聖女さまは回復薬を売る
遅くなりました、すみません
宿屋に戻った私たちは、雑談をしながら再び回復薬作りにせいを出していた。まだ、日が落ちてるわけではなく、要は、暇なのだ。
しかし、魔力が減って、ポーションが作れなくなるですって?しかも、たくさんの人が、同時に。
話からすると、徐々に減っていったと言うのだから、何かしらの要因がありそうだ。
しかし、魔王領ではそう言う話は聞いたことがない。人間のみに起こるのか?いや、違う。魔王領にも人間はいる。ラードルフのように、家族が先祖返りをした人や、亡命した兵士も。
ラードルフやハンナは魔族の血とかも関係あるから無事?うーん、それだけじゃない気がする。
それが、人間が想定よりずっと弱い原因の一つなのかもしれない。
魔力が少ないと言うことは、身体能力も魔法攻撃も、弱くなって当然だから。
「人間の魔力が減った要因と、魔族との不和に、何かしらの関連があるのかな?」
「なんとも言えませんね。住んでる地域の問題なのか、それとも、何か糸を引く誰かがいるのか。」
「ハンナの住んでいるところにいる人間の魔術師も、魔力が減ったとかいってるのは聞いたことないの。」
「とりあえずは、ドラゴンを討伐してから、帝国に行って調査するのがいいわね。」
黙々と話している間に、目の前には回復薬が貯まっていく。
「今度は上級も売ります?」
私の前に並んだ上級回復薬を見て、ゼルはため息をつく。嫌味だな?
「仕方ないじゃない、ほんの一瞬で上位まで行っちゃうんだから。赤やオレンジで止めるのがどれだけ難しいと思ってるのよ。」
「聖女補正なんですかね?それとも、魔力総量の問題ですかね?私たちは色が変わるのに数十秒かかりますが、お嬢様は数秒ですもんね。」
「一瞬で透明になるの。ビックリなの。」
「冗談はともかく、流石に上級も少しは売りたいわね。」
最初に薬草を煮出すと緑。
この状態で飲むと、体が活性化され、僅かに運動能力が向上する。
魔力を込めると徐々にドス黒くなり紫に。
この状態で飲むと運動能力、主に筋力が上がる。
さらに込めると赤になり下級ポーションが出来る。
この辺までは、才能云々関係なく誰でも材料さえあればできる、筈なのだが。
「人間が作ると、一般の人は下級すらも出来ないって、異常ですよね?」
「回復魔法が苦手な魔族ですら、戦争などでは下級回復薬で命を繋いでた過去があるからね。下級治癒が出来ない父様も、下級回復薬は作れるし。」
「そう考えると、やっぱり魔力総量の問題っぽいの。下級の回復薬すら作れない、カスみたいな魔力しかないってことなの。」
カス……。すごい表現。
そんなことを言ってる間に、どんどんと回復薬が出来てくる。売る分なので、ドワーフ特製の可愛い瓶に入れず、魔法で作った小さい試験管の様な瓶に入れ、コルクで蓋をしている。
「あんまり作っても収納の肥やしですし、この辺にしておきますか。」
「下級213個、中級108個できたの。そして上級372個なの。」
「前より悪化してますね。」
じっとりとした視線をこっちに送ってくるハンナ。
「だ、だから、難しいんだってば……。」
「お嬢様が作ったのは、9割がた不良品ですね。」
「不良品て言うなし。一番効果が高いのに売りづらいからと言ってゴミ扱い。聖女の威厳が踏みにじられてる気分だわ。」
「お嬢様の収納のサイズが桁外れだからいいものの、普通の人だと、そうはいきませんからね?」
「せ、責任もって全部持つからっ!」
私は、とりあえず全部まとめて収納へと入れる。
「どのくらい売りましょうかね。」
「今の感じだと、3人で作れるのは1日に下級200個、中級100個位が目安だから、それ以下ね。」
「持ってる分を売って欲しいって言ってたから、初回はこのくらい在庫がありました、という体で少し多くてもいいと思うの。値段はギルドより高くないと売っちゃダメなの。」
「ギルドでは、下級が銀貨1枚。中級が小金貨1枚でしたね。こんな事なら、上級の買い取り価格も一応聞いておけばよかった。」
「で、商店で見かけた売値は下級が銀貨3枚中級が小金貨3枚。ギルドの買取は1/3くらいだけど、おそらく普通の商店は半額買取が妥当かな。因みに特級は金貨500枚だっけか?なんとか売る方法ないかなー。」
「まだやめてなの。もう少し様子を見るの。」
ハンナに釘を刺され、いろいろ相談した末、下級を200個、中級を100個、上級を10個とを売ることにした。試しにハンナの収納に入れてみると、ギリギリ全部入った。最大でこのくらいの量が妥当なのかな。
次回以降は、たくさん出来たら、とか余ったら、と条件をつけて売ることにしよう。
相手の反応も見ながら、だな。
向こうは何と言っても本職だ。あまり舐めてかからない方がいい。なるべく嘘はつかず、大切なことは隠す方向で、素直に行こう。
