聖女さまはゴブリンを狩る
よく考えたら、ものすごくポンコツ一行です。
「何でこんなにいっぱい?」
証書を見て、首をかしげる受付嬢。そして、思いついたように言った。
「ああ、なーんだ、外に荷馬車を待たせていたのですね。そうならそうと言ってくれれば最初から裏に案内しましたのに。」
「あ、あははは。」
何で納品依頼がこんなに報酬が高いのかと。そう思っていた時期が私にもありました。そりゃ、一人で運べるのが数キロとなると、肉を何十キロも納品するのはなかなか大変だよね。しかも、持ち歩くと痛むし。
「それでは、こちら、小金貨30枚になります。」
報酬を受け取ると、私たちはそそくさと退散した。だって、下手に話が回ってしまうとややこしそうだし。
外に出ると、ゴブリンが出るという森に向かって歩き始めた。
「ゼルさんて、なんか、できる秘書みたいな雰囲気醸し出しながら、実はかなりポンコツなの?」
「うっ……。」
ハンナの台詞に、ゼルは目をそらす。魔族軍の、指揮官とかをやっていたので、肩書きだけを聞けばできる人というイメージだが、実は実戦指揮を取るのは副官だったりする。ゼルの仕事は、回復役として、どこまで攻めるべきか撤退すべきかの最終決定をする事なのだ。
彼は特に臆病だったので、逃げるまでの決定が早く、奇跡じみた生還率と成功率を誇っていた。それ故、若くして、指揮を取る立場にいたのだ。
「基本的に、ティーナお姉ちゃんの舵取りはゼルさんに任せればいいと思ってたの。でも、これじゃ、ダメな気がするの。」
最年少の幼女にため息をつかれる大人二人。情けなさすぎる。しかし、魔法収納の件についても、私もゼルもイマイチ深く考えてなかった。
「私は、お父さんはこのくらいの空間に入る感じで持てる、と言ったの。重さでいうなら100キロほどなの。人前だからあまり詳しく言えなかったのも悪かったけど、まさかその50倍くらいの容量をいきなり見せつけてくるとか思わなかったの。」
「少なく見積もったつもりでした。すみません……。」
幼女に謝る15歳。切ない。
「ラードルフさんを、収納の苦手な人、と考えちゃって。」
「それだとしても、その倍くらいで十分なの。なんで50倍とかとんでもない数字になるの?」
「いや、だから、収納が苦手なゼルが1トンくらいの容量で、別に苦手じゃない人たちが10トンくらい持てるんだから、得意な人となると50トンくらい持てるだろうから苦手な人と得意な人の差は50倍。だとするとラードルフさんの50倍で、5000キロくらいが妥当かと……、!」
「おお、お嬢様にしては、ちゃんと計算していたのですね!とは言え、私も、人間と魔術の相性というものが、そんなに悪いと思わず。そのくらい持つ人がいてもいいかと思ってしまいました。面目無い。」
「ダメなの。この人たちネジがぶっ飛んでるの。」
呆れ顔で再び大きなため息をつくハンナ。魔王領で暮らしているとは言え、ハンナの両親は亜人や魔族の血を引いているだけの人間で、周りに住む人も遠縁に魔族がいる程度の人間が殆どだ。
なので、私たちよりは人間の常識に近い。
それでもだいぶ、考えが魔族寄りなのだが。
一人は魔族のお姫様。もう一人は超弱気な魔族の兵士。そして7歳の幼女。
「まぁ、何とかなるわよ!アイテムをたくさん持てるだけの人くらいいるって!」
「ああ、これ、ダメなやつなの。」
ハンナは、自分の立場の危うさに気づいた。人間の世界を見たい、過保護な父親から逃げてのんびりしたい、という欲で先走り、泥舟に乗ってしまった感がすごい。
「で、でもほら、今回は簡単に、ゴブリンを倒せばいいんでしょ?」
「普通の人間は、ゴブリン倒すのも一苦労するものなの。間違っても、魔法一発で全部吹っ飛ばすとかはやめて欲しいの。」
「そ……そうなの?人間て、どれだけ弱いの……?」
「魔族を基準に考えるとダメなの。ドラゴンが、アリを見て、こいつら弱い……!とか言ってるようなもんなの。」
「そんなに差があるんですか!?」
「い、いや、流石にそこまでかどうかはわからないの。例え話なの。」
そもそもの認識がおかしかったことにようやく気付いた。魔族の子供と人間が同じレベルだと思っていた。しかし、鍛え抜かれた兵士が、人質にしようとした子供に逆に殺される話も聞くくらいなのだから、一般の人間はどんなもんなのか。
「すごい……!弱さの底が見えない……!」
「ううむ。私が戦っている人間たちは、そこまで弱い気はしなかったんですけどねぇ。」
「戦うとか、説得の前に、保護しないと全滅しちゃうんじゃない?」
「えええ、嫌ですよ、人間を保護とか。何だかんだ、魔族で殺されてる人もいるんですからね。」
「ああ、そうだった。勇者とかは別枠なのかしら。」
人間の弱さについて認識を改めている間に、ゴブリンの巣穴のような場所についた。
草むらに隠れて様子を見る。
「いい?依頼内容はゴブリンの駆除なの。森を破壊するような手法は禁止、証拠としてゴブリンの耳を数個持ち帰る事なの。」
