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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様と人間の国
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女神さまとおやつの時間

今回は、シルフィーヌのお話です。

「今日はマフィンかー。」


席に着きながらさっさと手を伸ばすのは息子のエミール。魔王の息子なのに、魔王を討伐する力を持った勇者。


「母様、次はアップルパイがいいな。」


マフィンをほおばりながら、大好物の催促をする。


「分かったわ。でも、今リンゴを切らしてるのよ。明日には仕入れてもらうからね。」

「わしは、マフィンの方が好きじゃがな。」


何故、のんびりと椅子に座りながらマフィンを頬張るこの男性を、世界中の人間が憎むのだろう。今まで出会ったどんな人よりも温厚で、慈悲深く、愛に溢れたこの人を。


「たくさん食べてくださいね。まだまだありますから。あ、もちろんロベルトの分も。」

「ええ、後ほどいただきます。部下として図々しい限りではありますが、奥様の作るお菓子の誘惑には勝てませんから。」


ものすごくいい笑顔で紅茶を淹れるのは、専属回復職のロベルト。魔族の中でもかなり優秀な回復魔法の使い手で、いろいろ試した結果、昔は魔族には絶対に使えないといわれていた神聖回復魔法を使えるようになったほどだ。


「今頃、ティーナはどうしているんでしょうね。」


聖女の力を持ったものが、世界を旅して苦しむ人たちを救う、と言うのはよくあることだが、なんといっても彼女はハーフ魔族で、人間とはかけ離れた容姿をしている。

あれでは、恐怖を撒き散らすことはできても、救いを与えて回るのはかなり難易度が高そうだ。


「ティーナちゃん……。」


最愛の娘を思い出したのか、マフィンを握りしめ、寂しそうに俯く魔王。

私が知る限り、魔王、(ティーナ)息子(エミール)にまともに敵対できる人間などいないだろうから、そう言う意味での心配はしていないが。

どちらかと言えば、何か、人間側に被害が出ているのではないかと言う心配の方が大きい。

魔王は、ただ単に娘が怪我とかしてないかな、と心配しているのだろうけど。意識がなくても生きてさえいれば自動で自己治癒魔法が発動する聖女に、怪我の心配などまったく無意味なのだが。


「姉さんが元気にやってないわけがないでしょ。寧ろ、相手をさせられる人間と、付き合わされているゼルの胃を心配してあげるべきだね。」


すでに3個目のマフィンを齧りながらエミールは笑う。確かに、ゼルは苦労人なのよね。でも、あの子を上手く扱える魔族なんてそうそういないから、つい任せてしまうのだけど。


「ん?」


そんなことを言っていると、魔王の周りに白い光が溢れ始める。徐々にそれが形になると、床に魔法陣が現れた。

これは……召喚魔法?


「ティーナちゃんが呼んでおるっ!」


ばっと立ち上がると、なるべく格好いいポーズになるように首の角度を決めながら、髪を整えている。


「では、少し行ってくるからな!」


言葉と同時に、光が一層強くなり、姿が消える。

キリッと決めたつもりの魔王の手には、マフィンがしっかりと握られていた。


「ああ言うところも、憎めないのよね。」


私が笑うと


「はいはい、お惚気ありがとうございまーす。父様いいなー。僕も呼んでくれないかなー。」


エミールは、虚空と床を交互に見つめるのだった。

可愛い息子と、娘と、そして愛する旦那様。まさか私が魔王と結婚することになるだなんて、人生はわからないものね。でも、あの時から、私は、ずっとあの人を信じているのよ。



☆☆☆



「あ……?ここは……?」


ふかふかのベッドの上で体を起こすと、全身に激痛が走った。ああ、そうだ。私は勇者様に切られたんだっけ。

それに対しての恨みはないし、見捨てられたことに関しても、代わりのきく回復職より、勇者である自身を守る方が重要であるから仕方ない。

上手くここから帰ることができれば、再び勇者様のお役に立つこともできるだろう。

しかし、ここって魔王の城よね?なんで私手当てされてるの?


