聖女さまは呪いを解く
遅くなってすみません。
続きも急いで仕上げます。
さて。商人達がいないわけで、いろいろ相談するなら今だよね。
「よし、とりあえずご飯食べよう。」
私は、収納から適当に肉や野菜を取り出す。
朝ごはんは食べたが、おっさんの相手してたらお腹がすいた。
簡単に、パンを薄く切り、チーズをのせて火で炙ると、その上にハムや野菜をのせる。
二つ折りにして簡単サンドイッチ。お皿の上に出来た分を並べていく。
いつもの事なので、ハンナやゼルもお茶を用意したりしながら、食べ始めた。
手際よく作っていると、食べる気満々で手を伸ばしている父竜。
「古竜って、伝説の生き物なのに、イメージが違いすぎるの。」
ヒメの髪を弄りながら、じっとりした目でおっさんの顔を見るハンナ。
あれ?なんか嬉しそうなんだけど。
もしかして、妹が欲しかったとか、そういうやつ?
100歳超えてる古流だから、妹かどうかは怪しいけど。
「貴様らがどんなイメージを抱いてるかは知らんが、我々はこんなもんだぞ?」
「こんなもんて、どんなもんやねん。まぁ、人間とは、離れたところに住んでいるし、同族とも小さな集落で暮らしてる程度で、他の集落とはあんまり関わりがあらへんからな。一般的な古竜がどうかとかはあまりわからんけど、うちの旦那みたいに、親バカな古竜は多いねんで。」
そりゃまぁ、古竜が群れをなして居たら、恐怖なんてもんじゃない。
人里離れた集落で静かに暮らしてるから、人とはほとんど関わる事なく済んでいるが、人を見下して人の国を襲った竜がいなかったわけではないし、逆に素材を求めて古竜の集落を襲った人間たちもいたらしい。
あっさり返り討ちだろうけど。
「迷惑な話でちゅ。」
「数百年に一度しか子供が生まれない上に、最近はなんか仲間内でも少子化でなー。古竜自体が何千年も生きるし、慌てて結婚しないことが多くて、高齢なってからの子供がまたかわいくて。うちらも、もう2000年生きてるけど、子供がこんな可愛いなんてなー!」
「キュートプリンセスは世界一なのだ。」
「まぁ、それはともかくですね。少し話があるんですが。」
親バカ達の話が長くなりそうなので、さっさと悩みのタネを無くそうと思う。
コイツら、というかヒメの目的は呪いを解いて王子様に会うことだ。
そして、呪いを解けるのは聖女のキラキラだという。
特級回復役を使っても僅かに解けたらしいが、もっと飲めばそれで治るのか、継続的な治療が必要なのかもわからない。
「先に、簡易結界をはりますね。」
そう言って、私は、まず簡易結界を馬車や御者を含む形で張る。古竜素材が盗賊とかに狙われてしまうと面倒なので、視界から隠す感じの簡単なものだ。
高ランクの人たちなら、少し意識をするだけで突破できる程度のものだが、国と国をつなぐ道で、わざわざ森の奥に向けて意識を向ける人もいないだろう。
実際、たまに行き交うのは商人とその護衛くらいのものだ。
「次に、防音結界です。」
御者を除く私たち6人を囲う形で防音の結界を張った。一応魔力の流れとかを見る限り気絶しているのは間違いなさそうだが、万が一高度な技術を持って御者が狸寝入りしている可能性を考慮している。
「ほう、人間のくせに、正確で早いでは無いか。詠唱もなく、簡単そうにやりおって。その簡易結界も詠唱とマジックアイテムあってこそ簡易なだけで、全てを無から組み上げるのは並大抵では無いはずだぞ。小娘、貴様それなりに名の通った冒険者なのか?」
私が次々に結界を用意していると、サンドイッチを食べながら父竜は言った。ああそうか、人間は結界とかを張るのにもマジックアイテムを使ったりするんだっけ。
そういうところも、ちゃんと偽装しないとこれから先、すぐに怪しまれるのか。
しかし、ダメおやじに見えて、流石古竜。魔法にも詳しい。
「は?アンタ何言ってんのん?」
私が答える前に、遮ったのは母竜。マジで?
「この子が、人間に見えてんの?」
むしろ、驚いた顔でそう言った。
「ん?何を言っておるのだ。」
「匂い嗅いでみいや。」
臭うの!?
怪訝な顔をしたおっさんが私の方にほんの少し身を乗り出し、すんすんと息を吸ったかと思うと、叫んだ。
「……ああああ!?貴様、魔族では無いか!」
サンドイッチを持ったまま、少し後ずさる。
「匂いでわかるもんなの!?」
「臭いというか、魔力を感じ取ってるんやけどな。」
カラカラと笑いながら母竜が答えた。
「いやー、最初は人間かと思ってたけど、気配と匂いがおかしいからな。なんか理由があって人間のふりしとるんやろ?」
「まあね。」
「魔族が、ワザワザ魔力やツノを隠してまで人間に混ざるなど、聞いたことがない。全く思い至らなかった。」
驚愕しながらも、サンドイッチは離さない。どれだけ気に入ったんだよ。
「危険を冒してまで情報収集する必要もないですし、攻めてきたら適当にあしらえば済みますし、人間の国に、大した興味もないですしね。」
こちらも、もぐもぐと口を動かしつつ、平然と答えるゼル。
「あんたも魔族で、その女の子が混ざり者かな?」
「ハンナは、お父さんもお母さんも人間なの。」
「ほー。遠縁の先祖返りか。魔族と獣人も入ってるんかな?遠縁で、それだけ立派な先祖返りも稀やで。かなり高位の魔族と獣人の血を引いてるんやろな。」
「おばちゃんすごいの。匂いでそんなにわかるの?」
「ふふふ。うちはその父竜とはちゃうで。竜帝の娘やからな!」
「……。何でそんな伝説の中の伝説みたいな竜がこんな所に。」
「所詮血を引いてるだけで、竜帝の後継は兄さんやし、うちは嫁いだだけや。」
「なるほど。なので尻に敷かれてるのですね。」
父竜が全く嫁に逆らえてないのはそのせいか。
全ての竜の頂点に立つ古竜の王の娘に逆らえる奴なんて、そうそう居ないしね。
訛りがあるのも、この辺りの出身じゃないせいなのか、それとも竜帝の一族の特徴なのかな?
