかなかいい性格してそうやし。今更多少歪んだとこで問題ないやろ。はははっ!」
そう言うと、アレクシスに手招きする。
彼が恐る恐る近づくと、その頭の上にゆっくりと手を乗せた。
「お前の因子と呼ばれる部分をずらして別世界に置く。異空間に似ているが、違う場所や。そうする事で、お前の存在はあやふやなものになる。しかし、繋がっているからな、いつでも力を引き出せるで。」
何その力技!
全く知らない魔法に、私はアレクシスと竜帝王を交互に見た。
竜帝王が人間には発音できないであろう唸り声を発すると、アレクシスから漏れ出ていた勇者の気配がピタリと消えた。
消えたと言うか、物凄く朧げというか。
何だこれ。
アレクシスの存在は認識できるのに、勇者の力や魔力は感じられない。
集中すると、確かに、遠くに魔力があるのがわかる。
遠いから、弱く感じる。
「ま、これでええやろ。あ、力を使ったら流石にバレるで。そこまでは面倒見られへんからな。」
ふぅ、と息を吐くと腕を組んでふんぞり返った。
「いえ、十分です。ありがとうございました。これで帝国に偵察に行けます。」
「おじいちゃん、ありがとうでちゅ!」
「ひめたぁぁん!このくらい朝飯前やからな!」
ヒメを前にすると壊れるなぁ、この人も。
デレデレとヒメを撫でくりまわした後、名残惜しそうにヒメから離れると言った。
「じゃ、ワシはこの辺で。聖女殿、ヒメをよろしく頼むわ。何かあったら、また呼んでくれたらええからな。古竜は、聖女の使い魔みたいなもんやし。ワシは立場があるから同行はでけへんけど。」
軽く頭を下げるとヒメの方に手を振りながら転移らしき魔法を唱えた。
光とともに消えゆく姿。
同時に、遠くを見ながらぼそりと呟いた。
「全く、加村ちゃんもいい加減諦めりゃええのに。」
そのつぶやきは、私たちに届く事なく搔き消える。
こうして私たちは、王国での滞在を終え、帝国の調査に向けて出発するのだった。
次から、やっと帝国に向かいます。
ダラダラと長引いてしまってすみません。
追記:誤字脱字報告ありがとうございます。
誤解を与える表記で、分かりづらいとのご指摘のため、ルビと呼び方を変更しました。
あ、あと、ポイントが500を超えました。
皆さん、どうもありがとうございます!
素人丸出しの拙い文章ではありますが、頑張って更新していこうと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いします。




