聖女さまは隠せない
ティーナちゃんに隠し事なんて無理です。
「今回の依頼は、古竜の討伐だったんだけどね。」
食堂の個室の一つで、話す。秘密とは言わないまでも、あまり周りに聞かれたくない話の時などに利用できる便利なスペースだ。
防音はそんなに良くないが、周りから見えないし、注文の時以外は店員も入ってこない。
「それはさっき聞いたが、しかし、大変な依頼だよな。ま、ボルマン商会なら、命の危険は少ないとはいえ、魔王よりも遭遇率の低い伝説の生き物だぞ。」
魔王と比較されてもいまいちピンとこないが。
古竜は、絶対数が少ない上に、集落もかなり高位の隠蔽魔法がかかっており、そうそう会おうと思って会えるものではない。
気まぐれに出てくるとしても、人間や魔族、その他の動物に化けていることが多く、本当に見かけることすら稀なのだ。
「まぁ、魔王は城に行きさえすればかなりの確率で会えるしね……。」
「いや、まぁ、それはそうだけど、生存率とか諸々も、だよ。あそこにたどり着くだけでもかなりの命がけだろ。勇者以外に、生きて帰ってきた奴なんてそうそういないぞ。」
「あははは。」
まぁ、実家だからたどり着くのは簡単だけど……。
それはともかく、ヒメの事だ。
結局どこまで話していいかも分からないが、話さずにここで別れてしまったら、冒険者仲間なんて、次会えるのは何年後かも分からない。となると、呪いで小さくなってること以外は逆に隠さなくてもいいか、と思う。
いろいろ考えるのは苦手です!
「で、先に防音の結界を張るね。」
そう言うと、私はさっさと防音と魔力隠蔽の魔法をかける。
普通のシールドのように外からの攻撃を弾くようなオプションはつけていないが、内緒話くらいならこれで十分だろう。
「こないだも思ったが、お前の魔力と魔法技術どうなってんだ?そんな簡単に魔道具もなしに補助魔法使うやつ見たことないんだけど。」
「はっ!いやそのこれはあれですよ、たまたまですよ。」
「何がたまたまだよ。」
先日、これではダメだと学んだところなのに、また忘れていた。
そうだった、人間は防御や防音の結界を張るのに魔道具を使うものなんだった。
くそ、人間てやつは、なんて不便なんだ!
「なんかもう今更、お前らのことで驚いたりはしないけどよ。」
わたわたと慌てる私と、呆れた顔で見守るゼルとハンナを見て、ウーリは苦笑した。
「お前らが、その子を連れてるのを見て、やけにしっくりきたわ。お前ら、魔族だろ。」
「なっ!」
ガタンと、ゼルが立ち上がった。
ピリッと空気が張り詰めたのがわかる。お互いが警戒しているのだ。
ゼルが殺気を放とうとするが、即座にハンナが制する。
「何故、言ったの?」
ハンナは逆に問いかけた。
「多分貴方達は、私たちが魔族だって、とっくに気づいていて黙っていたの。少なくとも、試験の時には既に疑って、今回この子と一緒にいるとこを見た瞬間から確信を持ったはずなの。なのにすぐには言わずに黙ってたの。見ないふりをするなら、ずっとしていればよかったのに、どうしてなの?
誘われるままに密室についてきたり、恐怖心はないの?」
な、なんですとー!?
私とゼルは顔を見合わせる。魔族だとバレるようなことをしたつもりは……。あれ?
有りすぎる!