「あ、気がつきましたか?」


どう見ても人間である女性が、私の足元でポーションらしき瓶の整理や、掃除をしていた。すらりとした手足だが、しっかりと引き締まっており、鍛えられている様子がうかがえる。


「私は、なぜここに?」

「怪我をしていたからだと思いますよ。」

「いえ、そうではなくて、ここは魔王の城ですよね?」

「そうですね、魔王の城の、詳しく言うなら医務室です。」

「なぜ、私は助けられたのでしょうか?」

「魔王様が変わり者だからじゃないかな?」


そう言って、女性は自身の背中に手を回す。

同時に、光の弓が現れ、前に掲げた時にはすでに光の矢が番えられていた。

彼女の手に光る文様。


「勇者?じゃないですね、眷属文様ですね。」

「私の勇者は、ラルフだけどね。」


勇者の配下4人までに与えられる特別な力で、忠誠を誓う代わりに勇者の力の一部を行使できると聞いたことがある。桁外れの回復力と魔力があたえられ、魔王討伐の切り札にさえなり得る。しかし、帝国の王子はまだ眷属を持たない。一度眷属は与えてしまえば解除することはできず、死ねばそれまでで、追加することもできない。

まだ若い帝国の勇者王子(クラウス)は、対象を選びきれていないのだろう。


「なぜ、勇者の眷属のあなたが、ここに?」

「いや、30代の勇者(ラルフ)が攻める時、ここにいたらすぐ参加できるじゃん。」

「は!?」


なんだそれ。

何が楽しくてここの魔王は、自分の命を狙う相手の部下を、自分の城で住まわせてるんだ。変わり者を通り越してただの馬鹿ではないのか?


「まぁ、それは半分冗談だけどさ。私はあなたと一緒。怪我をして逃げ遅れて、魔王に助けられたのよ。」

「怪我人を助けるのが趣味なんですかね?」

「苦しんでる人を放っておけないみたい。」

「……はぁ。」


聖人君子のような魔王ね。確かに回復職としては、怪我人がいると治さなければいけないような気がしてくるのはわかるんだけど。

助けられる手段を持っているのに、目の前で死なれるのはとても気分が悪い。


「一度は帰ったんだけど、ラルフが眷属の命の恩人に手は出せない、って、魔王との停戦を進言しちゃってさ。反逆罪で眷属ごと全員捕らえられて。」

「停戦を……。」

「馬鹿な人でしょ?でも、私たちはそんなあの人が好きなんだけどさ。」

「そのうち、妻と息子と娘を人質にされ、なんども魔王に挑んだが、成果を上げられず、妻と息子は見せしめに殺されましたとさ。今は、娘を人質にされながら、泣く泣く魔王に戦いを挑む日々です。眷属たちも似たような感じね。」

「そんな……。」


想像以上に重い話すぎて、私は何も言えなかった。家族のために戦う勇者、しかし、勇者の家族を傷つけているのは、本来守るべき自分の国だ。訳がわからない。

その時、ドアをノックする音が聞こえた。


「母さん、お姉さんが起きたら一度魔王様が来るって言ってたよ。」

「あ、ありがと。」


ドアを開けて入ってきたのは、5歳くらいの男の子が入ってきた。


「そしてこれが死んだはずの息子です。」

「へ?」

「ラルフは、魔王に泣きついてね。私たちは処刑前日に魔王配下のサキュバスたちと入れ替わって、助けてもらったのさ。しかし、首を落とされても死なないサキュバスって凄いねぇ。焼かれた灰からも復活してたし。」


ケラケラと笑う女。

息子は、軽く会釈すると、魔王を呼びに行くのか、部屋を出て行った。


「つまりは、あなたは眷属であり勇者の妻で、二回も魔王に助けられて、ここにいると。」

「ああ、私たちは処刑されたことになってるから、戻れないしね。ラルフは、下の娘を人質にされてるから仕方なしにここに来るけど、適当に腕試しして帰ってるよ。」

「で、あなたは何が言いたいの?」


わざわざそんな人が、私に対して過去の話をする理由?ああ、そうか。分かった。


「もしかして、魔王に従えって言いたいのですか?」

「従えっていうのは少し違うかな。悪い人じゃないから、邪険にしないであげてって伝えにきたのよ。」

「魔王が悪い人じゃないなら、何なんですか?」

「それは、あんたも分かってると思うけどね。」


心配そうに私を見つめる瞳に、嘘は無かった、と思う。


「今も、魔族がそばにいたら落ち着かないだろうからって、私に頼みにきたのよ。だから、私があなたの世話係。」

「考えれば考えるほど、変な魔王ですね。」


そこで、ノックが聞こえた。


「入っていいかの?」

「どうぞ。」


さっきの男の子と、魔王と、もう1人、確かゼル?と呼ばれていた男の子が入って来た。


「傷の具合はどうだ?」

「…はい、もう少しすれば自分で治癒魔法をかけられると思います。」

「そうか。では、ゆっくり休むといい。」

「一応、今日の分の治癒魔法をかけておきます。上位治癒(ハイヒール)