「うーん。確かに、魔法で吹っ飛ばしたら、耳も何も残らなさそうね。」
昔の炭鉱だろうか?そこそこ整えられた感のある洞窟に、出入りするゴブリンの姿が見えた。耳の尖った緑色の体。棍棒を持ち、冒険者や戦死した兵士から剥いだのかサイズの合っていない鎧を着込んでいる。
道具を使ったり、服を着たりと、確かに多少の知恵は感じる。
「さくさくっと倒して、剥いで帰ろう。流石に負ける気がしないし……。」
「なんかおかしいの。ゴブリンて、多少知恵があるとは言え、入り口で見張りしたり、交代したり、そこまでの知恵があるとは聞いた事ないの。」
「そうなの?でもほら、なんか学習したのかも!」
いつまでも、生物が進化しないとは限らない。頭を使う方向に、徐々に進化することはあり得る。
しかし人間に関しては、どう考えても聞いていた情報よりは退化している。いくら認識不足だったとは言え、こんなに弱いはずは無いんだが。
「まぁ、そんなに危険な感じではなさそうだし、やっちゃうの。」
世間知らずが二人と、お子様が一人。このメンバーには、危機感や危機探知能力が皆無であった。本来は罠師であるハンナがその役目を担うのだが、ハンナの危機レーダーには、ほぼ何も映らない。
普通の人が見れば、こんな会話をするような奴らが、冒険者で生き残れるわけはない、と思うだろうし、お前らだけで旅に出るのはやめろと、必死で説得するかもしれない。
しかしながら、それは、ティーナたちには不要である。
彼女たちを危機に陥れることができる生き物の方が、レアなのだから。
「よし!見た目から、数は全くわからないし!そこそこいるってことで。」
「もっと、危機感を持って欲しいの。と、言いたいところだけど、全くもって危険を感じないから、多分大丈夫とは思うの。」
「うーん。そうですね、これだったら、ブレイドラビットの方がまだ強いです。要は、知恵がある点がどうか、というところですね。」
そんなわけで、私たちは洞窟に向かって歩き出した。それに気付いた見張りのゴブリンが、こっちに向かって棍棒を構える。
身長はハンナと変わらないくらいなので120センチくらい。オークやオーガのように筋肉がついてるわけでもなく、どちらかと言うと華奢だ。
「とりあえずは私が処理しますね。」
そう言って駆け出したゼルが二回剣を振ると、見張りのゴブリン二体は、あっさりとその場で事切れた。
うむ。やはり弱い。
「でもさ、ゴブリンの討伐って巣ごと全滅させても、また湧くものなの?」
「こいつらは繁殖力が旺盛だと聞いたことがあるの。この群れを倒しても、多分また何処かの群れから分かれてこの辺に住み着くの。」
そういうもんなのか。狩っていればそのうち全滅するわけでも無いのね。冒険者としては美味しいけど、被害を受ける村人たちからすれば、厄介なんだろうな。
「ほら、お代わりが来たの。」
見張りの悲鳴を聞きつけて中から5体ほどのゴブリンが現れる。だいたい一つの群れは多くても20匹程度だ。メスや子供がいるとすれば、戦える数はそんなに多く無いだろう、が、まだボスらしき個体はいない。
「次は、私がやりたいの。」
ナイフを持ったハンナが駆け出し、棍棒を避けながら一閃、二閃。軽やかに敵を倒していく。ナイフが小さいことと、腕力も難があり、ゼルのように一撃で体を真っ二つにしたり、首をはねたりは出来ないが、それでも確実に急所を狙って仕留めていく。
全く危なげもなく、ものの数分で、五体のゴブリンは無力化された。
「ハンナは、強いの!」
振り返って得意げな顔をするハンナ。ぱっと見ではいつもの無表情だが、よく見ると口元が少し緩んでいる。
「ほう、そうかな?」
私たちはハンナに気を取られていた。彼女も、倒した安心感があって一瞬油断した。いや、ゴブリンが追加で湧く意味での警戒はしていたが、まさか、そうじゃ無いものが混ざっているとは思っていなかった。
未経験故の油断。
「きゃあっ!」
その巨体は、ハンナを腕の一振りで吹っ飛ばした。咄嗟に腕で防御し、頭へのダメージを抑えたのは、ハンナのセンスの良さだろう。素晴らしい反応速度である。
「大丈夫です。大したダメージではありせん。」
倒れたハンナに駆け寄り、回復魔法を唱えるゼル。上位治癒を唱えたということは、どこか骨が折れていたのだろう。ゼルがいなければ、相当大したダメージだと思う。
「なんで?ゴブリンの巣からあんたみたいなのが出てくるわけ?」
回復はゼルに任せ、二人を守るように立つ。
「何だ?子供2人と回復職かよ。こんな奴らにやられたのか?」
私の質問には答えず、男は怪訝な顔で私達を見た。
「答えなさいよ。あんたみたいなのは、ここにいちゃいけないでしょ?」
「何だお前。俺を見てもビビリもしないで、偉そうに。ぶっ殺すぞ。」
二本の黒いツノ、コウモリ型の羽を持った男は、面白くなさそうにふん、と鼻を鳴らしたのだった。
いきなり同族に会ってしまいました。
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