魔王と召喚と酔っ払い
ほんとはティーナ目線に戻したかったのですが、どうしても酔っ払いの扱いが難しかったので魔王様視点で。
ゴールデンウィークのため、更新遅めですみません。
一体何があったのだ。
風呂に入ろうとしたら、突然召喚された。
それに関しては、まぁ、仕方ない。
一応ある程度時間は考慮してくれたらいいなとは思ったが、流石に召喚用のお守りを渡す時に、何時と何時はダメだよ、とかは言いづらくて黙ってたんじゃが。
ま、おやつの時間や風呂の時間に呼ばれるのだから、何も考えてくらてないんだろうなぁ。
これ、トイレの最中とかだとどうしたらいいんじゃろ。
一応、術者と契約してるわけでもないし、嫌な場合は全力で魔力を使い拒否すればいいのだが、逆に、急すぎて、つい拒否することを忘れてしまう。
ティーナちゃんの声が聞こえるせいで、反射的に受け入れてしまうのもよくないな。
召喚魔法とは困ったものだ。
これからは、予備動作が必要なように改良せなばならんな。
「まぁ、どうぞなの。」
しかし、娘がピンチなのかもしれないと思い、半裸のまま現れて見ると、何故か酔っ払いが5人と、呆れ顔の子供が2人いる異空間だった。
閉じ込められたという様子はなく、娘の魔力を感じるので、おそらくこの空間を作ったのはティーナだろう。
「あ、どうも。で、どうなっとるのかの?」
状況を把握できずに、酔ってなさそうなハンナに声をかけると、何故か酒を手渡され、座らされた。
ケラケラ笑いながら魔力を振りまき、エリクサーを作ったり、魔物を召喚したり。
隠し芸大会の様だが、やっている事は聖女の奇跡やら、かなりの高等魔術ばかりだ。
所在なさげに座っているあれは……。
本来はなかなか厄介な魔物であるフェンリルまでいるではないか。
「うふふ、もふもふー」
親玉クラスになるとSランクになることもあるフェンリルだが、首に抱きついているティーナと、ワシを交互に見ながら、心を無にして座っていた。
よく見ると、目が死んでいる。何があったのだろう。
「えーっと、ところでこのおっさん誰なのー?」
ご機嫌そうな女性がワシの前に近寄ってきた。
嫁ほどではないが、なかなかの美女である。
はっ。
浮気ではないからなっ!
「あ、紹介するねー!私のお父さんです!こっちは、冒険者のクリスタさんと、ウーリさんと、ヴァルターさん。」
「あ、おっさんとか言っちゃったぁ。ごめんね、パパさん。でも、お父さんて召喚できるもんなのー!?」
「あ、どうも、ティーナの父です。いつも娘がお世話になっています。」
とりあえず、挨拶をする。
最近の子は、友達に父親を見せることを嫌がるというが、こうやって紹介してくれるあたり、嬉しい事ではないか。
「あれ?お父さん、ツノと羽根があるよー?あ、そういえば、ティーナちゃんたち魔族だっけかー。」
「なっ!?」
ウーリと呼ばれた男性が、マジマジとワシの顔を見る。
そう言えばそうだ。ワシは、ツノや羽根を隠してはいない。
その上で、父親だと紹介しておるのだ。
なんて事だ。
彼らは、ティーナやワシに怯えてる様子もない。むしろ、仲良く酒を飲み交わしているではないか。
ワシが100年以上かかって出来なかった人間との和睦の道をティーナは確実に進んでいるというのか。
それはともかく。
「ワシ、まだ君にお父さんと呼ばれるのは、許してないよ?」
ウーリくんに向き直りしっかり牽制しておく。
……あれ?父親が呼ばれるって事は、あれなの?
娘さんをくださいとか言われるやつかの?
いやいやいや、流石に早過ぎるじゃろ。
「ダメじゃぁぁぁ!娘はやらん!!」
「あれ?父様、泣いてる?」
「ちょ、違うなの!お友達!人間のお友達なの!」
危うく殺気を放ちそうになったところで、ハンナに止められた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ティーナの恋人とかじゃ無いんじゃな?」
「ああ、それに関しては全く。たまたま会って、みんなで一緒にご飯食べてるだけですよ。」
ウーリが、心配そうに覗き込んでくる。うんうん、なるほどいい友達なんじゃな。
「ワシ、娘に手を出す男には容赦せんよ?」
「もー!父様、すぐにそんなこと言うんだから!」
「うふふ、いいお父さんじゃ無いの。」
なんだかんだ、楽しそうに飯を食い、笑い合い、酒を飲んでいる。
これは、我々が切に望んでいたが、出来なかったこと。
息子が召喚された時、王様たちの一部が娘たちが魔族なのを知った上で歓迎してくれたと言う。
人間たちの、魔族に対する意識が変わりつつあるのか、それとも、何らかの理由があるのか?