「あー……。そりゃな。確かに、疑いは持っていたが、確信を持ったところで何なんだって話だろ。それによ、お前らが魔族だったら俺たちはなにかまずいのか?」
ウーリの言葉に、眉を顰める私とゼル。
一応人間に近いハンナは、何となくウーリの気持ちがわかるのかため息をついて下を向いた。
ヒメはどうしていいのかわからず、そわそわしている。
「私たちはね、B級冒険者としていろいろ旅もしているのよ。危険な依頼を受けたことも多いわ。魔族に会ったことも、戦ったことだってある。でも、だからこそ、疑問に感じていることだってあるのよ。」
「少なくとも、俺たちは魔族に対峙した時、一度たりとも先制攻撃を食らったことはないんだ。そんな奴らを、凶悪だの、悪魔だの、人類の敵だのいわれて、はいそうですかなんて受け入れられないだろ。」
クリスタとヴァルターも言葉をつづけた。
どうやら、魔族だとばれてないと思っていたのは、私たち二人だけらしい。ハンナですら気づいていたというのに。
はずかしい……。
「俺はな、兵士だった父さんを魔王討伐の出兵で亡くしてるんだ。」
「だったら、魔族を恨んでいるんでしょう?」
「父さんが死んだのは魔王領にたどり着く前の瘴気の森で、だ。魔族に会ってすらないんだよ。俺の名前は、父さんがつけてくれたんだが、その言伝を受けたのが王様でな。その時の様子を事細かに教えてくれた。ロベルトという名前の魔族に助けられたことも、全部、な。」
……またロベルト絡みか!
ゼルの父親は、筆頭回復職で、戦争のたびに領土中を回り怪我人の治療に当たっていた。そういう意味では、人間に会うことも多かったのだろう。
遺体が憎しみを持って復活し、ゾンビやグールになってしまわないように埋葬する仕事もやっていたしなぁ。
……魔王軍て、ロベルトに仕事押し付けすぎじゃない!?
よく考えたら、普段食事の世話からスケジュール管理、保健室の管理に戦後処理って、全部ロベルトがやってた気がするけど。
あれ?魔王って、普段何してるんだっけ。
「だから、私のことも助けてくれたでしゅか?」
「まぁ、ほかの人間よりは、魔族に嫌悪感を持っていないのは事実だな。」
「ウーリのおせっかいな性格は、種族関係ないのよ。」
「たまに魔物の子供とか拾ってくるもんな。」
「そうそう。ぜんぜん懐かないで襲われてたりしてね。」
「うるせぇぇぇ!」
これは意外。
人間はすべて魔族に対して嫌悪感と敵意を持っていると思っていた。
しかしいざ町に来てみると、王様も冒険者も、魔族を一方的に拒絶しないと。
いったいどうなっているんだろう。聞いてた話と違いすぎる。
「そっかぁ。そう言ってもらえると、こっちとしては嬉しいけどね。」
「ティーナ様、すぐにそう軽々しく信じてしまってはいけません。例えば、これで魔族だと認めた直後に援軍が攻めてきて襲われる可能性もあります!」
「ははは。お前らの強さは知ってるつもりだ。援軍が来たからって、何もできねぇよ。そもそもあの時も、あっさりボコボコにされたんだからなぁ。そうだろ?クリスタ。」
「なによー!あんたたち二人だって手も足も出なかったでしょ!」
「魔族相手だと分かれば、7歳児に負けた心の傷も多少は癒えるってもんだぜ。」
「いいのかそれで?」
警戒しまくり、剣に手をかけいつでも攻撃できる状態をキープしているゼルとは裏腹に、ウーリたちはお気楽なものだった。
全く警戒せず、次は何を食べようかとメニュー片手に酒を飲みながら笑っている。
「正直、お前らが魔族ならなおさら、じたばたしたってどうにもならねぇだろ?その気になれば俺たちなんて一捻りだ。とくに……そう、あんた。」
くいっと私を指さして言った。
ふむ、人間てやっぱり面白いなぁ。
「魔族が怖くないの?」
「怖くないと言えば嘘になるが、お前らは一度たりとも俺たちに害をなしていない。そんな相手を怖がっても仕方ないだろう。どうしても多少の警戒はするがな。」
ラードルフさんも、この三人も、王様たちも。話に聞いていた人間とは大きく違う。
今までなら、魔族に仇名すものは、場合によっては根絶やしにすることもいとわない、と思っていた。正直なところ、倫理的な話や哲学的な話は置いといて、現実を見れば一万人の他人の命より自分の家族一人の命の方が重い。
綺麗ごとを言う人たちは、命は平等だと言うが、生まれたばかりの自分の子と、見ず知らずの死にかけている病気の老人を天秤にかけたらどうするのだろう。
平等だと心の底から言える人はいったい何人いるのか。
「ヒメを助けたのは、何故?」
「怪我をした子供がいたら、とっさに助けるだろ?お前らは、目の前に死にかけた人間の子供がいたらどうする?自分がほんの少し手を伸ばせば助けられる時、こいつは人間だからと言って、助けられる命を見捨てるか?」
「そうね、見捨てるのは、難しいかもしれないわ。」
命は、平等ではない。
だが、それは当然だ。悪い事ではない。
それが命を一つのモノと表現できない所以で、その老人にも家族はいるし、その家族からとってみればよその子供よりも自分の家族が大事であって、何ら不思議はない。
だけれど、天秤にかけることなく両方を助けることができるなら?
