聖女さまは召喚する
呼ばれて飛び出て!
☆すみません、途中でブラウザが落ちたことによって、書いていたはずの文章が抜けていたので修正しました。
「じゃ、時間もないしさっさとやっちゃいましょう!」
ゼル、私、ハンナの3人は、ロープでぐるぐる巻きの魔族の男を見下ろしながら言った。
いまだに気絶したままだが、規則正しい寝息が聞こえるので、これって気絶というか寝てるだけだよね。いくら手加減したとはいえ、なんか不快だ。
「水球」
バチャっと、コップ三杯くらいの量の水が魔族の男の顔面にかかる。
「ひゃあっ!?な、ななな、なんだ!?」
情けない声を出して起き上がろうとするが、自分がミノムシ状態で、まともに動けないことに気づき、混乱している。
「なんだもクソもあるか!私に手を出してタダで済むと思わないでよね!」
「それはこっちのセリフだ!こんな物でどうにかなると思うなよ!」
男が何か呪文を唱えると、縄が細切れになって弾け飛んだ。うーん、聞こえなかったけど、風の魔法とかなのかな?
だが、それだけだった。ミノムシ状態はそのままに、縄がなくなっただけでクネクネしている。
「あんたまさか、魔族を捕まえるのに縄で巻いただけで済ませると思ってんの?」
まぁ、魔法耐性のある捕縛用の縄とか売ってるけど、わざわざそんなもの使わなくても、土の魔法を使えば、簡単だ。地面と関連づけて、束縛してある。
「クソ!!こんなことしてタダで済むと……!」
「さっきから偉そうな口だけ聞いてるけどさ、全く説得力も何もないからね。このミノムシが。」
「確かに、うねうねしてるだけなの。」
「くっ……殺せ!」
ハンナにまで馬鹿にされ、悔しそうにこちらを睨みつけた。噂のくっコロさんではあるが、そういうのはもうちょっといい感じの兵士とか美人さんがいいなぁとか思う。
「殺すつもりなら、さっさと殺してるわよ。」
「テメェ、なんか卑怯な手で俺を捕まえやがって!」
あれ?チョップ一発で沈んだこと覚えてない?なんて都合のいい脳みそ!
「いや、正々堂々正面から殴り勝ったじゃない。」
「そんな訳あるか!人間ごときに、魔族の俺が!!」
「あんたが弱すぎるんじゃない?」
「ふざけるな!人間のような劣等種に、負けるわけがない!」
「現に、負けたくせに。正直、私が手を下さなくてもラードルフさんでも勝てたと思うけどね。」
まぁ、彼が人間の基準値かといえば微妙だけど。
「……で、俺をどうするつもりだ?殺さないし、人間にも突き出さない、意味がわからないんだが。」
「しょうがないじゃない。あんたを人間に渡すと、魔族のイメージ悪いんだもの。」
「は?魔族のイメージなんて元々悪いだろ。」
「火球」
「あつっ!?」
かなり弱めの魔法で、髪の毛だけ燃やしておいた。魔族のイメージを良くするために旅してるのに、初っ端からこんな馬鹿に出会うとは、腹立たしい。
「殺さないし、人間にも突き出さない。でも、突き出す場所はもう一箇所あるのよね。……ちょっと地獄を見てもらうだけよ。こんな奴を野放しにしたのは、私たちの責任でもあるしね。」
「いえ、口が悪いだけのバカだと思って、追放で済ませたのが悪かったんですよ。まさか人間の街に行くなんて考えませんでした。」
「誰がバカだ!なんなんだよお前ら!」
「善良な、冒険者です。」
それはともかく、私はポケットからお守りを二つ取り出す。まさか、こんなにすぐに使う羽目になるとは。
今回使うのは、こっち。
二個のうち、一つをポケットに戻すと、残った方を握りしめ、呪文を唱える。省略することもできるが、失敗したら、召喚される方に多少の不便があるかもしれないので。
一応。
「なんだ?召喚??」
魔族の男は、不思議そうな顔でこちらを見ている。まぁ、人間だと舐めている部分があるので、そんなに極端な恐怖心はないのだろう。しかし、ゼルなんて直属の上司じゃ無かったのか。羽とツノがないだけでそんなに分からないかねぇ。
「何だそれ!出来るわけないだろう!そんなもの、召喚出来るわけない!」
お。流石に腐っても魔族か。私の唱えてる呪文を理解したらしい。バシリーは、それが発動不可能な魔法だと知り、笑い始めた。魔法というのは呪文が分かればそれでいいわけではない。発動できるだけの魔力や制御できるだけの技能、あと、召喚魔法なら対象との力関係も必要だ。
基本は、自分より強い相手は召喚できない。
「どんな奥の手があるのかと思えば!とんだ詐欺師だ……な?」
だがしかし、徐々に発動を始める魔法陣に、男の顔色が変わり始めた。
ま、発動しないわけがないのだ。向こうがこっちに来たくてウズウズしてるわけだし。
「魔王召喚」
お守りから発された光が、私の足元に魔法陣を描き、私の言葉に呼応して、力を示した。
まばゆい光が辺りを包んだ後、一人の人間を象って消える。
