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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
魔王と聖女
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勇者は聖女を探す

魔王が、娘にデレデレして失神してる頃の、勇者のお話です。

「まだ見つからないのか!」


城の中に怒声が響き渡った。

ただでさえ魔王の討伐が進んでいないのに、聖女どころか回復職の替えすら見つからない。


「申し訳ありません、王子様。最高位の神聖魔法が使える者は世界に数人しかいない上、大抵は他の王国に抱えられておりますゆえ、なかなか見つからず……」

「違う!聖女の方だ!前の聖女が死んでから100年、神託から3年、どこかにいるのは間違いないのだ!」


ああ、腹立たしい。前回多くの犠牲を出して魔王の前まではたどり着いたものの、まるで赤子の手を捻るように蹴散らされた時のことを思い出して、奥歯をぎりっと噛み締めた。

『人の勇者よ、ワシは人と争うつもりは無い。早々に兵を引き上げて去るが良い。』などと、馬鹿にした事を言いやがって。ああムカつく。

在ろう事か、回復役の僧侶まで『ここは一旦立て直しましょう。』などと言い出す始末。無理を通して、強引に進めた討伐だったこともあり、なんの成果もなく帰るなどということができるはずもなかった。


とっさに僧侶であるシルフィーヌを突き飛ばし、その体を目くらましに火炎の聖剣を振るった。切り裂かれ焼かれるシルフィーヌの後ろには、不意を突かれ、シルフィーヌと同じくザックリと肩口を切り裂かれた魔王がいた。

よし、効いた!まさか、味方を盾にし、それごと切り裂かれるとは思っていなかったで在ろう魔王は、傷を押さえながら目を見開いていた。

魔術師、弓職、戦士、後、三枚の盾がある。いや、魔術師が死んだらここから逃げられないな。実質後二枚か。

そんな事を考え、距離を取ると、見開かれた魔王の目に、怒りの炎が灯った。


「貴様、我々の領土を犯すだけでは飽き足らず、味方にまで手をかけるとは、その愚鈍さ、目に余る!人の怨みを買う事を忌避したが故に、このような愚か者がのさばるので有れば、ワシは貴様らを逃すわけにはいかぬ!」


今までとは比べ物にならないほどの、怒気を孕んだ魔力が膨れ上がる。

化け物だ、こいつ。

聖剣でつけた傷は、なかなか治癒しない。だからこその聖剣、だからこその勇者。

しかし、その傷の分を差し引いても、このままでは勝てる見込みが無い。傷だらけの味方を見回し、叫ぶ。


「シルフィーヌ!皆を癒せ!撤退するぞ!」


だが、倒れた僧侶は、ピクリとも動かない。


「チッ、役立たずが!カイル!」


呼ばれた魔術師は、慌てて戦士と弓職の元に駆け寄り、俺もそこに合流する。


「勇者様、シルフィーヌを!」


俺が、シルフィーヌを連れてくると思っていたらしい仲間は、慌てて叫ぶが、


「良い!もう助からん!捨て置け!」


役立たずの僧侶は置いていくことにした。身分も低く、それを助けるために王子であり勇者である俺が危険を冒す必要を感じない。

それに、もし、盾がわりに使ったことがばれたら、厄介だからだ。他のメンバーには、しっかり口止めしておかないとな……。


「逃すか!破砕氷結弾(アイスクラッシュ)

「魔術式起動!転移!」


『なんと、愚かな……』


最後に、遠くで魔王のつぶやきが聞こえた。




「クソ!!思い出しただけでも腹がたつ!」


椅子の肘掛を思い切り殴りつけ、叫ぶ。

二度も見下しやがって、あの魔王!絶対に殺してやる!

殴りつけた手の痛みも気にせず、ギリギリと力を込めて握る。

そのためには、なんとしてでも聖女を見つけねばならんのだ。

聖女の力を受けると、魔王はその魔力のほとんどを失うだとか、ものすごいダメージを受けるとか、色々言われているが、今では伝説の中の話で、はっきりとはしていない。しかし、勇者と聖剣、そして聖女がいることが魔王討伐の絶対条件と言えるのは間違いない。


まだ時期尚早だという国王を説得して、15歳になってすぐ、成人の儀の翌日に討伐に向かうと宣言した。


息子を死なせたく無かった王は、大慌てで国中を探し回り、聖女こそ見つけられなかったものの、かなりの回復能力を持つ僧侶を見つけた。


なんでも、協会に奴隷上がりの、高い治癒能力を持つ娘がいると聞いて駆けつけ、買い取った。

あれほどの能力を持っていれば神官の位が与えられてても良さそうなものだが、身分の低さと教養の無さから、あくまでも見習い僧侶だった。

まぁ、死んだもののことはどうでもいい。


それ以降、なかなか次の回復職が見つからないのは問題だが。


三年前のある日、協会の占い師が聖女が生まれたとの神託があった、と言った。

それ以降、世界中で我先にと聖女の争奪戦が行われている。手に入れれば、魔王を倒せる。魔王を倒せば、力と富と名誉が出に入る。


特に幼いうちから手に入れれば、思い通りに教育し、思い通りに扱えるからこそ、事は急を要した。

ある程度知識がある状態で手に入れても、こちらの思惑通りに動いてくれるとは限らず、それでは意味がない。


しかし、三年経った今も見つからないのだ。他の国で秘匿されてる恐れもあるが、後数年もすれば、どこからでも情報は手に入るはずだ。

なんなら、奪っても構わない。


聖女は金の卵だ。

魔王を倒すときに使えるのはもちろんのこと、

装備やアイテムに力を与えれば、高価なマジックアイテムになる。

ポーションを作れば、欠損すら治すというエリクサーが出来る。

無限とも言える魔力を使い、回復魔術を使えば、死んだ者すら生き返ると言われている。

時にはドラゴンや魔物を従え、人々を魅了し、各国の王も跪いたとか。

聖女を手に入れるという事は、この世のトップに君臨すると言っても過言ではない。


「必ず手に入れるのだ。他の国にも偵察を出せ。隠す者や、渡さないという者がいれば殺しても構わん。」

「はっ!必ずや!」


王子は焦っていた。

勇者の資格を持つとはいえ、第五王子であり、王位継承の順位は低い。

魔王討伐の功績を焦ったのもそのせいである。

そして、今年で20歳。

次の勇者が生まれる頃なのだ。


勇者は、世界のどこかに突然生まれるが、大体20年に1人の間隔で産まれる。

要は今、勇者は複数人存在しているのだ。

20歳、40歳、60歳、80歳。

今わかっているのはこの4人。魔王退治に興味を持たない場合もあるし、80歳にもなって魔王退治に行けというのも酷であるので、実質動ける勇者は2人がせいぜいであるが、魔王を倒す可能性がある人間が自分の他にもいるという事なのだ。


死ぬと次が生まれるまでに数百年かかる聖女と違い、勇者は替えがきく。何かあっても、20年もすれば次が生まれる。


「急がないと。」


聖女を手に入れ、魔王を倒せば、王位は自分のものになるだろう。

失敗を責めた父や兄たちを見返す事だって出来るはずだ。


だから必ず、手に入れる。

俺が、この世界の王になるんだ。

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