魔王の城は攻められる
カップ焼そばを忘れていたら、1時間経過し、凄いことになりました。
そんなこんなで、
ティーナは8歳になりました。
もう何度目だろう。
こっちからは一切攻撃を加えていないのに、定期的に人族の軍隊が攻めてくるのだ。
「悪魔は滅びよ!」
「魔族は敵だ」
「魔王は死ね!」
魔族の王だというだけで、何もしてなくても死なないといけないなんて、理不尽過ぎない?
「ねぇ、父様。もういっそ、人間を滅ぼしてしまうというのはどうでしょう」
仲の良かった魔族の少年の村が襲われ、彼が大怪我をした。ついに我慢ができなくなって、そう進言したが、父様は困った顔をしながら苦笑した。
「あのね、ティーナ。ワシには、何者にも変えがたい宝があるんじゃ。それは、ティーナでありエミールであり、シルフィーヌであり、国民である魔族の皆なのじゃ。」
「だからこそ!それを傷つける奴らを生かしておけば、また襲われてしまう!奴らさえいなければ、人の侵略に怯えて暮らすこともなくなるのです!」
「それもそうなんじゃがの。ワシに宝があるように、人間一人一人にも、家族や友達といった宝があるんじゃ。1人の命を奪えば、それに連なる全ての人から恨みを買ってしまうんじゃよ。」
「...それでも!」
言い返そうとしたが、言葉が出ない。頭の中では分かっている。
私だって、エミールやゼルやその他の友達、父様や母様が傷付けられたら悲しいし悔しい。
だからと言ってずっとやられ続けるのは癪だった。
「人間たちの方が、基本的には弱い。魔族の子供でも、人間の屈強な大人1人くらいなら対等に戦える。だからこそ、人は怯えるのかもしれんな。ワシらが襲ってきたら、きっと勝てない。だから先に滅ぼしてしまえ、と。」
「じゃあ、わたしが!みんなを守ってあげる!」
「ああ、ありがとうな、さすがマイスイートエンジェル!かわいいのう。優しくて可愛くて最高の娘じゃ。」
「父様が、もっとしっかりしないといけないんだからね!」
「そうじゃな。ワシも、みんなを守れるくらいに強くならんとな。」
魔王はこの時、ティーナの本心を読めていなかった。
まさか彼女が、本気で魔族を守るために行動を起こすとは思っていなかったのである。
「貴方、エミールを知らない?」
そこへ現れたのは、母、シルフィーヌ。
また、弟が迷子になったらしい。3歳になった弟はものすごく好奇心が旺盛で、目を離すとすぐに何処かへ行ってしまうのだ。
「はて。見ていないぞ。いくら城の中は安全とはいえ、早くもう1人のエンジェルを探さんとな。」
父様は、そう言って私を抱き上げる。
「どうせまた、剣の修練場か武器庫じゃろぅ。」
「じゃぁ、貴方は武器庫をお願いします。私は修練場の方を見てきますね。」
そう言って母様は表の方に向かって歩いて行った。
「エミールは、剣が好きだもんねぇ。そのうち世界中で有名な剣士になるかも!」
私がそう言うと、父様は一瞬顔をしかめた。
私達が危ないことをするのを、嫌がるもんなぁ。ホント、父様は過保護なんだから!
「私達は、魔王の子供なんだよ?とってもとっても強いんだから!そのうち、私かエミールが魔王になるんだからね!」
「う……うーん。それなんじゃがのぅ。ちょっと難しいかもしれんのじゃが……。」
急に歯切れが悪くなる。
「まだまだ弱いって言いたいんでしょ?これから強くなるから大丈夫よ!」
そのために、こっそり修行している。ゼルと一緒に回復魔法を習ったりもしてるし!
何てったって、秘密兵器もあるんだから。
そんなことを思っていると、父様と私は武器庫に着き、その瞬間、中から小さな男の子がこっそりと剣を抱えて出てきた。
「あ、エミール見っけ!」
私はじたばたと暴れて、父様の手から抜け出した。そこにいたのは、赤髪で小さなツノが二本。私とは違い、漆黒の鳥のような羽のついた男の子。
「あっ、ねーちゃ。とーたん。」
びくりと体を震わせて、恐る恐るこちらを見る。
「エミール。武器庫は勝手に入ってはいけないと言ったじゃろう?それに、その、手に持ってる剣は何じゃ?」
「えっと、その。ぼくも欲しいの。」
たどたどしく、それでいて期待した目で父様を見る。
どうやら、自分の剣が欲しくなってしまったらしい。
「まだ早い、と言いたいが、お前ならしょうがないかのぉ。」
私には、触らせてくれすらしないのに、父様はエミールに甘いんだから!
「じゃ、じゃあ!これ!」
大事そうに握りしめたその剣を見せる。派手すぎない装飾の、三歳の子供が持つには大きすぎるロングソードである。
「ふーむ。お前、剣の目利きも出来るのか。誰にも教わらずオリハルコンの剣を選びよって。」
剣を受け取ると、じっと見て、汚れや、刃の様子を見た後、
「じゃが、このままではいかん。おまえにはな。」
そう言って、私にその剣を渡した。
「え?」
「キラキラを出せるか?剣に纏わせるように。」
突然言われて驚いた。
しかし、前に何度か、キラキラの扱いを練習した時にやった事がある。
私は、言われた通りに目を閉じて集中し、体の周りにキラキラを発生させる。
そしてそれを、剣に流し込むのだ。
「これで良いの?」
剣は、暫く発光した後、何事もなかったかのように私の手の中に納まっていた。おずおずと剣を父様に渡すと、
父様は頷きながら受け取り、再びじっくりと確認する。そして、子供の手には大きすぎるそれを、そっと弟に渡した。
「これがお前の剣じゃ。ただでさえ頑丈で魔力増幅効果のあるオリハルコンに、聖女の加護が宿っているから、切れ味も丈夫さも桁外れになっているじゃろう。」
私のこのキラキラは、聖女の力とか、聖女の魔力とか言うらしい。
魔王を弱体化し、魔物に桁外れのダメージを与えるのだとか。
一度、友達と喧嘩した時に使ってしまい、トラウマになる程母様に怒られたが。
このキラキラは、魔物に物凄いダメージを与えるだけで、殺したりする事ができないのが不幸中の幸いだった。
1日寝込むくらいの物凄い疲労感でぶっ倒れるだけのようだった。
また、ポーションに混ぜ込めば欠損すら治るエリクサーになり、剣に付与すれば、魔剣となる。
キラキラを用いて治癒を行えば、どんなに死にかけた人でも、一瞬で復活する。
本当に万能だが、いかんせん、魔物との相性はあまり良くない。
それこそ友達との喧嘩で気絶させてしまったり、父親を瀕死に追い込んだり、剣の切れ味をあげすぎて木刀が魔剣になったり。また、魔族にはキラキラのヒールがうまくいかない。
一度、瀕死の魔族にダメ元で試した結果、瀕死の傷自体は癒えたものの、3日ほど物凄い疲労感で動けなくなってしまった。
子供が持つには重すぎる剣を軽々と握りしめた弟は、物凄い笑顔で父様を見上げた。
「わーい!父様大好き!」
「はうんっ」
エミールに大好きと抱きつかれ、父様は鼻血を出して卒倒した。
やれやれ。
15歳くらいで旅に出ようかと思います。
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