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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様と人間の国
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異国の王は託される2

中途半端に区切ってしまいました。

そこにいたのは、兵士の死体を貪り食う、大きな狼だった。体長3メートルは有る大きな獣と目があった。

他の兵士と戦ったのであろう、体には矢が刺さり、切り傷も多い。息が荒く興奮状態だが、それでも対峙した者は全て殺し尽くしたらしかった。

周りには、死体が積み重なっている。


「王子、逃げてください!ここは私が!!」


副団長が剣を抜く。

満身創痍とはいえ、副団長1人で倒せるかは怪しい相手だ。キラーウルフはとにかく気性が荒く、攻撃的で、強い。


「お前だけを置いて逃げられるか!」


私と、大臣の息子も、剣を構えた。大臣の息子は、若いとはいえ、かなりの剣の使い手だ。大臣の後を継ぐため、騎士団に入ることはしなかったが、副団長と同じ年で、よく剣の稽古をしているらしかった。

この中で、一番弱いのは私だ。

キラーウルフは、一瞬で見抜いたのだろう。

3対1を、2対1にするため、迷わず私へと突っ込んできた。


「王子!」


私を守るように戦う2人。何度も剣を振るい、傷をおいながらも相手にもかなりの傷を与えた。おそらく致命傷もあるだろう。それでも倒れない。

そして、獣は手負いになってからが怖いのだ。私たちのほんの一瞬の隙をつき、その爪は私を切り裂いた。


「うわああああ!!!」


私はその場に倒れ、大臣の息子は私に駆け寄る。副団長は

、獲物を一体倒して油断したキラーウルフの、無防備な腹を薙ぐ。大きな獣は、その場で痙攣すると、こと切れた。


「ああ、王子!!王子様!!」


2人の叫び声が聞こえる。

他の回復術師たちは、すでに死んでいた。治すことのできるものなどいない。

傷は深かった。中級の回復魔法をかけても、治るかどうか。特に、ここから国まで帰ってから治癒したところで、恐らくは手遅れだろう。

私も、あたりに溢れる死体の一つになるのか。

そう思った。

だが、二人は諦めない。血濡れの私を抱え、来た道を折り返す。


「お前たち、無理はするな。お前たちだけでも、帰ってくれ。」

「いえ、私たちは、王子を見捨てて逃げるなどできません。そんな恥を晒して生きていたくはありません。」

「恥などではない。私を守り付いてきてくれただけでも、本当に感謝している。」


涙を流す2人。

ああ、私のわがままに巻き込んでしまった。私が出兵すると言いださなければ、少なくとも大臣の息子までこの場に来ることはなかっただろうし、騎士団の副団長も、今回の出兵には名前がなかったはずだ。


「私のせいで、すまない。頼む、お前たちだけは、助かってくれ。」


しかし私を捨て置くことなく、2人は黙々と歩いた。血の匂いを流しながら、人を背負ってこの森を抜けるなど、出来るわけがない。不可能だ。頼む、私を捨ててくれ。

そう思った時、近くで魔物の声がした。

ああ、ここで死ぬのか、こんなに良い奴らを、私のせいで死なせてしまうのか。諦めかけた時、その男は現れた。

二本のツノ、グレーの大きな羽。それは魔族の証。彼は整った顔をこちらに向け、そして、まじまじと私たちを見ると、驚いたような表情を浮かべた。


「こんなところに、人間の子供が。」


私たちに対して、剣を構えることもしない。剣などなくても、一瞬で捻り殺すことができるのだから。

そもそも、魔族の男にとっては、警戒する必要などないほど、私たち三人は、弱く見えたのだろう。

圧倒的な力の差に、目の前が真っ暗になる。全員が同時に死を覚悟した。

だが、守りたい相手がいる。死を前にして、絶望しなかったのは、互いが互いを守りたいと思ったその気持ち故。


「これが、魔王なのか。」


初めて見る魔族に、副団長はため息をついた。大臣の息子も、自嘲気味の笑いを浮かべた。2人は、ゆっくりと私を下ろすと、剣を構えた。


「何だこれは。こんな者を相手取って私たちは戦っているのか。」

「馬鹿げている。戦いになどならない。時間を稼げる気すらしないな。」


圧倒的とも言える力の差に、2人は完全に怯えていた。しかし、ただただ私を守りたい一心なのだろう。その魔族に対して、立ち塞がった。


「しかし、勇者たちが城に向かったというのに、魔王がこんなところにいるとは。」


副団長の言葉に、魔族は首を傾げて言った。


「魔王?そんなわけないだろう。私は魔王ではない。魔王様は、私なんかよりずっと強くて偉大だ。私は医務室勤務の回復術師だ。」

「魔王じゃない、だと?」

「魔王様は、そうそう城から出ないからな。そもそも、勇者がきているのに、城を開ける訳無かろう。私は、怪我をした魔族がいないか偵察してるだけの回復職だ。」

「回復術師?魔族に?」

「怪我人を治療する者がいるのがおかしいのか?」

「魔族が治癒?」

「魔族だって怪我くらいするだろう。」


お互いなんだか噛み合わない会話をした後、私は言った。

何とも幸運なことに、この魔族は多少話が通じる。ならば、何かしら交渉も出来るのではないかと、わずかな希望を持ったのだ。


「都合のいい話なのはわかっている。しかし、本心を言えば、私たちは、あなた方に敵意はない。どうか、この2人だけでも見逃してはくれないだろうか。」

「王子!」

「私は、出兵した国の王子という立場にある。強制されたとはいえ、貴方達の領土を脅かしたのは間違いない事実だ。国を統べるものの息子として、責任はとる。しかし、この者達だけは、助けてほしい。私を守るためについて来ざるを得なかっただけなのだ。」


