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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の旅路
29/175

聖女さまは盗賊と戦う

花粉の季節になりまして、辛すぎて更新できない日が有ります。お許しください。

えーっと。

ちょっと小突いただけで死ぬ人間を相手に、手加減して無力化する、と。

なんて無理難題をふっかけてくるんだ!

あ、話し合いで解決とかどうだろう。


「あの、すみませんけども……。」


なんとか会話を試みるが、どうやら無理っぽい。じりじりと間合いを詰めながら、続々と集まってくる。目につくだけで7人か。


「おら!どんな卑怯な手を使ったか知らねーが、たまたまバシリーさんを倒したからっていい気になるんじゃねぇぞ!」

「え、たまたま倒される程度の男なの?」

「うるせぇぇぇえ!!」


はっ。あまりに突っ込みどころ満載すぎて、つい煽ってしまった!


「お嬢様は、説得や交渉には向いていませんね。」

「うむ、自覚はある。」

「有ったんですか……。」

「ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねえよ!おら、ゴブリンども!やっちまえ!」


そう言って、盗賊らしき男は、ゴブリンをけしかけようとした。その瞬間。


『ゴリュッ!ドサッ』


何かをへし折るような、鈍い音と、地面に何か重い布袋が落ちたような変な音が聞こえた。


「へ?」


そちらを振り向くと、胴体から切り離された頭を持ち、その頭蓋骨を噛み砕くように貪る緑色の亜人(ゴブリン)がいた。同時に、洞窟の中から、元は人であったらしい腕や足の一部を持ちながら、外の様子を伺う雌や子供が顔を出した。


「あーあ。」


私とゼルは、呆れたようにため息をついた。人を襲い人肉を食うゴブリンが、餌である人間に従うはずがない。ゴブリンたちはあくまで、魔族の男(バシリー)に従っていたのだ。

それすらも、何らかの精神支配の魔法を用いていたのだろう。知能があるとはいえ、所詮猿より上かどうかといったゴブリンたちを、奴隷やペットのように簡単に使えるのはおかしいと思っていたのだ。


「やめろ!くそ!何なんだよ!!さっきまでは何ともなかっただろうが!」

「だから俺は反対だったんだ!うわああああ!!!」


勝手に仲間割れして死んでいく盗賊。何やってんだこいつら。


「人魔共存の道の参考にしようかと思ったけど、精神支配で無理矢理従えてたなら、論外ねぇ。」

「でも、ゴブリンはともかく、魔族と人間は共存だったみたいですよ。バシリーが気絶した後も仲違いしてるようには見えませんし。」


いや、まぁ、気絶してるんだから仲違いとかもないだろうけど。


「ひいいいっ!た、たすけてくれ!!!」


おおう。殺すとかいってた相手に、助けを求め始める盗賊。お前らプライドはないのか。

あ、プライドあったらこんなセコイ盗賊とかやってませんか、そうですか。


「どうするの?助けるの?」


ハンナが、どんどん食われていく盗賊を、嫌そうな顔で見ていた。流石に、スプラッタは好きではないのだろう。そんなものが好きな7歳とかいたら、すごく嫌だ。


「うーん、このまま食われるのを見てるのも気持ちよくないし、助けたい気もするけど、ゴブリンたちだって操られてこき使われた恨みがあるだろうしなぁ。」

「でも、よく考えたら、どっちにしろゴブリン討伐依頼がありますし、ゴブリンは全部倒さないといけないので。その現場にバラバラの死体があったら、事後処理が面倒かもしれません!」

