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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様と人間の国
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異国の王は託される1

少し別の話を挟みます。

「父上!」

「何度も言っているだろう。お前にはまだ早い。」

「ですが、私も、国のためにお役に立ちたいのです!」

「その程度の回復魔法が使えたからと言って何になる。大人しく城で待て。」

「嫌です!1人でも多く救いたいのです!」


また、魔王討伐の出兵要請がきた。年々頻度が上がり、拒めば敵国として滅ぼされることを考えると、兵を出さないわけにはいかない。だからと言って、この頻度で出兵されて仕舞えば、この国の人間は……。考えるだけで憂鬱だ。

しかも、魔王の城にたどり着けるのは少数、殆どは森の手前で毒や魔物に殺される。魔族と戦うことすらない無駄死に。

仲の良かった兄王子や、騎士団の子供達。みんな帰ってこなかった。


「最後尾にて、負傷者の治療にのみ全力を注ぎます。なので、お願いします!」

「……分かった。」


王は、諦めた様にそう言った。


「騎士団副団長と、大臣の息子を回復担当の護衛とする。他の回復職とともに、なるべく後方からの支援にのみ、だ。」

「はい!ありがとうございます!」


そうして私は、魔王討伐に同行した。



☆☆☆


いくらなんでも、ここまでとは思わなかった。毒の沼で人数を減らし、魔物に襲われ、それを助けている最中に別の魔物に襲われる。

先まで進めたのは、勇者とその仲間が数名、そして帝国の精鋭だけだ。

実際、我々の様な他国の軍は、大量の犠牲を出すことで、勇者のつゆ払いというか、道を作っているだけなのだ。

しかも、今代の勇者はあまり積極的ではないと聞く。

なんでも、王に魔王たちとの停戦を進言し、かなりの罰を受けたとかなんとか。


「何とか、1人でも多く助けないと!」

「王子!危険です!」


副団長を振り切って、怪我人に中級回復魔法をかける。

大きめの怪我や、打撲、骨折などの重傷者は、なんとか治せた。中級魔法で治せるのは、消毒や添え木などの初歩的な処置で、自然回復できる怪我のみ。

魔力を流し込むとはいえ、本人の自然治癒や抵抗力などを最大限に高めることによって治療するから。


「王子!こっちにも怪我人がいます!生きています!」

「分かった!すぐに行く!」


サーベルタイガーの死体のそばに、ひどい怪我の兵士が数人倒れていた。

伝説に残るような聖女様が本当にいれば、こんな死体の山を目にすることなどなかっただろうに。


「大丈夫か!?今、治癒魔法をかける!」


息のあった三人のうち、1人は治せた。早くこの場を離れ、国に戻るように指示を出した。もう1人は、かろうじて息はあるものの、意識もなく、切り裂かれた体を見る限り、私の治せるレベルのものではなかった。

そしてもう1人。片目が潰れ、足も片方ないが、意識はあるようだった。


「噂の、治癒魔法が使える王子様か。」

「ああ、そうだ!今、治癒魔法をかけるから!」


しかし、魔法は発動したものの、男の傷は癒えない。これは、中級魔法で治せる怪我ではなかったのだ。

なんて無力な。なんて役立たずな。せめて上級の回復魔法や、神聖魔法が使えたなら、このものたちは死なずに済んだのに。


「……俺は、ダメか。」


男は、自嘲気味につぶやいた。徐々に顔色が悪くなり、死の色が濃くなっていく。薬も無く、最低限の治療でこの場に残せば、おそらく持って1時間。


「すまない……!私が無力なばかりに……!」

「いや、王子様、そんなに気にしないでください。王子様のせいじゃない。幸い、もう痛みをあまり感じないくらいだからな。」


とはいえ、苦悶の表情は隠せない。私に気を使って、気丈に振る舞っているのだろう。死の淵にいるものに気を使わせ、何もしてやれない。

私は回復術師なのに!王子なのに!なんて無力なんだろう。人の死という抗えないこの現実を前にして、自分の無力さがただただ悔しかった。


「もうすぐな、俺に子供が産まれるんだ。嫁に似て、可愛い子なんだろうな。」


男は、虚ろな表情で話し続ける。


「王子様。俺のことはいい。まだ助かる人が残っているかもしれないから、そっちに行ってやってくれ。中級回復魔法なら、早ければ早いほどに可能性がある。助からないと分かれば、すぐに切り捨てる決断も必要だ。そして、あんたは生きてくれ。これ以上、俺たちの子供の世代に苦しみが続かないように。」

「約束する。必ず、魔王を倒して平和な世界を……!」

「ああ。だが、笑えるよな。俺たちは、魔王や魔族に会うこともなく、勝手に攻めて、勝手に死んでいくんだ。一体俺たちは何と戦っているんだ?」


言えば死罪な言葉でも、死にゆくものには関係がない。誰もが思い、口にできないその疑問。

攻めてきているわけでもない、人を襲うわけでもない。そんな魔王と戦う意味。

魔王は悪で、魔族は脅威で、だから滅ぼさなければならないと、最初に言いだしたのは誰なのだろう。


「分からない。だが、お前たちの死は無駄にはしない。子供たちの時代には、平和と、幸せを届けてみせる。」

「よろしく頼むぜ、王子様。あ。王子様に頼み事するのも悪いんだけど、もし俺の嫁に会うことがあれば、子供の名前を。男ならウーリ、女ならコリーナと、伝えてくれないか。出兵前に伝えようとしたら、生きて帰って直接つけろと怒られてしまってな。」

「分かった。必ず、伝えよう。安心して休むがいい。」


そうして男は意識を失った。まだ生きてはいるが、そう長くはないだろう。

自分の無力さを恨みながら立ち上がる。


「いくぞ!まだ助けられる命があるかもしれない!」


そうして私たちは戦場を駆け回った。戦場とは言っても、ランクの高い魔物に襲われただけで、魔族の顔など見てすらない、一方的な自殺とも言える戦場だったが。

その後、数人の怪我人と重傷者を見つけ、治したり看取ったり、とにかくガムシャラに出来る事をやっていた。


「ありがとうございます!」

「礼などいらぬ。血の匂いに誘われた魔物が来ないうちに、早く逃げろ。」


治したものたちは、戦場に戻らせなかった。こんなもの、戦いと呼べる代物ではない。やるだけ無駄だ。この地に来て、初めて理解した。

助けられそうな者たちを一通り癒し、どんどんと魔王領の奥に進んだが、私は、焦りすぎていた。

1人でも助けたいと、欲が出た。

ガサリという音を聞き、生存者かと思い、油断して近寄ってしまったのだ。


「キ、キラーウルフ……。」


そこにいたのは、死体を貪り食う、恐怖の権化だった。

長くなったので、二回に分けます。



感想、誤字脱字報告ありがとうございます!とても嬉しいです。


面白かったと思っていただけましたら、評価の方もよろしくお願いいたします。

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