聖女様と勇者様
久しぶりの彼です。
「魔族が、聖女を殺して勇者を攫ったと言うのは本当なのか?」
「は?」
何でそうなった。
「聖女が攫われて、勇者が殺されたのか?」
不安そうに言う大臣。と言うか、死んだか攫われたかも曖昧な情報な訳?
「い、いえ、そもそも勇者は先日攻めてきたとき、2人とも無事に帰ってるでしょう?」
「あ、いや、30代の勇者と、50代の勇者と、70代の勇者はピンピンしとる。まぁ、90代の勇者は流石にそろそろ危ういと聞いたが。」
むしろ長生きだな、勇者。
「そうではなく、我々が探しているのは10代の勇者です。生まれてるはずなのに、聖女もそうなんですが、いくら探しても見つからない。どこの国も必死になっています。」
そんなに探されていたとは知らなかった。私の存在が隠されているのと同じように、10代の勇者も、隠されているもんな。
でもそれは、人間に知られたくないと言うよりも、魔族の王子と王女が魔王を殺せる唯一の勇者と聖女だなんて広まって仕舞えば、魔族の中が大混乱になるからなんだけど。私の存在は、ある程度上位の者にしか伝えられていないし、エミールに至っては、側近くらいしか知らないはず。
「聖女どころか、魔族への唯一の対抗手段とも言える勇者まで現れないとなると、士気は下がる一方だと、帝国がですね……。」
「まさか、勇者誘拐をでっち上げて攻めてきてるわけ!?」
「その、まさかなんです……。」
ここ最近の無理な侵攻は、まさかの勇者奪還という名目だった!?奪還も何も、エミールはうちの子なんですけど!
「あー……。えーっと。聖女は何故殺されていると?」
「単純に、見つからないから、ですかね。あと、勇者は次の代が生まれる前に死ぬと、違うところに新たに生まれるので、結果的に10代の勇者は生きたまま攫われたのだと。あえて言うなら、聖女は、勇者よりも厄介な存在なので、魔王たちが生きたまま捕らえておくことは不可能に近いということからでしょう。」
まぁ、あのキラキラがあれば、魔族が聖女を生きたまま捕らえておくことは難しい。口を塞ごうが目を塞ごうがキラキラは出せるし、それに触れれば魔族は瞬間で戦闘不能に陥る。
母様はけろっとしていたから、人間には関係ないのか、効果のある人間もいるのかは謎。
「たまに人間の領土にやってくるはぐれ魔族を問いただしても、情報は得られず、謎は深まるばかりでした。しかしながら、侵攻時に捕獲した魔族が、聖女の力のこもったポーションを所持していたことから、聖女、または勇者を殺して奪ったのではないかとの推測がありまして。」
「推測ばっかりで、本当にめちゃくちゃな話ね。」
「はい……。」
「ちなみに、その捕獲された魔族はどうなったか知ってる?」
「すみません、帝国から得た情報でして。我々はそこまで詳しくは知らないのです。」
「……そう。」
うーん、そういうところから漏れてしまうのであれば、みんなにポーションを配りまくるのも良くないのかもしれない。考え直そうかな?
でも、ばれるのを警戒して、死ななくて済む魔族が死ぬのは私の本望ではない。
「す、すみません。我々も、なるべく魔族を傷つけないようにとは思って行動していたのですが……。」
わたしが難しい顔で考え込んでいたせいか、大臣が慌ててフォローする。
攻めないと人間から攻撃され、攻めても魔物に殺され、それを指示する側は辛かっただろう。魔族を殺したやつらの仲間だと思うと憎いが、自分の家族や国民を人質に取られているとなると、王の苦悩も分からないではないのだ。
「いえ、大丈夫です。そうではなくて、どこまで私の判断で、話していいものかと悩んだだけで。」
この3人は、ロベルトに助けられてからの数十年間、周りを誤魔化し、口を閉ざしてきたのだ。それならば、秘密を守ることもできるだろう。後は、私の気分次第な部分もある。
一応、お父様からはある程度好きにしていいと言われているし。私の身を案じる以外は、そんなに制限されなかった。
「では王様。私からは勇者と聖女、共に健在だということをお伝えしましょう。」
「おおおお!!!」
王たちは、感動と喜びの入り混じった複雑な顔で驚いていた。
「しかし、何故魔族がその情報を?やはり、捕虜として?」
騎士団長が遠慮気味に尋ねてきた。
「えーっとですね。魔族の中でも、かなりの機密事項でして、絶対に、人類にも魔族にも漏らさないと誓えますか?」
「ああ、勿論だとも。」
王が力強く頷く。
ま、色々語ったところで、証拠を見せないと信じてくれないだろうし。ただ、聖女よりは、先に勇者を紹介するのがいいかと思った。
