聖女様と竜帝の娘
抗生剤は偉大ですね。
「弟が勇者って、魔王の息子が勇者って事やろ!?」
母竜は、目を白黒させながら言った。
「そうなんですよ。魔族側としても、困った事態でして。」
ゼルは、食後のお茶を飲みながら大して困って無さそうに言った。
「同じ母から聖女と勇者が?そんなアホな。そもそも、魔族側に聖女と勇者がいたら、パワーバランスがマズイことに。ただでさえ、人間が弱体化してるこのご時世に……」
「……あれ?きゃあ!!」
「キュートプリンセスたん!?」
考え込む母竜の横で、嬉しそうにくるくる回っていた娘竜が、突然悲鳴をあげた。
視線を移すと、最初と同じ5歳児くらいの女の子がその場に座り込んでいた。
「なんででしゅかー。」
涙目になりながら、こちらを見る。
「うーん、私のせいじゃないよ?恐らく、長年蓄積された呪いだから、一回程度では解けなかったのかなぁ。」
しかしよく見ると、最初より髪が伸びている。肩甲骨の下くらいだった髪が、腰あたりまで。
「微妙に成長はしてる?」
「あ、背もちょっと伸びてるかも?」
5歳に満たないかな?と思ってたところが、5歳くらいだなーという背格好になった感じだ。
効果はあったのだろう。
ではもう一度。
「聖女の祝福」
キラキラは流れ込んだが、特に変化はなさそうだ。
あれ?キラキラが、ヒメの体から溢れて空中に霧散した。
「一度にたくさんの魔力は体が受け入れ切らないのかもな。」
薬を、たくさん飲んだからと言ってたくさん効果が出るわけではないのと一緒らしい。
やっぱり、時間をかけて徐々に治すしかないか。
「そうでしゅか……。」
しょんぼりと項垂れる娘竜。
しかし、エリクサーと、聖女魔法がほぼ同じ効果なのか、それとも違うのか。
検証するなら時間がかかるかもしれないな。
「しかし、お嬢ちゃんが魔王の娘で聖女やとはな。これじゃ、人間側も魔族に手が出せないやろ。」
「いえ、一応大々的には公表していませんし、なぜか最近頻繁に攻めてきて困ってるくらいなんですよね。それの原因を突き止めて、和解交渉ができないかと旅に出たくらいで。」
「被害は多いんか?」
「攻めてくるたびに、数人の犠牲者が出てます。」
「す、数人。そりゃ、聖女がいたらそんなもんか。人間側は?」
「最近は、魔王領にたどり着く前の瘴気の森辺りで数万人レベルの被害が出てます。」
「数人殺すために数万人……。なんて非効率な。」
「そうなんですよ。それなのに、寧ろ自殺に来てるんじゃないかと思う位でして。」
「……自殺。ふむ。もしかしたら、ほんとに自殺かも知れへんな。」
「は?」
目を閉じて、母竜は色々と考えているようだ。
自殺ってなんだよ。死にたきゃ私たちを巻き込むな。
そんなことがあるのか?
「魔王は餌で、本当の目的は魔族や人間を大量に殺すこと。目的は、なんらかの呪術か、魔力の補充か。」
「呪術ですって?」
「うちも詳しくはわからんけど、ヒメの呪いも、育ちが遅い呪いを毎日何度も重ねがけしてしまったせいで、成長停止の呪いが完成してしまった感じや。簡易の呪いですら、術者が高位で何度もかけることによって、上位の呪いになる場合があるんやし。生贄の数を増やして、何度も繰り返すことによって、何らかの呪いを発動させようとしている可能性が一番やな。」
何てこと。魔王退治は目的ではないですって!?
そんな事があるの!?