最近の頻繁な進軍も気になるが、この現状に対して、人間側の一部が焦っている可能性を考えねばいかんな。
「ほら、難しい顔してないで、飲んでよー!」
「あ、ああ、ありがとのぅ。」
クリスタと呼ばれた女性が、酒を注いでくれる。なかなかに魔力の質も良く、人間の中でもかなりの高位魔術師だろう。
Aランクか?ラードルフと変わらない、もしくは上くらいの実力がありそうだ。
「ちなみに、この子は?」
ハンナの側にいた女の子。
これ、古竜じゃない?
「ああ、旅の途中で出会った古竜の娘さんなの。」
「また、レアな子連れとるのぉ。」
娘の旅がどうなっているのか聞きたいところだが、酔っ払いすぎて聞けないなぁ。
あ、そう言えばゼルは?
あの真面目くんに聞けば……。
ワシとその竜少女の目が、同じところで止まる。うつ伏せのまま、死んでるように見える青年。
「あ、ゼルしゃんは酔いつぶれて寝ていましゅ。」
「役に立たん従者じゃの。人選間違えたかの?」
しかし、机に無造作に並んでいるエリクサー。
コップに入っていたり、酒瓶に入っていたり。
これ、店の人に見られたらややこしそうじゃの。
「収納と。」
全部のエリクサーを一旦魔法収納に入れて、そのあと魔力で作った小瓶に移す。
全く。これだけで、100本近いエリクサーが出来た。
こんな事があり得るものなのか。娘の能力は意味が分からんわ。
「じゃ、これは適当に分けてくれ。ワシは、まだ仕事が残っとるしそろそろ帰るからの。ごちそうさま。」
ワシは、机の上に100本近いエリクサーを並べると、そう言った。
「飲み代もこれで勘弁してくれな。」
「お父さんは、何の仕事してるのー?」
「わし?わしは魔王じゃよ?」
クリスタに聞かれて、何気なく答えてしまったが、その瞬間僅かに空気が変わった。
「あれ?なんか言ってはまずかったかの?」
ハンナを見ると、苦笑したまま首を振っていた。
あ、魔族だけど魔王の娘とまでは言ってなかった、と。
いや、そんな事、わし、知らんがな。
「まおう?」
「あ、うんうん、うちのお父さん、魔王なのー!」
「すっごいなー!魔王の娘かー!」
「魔王をこんな間近で見れるとはなー!」
「え、ちょ、あんたたち、魔王、魔王って!!」
む、どうやら酔いが覚めて現実を見つめているのはこのクリスタだけらしい。
このままさっさと帰ろう。
「まぁまぁ、ほら、もっと飲めよ!」
さらに酔っ払っているウーリとヴァルターは、わしが並べた小瓶を酒だと思ったのかぐいっとあおった。
『あ。』
その瞬間、キラキラと光る魔力が充満し、部屋の中の空気が澄み渡った。
二本同時に使う事で、空間まで浄化したのか?
「えー……?」
「あ、お父様。」
「ええ、魔王様!?フェンリル!?」
「魔王!?」
全ての怪我、状態異常、病、呪いにも効くという万能薬のエリクサー。
勿論、泥酔状態に効かないわけがない。
急激にシラフに戻った面々は、状況が理解できずに固まってしまった。
ゼルも、一旦起き上がったが、どうやら狸寝入りする事にしたらしい。
再び倒れる。気絶したのかもしれんけど。
「えーっと。ワシね、そのティーナの父親で、魔王ね。なんか召喚されたけど、隠し芸で召喚されたみたいだから、そろそろ帰るからの。」
「あ……ごめんなさい、お父様。」
「まぁ、楽しそうだし今回だけじゃからね。母さんには内緒にしておくから。」
それから、机の上のエリクサーを指差して、
「これ、泥酔しそうになった時に飲ますといいぞ。」
「酔い覚ましに特級回復薬って、贅沢すぎる使い道なの。」
呆れ返るハンナ。
「じゃ、ワシはこれで。」
そう言ってワシは、新しい召喚のお守りをティーナに渡すと、転移の魔法を唱えた。
ややこしい事になる前に逃げたとも言うが。
幸い、ちょうど風呂に入るところだったと言うこともあり、白の脱衣所に戻ったワシは、そのまま風呂に入る事にした。
入ってすぐに、あまりの長風呂?に心配した嫁が青ざめながら突入してきたが、酒の匂いがするワシを見て、
「のんびりお風呂でお酒なんて。私を誘ってくださらないのね。」
少し拗ねてしまった。
今回呼ばれたことは、内緒にしておくかの。
そのあと、仕事もそこそこに、嫁と2人、のんびりと月見酒と洒落込んだのだった。
ツマミの匂いにつられてやって来たエミールもいたから、いい雰囲気にはならなかったが、の。
次回から、ティーナ目線に戻ります。次の更新は、5/2日の予定です。
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