「はっ!そうか、色々な事が起きすぎて依頼のことをすっかり忘れていたわ。」


仕方なしに、殺戮を繰り広げているゴブリンに向き直り、魔法を唱えた。


波状爆破(バーストウエーブ)!」


ドドドドッと大きな音がして、地面が弾け飛ぶ。前方に、小さな爆発を連続で起こす魔法だ。

砂けむりや小石が飛び交い、かなり派手な感じだが、一つ一つの爆発は小規模のため、殺傷能力はない。


『ギギギッ!』


驚いたように叫ぶと、獲物を投げ捨て、こちらを警戒しながら洞窟の方へ下がるゴブリンたち。殺傷能力はないとはいえ、多少の火傷や小石が当たっての打撲や切り傷はできる。

生きたまま食われていた盗賊たちは、必死で私達の方に寄ってきた。別にお前らを助けるなんて言ってねーけど。

ちなみに、無防備に転がっているバシリーは全く食われてない。流石にゴブリンも獲物は選んでいるらしい。


氷槍(アイスランス)!」


人間とゴブリンを分けたので、後はさっさと処分するだけである。長さ50センチ程度の氷の槍を生成し、ゴブリンたちに向かって射出する。

生きてそうなのはこっち側にいるし、肉片になった奴らに流れ弾が当たるのはまぁ仕方ないってことで。


『ギャアアアア!!』


数十本の氷の槍の雨に貫かれ、全てのゴブリンは即死した。うーん。魔力抑えてると、この程度しかできないのか。もっと全力でやりたいが、盗賊を殺さない方向に持っていくとなると、全力を見せるのは得策ではない。

不満そうな私に、ゼルは呆れ顔だが。


「とりあえずゴブリンはほぼ全滅でしょう。念のため、子供や雌が残っていないか洞窟の中も調べましょう。」

「そうね。でもその前に、こいつらどうするの?」


満身創痍の盗賊たちと、気絶したままのバシリーを見る。生き残ったのは4人。腕や足を食いちぎられていたり、引っかかれたりと傷だらけである。暫くほっておけば、1人2人は死ぬかもしれない。

流石にこの状態では私たちをどうこうしようという気は起きないだろう。


「た、助けてくれ!何でもするから!財産も全部渡すから!」

「いや、あんな血まみれの財産とか貰っても、扱いに困るし。場合によったら、盗賊の仲間扱いで捕まっちゃうじゃない。」


しかも、何でもするとか言われても、こんな柄の悪そうな下僕は遠慮したい。むしろ何もしてくれない方が都合がいい。

盗賊たちは、どうにもできないと知り、唇を噛んで俯いた。痛みに唸る者もいて、五月蝿い。


「お頭、俺たちがバカだったんだよ。あんな怪しい魔族の口車に乗っちまって。真面目に盗賊やってりゃよかったものを、魔族の援護と、ゴブリンという手下を手に入れて、派手にやろうなんざ目論んだのが悪かったんだ。」


比較的怪我の少ない男が、お頭と呼ばれた、大柄な男に言う。真面目に盗賊って何だよ。


「やっぱり、魔族なんて信じちゃダメだったんだ。今ここで殺されなかっただけでも運が良かったと思わないと……」

「は?」


聞き捨てならん!魔族を信じちゃダメだと?こうやってあんたたちを助けてあげたってのに??ついでだけど!いや、まぁ、このバシリーってやつが元凶かもしれないから、何とも言い難いが。


「魔族にだって、色々いるわよ!こんなクソみたいなバカを基準に考えないでもらいたいわね!」

「何だ?お前らは他の魔族に会ったことあるってのか?」


あ、つい。仕方ない、ここは誤魔化そう。


「あ、あるわよ!とっても紳士で優しくていい人だったわ!」

「……そんな話、聞いたことないがな。紳士な魔族ってなんだよ。と言うか、俺たちを助けてくれる気はないんだろう?なら、さっさとゴブリンを処理して帰れよ。」


やけくそっぽく言う男。だが、その魂胆は分かっている。バシリーが目覚めたら助けてもらえるかもしれないし、盗賊がいると聞けば、自警団がくる。その自警団に命だけは助けてもらおうとしているのだろう。