ああ、早く交渉がうまくて、しっかりした人間の常識を熟知した仲間が欲しいなぁ。
「では、また明日。」
そう言ってゼルは隣の部屋へと戻っていった。
☆☆☆☆☆
「さぁ、出発しますか。」
朝になり、私たちはゼップルさんの屋敷へと向かった。
支度金は、昨日と今日のご飯代になり、残りは収納とは別のリュックにしまった。
「人間の世界って、こんなに金が稼ぎやすくていいんですかね?」
「というより、回復薬の値段が上がりすぎなのよ。私たちの感覚だと、下級が小銀貨1枚、中級が銀貨1枚、上級が金貨1枚が妥当な店売り価格じゃない?て事は、買い取り価格なら全てその半分が妥当よ。」
そんなことを言いながら、のんびりと歩く。私やゼルのように回復に特化していないと作れない上級が高いのはなんとなくわかるが、誰でも作れるはずの下級が、高めの時給レベル。その辺にあるバイト募集の張り紙で、見かける数字だ。
「あ、ついたついた。」
昨日も見た、この金持ち臭がプンプンする屋敷。門番のおじさんにゼップルさんの以来の件できたと伝えると、中に通された。そして同じく二度手間で、入り口ドアの前でも名乗る。
すると、中からゼップルさんが昨日よりも親しみのある笑顔を振りまきながら現れた。
それほどまでに、回復薬の買取が魅力的なのだろう。
「まぁまぁ、まずは中へ入ってくれ。」
家に入ると、さっさと客間に通された。昨日とは違い、少し狭くて、豪華な家具と言うよりは、見た目は派手ではないが、質のいい家具が揃えられた部屋だった。
こっちは、交渉用なのかな?
「で、いきなりで悪いが、いくつ売ってもらえる?」
「とりあえず、作り置きで今出せるのが、下級が200、中級が100、上級が10ですね。」
「上級もあるのか!!」
やっぱり、ものすごい勢いで食いついた。ゼルやハンナには、余計な交渉をしようと思うな、と言われているので、しない。次回の約束も、なるべくしない。
「あまりたくさんは用意できませんので、定期的に売ると言うことも、期待には添えないと思います。」
「いや、これでも相当なもんだ!数はともかく、質が素晴らしい。こんなに上質なものを、一般の冒険者が作れるのか?最近は、中級や上級なんて、専門の職人以外が作ったのは見たことないぞ。」
「買取、お願いしますね。」
「よし、一般的な買い取り価格、下級が小銀貨5枚、中級が銀貨5枚、上級が小金貨5枚。合計で小銀貨1000、銀貨500枚、小金貨50枚。合計して金貨6枚だが、無理を聞いてもらったお礼も兼ねて、金貨1枚を足して金貨7枚でどうだろうか。」
「もう一声、なの。」
「おお。物怖じしないその態度。気に入った。更に小金貨5枚だそう。どうだ?」
「案外ケチなの?」
「ちょ、ハンナちゃん!」
「はははははっ!末恐ろしい。 」
「相場は売値の半額、つまり、金貨6枚で買って金貨12枚で売るなら、経費を考えてもまだ乗せられるの。勿論このおじさんが、このご時世に相場で売るとは思えないの。」
「ふふっ、あーっはっはっは。良いな、その目は気に入った。よーし。なら全部で金貨7枚だ。私の稼ぎも必要だからな、このくらいで勘弁してくれ。」
「ふむ、仕方ない。よろしい、なの。」
「大きくなったら、ぜひうちに欲しい人材だな。」
機嫌を損ねるどころか、ハンナを相当気に入ったらしい。
私たちは、その場で金貨7枚を受け取る。
「次回は、いつでもいい。また回復薬を売ってくれる気になったら声をかけてくれ。」
「因みに、専門の職人からは、ひと月にどのくらいの量を仕入れてるの?どの位作ると職人になれるの?」
「お嬢さんは職人を目指してるのかな?」
ハンナの問いに、機嫌のいいゼップルは快く答える。成る程、次回から持ってきても怪しまれない量を探るとは、流石は使える7歳児。
「だいたい、月に下級2000個、中級500個ってとこだな。上級は作れない職人も多いが、作れる職人は、10個も持ってくればかなり優秀だ。」
「ふーんなの。じゃあ、今度からその半分くらい溜まったら持ってくるの。」
「ああ、特に上級に期待してるよ。」
和かに話を終えると、私たちは立ち上がった。
「では、これから竜の調査に向かいます。」
「ああ、よろしく頼むぞ。」
さぁ、古竜を探すぞ!
ゼップルさんに見送られ、指定されている国境付近を目指す。一応、囮捜査も話したのだが、やはり被害は少ないに越したことはない、と私たちが先に現場付近を調査することにした。
1日目に何もなかった場合、二日目に囮の商隊が通ることになっていた。
そんなわけで、いやいよ古竜に挑戦だ。
いつもありがとうございます。
なんとか仲間を補充しないと、まともに商売も生活も出来ない気がします。