すると、私の言葉に被せるように副団長と大臣の息子は言った。


「いえ、出兵を止められなかった私たちも同罪です。しかし王子は、この国は、他国に脅されて出兵したにすぎません。我々の命で償います。どうか王子だけは。彼はきっと、魔族と人間の和睦に勤めてくれるはずです。この事実を後世に伝えるため、正しき王国の導き手を、見逃してください!」

「いや、お前達!死ぬのは私だけでいい!お前達は逃げてくれ!」

「王子を置いて逃げれるわけがないでしょう!」

「……くくくっ!あっはっは!」


しばらく私たちの話を聞いていた魔族は、突然笑い出した。


「お前達、面白いな。お互いがお互いをかばい合うその姿、なかなか見れるものではない。感動した。そういう人間がいるなら、魔王様の願いも叶う可能性が出てくる。お前達が治める国なら、信用するのも悪くないかもしれないな。」


そういうと、ゆっくりと私に歩み寄り、手をかざした。


「欠損がないのは運がいい。このくらいなら、私の魔法で治せる。余計な事を言わず、余計な事をしないのであれば、無事に国に帰れるようにしてやろう。どうする?」

「誰にも言いません!王子を助けてください!!」


間髪入れず、大臣の息子が言った。その言葉に頷くと、魔族の男は、呪文を唱えた。


「良かろう。上級治癒(ハイヒール)


途端に私の傷は治り、体も軽くなる。

2人は、私に駆け寄り、涙を流しながら手を握った。


「ありがとうございます!ありがとうございます!!」

「ふむ。いや、私もこの間子供が生まれたところでな。」

「え?」

「あ、いや、何でもない。」


男は、小さな声で何かを言ったが、聞き返すと口を閉じて首を振った。


「この辺りでまともに生きているのはお前達だけだ。魔族も流石にこんなところにはいないだろうが、一応森の端まで見ようと思っていたところでな。お前達も帰るまでに、また魔物に襲われてもつまらんだろう。偵察ついでに、瘴気の森を抜けるあたりまで、案内してやろう。」


魔族が?人間を守ってくれるだって?

私たちには、理解しがたい状況だったが、生きて帰れるのなら、魔族に守られようが何だろうが、どうでも良かった。


「あ、ありがとうございます。えっと……」

「ロベルトだ。」

「ロベルトさん。ありがとうございます。この御恩は忘れません。」

「大したことではない。ついでだ。怪我をした魔族がいないか、見て回っているだけだしな。今回の戦いでは、現状、魔族には1人も死人が出ていない。わざわざ生き残っている人間の子供を殺すほどのこともないだろう。」

「ひとり……も?」


あれだけの死体の山が築かれたというのに。魔王どころか、魔族に1人の死者もいない?

私たちは、一体何をやっている?

疑問が頭の中をぐるぐると回る。自問自答を続けながら、気がついた頃には森を抜けていた。


「ありがとうございました。本当に、助かりました。」

「礼などいらんと言っているだろう。互いを大切に想う気持ちを持つお前達は、見ていて気持ちが良かった。だから、偵察のついでに領土の端まで連れてきた。それだけの事。」


そう言って、彼は森の闇へと姿を消した。

彼と歩いている間、あんなにたくさんいた魔物は、一匹も襲っては来なかった。

流石に、あれほどの力を持つ魔族に、魔物も襲いかかろうとは思わないだろう。


「しかし、あれで回復職だなどと、笑えんな。」

「まったくです。いったい、戦闘職だとどれほどのものなのか。」

「さらには、魔王は桁外れの力を持つという。これでは、いくら兵を集めたところで、ドラゴンに群がるアリの様ではないか。」


我々は、大きな勘違いをしている。

力で押せば、とか、数で押せば、とか、正直そんなレベルではない。数年に一度、どれだけの数の人間が無駄に死んでいるのだろうか。

だが、帝国に逆らうわけにはいかない。

何とかしなければ。


国民を、無駄に使い潰され、殺している事実。

このままではダメなのだ。

魔王を倒すという前提がそもそもおかしいのではないだろうか。


「お前達。今回の事、口外することを禁ずる。私たちは、何とか上にのぼりつめよう。そうして、正しく国民を守る手立てを考えねばならない。

時には、非情にならなくてはいけないかもしれないが、それでも、敵は魔族ではない可能性を、常に頭に入れてくれ。」


そうして、我々は、機を待ち続けたのだった。

ちょっと、年齢などを後日微調整する予定です。



感想、誤字脱字報告等、ありがとうございます!とても嬉しいです。


面白かったと思っていただけましたら、評価の方もよろしくお願いいたします。

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