「で、魔族の小娘が、我々に内緒話とは何だ?」
そうそう。あの商人が帰って来る前に話をつけないと。
相手が竜帝の関係者なら、やっぱ下手に隠さずに全てを伝えた方が良いよね。
「さっきから小娘小娘と。魔王の娘に対して、古竜程度が偉そうですね。」
「何!?魔王の娘!?いつの間に奴に娘が産まれていたのだ。」
ゼルが、私に対する悪口にイラついてるのは知っていたが、魔族とばれたことにより、いい加減言ってもいいと判断したのだろう。
「父様のこと知ってるの?」
「私は元々、紅き竜谷の出身だからな。何度か戦いを挑んだ事もあるぞ。ああ、なるほど。だから太刀筋が似ていたのか。」
「あんた、遊びに行ってはぼろ負けして帰ってきて拗ねてたよなー。」
「こら、余計なことは言わなくて良い!まぁ、古竜と魔族は良き隣人みたいなものだからな。何千年も生きていると、多少は関わりが出来るものだ。」
父様の知り合いともなると、益々このままフェードアウトできる関係の相手じゃ無さそうな気がしてきた。
しかもこのめんどくさそうな性格。
先が思いやられるけど、仕方ない。
「私が魔族で、魔王の娘なのが分かっていただけたのなら、話は早いです。実は今、魔王領に人間たちが執拗に出兵を繰り返していまして、それの調査に来ているんです。」
「ああ、帝国が最近必死になっているやつか。どうにも聖女が見つからなくて苛立っているようだしな。」
「あ、せや、人間の国の調査してるなら丁度ええやん。ついでにうちの娘連れて行ってくれへん?」
「た、だめだ!キュートプリンセスはパパといっちょに帰るでちゅよね!?」
「だまれでちゅ、クソ親父!」
丁度いいって何だよ。調査してるってのに、何で呪われた子供を連れあるかなければならないのか。
また平均年齢がさがっちゃうし。
「聖女を探さなあかんし、娘竜の言う王子様も探さなあかん。うちらが付き添ってやるのは難しくてな。」
困ったように頭をかく母竜。
「旦那のしでかしたこととはいえ、やっぱりこのままなんはかわいそうや。勝手やとはおもうけど、何とかしてやりたいねん。」
まぁ、親心はそうよね。
多少無茶なのは分かっても、子供のためなら頑張ってしまうのが親の愛ってやつなんだろう。
「そうですね、その呪いが聖女の力で解けるなら、やってみましょう。」
「へ?」
私は、御者に催眠の魔法を追加でかけた後、ヒメに近寄ると、片手を前に出して彼女の頭の上に乗せた。
「聖女の加護」
私から溢れ出たキラキラと光る魔力は、ゆっくりとヒメの体を覆っていく。
父竜と母竜は、目を見開いたまま固まっているが、それに構っている暇はない。
と、次の瞬間。
「力が、溢れる。凄い!」
ゆっくりと光に包まれたヒメの姿が変わる。
少しすると、さっきまでの5歳以下にしか見えない幼児の姿から、私と同じか、少し上くらいの女性になっていた。
深緑の髪と瞳が美しく、私より聖女の称号が似合いそうな風貌だ。
「わあああ!凄い、すごーい!」
自分の体をまじまじと見ながら、飛び跳ねるヒメ。
なぜかそれを見て、悔しそうに顔を背ける父竜。
「嘘やろ?魔王の娘ちゃうの?あんた。」
「魔王の娘ですよ。正確には、母が人間なので、ハーフですね。」
「マジか。と言うことは、人間は聖女の因子持ちの娘を魔王に取られたって事か。うわー、マジかー。」
苦笑しながらも、満足そうに自分の娘を見る母竜。
「因子持ち?」
「ああ、知らんの?聖女や勇者の因子は母に宿るねん。本来、特殊な竜の目や予言の力を持った者の目にはたまに見えたりするねんけどな。それでも、因子の状態で見つかるのは超レアやけど。」
「つまりは、母様は聖女の因子を持っていたから、魔王と結婚しても聖女である私が生まれたと?」
「そう言うことになるな。」
なるほど、魔王の娘が聖女なのではなくて、聖女の因子を持った母が、たまたま魔王と結婚したから、魔王の娘が聖女になってしまったって事か。
キラキラを纏いながら嬉しそうにくるくる回るヒメと、何故か涙を流しながらそれを見つめたり、顔を背けたりを繰り返すおっさん。
「ん?じゃあ、弟が勇者なのもそのせい?」
「ぶっ!?」
そこまでかろうじて耐えていたらしい母竜は、盛大にお茶を噴出した。
母竜が、意外といい血筋の人でした。
胃腸炎が治ったと思えば、次は溶連菌で39度の熱とか、厄年を感じる日々を過ごしております。
更新が遅れて申し訳ありません。
なるべく早く仕上げたいと思っていますので、これからも宜しくお願い致します。