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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の旅路
31/175

聖女さまは依頼を達成する

やっと、ゴブリン退治が終わりました。

さて。

想定外その一。魔族は処理した。

次はその二。盗賊達である。


洞窟の中に溜め込んでいたお宝?や金貨は、ゼルの収納に任せてある。私より少ないとはいえ、このくらいの量なら問題はない。


「血まみれのアクセサリーとか、なんか嫌ですけどね。」


そんなことを言いながら回収。お金は臨時収入として頂くつもりだが、流石に明らかな盗品は持ち歩くのも嫌なのでギルドに提出しようと思う。宝石とか。


盗賊達のところに戻ると、さっきよりも青い顔をしてプルプルと震えていた。


「こ、殺さないでくれ、いや、ください!い、命だけは!!!」


必死に声を絞り出しているが、恐怖に引きつった顔、掠れた声。この数分で10歳くらい老けたんではなかろうか。


「何でこうなってるの?」

「呆れたの。寧ろ、こうならないと思ったの?」


私のつぶやきに、呆れ顔のハンナ。


「近くで、あんな禍々しい魔力を感じたら、普通はこうなるの。失神してないだけマシなの。」

「え、ハンナちゃんは平気でしょ?」

「自分には絶対危害が加えられることがない、ってわかってたからなの!じゃなかったら、私もこうなるの。」


ああ、だから少し離れたところであまり喋らず待機してたのか。


「だとしてもすごいですね。魔族ですらあんな感じになるのに。」

「毎回こんな感じになってたら、ティーナお姉ちゃんと一緒にいれないの。」


感心したようなゼルに、シレッと答える。なかなか芯の強い子だ。


「じゃ、帰ろうか。連れて帰れば、盗賊の駆除で報酬貰えるんだっけ?」

「確か、ギルドの張り紙にそう書いてあったと思います。」

「じゃ、ギルドに突き出すけど良いよね?」


疑問形で聞いているが、盗賊達に拒否権はない。恐怖で声も出ないのか、コクコクと必死に頷いていた。


「とりあえずゴブリンの耳をいくつか切り取って、と。」


あんまり持ち歩きたくないので魔法収納。うう、人型の魔物の死体は結構キモい。


「さ、行こうか。」

「あ。少し待ってていただけますか?」


と、何か思い出したかのようにゼルが駆け出した。どこか森の中に消えていった。トイレかな?

仕方ないので小休止。収納から出したお団子とお茶。そういえば、捕まえた盗賊って喉乾いたりするのかな。今日はそこそこ暑いので、脱水とか起こしたら連れ歩くのも不便ね。


水風船(ウォーターバルーン)・ミニ!」


水魔法の改造版。魔力の膜で覆った水を出す。プニプニした水の風船みたいなやつ。コップがないときに水を飲むのに便利です。


「水飲む?」


盗賊達の前にフヨフヨ浮いている拳大の水の玉。恐る恐る手を伸ばし、それを掴む。


「上部を指でなぞるとそこだけ膜が消えるから。そこから飲んで。あんまり力加えすぎると割れるよ。」


水の玉をぶん投げるウォーターボールより、水の量は少ないが、魔力の操作は難しいので流石に魔族でもここまでできる人は少ない。ふふふ。


「あ、ありがとうございます。」


そこそこ喉は乾いていたのか、素直に飲む。もう流石に、毒の心配とかもしていないだろう。だって、殺そうと思えば簡単に殺せるのだから、毒を盛る必要もない。


「あ、すみませんお待たせしました。」


そんなことをしていると、ゼルが戻ってきたので、立ち上がる。


「今度こそ行くよ!」

「はーいなの。」

「はい、行きましょう。」

『は、はい!!お供させていただきます!』


そんなわけで、私たちは盗賊達を引き連れ、ギルドへ向かって歩き始めた。もう少し抵抗するのかと思ったけど、ものすごく素直である。返事も敬語になってるし。


私とハンナが前を歩き、縛った盗賊達は歩かせている。最後尾でゼルが監視しながら特に魔物に襲われることもなく、2時間ほどで街についた。


「すみませーん、捕まえた盗賊ってどうしたら良いんですか?」

「え?あ、ああ、引き取らせてもらう。少し待ってくれ。」


無傷の盗賊を連れてきた謎の子供達プラス若い男1人。自警団の男性は慌てて仲間を呼びに行った。

しばらくすると、がっしりとした5人ほどのおじさん達が現れ、盗賊達を引き取っていった。


「た、助かった!!早く牢に入れてくれ!」


盗賊達は、自警団の皆さんにすがりつき、涙を流していた。何でやねん。

最初に対応してくれた人は、討伐証明の書類を作りながら、苦笑していた。


「あんた達も、盗賊も、無傷な割には、あの怯え方は何なんだ?」

「うーん、実は、何もしてないのよねぇ。」


私も、首を傾げた。

だって、勝手にゴブリンに襲われて、寧ろそれを助けてあげたってのに。父様にも、会わないように気をつけてあげたし。ここまで丁寧な扱いをしたにもかかわらず、ここまで怯えられるのは心外である。