きっと私は、両方を等しく助けるだろう。偽善だとしても。
見ず知らずの人間、と、一括りにすることはきっと愚かなことなのだ。
私は、やはり旅に出て、人間を見ることができて、良かった。
「あーっはっはっは!」
本当に愉快だった。
人間を害したくないという父さまを不思議に思うこともあったし、疎ましく思う時だってあった。
和解するよりも、滅ぼした方が早いと思うことさえあった。
けどね、こんな人間たちがいるなら、和解だってできるかもよ。
魔族だから、とか、魔王だから、とか、関係ないじゃない。
お互い、家族や友人を大切に思い、見ず知らずの人に手を差し伸べる優しさをもっていて、分かり合えないはずがないじゃない。
「あーあ、ガラにもなく、くっさい事考えちゃった。」
私が笑うのを見て、ゼルとハンナがドン引きしているが、まぁいいや。
「ま、そうやって笑えるお前らが、生まれながらの悪の化身だと言われても、俺は納得できない。自分で見たものを信じたいからな。」
「そういう考え方ができる人間ばかりなら、戦争なんて起きないだろうにね。」
「人間は欲深いんだよ。そううまくはいかないさ。」
ぐいっとエールを飲み干すと、防音障壁を指さして言った。
「オーダーしたいんで、結界を一瞬消してもらえる?」
「はいはい。」
私が結界を消すと同時に、追加でいろいろ頼み始める。
私たちも、それに倣って追加注文をした。
ゼルもしばらく考えてはいたが、ため息をつくとその場に座り、酒の入ったグラスを持って口を付けた。
それから2時間。
「さて、改めて結界を張ったところで、パーっと飲みながらいろいろ情報交換しようー!」
「いえーい!」
「もう、どうにでもなっちゃえばいいんです。そもそも、何で私がこんな役目なんですか?お嬢様に何かあったら殺すとか、実の父親に言われることあります!?お前は死んでもいいから、無事に送り届けろだって。死んだらどうやって送り届けるっていうんですか。そもそも、人間なんて怖いから近寄りたくないって言ってるのに、なんか無駄に関わりまくるし。こうやって無事に済んでるからいいですけどね、無事に済まなかったらシャレにならないんですよ?守ろうとしたって自分から死にに行かれたら、どうやって守るっていうんですか。もうこれは私に対する殺人ですよ。計画殺人なんじゃないかと心配になりますよね。ああ、生きて帰れる気がしない。」
「ゼル君うるさーい!不満貯まりすぎ~。まぁ飲め飲め!」
「いいねー!発散するのは大事よ?開放感が大事!そうだ!俺脱ごうか!?」
「きゃははは、ばかじゃーん!意味わかんな~い。」
飲みすぎていた。
「……大人はすぐに酒に走るの。」
「……困ったものでしゅ。」
酒を好まない子ども二人を置き去りにして、酔っぱらった大人たちが暴走していた。
お酒はほどほどに。
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