「あとは、人間の中でも魔力値の高いものを殺す為に、行なっているか。」
「人間が、強い人間を殺すの?」
「死んだものの魔力は死んだ場所から自然へ帰るんや。魔族の領域で死ねば、魔族の領域の魔力が濃くなり、人間の領域の魔力は薄くなる。何らかの目的で、長い年月をかけて、人間の領域の魔量を薄くしている、または魔族領の魔量を濃くしている。ってことやな。」
「そんな事って……。」
「いや、分からんけどね?あくまで自殺だった場合の仮説や。うちらも何千年と生きとるけど、多人数の自殺で考えられるのはその程度や。この規模で行われるなんて聞いた事ないわ。」
やっぱ、もっとちゃんと調べないとあかんな。あ、なんか訛りがうつった。
竜帝王の森といえば西の方か。あっちの方の言葉なのかなー。
「そうなると、出兵に噛んでいる人の中、もしくはその全員がその呪術に関わってる可能性があるってことになりますよね。」
「せやな。調査も気をつけんと、下手に首を突っ込むと殺されかねへんで。」
「忠告ありがとうございます。近々帝国の調査をしようと思っていたので、その辺の可能性を考えて慎重にいきますね。」
「それがええ。あんたが死んでしもたら、うちの娘の呪いもどうなるか。」
ちらりと見た先では、ヒメが放心しながら座り込んでいる。一瞬呪いが解けたとぬか喜びをしてしまったから余計に、かなり凹んでいるようだ。
父竜は、目を逸らしてるけど。
「それなんですけど、とりあえず特級回復薬をお渡ししておこうかと思うのですが。」
「ほんま!?」
「えええ!いいのでしゅか!?」
「えー……。あいたっ!?」
私がエリクサーを取り出すと、一人、がっかりとした様子を見せて、母竜に殴られていた。
「収納できますよね?」
「ああ、勿論や。」
「では、とりあえず200個を。」
「に、200!?」
私が、収納から取り出して並べると、竜たちは唖然としていた。そりゃまぁ、もう金に換算できないようなレベルのものが並んでいるのだから。
「魔族が聖女になると、こんな事になるのか。」
父竜はずらりと並んだ瓶を見て呟いた。
「我が知っている聖女は皆、エリクサーなど1日に数個作るのがやっとだったはずだ。特に先代の聖女はアイテムを作らなかったと聞く。お前はどのくらい作れるのだ?」
「数百個。1日中それだけやってていいなら、1000個くらいじゃないかなー。」
「もう、規格外やな。」
呆れたような母竜。
「ヒメ、とりあえずあんたが持っとりや。」
「はいでしゅ。」
驚きながらも、とにかく命綱とも言えるエリクサーだ。ヒメはそそくさと収納に仕舞う。
「すまんな、これだけの料金に見合う代金は流石に無理やねんけど。」
チラリと父竜を見る。
おっさんは、慌てて自分のツノを手で隠した。
さっき折られたのがトラウマになっているようだ。
「いやいや。相場はともかく、いくらでも作れるものだし、そんなにいらないわよ。」
「そう?じゃあ、とりあえずこれで。」
そういうと、母竜はおっさんの髪を掴み、勢いよく引きちぎった。
「んギャアアアア!!」
憐れなおっさん。
「これ。素材としてはなかなかの物やで。」
差し出されたのは、髪の毛ではなかった。銀色に輝く太いハリガネのような毛?
「古竜のタテガミや。ツノとは言わないけど、なかなかのレア素材やで。」
おっさんから、力ずくてむしり取られるレア素材。
なんと言うか、イメージと違いすぎて凹むレベル。
「あ、ありがとう。」
たしかに、対価をもらわないのもアレなので、受け取るが、おっさんの頭から毟ったと思うと、なんか嫌だ。
仕方なく収納に仕舞う。
「じゃ、うちらはそろそろ帰るわ。」
そう言ってくるりと踵を返す母竜。
涙目でその後ろに続く父竜。
しかし、娘竜は立ち止まったまま動かなかった。
「どうしたんや、ヒメ。治る見込みがあるんやし、とりあえず帰るで。」
「わ、わたちは、この人たちといっちょに行きたいのでちゅ。」
えええ、また幼女!?
「人間の世界に詳しい大人が良かった。」
ボソリと呟くゼル。
それは、王様の探してくれる冒険者にかけよう。うん。
断れ、と目線で訴えてくる父竜は無視しながら考える。
戦力としては、かなりのものだが、私たち3人だけでも正直十分である。
「聖女さまの魔力を浴びている方が、はやく治りそうな気がするでしゅ。迷惑はかけまちぇん。どうかおねがいちまちゅ。あの王子さまが死んでしまってから治っても、遅いのでちゅ。」
「ふむ。そうよね。分かったわ。呪いがある程度解けるまでってことでいいなら。」
「わぁ!!よろしくお願いしますでちゅ!」
そんな事で一時的に仲間がふえたのだった。
見た目5歳の古竜少女。
そのうち小学校でも開けるかもしれないなぁ。
「うーむ。まぁ、しゃーないな。ほなよろしく頼むわ。」
「うえーん。キュートプリンセスたん〜」
母竜は、ごねる父竜を引きずって森の中へと消えて行った。
少しすると、商人が戻ってきたので、こっそりと御者に回復魔法をかけ、話し合いの準備を整えたのだった。
子供にも溶連菌がうつってしまい、病院だなんだと時間を取られてしまいました。
更新遅れ気味ですみません。
それでも、読んでいただけてありがとうございます。
少しずつ頑張ります!