出発前と、道中の休憩の時、飲み物もあげたくらいのVIP待遇!何時間も飲み物なして歩かせるのも可哀想だったし。ここまで萎縮して反省していたら、もう盗賊には懲りているだろう。


「秘密ってことか?ま、冒険者に強さの秘密を聞くのは、マナー違反だよな。」

「ううん、秘密ってわけじゃないんだけど、ゴブリンと仲間割れしててね。生きてたやつだけ回収して、ゴブリン倒したからかな?ゴブリンへの恐怖でおかしくなってるのかも。」

「仲間割れ???」

「まぞ……いや、何でもないです。私たちもよくわからないです。私たちの依頼がゴブリン退治だったので、結果的に助けた事になりますけど、知り合いなわけでもないですし。」

「そりゃそうだ。その辺の詳細はアイツらから聞くさ。ご苦労さん。これ、証明書な。ギルドに提出したら人数分の報酬と、犯罪奴隷の売上金もらえるから。」

「ありがとうございました!」


私たちは、証明書を受け取るとそのままギルドに向かった。少し暗くなってきたので、これが終わったらまた食事にでも行こう。


「すみません、換金をお願いします。」


時間のせいか、多少混んでいる換金受付に並び、盗賊退治の証明書と、ゴブリンの耳を渡す。


「お疲れ様でした!確かにゴブリンの耳、受け取りました。ではこちらにサインをお願いします。はい、これで完了です。こちらが報酬になります。」


そう言って小さな袋を受け取る。

大金をもらうと、どうしてもガラの悪い連中に襲われたりしてしまうので、なるべく小さい袋に、中が見えないように渡してくれる優しさがある。

基本的には金額は口頭では伝えられず、書類に示され、それで良ければサインをする、と言う形だ。

まぁ、基本的に、と言うだけで口頭で伝えられたりする事も多々あるのだが。


「いい稼ぎになりましたね。臨時収入の方が高額ですし。」


ゴブリン退治よりも、盗賊退治の方が高額だった。まぁ、犯罪奴隷の売却も収入になるし。


「よーし!今日もいっぱいご飯食べに行こう!」

「ハンナはね、肉が食べたいの。お腹空いたの。」

「昨日と同じところにします?」


そんな話をしながら、昨日と同じ酒場に向かう。

串に刺して焼いた鳥やイビルブルの肉は絶妙の塩加減で最高だった。

今日はタレで食べよう。

他は昨日は食べなかったデザートも頼もうかな。


「さぁ、いっぱい食べてゆっくり休もう。」


その後3人は、たっぷりと肉を堪能し、少し多めに支払うと、宿屋へと引き上げていった。

部屋はもちろん二つ。ハンナと私。ゼルは隣。

ハンナと2人、次は何の依頼を受けようか、なんて楽しい話をしつつその日は眠りについた。

まさか、平穏な冒険者生活がいきなりピンチに陥るとは思ってなかったので。



☆☆☆



次の日ギルドに行くと、入った瞬間、武装した男が5人、私たちを取り囲んだのだ。


「お前が、回復魔法の使い手のゼルとやらか?」

「知りません。」


ゼルはきっぱりと答えたが、男たちはそうですかと済ますつもりはないらしい。


「付いてきてもらおう。」


こちらの都合は御構い無し。無理やりゼルを連れて行こうとする。


「何なのよ偉そうに!名乗りもしないで、いきなり拉致とか、人攫いじゃない!」


私が抗議すると、男たちは一瞬顔をしかめたが、それも関係ない。


「王の命令だ。」


ひとこと言うと、それで全ての説明が終わったかのように、私に背を向けた。

あーあ。結局バレちゃうのか。しかし、それをハイそうですかと渡すわけにはいかない。


「命令だが何だか知らないですけど、いきなり連れて行かれるのは、私としても納得がいきません。」


兵士らしき男の手を力任せに振り払うゼル。一瞬目が泳いだあたり、内心かなりビビってるな。


「貴様、王の命令に背くのか!」

「今は、ここに滞在しているけど、私たちはこの国の人間ではありませんなの。国王の命令とはいえ、それに従う義務はないの。」


と、後ろから呆れたように口を挟む7歳児。一番使える最年少。まぁ、嘘はついていない。王の命令とはいえ、私たちは他の王族とその配下であり、他国の王の命令に従う義務はないのだ。


「ぐっ。」


唸ると、唇を噛み、渋々私たちから離れる。しばらく私たちを睨みつけて考え込んだ後、


「出直してくる!」


そう言って、男たちは帰っていった。

あーあ、困ったなぁ。


どうやら、ゼルが余計なことをしたようです。




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