なんと言っても、聖女には利用価値がありすぎる。
「では、えーっと、勇者は捕虜としてではありませんが、魔王寮で暮らしています。百聞は一見にしかずと言いますし、本人を見ていただけると色々理解が早いかと思いますので、とりあえず……。」
「とりあえず……?」
ゴクリと唾を飲む王。その王に向かって、私は真剣な口調で続けた。
「おやつと、軽食を用意してもらえませんか?あと、この国で有名な剣、魔剣とかなら、なおいい感じ。」
「は?」
「勇者召喚の儀式みたいなもんです。無いと癇癪起こして暴れる可能性があるので、一応。」
「な、なんか魔物の召喚みたいですね。」
一瞬、騙されているかもしれないと顔を見合わせたが、ゼルの顔を見たあと、決心したように動き始めた。
「すぐ用意しますので、別室にてお待ちください。」
客間のようなところに案内され、しばらく私たちはのんびりと過ごした。
とは言え、部屋の中にはメイドがいて、あまり秘密の話とかができる雰囲気では無い。
「しかし、お嬢様。エミール様を呼んでどうするおつもりですか?」
「うーん。いくら説明したところで、限界はあると思うのよ。向こうだってどこまで本当のことを言っているのか分からないし、どこまで信じてもらえるのかも分からないし。それなら、こちらの見せられる限界までは見せていいと思うの。特に、あの王たちは信用できると思う。」
直感だけどね、と付け加えて、部屋に置いてあるクッキーに手を伸ばした。うん、美味しい。
こういう嗜好品は人間たちの方が絶対進んでるのよね。
「まぁ、エミール様も、お菓子があれば比較的大人しいですしね。」
「なんだかんだ、まだ10歳だからね。」
「お菓子、美味しいの。」
難しい話や、政治の話には、なるべく参加しないことにしているのか、ハンナは積極的には話さない。しかし、話が変な方向に行きそうになったり、話しては不味そうなことを言いそうになると、サラッと止めに来るので、何も聞いていないわけでは無いらしい。
「私のことも、場合によっては話す。相手を信用しないことには信用されないからね。それに、あの程度の力の人間が騎士団長だなんて、正直驚きの弱さよ。」
「うーん。そうですね、お飾りの騎士団長でなければ。ラードルフさんより少し強いくらいで、きょういだとはおもいません。」
最初、あんなにビビってたくせに。
謎の自信がついたのか、ゼルは、最初よりもリラックスしていた。
しばらくして、部屋のドアが開き、再び謁見室へと案内された。
慌てて用意したらしいテーブルの上には、思った以上に立派なご馳走が並んでいた。
よくまあ、1時間少々くらいでここまで用意できたもんだ。
また、部屋の隅にある別のテーブルには、数本の剣が並べられていた。なるほど、なかなかにいい剣が揃っている。魔剣といっても差し障りのないものから、素材が逸品のもの、そしてなんと、一本からは聖女の気が感じられた。私とは少し違うので、先代とか先先代の聖女の物だろう。
「こんなもんでよろしいか?急ごしらえで申し訳ないが。」
「いえ、十分です。」
それだけ揃っているなら、エミールも文句言わないはず!
私は、部屋の中には隠蔽の魔法をかける。音漏れを防ぎ、中の魔力量の変化も九割以上抑えて、外に漏れないようにする優れもの。
ここなら、お父さんを呼んでも、外の人が魔力を感じて恐怖することもないはず。誰かが魔法を使ったのかな?という程度で済むはず。……あくまで、はず、だけど。
「では、いきます。少し下がってくださいね。」
ポケットから、エミールのお守りを取り出し、床に置く。
私が呪文を唱え始めると、大臣はどんどんと顔色が悪くなった。
「な、なんだこれは!発動するのか!?王様、危険です!これは、魔王召喚の!!」
「そんなバカな!一介の魔族が行える術式ではない!」
うろたえる大臣と、騎士団長。しかし、王は達観した様子で私を見ていた。
「騒ぐな。私は、このものたちを信じて託すと決めたのだ。お前たちも腹をくくれ。」
いいね、王様、その肝の座り方、嫌いじゃないよ!
「さー、いくよー!勇者召喚!」
まばゆい光とともに現れたのは、二本のツノ、大きな黒い羽、深紅の髪を持った、少し気の強そうな目の少年だった。
うむ、可愛い我が弟、エミールである。なんか、アップルパイ持ってるけど。
「なんか、おやつの時間に呼ぶ決まりでもあるの?」
ため息をつけながら、彼は言った。
弟くんが遊びに来ました。
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