そこに現れたのは、深紅の髪、二本の角と黒いコウモリの羽を持った引き締まった体躯の男だった。
「あ……あああ……!!」
恐怖に引きつった男には見えていないが、どうやらおやつの時間だったらしい父様の手には、母様特製のマフィンが握られていた。慌てて背中側に隠し、魔法収納に仕舞っていた。
因みに、男の事など眼中にない父様は、デレデレとした顔で私の方を向いていた。
「ティーナちゃん!元気にしてるか?怪我はしてないか?ちゃんとご飯食べてる?」
「見ての通り、とっても元気ですわ。」
「な…な……ま…まお……」
プルプルと震えながら、父様の方を向いている男は、なんか股間あたりが大変なことになっている。うう、汚い……。
「で、何があったのじゃ?お前が、ワシを呼ぶなど、何か大変なことでもあったのかの?そうは見えないが。」
ちらりと男を見た後、私に視線を戻し、暫く考えたのちまた男を見た。
「あれ?何で魔族がこんなところにいるんじゃ?」
「そうなのです。人間の悪党と、ゴブリンと徒党を組み、人間に害を加えていたようでして。」
「ほう……」
父様の目が細くなり、蔑むような視線に変わる。私たちの中では、人間の領地に行くことは固く禁じられているし、危害を加えるなど以ての外だった。
「では、この重罪人を裁けばいいのかな?」
「ええ、私が勝手に処分するのも気が引けまして。お願いしてもよろしいですか?」
「ああ。勿論。そもそもワシの不手際だしな。というか、ゼル。」
「は、はい。」
男から視線を外し、今度はゼルを見る。
「何故、逃した?反逆者は処刑する決まりだろう。」
あ、やっぱりそうなのか。何で追放処分とかになってたのだろう。
「いえ、その、その男の母親が、ですね。泣きながら懇願してきまして。命だけは助けてくれ、一生牢の中でもいい、一族で見張るから、今後一切迷惑はかけないからと、その姿が、どうにも、痛々しくてですね……」
あー……。ゼルは幼い頃に母親を亡くしているから。母親の涙に勝てなかったのか。
「まったく。その優しさは、長所でもあるが、最大の短所じゃな。ゼル。」
「ゼル、って、まさか、ゼル大佐!?!?」
バシリーは、死ぬより凄まじい恐怖に襲われ、もうまともに動くことすらできないようだ。
「何だよ、やっぱり人間じゃ無いんじゃねぇか……。」
「今は、人間ということになってるので人間です。」
ボソリと文句を言うバシリーに、しれっと答えるゼル。
「ところで、バシリー。一つ聞きたいのですが。貴方達一族は、追放されたのち魔王領の端、海辺の廃村でお前を軟禁しながらひっそりと暮らしていたはずですよね?母親たちはどうしました?」
「……。」
バシリーは、俯くと、絞り出すように言った。
「…こ……ころ…し…」
「クズが。」
最後まで言う前に、ゼルは剣を一閃させた。左腕がストンと落ちると同時に、止血の治癒魔法をかける。痛みはそのままに。
言い淀んだのは、殺した後悔ではなく、咎められることへの恐怖だったであろう事に、ゼルは怒りを露わにしていた。
「ゼル、落ち着け。」
「はっ……。」
部下としての情があったのだろうが、今はもう、汚物を見るような冷ややかな目をしている。父様の前でなければ、首を落としていたことだろう。
「何故、何故魔王様がこんな所に……?ゼル様も……」
うーむ。やはり魔族は頑丈だなぁ。片腕切り取られて、まだ質問する元気があるのか。
「娘の様子を見にきて、何が悪い。」
「む……娘?……そんなバカな。」
私のことを知らないと言うことは、追放されたのは、15年以上前なのか??
いや、それだとゼルの年齢と合わない。ゼルのことを大佐って言ってたもんな。
大佐になったのはつい数年前なはず。
「じゃぁ、俺は……姫様を…殺そうと?」
やっとの事で理解したのだろう。
私が魔王の娘で、ゼルがその護衛。その様子を見にきた父親。魔王の娘に手を出してしまった、自分の未来には、死以外に無いという事を。
「では、こいつはこちらで預かろう。悪かったな、ティーナ。」
「そいつ、ハンナを殴ったのよ。懲らしめておいて。」
「そうか、分かった。じゃあな、気をつけるんじゃぞ。」
「ありがとう、父様。」
「はうっ!久しぶりの、この感じ!わしもう、死んでもいい。」
抱きしめると、一瞬気絶しかけてふらっとする魔王を、すかさず支えるゼル。さすが、慣れている。
「魔王様、そんな簡単に死なないでください。」
どうやら、久しぶりの抱擁に幸せメーターが耐えられなかったようだ。
名残惜しそうにしながらも、バシリーを抱えると父様は魔法を発動して城へと帰っていった。
代わりの魔王召喚の魔法陣を残して。
これ、何個用意してあるんだろう。
出し惜しみしないでも、呼び放題のようです。
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