魔法の光で包まれると、痛みがだいぶ軽くなる。魔族に治癒魔法をかけられるなんて、変な気分。


「なぜですか?」

「ん?」


私が、問いかけると、全員がキョトンとした顔をする。


「なぜ、私を助けたのですか?」

「なぜと言われても、その、えっと」


魔王がモジモジする。

屈強な魔族の男がモジモジしているその姿。何とも言い難い。


「ほら、魔王様、ちゃんと言わないと。」


ラルフの妻に小突かれて、魔王は私の方を上目遣いに見た。どこの少女だよ。むしろちょっと怖いよ。


「その、目が、えっと、綺麗な、えっと、その、強そうで、意思が、えっと。」


しどろもどろになりながら、何かブツブツ言い始めた。が、全く意味がわからない。


「魔王様、それでは全く何も伝わりません。」


ゼルと呼ばれた男の子にまでダメ出しされている。


「あ、あのっ……め……目が素敵だったんじゃああああ!!」


バーン!!


キャアアアっと、へんな声を出しながらドアを破壊し、駆け抜けて行った。


「……は?」


呆れ顔で苦笑する配下とラルフの妻子、私は、魔王の駆け抜けて行った方を見ながら、ただただ呆然とするのだった。


ちなみに翌日、魔力もかなり回復して来たので、試しに神聖魔法を使ってみると、ひどかった傷もほとんど消え失せた。


あれ以降、魔王は部屋に入って来ることはなかったが、毎日部屋の前に来ていたのは、気配と、部下たちの声で気づいていた。

こんな男を相手に、私たちは命がけで討伐のために出兵していたのか。むしろ、この人を殺す価値なんてあるのか?

私たちは、何をやっているのだろう。


『魔王を倒して、平和な世界を!』


なんども聞いたこの言葉。よくよく考えれば、魔王なんか倒さなくても、別に世の中は平和な気がする。

そもそも、魔王が一番、平和に近い存在なのではないだろうか。


そんなことを思いながら、今日もドアの前の気配を感じて、苦笑するのだった。



☆☆☆


「ティーナちゃん元気だった!」

「それは良かったわね。」


おやつを片付けていると、部屋の隅の方に光が集まり、旦那が帰って来た。

ニコニコとご機嫌だが、その手には、へんな男が抱えられている。なんか臭うし。


「魔王様、その男はこちらで預かります。」


気を利かせたロベルトが男を抱えるとその場からスッと消えた。同時に外の堀でドボンと大きな音がしたので、投げ込まれたらしい。


「なんか、はぐれ魔族に絡まれたらしくてな。」


そう言って、いそいそと手を拭くと、椅子に座る。

魔法収納から取り出したマフィンを齧りながら、嬉しそうにティーナの様子を語り始めた。


「元気そうで良かったですわね。お疲れ様でした。」


そう言って、旦那様の頬に口を付ける。


「はうっ」


マフィンを握りしめたままへんな声を出して気絶した。


「貴方だけティーナに会うなんて狡いのよ。召喚陣まで渡して。そんな話聞いてないんだからね。」

「母様は、相変わらず厳しいね。いろんな意味でごちそうさま。」


エミールと2人、気絶した魔王の前に追加のマフィンと紅茶を並べて、笑いあった。

私だって、この幸せを守りたい。


ずっと、ずっと。

長くなってしまいました。

分けようかとも思ったのですが、まぁ、このくらいならいいのかな、と思いまして。


レビューを頂いてから、ブックマークの数が急に増えました。読んでいただけていると思うと、とても嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。


面白かったと思っていただけましたら、評価の方もいただけると嬉しいかなとか思ったりしています。

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