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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様と人間の国
55/175

呪われた竜娘は王子様に会う

長くなったので、二つに分けました。

続きは明日投稿予定です。

最初は、みんな同じだった。

ひとり、また一人。

大人になっていく。

何千年も生きる古竜なのだから、成長には差がある。

だとしても、異常なのだ。


私より50年遅く生まれた妹分が、成竜になった日、私は母にしがみ付いて泣いた。


「どうちて!?どうちてあたちは大きくならないの!」


困ったように眉を寄せ、私を抱きしめる母。

母も、娘の違和感には気づいていた。

何か病気かもしれない。

そう思って、色々な種族の元を赴き、医者にかかった。


「全くわかりません。」

「異常は見られません。」

「そのうち大きくなると思います。」


そのうちっていつなのよ!異常がないのになんで大きくなれないのよ!

本来は人間とそう変わらず、20年もすれば成竜になるはずだった。

しかし、5歳になった頃からおかしいと思い始めた。

身長も伸びない、体重も増えない。

体重に関してはその日の体調などで多少の上下はあるものの、成長とは違うものだった。


「キュートプリンセスは、そのままでも十分に可愛いでちゅよ。」


父親の、甘ったるい声が頭に響いた。

可愛い私の赤ちゃん、と毎日毎日語りかけてくる。

私は赤ちゃんじゃ無い!そう言っても、お父さんは、子供はいつまでたっても可愛い赤ちゃんだ、と言った。


「呪いの匂いがする。」


ある日、母に連れられて青龍の神殿に行った時のこと。

入った瞬間に神官らしき竜人が私を睨みつけた。

私をマジマジと見ると、そのあと、大きくため息をついた。


「呪われた少女よ。愛とは重いものだな。」

「何か分かるんか!?」

「竜帝の娘か。久しいな。」

「青龍!教えて!うちの娘は、なんで育たへんのか分かるか!?」


母を見たあと、私を見て、再び母に向き直った。


「貴殿では無いのか?育たない娘を切に願う者がいる。そのものの愛情が呪詛と化している。」

「呪詛!それなら!協会で治せるんとちゃうんか!?」


母は、希望の光を見て、縋り付くように神官を掴んだ。


「無理だな。恨み嫉みのこもった呪詛ならば、浄化して引き剥がすこともできよう。しかし、この呪詛の根源は愛である。愛おしすぎて、愛で閉じ込めてしまったかのような呪詛だ。ある意味、祝福と同等なのだ。祝福は、我らでは消せぬ。」

「なに、それ……。」


母は、ガックリと膝をついて項垂れだ。

そうして、しばらく無言の時間が過ぎたあと、一つ思い当たることに気が付いた。

娘に、赤ちゃん赤ちゃんと言い続ける相手を。

娘を溺愛して、離したくない人物を。

育てば巣立つ。それを心から拒絶しているであろう者を。


「あの野郎……。」

「お母しゃん?」

「愛していると言うことは、必ずしも相手の幸せを願っているとは限らないものなのだ。」

「分かった気がする。ありがとうな。」


ため息をつく神官に、礼を言うと、私と母さんはそのまま家に帰った。


「このクソ野郎が!!」

「はう!?」


帰宅すると同時に、母は父を殴りつけた。


「な、何があったんだ!?」

「お前のせいや!お前がヒメに呪いをかけたんや!」

「何を言っている!我が、こんなに溺愛している娘に呪いなどかけるものか!目の中に入れても痛くない、誰にも渡したくないほどに愛している娘に!」

「それがあかんのや!娘は赤ちゃんやない!もう、本来なら年頃の娘になっとるはずやねん!!

あの子は私たちの娘やけど、それと同時に1人の立派な竜や。一生束縛していいオモチャとちゃうねん!」


泣きながら、父さんをボコボコに殴っていた。

その時、理解した。

私への愛が深すぎて、離したくなくて、巣立たせたくなくて、その気持ちが呪いに変わったのだと。

怒りというよりは、なんだか虚しさに襲われた。


「お父しゃん、お母しゃん。わたくち、旅に出ますわ。」


ただ漠然と、ここに居過ぎてはいけないと言う気持ちで、言った。私が、父さんをダメにしたのかも知れない。

呪いの根源から離れることで、私の呪いも薄まるかも知れないし、父にも子離れを促せるかと思って。

父のことは大好きだ。呪いになってしまったとはいえ、深すぎる愛があってこそだったのだから。

だけど、やはり許せるかといえば微妙なラインである。


「嫌だ、キュートプリンセスは我とずっと一緒にいるんだ!」


母に羽交い締めにされている父をおいて、私は旅に出たのだった。



暫くは色々旅をして回った。

父から離れてみたが、特に成長することもない。

竜の姿は目立つので、魔族の子どもの姿に化けた。


どうすれば良いのだろう。

時間がたっても成長しない身体。

不老不死は人間の憧れだと聞くが、こんな子供の体のまま永遠に生きるなんて、拷問だ。


「キュウゥ」


鳥型の魔物と言われているクーストの背中で考える。

この子達は、見た目に反して鳥と言うよりはドラゴンの系譜だ。

フカフカな羽毛を持っているが、羽根の一部や足には、鱗が見える。

尾の飾り羽根に埋もれて、尻尾もあるのだ。

羽の中には、手に近い部分と爪もある。

どこかで飼われていたのが野生化したらしいクーストと仲良くなり、乗せてもらって移動しているのだ。

子供と体は、とても不便だから。


「慌ててもしょうがないでしゅわよね。」


とにかく、呪いを解かないと。

ただでさえ長すぎる寿命を持つ古竜だと言うのに、不老不死になんてなったらたまったもんではない。


古竜は比較的強い種族だ。

だからこそ、実は幼竜はそんなに強くない。

最強の親が守っているからこそ、幼体はか弱く生まれてしまう。

更にそのままで育つことのできない私は、所詮赤ちゃんでしかなかった。


「クキャァ!」


クーストの叫び声が聞こえるまで、完全に油断していた。

魔力と魔法の力は確かにSランクだが、いかんせん腕力や体力が追いつかない。

冒険者としての技術もなかった。


「クワァ!」


クーストの声に応えるように鳴いたのは大きな鷹の頭とライオンのような体を持つグリフォンだった。

正面から普通に戦えば勝てるだろうが、不意打ちをされては、魔力でどうにかできるわけでもない。

鳴き声が聞こえたと同時に、右手首から先が無くなった。


「いやぁああ!」


痛みで、冷静な判断はできなかった。

クーストの背中から転げ落ちると、グリフォンは仕留めたとばかりに私を踏みつけた。

内臓が潰れるような嫌な音がして、骨がぼきぼきと砕けていくのを感じる。


ああ、大人になれずに、こんなところで死ぬのか。

死ぬ前に、恋とかしてみたかったなぁ。

お父さん、お母さん、愛してくれていたのに、ごめんね。

それでも私は、大人になりたかったんだ。


「…くーたん、にげて……。」


一瞬振り返った後、遠ざかるクーストの背中を見ながら、私は意識を手放したのだった。

後半は、ウーリ視点になります。

明日には仕上げて投稿する予定です。



ブックマークや感想ありがとうございます。

とても励みになります。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。



お手数ですが、下部の評価も頂けると嬉しいです。

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