なので、重傷者がいる状況では、私たちが街へ帰ってくれた方が都合がいいのだ。


「何であんたに指図されなきゃいけないよ。」


呆れる。

でもま、関わってしまった事件だし、魔族のせいで多少調子に乗ってしまった節はあるのだろう。その分の埋め合わせくらいはしておいてやろう。


「全員、命は助けてあげてもいいわよ。自警団には突き出すけど。」

「な……本当か!?」

「私との約束を守れたら、食べられた腕も治してあげてもいいけど?」

「何だと!?そんなことが出来るのか!?」

「お、お嬢様!それは流石にやりすぎです!」


欠損の再生となると、神聖魔法が必要になる。人間の世界では、神聖魔法の使い手は、国が必死で探し求めるほど不足しているのだから、下手に見せたくはないだろう。


「でもさ、実際のところ、その手足じゃ奴隷に落ちるにしても不便かなと。」


奴隷という言葉に、一瞬顔をひきつらせるが、それでもやはり手足をもぎ取られた激痛と、これからの生活を考えると、藁にでもすがりたくはなるのだろう。


「まぁ、私としても、治せるものは治したいという、治癒師の性があるので、全否定はしませんけど。」

「頼む!何でもする!だから!!」


必死に頼み込む盗賊。既に怪我の酷い2人は、血の気を失い、痛みのせいで叫ぶ元気もなく、かろうじて意識はあるものの、ぐったりしていた。あまり時間が無さそうである。


「一つ。魔族に(そそのか)された云々は絶対に他言しない。魔族が関わっていたことも一切言わない。一つ、私たちが治癒したことも、絶対言わない。守られなかった時点で、私はあんたたちがどこに行こうと探し出して心臓を抉り取るよ。」

「は、はい!!!絶対に言いません!!!」


盗賊たちは、絞り出すように答えて、頷いた。


「ゼル、お願い。」

「やれやれ。まさか、人間の犯罪者を癒す羽目になるとは思いませんでしたよ。」


そう言って一番状態の悪い1人に近づくと手をかざした。


大いなる神の癒し(グレーターヒール)


同時に、身体中が白い光に包まれ、失われていた足の肉が盛り上がると再生を始めた。

ものの数秒で男の怪我は全て消え去った。


「そんな……まさか、神聖魔法……」

「どんどんやりますよー。気が進まないけど。」


ものすごく嫌そうながらも、ゼルの治癒魔法は完璧で、数分後には怪我をしていたことさえわからない、完璧な状態になった男たち4人がいた。


「あんたまさか、聖女さまか!?」

「えっ!?」


一瞬どきりとしたが、男たちの目はゼルを見ていた。


「いえ、私は男ですので聖女ではありませんよ。」

「あ、ああ、そうだよな。こんな凄い回復魔法は見たことなかったから、つい。」

「しかし、私は回復魔法を使えることを知られたくありません。一切他言無用でお願いします。」

「……勿論だ。すまなかった。」


そんなわけで、巣の奥にいたゴブリンの子供と雌を駆除した後。中にあったロープを使い、盗賊たちを縛り上げた。


「そんなことしないでも逃げねぇよ!」


と言うが、流石に信用しない。それに、仲良く一緒に歩いて自警団の所に行っても、なんか説得力ないし。イメージは大事にします。

それより、問題はこの魔族だ。

同じ感じで縛り上げたが、これを人間の方で裁いてもらっては困る。魔族のイメージが悪くなるから。


「じゃ、とっととやってしまいますか!」


盗賊たちをとりあえず縛ったまま洞窟の辺りの日陰に転がして置き、魔族の男(バシリー)を引きずって岩場の陰にきた。

これで盗賊たちからは見えないはず!

早速私は、例のアイテムを使うのであった。

アレを使います。アレ。





誤字脱字報告ありがとうございます。結構、言葉の使い方などを根本的に間違っていたりするので、助かります。

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